第7話 不動の頂点
「いやぁ、やっとゴーストげっちゅて感じですねェ?レオンく~ん?お体の調子は良いですか?良好良好。先生はいつでも良好良好。さぁって!この先生がさっそくテストをするよ!?ゴーストを手に入れたレオンくんはどのように成長したのか、いやはや考えるだけで鳥肌チキン肌。ふふふふふふふふ。あ、それでね、先生昨日コアンくんとね・・・」
「早くしてくれませんか?」
時刻は昼下がり。僕はメイトと契約を交わし一日が経っている。今日は測定日、ここの学校にいる生徒が全員、ランクを上げるための測定をする。それでランクがあがるかどうか・・・それを測定するためのテストだ。
「あぁ、ごめんごめん。悪かったね。」
「このおじさん凄いんだぜ。今にも死にそうなくらい死ななさそうな顔してるんだぜ。」
「お?このゴーストいい顔してるねぇ?おじさんこういう顔も好みだよぉ!」
「同性愛に興味はないんだぜ。ボクは純粋に女の子が好きだからね。」
メイトは先程からマシンガントークをしているおっさん・・・もとい霊飼い術師専門学校、保健医のカルクス先生と話していた。僕の測定をほったらかしにしてだ・・・。
「先生・・・そろそろはじめてくださいよ。」
「あぁあごめんねレオンくん。先生レオンくんのショタ顔みたいなのも好きだからね!?」
「聞いてねぇよ。さっさとしろよ。」
「あ・・・はい。すんませんした。」
先生が生徒にしかられるというシュールな画面が展開した。
「じゃあ、はじめるね。」
先生のその言葉を合図に、僕は能力を発動させた。
◇
「はっはははは!!!いやー痛快痛快。」
「うるさいです・・・」
測定が終わり、僕は寮の部屋に戻ってきていた。そこにはいないと思っていた同室人、コアン先輩がお茶を啜っている所だった。
「そもそもなんでいるんですか。測定はどうしたんですか」
「ん?二秒で終わらせてきた。」
「はい?」
「だから、二秒で終わらせてきた。」
んな・・どうやって・・・確かにこのコアン先輩というのは高ランク能力者だ。それでも、二秒って・・・
「私は今日とてもお機嫌が悪かったんでね。何もかも破壊したかったくらいさ。」
「お機嫌って・・・いま嬉しそうじゃないですか。」
「君のおバカな凶報と不幸そうな顔面をみた瞬間、あまりの嬉しさに飛び上がりそうになったんだよ。」
コアン先輩はさも嬉しそうな顔をして頬付きをする。僕は学校に入るときに寮見学というものを最初にやらされた。その時にたまたま目が合ったコアン先輩に「コイツだぁ!!」と大声を出されて無理やり同室にさせられたのだった。だが先生は男女同室を拒否。だがそれにコアン先輩が先生を睨み「案ずるな、私の貞操は奪わせん」と一喝。一瞬で同室人が決定してしまった。
「それで、二秒で終わらせる程何をしたんですか・・・」
「ん?校庭に大穴開けて帰ってきてやったよ。今思い出すだけでも笑いが込み上げてくるぞ?ふふふふふふ。」
あの校庭に空いた巨大な穴はコアン先輩の仕業だったのか・・・。
「で・・判定は?」
「惜しくもAランクだったよ。だが一位だ。君では到底無理な領域だな。」
「一言余計ですよ。」
そう、コアン先輩はこの霊飼い術師専門学校のAランクのトップをずっと貫いている。それも入学時からだ。
「はっはっは。そんなに大層な事でもないさ。Aランクトップを入学時から貫いている=進歩のしないやつってことさ。つまり、私にあの壁を超える器はないという事だ。なかなかに皮肉なもんだね。」
あの壁・・・というのはおそらくSランクの事だろう。AランクとSランクの間では絶対的な能力の差が存在する。たとえAランクが3、4人で挑んでも勝てるかどうかといわれれば勝てないと言われるくらいだ。そんな領域にたどりつけるのはほんの一握りだ。
「で、でも、コアン先輩はトップですよ?不動の・・・」
「ああ、そうさ。トップだ。でも、Aランクのだ。Sランクにまではたどり着けない。一握りに選ばれた人間はなんでもできるというわけだ。」
その言葉を聞いて理解できていない表情になっているのか。コアン先輩は表情を穏やかにして言葉を続けた。
「そうだな、わかりやすく言おうか。Sランクのやつは砂漠の中で金塊をみつけ、それで国を作るほどのやつらだ。そんなのに比べたら私はその砂漠の中でたまたまオアシスを見つけたくらいさ。ここに絶対的な差が生まれるという訳だ。」
コアン先輩はどこか遠くを見るような目で天井を仰ぐ。男勝りな口調とは裏腹に美しくケアされた髪の毛が流水の如くさらさらと流れる。なんだか、苦労人なんだなぁ・・・と思わざるを得ない姿だった。
「そうだ。君のゴーストを見せてくれないか?」
「良いですけど。急になんで?」
「何でって、可愛い後輩に相棒ができたんだ。測定の結果がDランクでざまぁとかはおいといて、めでたい事だろう?」
「さりげなく悪口言いましたよね?僕の事嫌いなんですか?」
「いいや?逆だ。なぜ私が君のような不幸面と同室を願ったと思うんだ。」
「は・・・はぁ。」
「それは君に一目惚れをしたからだろう。」
「はぃ!?」
声が裏返った。なんだか妙に高くなってしまった声と恥ずかしさで顔が熱くなる。
「そんな私の恋話はおいといてさっさと見せてくれないか?じゃないと君をゴーストにしてしまいそうだよ。」
「シャレになってません。はぁ・・・」
この人の相手って・・・疲れるなぁ・・・
「我、命失ったものに第二の命与えるもの、霊飼い術師レオン也・・・」
僕がそう唱えると同時に僕中心に紫色の光が発せられる。
「ほぅ・・・中々様になってるじゃないか。」
「召喚!メイト・クランリス!!」
その光りが一際強く発光する。一瞬視界を奪った次の瞬間、僕が呼んだ人物は現れた。
「お・・・おぉ・・・おぉお!!」
「コアン先輩、はしゃぎすぎです。子供ですか。」
「ボクを見て感嘆の声をあげてるなんて、君中々わかるやつなんだぜ。」
「ほうほう、人がゴーストを召喚するときってこのようなものなんだな。」
コアン先輩が目を爛々と輝かせて楽しそうに僕とメイトを交互にみる。
「ていうかコアン先輩、あなたAランクなら人がゴーストを召喚するときくらい飽きるほど見るでしょうに」
「あ?そんなどこぞの馬のケツの骨かも知らないやつの召喚なんて見たくもないな。私の宝石のような目がただの石になってしまうじゃないか。」
「なんで臀部限定なんですか・・・」
しかも自分で宝石って・・・この人はほんとに恋する乙女なのか・・・
「そりゃあケツ限定だろう。正直私は自分より下の人間は君を除いてすべて、うんk・・」
「おいぃ!!あなた立場をわきまえなさいよ!?乙女でしょう!?」
「この先輩さん可愛い顔してえぐい事いうんだぜ。」
「知っている。私は可愛い顔だ。君がレオンくんの相棒のメイトくんか。」
「はじめましてなんだぜ先輩さん。」
「ほうほう、なんだか・・・レオンくんを赤く染めたみたいな感じだね。」
「なんですかそれ・・・」
「こう・・・雰囲気というのか、オーラが似ていてね・・・それで」
ゴゴォン!!と突如轟音が鳴り響き寮全体が振動でぐらぐらと揺れ危うく電気が停電しそうにチカチカとまばらに光る。窓の外からは慌てふためくような声が聞こえてきた。
「な、なんですか!?」
「う~ん、なんだろうね。ただ事じゃなさそうだ。」
「まぁ、今のでただ事な訳はないんだぜ。」
ガチャ・・ブッという切れ音と共に校内に放送が響く。声の主は僕らの表裏世界の授業を担当している先生の声だった。
「緊急事態、緊急事態です。ただ今、学校敷地に悪なる妖怪が侵入。繰り返す。学校敷地に悪なる妖怪が侵入。ゴースト持ち能力者、及び高ランク能力者はただちに敵を殲滅せよ。」
「まったく、この学校の防護システムはどうなっているんだ。飾りかよ」
「妖怪・・・!?コアン先輩!行きましょう!」
「いやだよめんどくさい。私は眠いんだ。」
「そんな悠長な・・・」
ゴゴォン・・と続けて地震のような振動が寮、いや、学校全体を揺らす。
「早く行きましょうよ!!先輩!!!」
「あっはっは。そんな高ランクの妖怪なんて出ないよ。うん。」
「万が一出たらどうするんですか!!」
「知らないよ。」
「そんな・・他人事じゃないんですよ!僕は行きます、コアン先輩はそこで寝ていてください。行くぞメイト。」
僕は苛立ちを覚えて駆けるように部屋を飛び出す。勢いよく閉められた扉をみてコアンは頭髪をバリバリと掻き毟る。
「行かなくていいのか・・・?我が主。」
不意にコアンの隣から声がする。振り向くとそこにはコアンの持つゴーストの姿があった。
「私には関係ないさ。」
「あの少年になにかあったらどうする?」
そのゴーストの声にコアンの細い眉はピクリと動く。自分の持つゴーストが次になにを言うのかは雰囲気で分かっていた。
「はぁ・・・お前には敵わないよ、ヤゲン。私を動かせるのはお前だけかもな。」
「力ならいくらでも貸そう。私が決めた主だからな。」
「その前に私がお前を決めた。」
そういや、あの時も一目見て決めたな。とコアンは喉の奥で声を出す。勿論、隣にいるヤゲンには聞こえてはいない。
「で、答えはどうする。」
「もちろん。」
コアンはすぅっと息を吸う。
「私が全員殺そう。」
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