第6話 仲間
「君も、ボクを消しにきたのかい?」
そう言われた瞬間、僕の体は何かに縛られたかのように動かなくなる。蛇に睨まれた蛙というのはこういう事を言うのだろう。
怖い・・・。僕は直感的にそう感じた。全てをお見透かすような紅い目が僕を睨む。
そのゴーストは赤い髪、紅い目、朱い服、すべてが赤に包まれていた。
男の足元には白い煙を体からもくもくと出して気絶しているクルスとラリーの姿があった。
「僕は、霊飼い術師だ。」
「知ってるぜ?」
男は即答する。その答えに迷いはない。
「こんな裏道、普通の人なら通るはずがない。それに、ゴーストは特例を除いて一般人には目視できないんだぜ。それと話してるんだ。君は霊飼い術師以外の何物でもないよ。」
男はクツクツと笑いながら僕を見る。さっきからこの男はずっと笑っている。不気味なくらいに。
「なにがおかしいんだ。」
「ん?何って、何が?」
この男、とぼけてるのか?
「さっきからずっとニヤニヤしているぞ。自覚ないのか?」
「ん?やだなぁ、ボクは眩しい笑顔がモットーなんだぜ。笑顔じゃないと楽しくないでしょ?」
「お前のは笑顔じゃなくてニヤケ顔だぞ。」
「・・・・。」
男はニヤケ顔の表情で固まる。数刻、しばらくの沈黙を破ったのは男の高らかな笑い声だった。
「あっはは!君、面白いねぇ、涙が出てきそうだよ。よし、そこに転がっているチャーシュー君と手羽先君より面白い事を言った君に免じて僕が許可してあげよう。君の話を聞いてあげるよ。勿論、時間制限はナシだ。」
男は近くにあったドラム缶の上に腰を下ろして足を組む。どうやらこの男、少し話のわかる奴らしい。
「そこに転がっている焼き豚の方がクルス、そっちの手羽先がラリーだ。二人はゴースト狩りと呼ばれていてゴーストと契約した後にすぐにリリースを行ってゴーストを狩るやつらだ。」
「ふぅん、なるほどね。確かに二人共言葉の使い方はうまかったね。特にクルス君?の方。それはそれはこのボクも感激してしまうくらいさ。」
「契約は・・しなかったのか?」
僕は一つの疑問を感じた。普通、感激したならクルスと契約するのではないのだろうか。その質問に対し、男は先程のようにすぐに答えを返してくる。
「ボクは言葉遣いが上手いといっただけなんだぜ。いくら助けてくれ~だの仲間がほし~だのと言われてもね、顔がヘラヘラしてたら嘘発着顔面白豚濃厚こってりチャーシューくんなんだぜ。」
どういう事だ理解できん。僕は頭の上に『?』を浮かべていると男がそれに気づいたのか、またクツクツと笑いながら再度口をひらいた。
「優しいボクが低脳な君に懇切丁寧に説明を促してあげよう。」
この男、さっきからいちいち尺に触る言い方をしてくるな。そんな気がないというのがわかるのがまた腹立たしい。
「まぁ、クルスくんが仲間がほし~とか言ってきてもね。はいわかりましたと言った瞬間に顔を少し緩めたんだぜ。そんな哀れな白豚君はボクを消そうとしてる事なんて丸々丸わかりなんだぜ。」
この男、飄々としているが物凄い洞察力をもっているな。
「なるほど、つまりお前はクルスの表情を試してたんだな。」
「その答えじゃ57.8点が限界点なんだぜ。ボクは表情じゃなくて器を試したんだぜ。そんな誰にでも頭を下げて閉まりのないやつと闘ったってあんなの即死するんだぜ。」
「だいぶ酷い扱い受けているなクルス。」
散々殴る蹴るの横暴を受けた後だが何故だか可哀想になってくるな。
「君はどうやらゴースト狩りではなさそうだね。目が泳いでない、真っ直ぐだ。」
「それはありがたいな。わかってくれて助かる。僕は仲間を探してるんだ。一緒に闘ってくれる力が欲しい。仲間になってくれないか?」
男はニッコリと笑い人指し指を立てて頬にあてる。
「もちろん。」
「ありがとう・・・」
「なるわけないよ??」
ドッパァァアアン!!!
「なっ!?」
刹那、辺りが耳を劈くような轟音に支配される。突如男の額から出た赤い雷が僕の背後にあるドラム缶を粉々にした。
「ボクはね、仲間が死ぬところを見るのが大っ嫌いなんだよね。だからさ、仲間になる前に死んじゃってくれないかな?」
男は右手を突き出して電撃を繰り出す。僕はそれを紙一重でよける。
「僕を試そうってのか、いいよ。」
「今の電撃をよけるなんて君、スゴイ動体視力の持ち主なんだぜ。」
「生憎僕は視力はいいんでね。視力だけじゃない、五感すべてが普通の人とは比べ物にならないくらいズバ抜けている。」
「それは人間離れしてるんだぜ。」
僕は村から出る間際に腰に吊るしてきた二本の短剣のうち一本を抜き取る。そしてそれを男の眉間にむけて構える。狙うは膝の裏。人体の中では一番痛覚が通ってる所だ。
僕は地を蹴り駆け出す。地面に滑り込むような形でスライディング。。体を捻り僕は男の膝裏に向けて突きを放った。
だが、その切っ先が狙った場所には飛んで行かない。赤雷。それが周りの鉄に当たり磁石よろしく磁化し鉄でできた剣が吸い寄せられる。
「遅いんだぜ?それにボクの前で剣を扱えたのは剣士だけなんだぜ。」
男は右手を僕に向けて突きだす。なにが起きるかはだれでもわかるだろう。電撃がくる。僕はそれを予知して避けようと体をかがめる。だが・・・
ゴっ!!!!
「ガッハ!!?」
電撃が来ると予知した男の手のひらからは雷が出ず、代わりに思い切り鳩尾を蹴られた。今日一体何度目かわからない重い一撃に意識が飛びそうになる。
「戦闘とは、相手が考えていることと別の事をするから勝利できるんだぜ?」
僕の体は少しの間地面から離れる。思わず意識が飛びそうになるがどうにか足を地につけて堪える。ここで倒れるわけにはいかない。僕はまだ、コイツを仲間にしていない。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「おぉ、よく立てたね。チャーシュー君なんてこれで一撃だったんだぜ?」
「同じ事したのかよ・・・。」
「まぁねー、立ってる暇は君にはないんだけどね?」
男は右手を振りながら、額から電撃を繰り出す。その電撃は歪な軌道を描きながらも僕の体を貫いた。打ち抜かれた、体が苦しい、息ができない。体は酸素を欲しがるが空気が喉の奥でつまりむせ返る。だけど・・・ここで倒れたら仲間にすることができない・・・!
「ぐ・・・う・・」
僕はまだ機能している二本の脚を地につけ立つ。
これにはさすがに男も驚いたようだ。ニヤケ顔は相変わらずだが。
「さ、さすがに驚いたんだぜ、さすがに倒れるかと思ったんだぜ。君・・・怖いんだ・・・ぜ!!」
打ち抜かれる、立つ。
打ち抜かれる、立つ。
打ち抜かれる、立つ。
打ち抜かれる、立つ。
「なん・・・で、君、倒れないんだぜ?普通の人なら意識どころか命も危ないんだぜ?」
「僕がここで倒れたら・・・両親や友達に申し訳がない。卒業する時に決めたんだ、仲間を連れてみんなに逢うって・・・だから僕は、倒れない。君を仲間にするまで倒れるわけにはいかないんだ!!!」
僕は、力の限り地を蹴った。今まで消えかかっていた視界がまた広くなる。全てが明確に見える。見えないものがない。
「仲間が居なければ戦えない、戦えなければ死ぬのを待つだけだ。違う!僕が死ぬ時は僕が死ぬと決めた時だけだ!!!」
僕は腰に吊るした二本目の短剣を鞘から抜き取る。僕は男の繰り出した雷をよけながら突進していく。
「はぁあぁあぁあああああ!!!!!!!」
僕は短剣を、男の心臓部に突き立てた。僕の意識は何かをやり遂げたように静かに飛んだ。
◇
「ん・・・ぐ・・」
一体どれだけの時間気を失っていただろう。体に不思議と痛みはなかった。
「やあ、おはよう。起きれるかい?」
この男、まだいたのか・・・
「いやぁ、君の最後の動きにはさすがに目を疑ったよ。」
「え??」
最後の動き?ただ突進したような気もするが・・
「え・・おぼえてないのかい?いや、なんでもない。」
「それより、どうして・・・どこにも行かなかったんだ?」
僕がそう問いかけると男は考えるふりをして答えた。
「君のど根性ハッスルに免じてここにいてあげたんだよ。」
「何の話だよ・・・」
「僕を、遣いにしてくれないか?」
男は笑った。今までのようなニヤケ顔ではなく。笑った。
「断る。」
「ええ?!ボクが10分間くらい考えて出した答えを一瞬で!?」
僕は右手で拳を作り男の前へと突き出す。僕は言葉を続けた。
「"仲間"になれよ。」
男は一瞬真顔になって目を見開く。
「了解なんだぜ。ご主人くん。」
男は右手で拳を作り、僕の拳にあててくる。
「ご主人くんってなんだよ。僕は、レオン。レオン・シャローネだ。」
「ご主人くんはご主人くんなんだぜ。ボクはメイト・クランリス。よろしくねご主人くん。」
「はは、力を貸してくれるか?メイト。」
「いくらでも」
僕は、ようやく冒険の一歩目を踏み出せたかもしれない。父さん、母さん、見てるかい?やっと、やっと皆を守れる力を手に入れたよ。
アカネ、レント、レイチル。僕は君たちと進んでいく。この死が闊歩する世界を生き抜くために、新しい未来を見るために、戦おう。
僕もやっと、戦える力を手に入れたから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます