第10話 桜舞う日の旅立ち
「へ・・・?」
冒頭早々申し訳ないが、この僕、レオン・シャローネは間の抜けた声を発した。理由は、僕の目の前にいるカルクス先生の言葉を聞いたからだ。霊飼い術師の専門ともいえるカルクス先生はもう一度、僕に向けてこう言った。
「Bランクへの昇格、おめでとう、レオン君。」
隣にいるコアン先輩も驚いたような顔をして呆けている。それもそうだろう、いきなりランクがDからBに上がって驚かない人はいない。ふたつも飛ばしたのだ。こんなこと、この学校では異例の事態と言ってもいいくらいだ。
「あの時、最後にレオンくんが放った攻撃、計測結果がAランクにほど近いものだった。Dランクの人間があそこまでの攻撃、繰り出せるわけがないんだよねぇ。でもショタ顔レオンくんはそれを可能にした。どういう理屈かはわからないけど、ああなっちゃったらランクを上げないわけにもいかないでしょ。」
カルクス先生は僕の名前が印刷されたカルテを片手に語り続ける。所々変な言葉が含まれているが医師としても、先生としても完璧な能力を持つ先生だ。先生の話を聞いていたコアン先輩は我にもどったような顔をしてカルクス先生に問いかけた。
「なんで、それでBランクなんだ、先生。そんな不確定要素だらけの力、たまたまとみなしてCランクになるという意見も出ただろう?」
そのコアン先輩の問いに先生は「ふむ・・」と短く考える。コアン先輩は先生にバリバリタメ語だが、先生がそれに指摘するようなことはしない。先生のモットーは、生徒と仲良く、親睦を深める、特に女子とは。というのを掲げている。どの生徒もその教訓に呆れて笑いながらも、軽い気持ちでカルクス先生と話していた。
「確かに、たまたま出た不確定要素だらけの力だ。だが、一度出せたのならばもう一度、なんらかの拍子に繰り出せるかもしれない。現にレオン君はあのAランク級の膨大な力を使っていてもここにちゃんと存在してる。つまり、彼にはAランク級の力を操れるという器も存在しているわけだ。」
「レオンくん、ついでにこれも・・・」といってカルクス先生はレオンに銀色に輝くコインを渡す。きらびやかに輝くコインには、王国の紋章が刻印されていた。
「これは・・・」
「卒業コインだ。これを学園長に提出すれば卒業権が与えられる。」
僕の問いにはカルクス先生ではなく、コアン先輩が答えてくれた。そして先輩は胸のポケットから、僕の持つ卒業コインと同じものが取り出される。だが、模様が同じなだけで、色は絢爛に輝く黄金のコインだった。
「卒業コインを渡せば、その時点のランクに見合った軍資金がいくらか寄付される。これはその金と交換できるいいコインだ。」
ピィン・・と甲高い音を立ててコアン先輩の黄金のコインが天井に向かって飛ばされる。くるくると回りながら光を乱反射させるそのコインは、やがて重力に従って地面に向かって降下運動を始める。
「私は、この学校に入って二年目だ。だがいまだに、卒業しようと思う決心がつかない。」
コアン先輩はしばらく静かに天井を仰ぎ、話を続ける。
「レオン。君はよく友人と文通をしているね。」
「えっ・・・あぁ、はい。」
ばれていたのか、なるべく隠そうと夜中にこっそり手紙を書いていたんだがな。
「あれを見るに、恋文の類ではなかろう。君のあの真剣な表情・・・レオン、君は卒業するのかい?」
「もちろん・・・」
言葉をつづけようとしたがふと言葉が途切れる。先輩は物苦しそうな表情をしていた。それでも僕は、続きをいう事に決めた。
「もちろん、そのつもりです。僕は、そのためにこの学校に入学したんですから。友人も言っていました。天職や妖怪は怖い、だけど天職を与えられるという事は可能性があるという事だから、私は頑張れるって。それを聞いてからか、なぜか肩の荷が降りたような・・・そんな気がして、それと同時に、僕はみんなを守っていきたいなって、心からそう思うことができました。」
「そうか・・・そうだったのか・・・君の周りは強い人ばっかりだな。」
はははっ。とコアン先輩は笑った。
「もちろん、先輩だって僕の周りの強い人の一部ですよ。」
「やめろ、私はそんなにつよくないぞ。まぁ、卒業するなら、私は止めないし、君がそれで頑張れるというなら、この場所で君を応援するのもいいだろう。」
コアン先輩とこのやり取りをして一年と三か月。ついにみんなが卒業できるレベルのランクに到達。学校に入って有に二年の歳月が流れていた。果て無く感じた月日も、今思い返せば早いものだったな。と心の底からそう思う。また今日、入学した日と同じ、桜の月一番の日に誕生祭が開かれたあの場所へ集まろうと、そう決めていた。コアン先輩も今年で四年目という事で強制的な卒業式へと足を運んでいた。式場に入る間際に聞いた「ありがとう」という言葉を、僕は忘れる事はないだろう。
◇
桜の月 一番の日。
「お~い!レオ~ン!!」
黒い髪を逆立て、真っ黒の制服を身にまとったレントがこちらに向かって手を振ってくる。その隣ではアカネの姿と、もう一人、レイチルの姿も目にうつった。
「おお!久しぶりだなぁ!!」
僕は皆に向かって声を投げかける。どこからともなく現れた喜びに心を躍らせて走り出す。
「あれ・・、レオン君、すごく身長伸びてるね。」
「はぐぅ!レオンがぁ!レオンを見上げないといけないなんてぇ!このレイチル!悔しいです。」
「俺は余裕の勝利だな。」
「レントはもとからでかいからな。」
「しかしまぁ、みんな育ったもんだな!!アカネ以外は目に見えてわかるぜ!」
レントがイタズラな笑みを見せて笑う。レントが指差して笑っているその指先を目で追うと、アカネとレイチルの胸を指していた。
「なによレントくん!なんで胸を指すのよ!わるかったわね!微妙な大きさで!てかレイチルちゃん!なんでそんなに育ったの!?」
「ん~、ボクにいわれてもわかんないんだけど」
レイチルが苦笑でアカネの疑問を流す。レントはそのやり取りを痛快そうに見て笑っていた。
「たとえるならあれだな!!メロンとさくらんブッフォ(笑)」
「最っ悪!!!レントくんのばかー!!」
アカネが右手を薙ぐ動作をする。すると、アカネの腰のレザーバックにつけられたビンのなかから大量の砂が生き物のように動き出し、レントに向かって襲い掛かった。
「うおぉ!?なんだそれ!?能力か!!せこいぞ!?」
レントが決死の表情で逃げ惑う。それを笑ってみているのは僕たちだ。仕方ない、あいつは自業自得なんだから。
「そっちがそうするならこっちはこうだ!!」
レントがそういい、腰のあたりから一冊の分厚い本を取り出す。いろいろな装飾が施されているその本は、芸術作品ともいえるような風貌をしていた。
「単重魔法陣!!|直線の矢(ストレート・アロー)!!!」
瞬間、一つの魔法陣が生成される。そしてその中心からは、真っ直ぐに飛ぶ光の矢が射出された。
ドォン!!と衝撃音を鳴らせ、二つの能力がぶつかり合う。しばらく土煙を巻き起こしてやっとおさまったところには、もう二つの能力は跡形もなく消滅していた。
「すごいねぇ!!二人とも!これが能力なんだぁ!」
「すごいなこれは・・・」
僕とレイチルは感嘆の念に襲われる。二人とも能力をうまく使えているからだ。
「私のは粉塵操作系って言ってね。粒状のものならなんでも操れるの。」
「俺のはアロー系だ。矢の形をした攻撃を出すからアロー系だっ!」
「「「レオンのは?」」」
全員同じ言葉を発して僕に視線を投げる。皆が皆、目を爛々と輝かせるものだから、見せないわけにもいかないだろう。
「仕方ないな・・・行くぞ。」
「わくわく」
「我、命失った者に第二の命を与える者、レオン也。」
僕を中心に淡い紫色の光が生みだされる。みているみんなは興味津々といったような顔をしていた。
「召喚、メイト・クランリス!」
カッ!と光が一際強くなり、僕の背後からメイトが現れる。
「うぉ!?」「きゃっ!?」「かっこいー!」
「こいつが僕の相棒のメイト・クランリスだ。」
「やぁ、初めましてなんだぜ、皆かわいいのがいっぱい。特にそこの貧乳ちゃんなんて好みな顔してるんだぜ。」
「な、なによ!悪かったわね・・・っ」
怒っているように見えるが、すごくうれしそうだな。
レントとアカネとメイトはそれぞれに能力を出し合って喧嘩みたいなものをおっ始める。勿論、戦闘力が皆無な僕とレイチルは近場のベンチに座って他愛のない話をしていた。
「能力って・・・楽しいのかな。」
「え?」
そう疑問を口にしたレイチルの表情は、どこか儚げで、触れればすぐに壊れそうなものだった。
「ボクは選ばれなかった。仕方ないよね、可能性がなかったんだもん。でも、こうしてみんなを見てると、どこか自分にもできそうな気がしてくるんだ。」
「それは、君に可能性があるからだ。」
「へ?」
「たしかにレイチルは天職には選ばれなかったけど、レイチルには生まれつきの能力があるじゃないか。」
「ほんと?なになに?」
レイチルは身を乗り出して僕の顔を覗き込む。最後に会ったときはかわらない背丈だったのに、今となっては上目遣いにまでなっていて変にドキドキした。レイチルの薄い青色の目も、前よりか伸びて女性らしく、大人っぽくなった銀髪も、全部が昔のレイチルとはちがう。だけど、根本的なレイチルは、二年前とそのままなんだな・・・と思える。
「皆を、笑顔にさせる力を、レイチルは持っていると僕は思うよ。」
ボンッ!と爆発したかのようにレイチルの白い肌の顔が紅潮する。「あわわわ」と声をだして、顔を両手で覆った後にレイチルは言葉を発した。
「そ・・・そんなくっさいセリフ言わないでよ・・・」
「なっ!?」
「でも、ありがとう・・・」
「お・・・おう?」
「レオンのおかげで、なんか元気出てきた。」
レイチルはレオンの肩に頭を預ける。なれない重みと温かさに鼓動がきこえるほど力強く、早く脈打つのをレオンは感じていた。
「(女子って・・・大変なんだな。)」
もちろん、そうではないことにレオンは気づいていなかった。
「おい!そこのイチャラブカップル!何してやがんだ!」
「なっ・・・別n「なんだとぉ!!」
レイチルが大声を出して立ち上がる。
「い・・いちゃらびゅ・・・んっ、イチャラブじゃないよ!」
「うれしそうな顔してんなレイチル。」
レイチルがレントに飛びついてつかみかかっている・・・
「はっははは!おいおい!言うことあんだろが!」
レントはレイチルを引っ張りはがして土埃を掃う。
「よぉし、たのむぜレオン。」
「なにをだよ。まぁ、わかってるけど。」
すぅ・・と短く息を吸う。
「皆元気で何よりだ。これからも、僕に力をかしてくれ!」
それぞれがそれぞれにうなずき手を重ねあう。やさしいぬくもりが自分の差し出した手を包み込むのはそう時間がかからなかった。
「せーーーーのっ!!!」
「「「「卒業、おめでとう!」」」」
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