第2章 双子妖怪

第11話 動き出す世界


 朝の涼しい風が町中を吹き抜ける。手の中に握られた懐中時計の時刻は朝の10時を指していた。まだ朝だというのに僕らのいる市場が人でごった返していた。

「おい、レント」

「あんだ?」

 そんな中、僕とレントとアカネは、旅立つために必要だと思われる物を買いに来たのだった。

「念のために聞くが僕ら、一応旅するんだよな?」

「当たり前だ。俺らは強くなるからな!」

 そうだ、レントの言っている事は痛いくらいに正しい。素晴らしい回答だ。

「そうそう、僕らは妖怪を倒すために旅に出るんだ。必要な物は?」

「あぁ、それならランプとかな、火の元は必要不可欠だ。そのほかにもいろいろとだな・・・」

「金は足りるのか?」

「あー金ならぎりぎり足りるだろ。いろいろ考えてるし、飯とかはあれだ、アカネがいろいろ作れるらしいしな!」

「よし、ぎりぎりなら一つ教えてくれ。」

「ん?どうしたんだよ。レオン」

 僕は一度、すぅっと息を吸い、改めてレントの右手に握られた物体を指差して言葉を紡いだ。

「その右手に持っている気持ち悪いカタツムリの置物はなんだ?」

 そう、先ほどからレントの右手には気持ち悪いとこもいいカタツムリの置物を持っているのだ。無駄に光ってて黄金塗りで、怪しい石まで埋め込まれていて禍々しい容姿をしてるし・・・なんといっても値段が無駄に高い。ちなみに近くには魔除けとかかれていた。

「なにって、カタツムリだろ?置物にちょうどいいじゃねぇか。」

「いらないだろ!!」

 そうだ、いらない、こんなもの、だれも必要としていない。だってそうだろう。そもそも旅には絶対必要のないものだし、置く場所だってないし、なんかデカいし・・・それなのにレントはそんなキモイ置物を見て啖呵をきらしている。

「いるだろ!!みろよこのカッチェーボデー!!お前のも買っとくか?」

「いらないよ!お前のそれ買わなかったらまだなにか買えるだろ!」

「うるせぇよ!これかなりかっけぇだろうが!!」

「かっけぇとかどうでもいいよ!」

 ホント・・・なんでこんなものほしがるんだ。いいところが一つも見当たらないし、そもそも魅力がない。僕には少なくとも、レントの感性がわからない。

「ならアカネに決めてもらおうぜ!!」

「誰が見てもいらないだろ!!」

「うるっせ!行くぞ!!」

 レントは人混みを気にせずズカズカと歩いていく。右手に握られているカタツムリの置物にはわるいが、生まれてくる時代を間違えていると思った。アカネは向こうのアイアンと書かれた店で粉末状の何かを漁るように見ていた。もちろん店主は驚いたような表情をしながら粉末を漁るアカネの見ていた。それもそうだろう、女の子が鉄屑を漁っていて驚かない人はいないだろう。僕たちはアカネに言い争いの元凶となったカタツムリの置物をどうするかの旨を話した。もちろん答えはわかっている。

「え?なにそれいらない。」

「なんだよ!!お前らグルだろ!!」

「だから言っただろ?誰が見てもいらないって。うん、誰が見てもいらない。」

「二回も言うなよ!」

 っち、とレントは激しく舌打ちをかました後、元あった店へともどしていく。レントが商品をもとあった場所に戻してやると近くにいた店主が「帰ってきちまった・・・」と言わんばかりの表情に変貌した。もしかしたらあの置物は魔除けではなく魔寄せの類かもしれない。

「アカネは何を買ってるんだ?なんかの・・・粉?」

 僕はアカネに聞く。アカネは先ほどから粉末状の物を袋に入れて購入しているのだ。

「あ、これはね、私の能力ってほら、粉塵操作だからさ、それで操れるものを買ってるの。」

「砂とかはだめなのか?」

「う~ん、砂もいいんだけど・・少し硬くなると攻撃できなくなるからね。だから鉄とか、そういう強度があるのを選んでるの。」

 なるほど、戦況に応じて使い分けれるんだな・・・。能力者はなかなかに難しい事をやっていると思う。

「ちなみにどこに入れとくんだ?」

 僕の問いにアカネは「ここよ。」と言って指を指す。アカネが指した指の先には腰につけてあるレザーバックがあった。

「すぐに使えるようにって、学校の先生が私に特注品で作ってくれたの。」

「すごいなそれ・・・特注品て・・・」

 アカネとそんな話をしていると、キモイカタツムリの置物を戻しに行っていたレントが戻ってくる。

「おーい、こっちはこれでいいぞぉ。」

 というレントの手にはマッチ、ランタン、携帯用のオイルが握られていた。

「私のほうももう大丈夫だよ。準備万端!レオン君は荷物少ないけど、大丈夫なの?」

「ああ、別に僕は特別いるような物はないからな。」

「それじゃ行くか?早いほうがいいだろ?」

「ああ、夜までにはあの森は抜けておきたいんだ。」

 そういって僕は遠くにうっすらと見える森を指差す。クレイプの森、それはこの世界でも三本の指にはいるくらいの大きさの森だ。勿論、森は生命の故郷。水もあれば食べ物も実る。だからその分、大きければ大きいほど猛獣だって、妖怪だっているだろう。

「抜けれなくてもどうにかなるかもしれないけど、なるべく水辺は避けておきたい・・・。」

 そう、水辺だ。水辺には河童、一反木綿といった妖怪が出やすい。奴らは人間との共存の話は聞いたこともない。知能は持つらしいが、少なくとも話会える中じゃないということは痛いくらいにわかっているつもりだ。それに、単体ならともかく、群で先頭となると、僕らに戦闘経験がないぶん、混乱しやすくもなるし、相手にハンデを与えることになる。囲まれたらおしまいだ。

「じゃあ、行こうか。」

 僕らは不安を持ち、いつくるかわからない脅威におびえて暮らしていた。来る日も来る日も、本当に明日が来るのか、そんな疑問を抱いてただ願い、泣いていた。

 だけど、もうそんな事もない、今は力を持っている。仲間を持っている。今は、自分で戦える力を手に入れた。だが、たとえ戦える力があったとて、妖怪に対する恐怖はきえない。

 守っていてくれた大人はこれからはもういない。

 これからは、三人で助け合い、守り合い、そして生きてゆく。表の世界にはここまでの恐怖があるのかはわからないし誰も知っている人なんていない。だけど、裏にはそれがある。表は裏知らず、裏は表を知らない。

 僕は、この世界が好きだ。みんながいてたくさんの神秘がある。助けられてきた僕は弱かった。だけど、今から強くなる。ならなくてはいけない。助ける側にならなければいけないんだ。だから僕は、こうしてみんなと肩を並べていままでも、これからも生きていくだろう。


 これが、17歳になった僕らが描く物語。

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