第二部

「正義の味方 鉄血仮面」







「い、いや……助けて……誰か……。いや、いや…………。」ジリ…ジリ…



手足が縛られて動けない。

助けを乞いても誰も来ない。

ここは誰も知らない小さな小屋。


「誰か……誰かァ!!!」


忍び寄る男たち。

肥えた体からは汗が噴き出し、興奮の余り息は常に荒く、髭も髪もろくに手入れされていない。手に握られたカメラは少女の姿を収める。小屋の中は1人の少女に対し、複数の穢らわしい男たち。小屋中にひどい汗臭、体臭が充満している。


「なんで……?なんでこんなことをするの…………。」


「フーッフーッ……。君が可愛すぎたんだ。君が僕たちを誘惑したのがいけないんだよ……。」


「そんな……。私、誘惑なんて……!」


「してるだろうがっ!そんな短いスカート履いて、犯してくださいって言ってるようなもんだろうがっ!」


「そんなつもりじゃ…………。」


「そんなこと言って、君も実はイヤイヤ言いながら興奮してるんだろ?分かるよ?」


「興奮なんて……。」



「待てっ……!亜美には手を出すなっ…………!」


小屋の隅で蹲っていた少年が声を上げる。


「チッ……。黙ってろよクソがよぉっ!!」


「オラッ!」


複数の男たちは少年を囲み、暴行を加える。足へ、手へ、腹部へ、顔へ。殴る蹴るの嵐だ。


「っ…………!」


少年は声変わりをしてないほど幼い。亜美と呼ばれた少女と同じぐらいの年齢だろう。少年は男たちから袋叩きにされ、体の至る所が腫れ上がり、血を流し、動かなくなった。


「オラ起きろ。」


1人の男に髪を捕まれ無理やり顔を上げさせられる。少年の意識は朦朧としている。


「オラッ。」


ガンッ


硬いコンクリートの床へ顔面を叩きつけられる。鼻血が噴き出し辺りが鮮血に染まる。


「うわ、このクソガキ鼻血で俺の服を汚しやがって……!」


ジュッ


火のついたタバコを少年の手足に押し付ける。



「止めて!!!もう止めて!!!……和希が、和希が死んじゃうよぉ……。」


亜美は泣き叫ぶ。


メガネの肥えた男が少年の暴力を止めさせた後、亜美に擦り寄る。


「亜美ちゃん……。君が僕らの期待を裏切って彼を彼氏になんかするからこうなるんだよ?亜美ちゃんの彼氏は僕らじゃないか?あのガキより僕らの方が亜美ちゃんのことを全部知ってるよ。全部。全部。」


メガネの男は興奮し、早口になってゆく。


「△△県○○市××町X丁目Y番地Z号在住、□□学校@年☆組名簿番号++番の山崎亜美ちゃん。僕らは君が無名な読モ時代から追いかけてた。僕らの女神だった。なのに、なのに……!!!彼氏だと!?ふざけるなっ!!!僕らの純白な女神だった君が、男を作るだと!?」


「ごめんなさい……ごめんなさい……!」


「亜美ちゃんを穢すのは誰であろうと許せない……!!!だから僕らはこんなクソガキに先に君の処女が奪われる前に……。」


「ごめんなさい……ごめんなさい……!」


「デュフッ……。君の泣き叫ぶ声がこんなに股間にクるものだとはね……!」


「ううぅ……ううぅ……!助けて……。」


「それじゃ始めるよ?」カチャカチャ


少女を囲む男たち。




「助けて…………!」













テーテーレー テッテッテレー


なにかそんな短い曲が聞こえた気がした。






ジュッ


「……?熱っ……!」


メガネの男は全裸で少女に近づこうとしたとき、異変に気づく。急激に左足から高熱を感じる。しかし、熱を感じたのはほんの一瞬。男の脳は次なる感覚を伝える。



「あっだあああああああああああああああああああああああああ!!!」


男はあまりの激痛に転げ回る。


「なっ!」


「何が起こった!」


「うぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!!」


「ひいいいいいいいいい!!!」


小屋の男たちはもれなく全員叫び声を上げ床へ転げ回る。


「えっ……?えっ……?」


無事なのは亜美のみ。


「なんだ、何が起こったあああ!?」


「わっかんねえよおおおおお!!!」


男たちが痛みを訴えたがら抑える箇所、手、足。しかし、男たちのそれは本来あるべき場所から無くなっていた。手足が抉られていた。噴き出す血飛沫。小屋の中は阿鼻叫喚の地獄と化した。


一人の男が入口に何者かが立っているのに気づいた。


「何者だテメェ!!!テメェがやったのか!」


気づいた男は無くなった左手首の辺りを抑えながら立ち上がる。その時、入口に立っている者は仮面を付けていることが視認できた。

身長180は優に超える大男。真っ赤な服装はまるで特撮ヒーローのようだが、その仮面は全く見たことがない。



「私がこの世にいる限り悪は絶対許せない!悪は全て駆逐する!そう!私の名前は!!!」


「鉄血……仮面……だと?ふざけてんのかてめぇっ!!!」


男は鉄パイプを持って殴り掛かる。


ガシッ


男の鉄パイプは鉄血仮面により簡単に止められる。


「!?」


「貴様らは無力なる少女を誘拐、監禁し、しかもそのボーイフレンドである少年に再起不能となるレベルの暴行を加えた。」


「てめぇ……離しやがれ……!!」


男は鉄パイプを抜き取ろうとするが鉄血パイプは離さない。


「粛清対象だ。」


「そもそもなんでここが……!」


「誰かが助けを求める限り、私はどこにでも現れる。何故なら私の正義の味方だから。」


「正義の味方だぁ……!?くだらねぇっ!そのだっせぇ仮面も外しやがれ……!」


「これは正義の象徴となる仮面だ。剥がしたりはしない。」


「……くだらねぇっ!やっちまうぞてめぇら!」


まだ動ける男たちが鉄血仮面に一斉に飛びかかる。



「粛清開始。」



――――――――――。







数分だ。たった数分の出来事だった。たった数分で鉄血仮面に襲いかかった男たちは見るも無残な肉塊と化した。鉄血仮面は特に不思議な力や武器を使った訳では無い。単純な己の力で人間を肉の塊へと変えたのだ。

腕をへし折り、足を捻り、皮を剥がし、声帯を抉り、指を引きちぎる。まるで紙を破くように人肉を解体していった。そして何より恐ろしいのは男たちはまだ生きているということ。男たちは死ぬギリギリまで痛めつけられてるがまだ生きているため死ぬほどの激痛を今も味わっている。辺りは真っ赤に染まった。これ以上ないほど真っ赤に。



亜美と和希はいつの間にか鉄血仮面の手により小屋の外へと避難させられていた。二人はまだ気絶している。


残るは主犯であろうメガネの男のみ。



「あ……あああ……なんだよ……なんなんだよ…………!」ジョボボボボ


男は恐怖のあまり尿を漏らす。


「ふん。そんな年になってまだお漏らしか。汚らしい男だ。」


「た、助け―。」


「残念ながらその助けには誰も来ない。悪は全て駆逐されるのだから。」


歩み寄る、返り血に染まる鉄血仮面。


「あ、あああ、す、すまなかっ」


ヒョイッ


鉄血仮面はメガネ男の首を掴み軽々持ち上がる。


「かっ……がっ……!」


「謝れば許されとでも?」


ドゴォッ!


メガネ男の太い腹に鉄血仮面の拳が入る。


「……う、ヴォエッ……!」


口から大量の血を吐き出す。内蔵が破裂しようだ。


スパァンッ


「ア……!」


ビンタで顎が外れる。外れるどころか皮膚が裂け、筋繊維が剥き出しになる。


ドスッ


床に落とされる。


ビリビリビリッ


爪が一枚一枚剥がされてゆく。


グシャッ


睾丸が2つとも潰された。


ブチッ


陰茎が抜き取られた。


バキッ


腕が――――――。






「終わったぞ。少年少女。」


そう言い残し、鉄血仮面は小屋をあとにした。







和希はいつの間にか病院で緊急手術を受け目覚めたのは1週間後のことだった。亜美も気がついたら病院にいたようでどのような経緯でここまで来たのか覚えてないらしい。

医師によればとある大男が二人を連れてきて、多大な手術代を置き、消えたらしい。


この一件は後日大きなニュースとなった。


現在和希は懸命なリハビリ、亜美は男性恐怖症の克服に専念してるという。






こんな噂が流れた。


誰にも気づかれないとある小屋。

そこからは尋常じゃないほどの腐臭がし、中は壁や床の赤は塗料ではなく人の血。

だけれど小屋の中に人間の遺体があるわけでもなく、何故か綺麗さっぱり何も無いのだという。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る