第4話「何のために生まれて、何をして死ぬのか。」


「シロウ!!来るなっ!!!」


前方からサキちゃんの声と鉄の匂いがする。


「いや行くよ?」


俺は構わず進む。

鉄の匂いと表現はしたが何の匂いかは分かってる。血の匂いだよねー。てことは誰かが死んでるか、もしくはサキちゃんがダメージを負ったか……。サキちゃんがケガをしていたら大変だ、急いで向かわないと。だが「来るな」てことは敵が目の前にいるということに間違いないんだよな。もしくは罠があったか。


そんなことを考えながら俺はサキちゃんに追いつく。


「おいサキちゃんどした?」


「シロウ!来るなと言ったでしょう!」


「なになに?何があったの?」


「逃げて!敵だっ!!」


「お?」


俺はその敵の姿を確認しようとするが

どこにも敵らしきモノは見えない。

見えるものは赤い水溜まりとそれを形成したであろう大量の死体のみ。

服装から見るにタクミの仲間たち自衛隊の面子だろう。4人ほどいるが、全員もれなく首だけがない。こんなホラー映画でも出てこなさそうなグロテスクな状況に立ち会った俺は嘔吐し、発狂、逃げ回りたいところだったが、今そんな無駄な行動をしてる暇ではない。と俺の理性が身体の現実逃避を許さなかった。


「うわっ……。」


俺は軽い吐き気だけで抑える。


「シロウ!いいから来て!」


「お、おう。」



来た道へと逃げるサキちゃんを追う。

背後から敵が迫ってきてる様子はない。そもそも俺はまだ敵の姿を視認していない。




結局、最初に俺が目覚めたあの場所へと戻ってきた。


「……はぁ、はぁ、追ってきてはいないようね……。」


「追ってきてないもなにも、何もいなかっただろ?」


「………は?何を言ってるの?あなたの目の前にいたじゃない。」


「……?いや、俺には死体しか見えなかったけど……。」


「……え?」


「ん?」


「いや、いたでしょう?大きな鎌を持った死神のようなやつが……。」


「死神…………?」


「え?本気で言ってるの?」


「いやここでふざけないでしょって。」


「どういうことなの…………?」


「……サキちゃんがあの場所にたどり着いたとき、どういう状況だった?」


「……私があそこに行ったとき、丁度、丁度よ。目の前で死神の姿をしたものが鎌で自衛隊の一人の首を刈り取ったの…………。今思い出しても……。うえっ…………。」


「その自衛隊は戦闘をしていたようだった?」


「…………?そうよ。当たり前じゃない。神話生物を倒しに来ている自衛隊が神話生物を前にして無抵抗なわけないじゃない。何を言ってるの?」


「いや……ね。」




…………どういうことだ?サキちゃんには見えて、俺には見えていない。女には見えて男には見えないという線も疑ったが、自衛隊にも見えていたようだ。それはない。……死神……か。鎌を持ってたっていうなら俺がイメージしてるあのローブと大鎌のあのシンプルな死神の姿をしているのだろうか。死神……死神……。分からん。あの時の俺とサキちゃんの違いはなんだ?サキちゃんは戦闘態勢に入り、俺は入っていなかった?いやいや、俺もサキちゃんに「来るな」と言われて敵がいると分かっているのだから戦闘態勢にはあった。……なんだ?なんなんだ?こんな展開どんなラノベにもないぞ?仮説を立てるとするならば……。


「サキちゃん。俺がその場に辿り着いたときも死神はいたの?」


「だからそうだって言ってるじゃない。あなたの目の前にいたわ。」


ふむ……。

①俺だけを対象にした透明能力

なんかのアニメだったかで一人に対してしか透明能力を使えないキャラがいた気がする……。でもこの説はあまり信憑性なし。


②幻覚

実際にあの場で起きていた惨状は全て幻覚で、神話生物が俺たちを恐怖に陥れるための……。だが、血の匂いはした。幻覚で視覚だけでなく嗅覚も惑わされるというのなら分かるが……。それに、自衛隊の死体だけ見せて敵の姿を見せない理由がない。恐怖に陥れたいのなら恐ろしい姿をしている死神を出さないわけがない。この説もあんまし。


③死への……

……死神は、死するべき運命の者に現れその命を刈り取ってゆく存在だった気がする。まぁ、色々解釈はあるが死神は直接対象者を殺したりするのか?俺的なイメージは病気かなんかで死ぬやつの命をそっと持ってく案外無害というか、摂理を実行する者というか……。ここは神話生物と人間との戦場だ。

多くの者達が死んでゆく。死神がいない方がおかしいくらいだ。神話生物との戦いに敗れた人間たちの魂を刈り取るのだろう?

……だが実際は鎌でのダイレクトアタック。

直接殺しに来ている。



「……ねぇ、サキちゃん。何で死神が現れた時に衝撃波を出さなかったの?」


「いや、それが……。情けない話だけど、あの死神と対峙したとき何かこれ以上ないほどの恐怖を感じたの……。タクミが倒した虫から感じたものより何倍も何十倍もの恐怖。蛇に睨まれた蛙って感じかしら……。」


「ほーん。」


「私たち、もう死ぬのかしら……。」


「……大丈夫さ。たぶんもしかしたらきっとね。」


「なによ……それ全部未然形じゃない……。」


「はは。確かに。」




「生きたい……。」


「俺も。」


「普通の生活をしてみたい……。」


「俺も普通に戻りたい。」


「私だって十代の女の子らしいことしたい……。学校に行って……。」


「退屈だけど楽しいよ。」


「友達と遊んで……。」


「最高の時間だね。」


「オシャレして……。」


「サキちゃんはもっと可愛くなるよ。」


「色んなことに夢みて……。」


「可能性は無限大ってね。」


「そして恋愛も……。」


「お相手はボクかな?」


「違うわよ。」


「あはっ。」


「やっぱし生きたい……。」


「……生きよう。そして帰ろう、日本へ。」



俺とサキちゃんはその後、帰るための方法を模索した。だが船もない、ヘリもない、脱出不可能なこの島。しかし俺はタクミの話を思い出した。そしてある一つの可能性にかけることにした。それは自衛隊にいるという空間能力者の能力と同等の能力者がこの島に捨てられるのを待つというものだった。


この島には国から捨てられた能力者が集まる島だ。能力の種類は様々。だからもしかしたら空間を自由に行き来できる能力者がやってくるかもしれない。そんな実現性に乏しい作戦だがこれしかないのだ。そんな希望を胸に俺たちは少しでも安全なところがないか探索に出た。


生きる。

そのために俺たちは生まれてきたんだ。

やすやすと死んでたまるか。



「あ、サキちゃん。一応これ渡しとくよ。」


「……これって。」


「手榴弾。タクミの持ってるやつをコピーさせてもらったんだ。仕組みも威力も現物と同じだよ。サキちゃんには衝撃波があるのは分かるけど一応遠距離攻撃用としてね。」


「……そこは普通銃のコピーじゃないの?」


「いやいや、初心者が銃を持ってもなんの役にもたたないでしょ。絶対当たらないし。」


「確かに……。」


「でも俺はコピーは一個しか出来ないからさ、何か別の物をコピーしたらそれは消えちゃうから気をつけてね。ポンッていう音を立てて消えるようになってる。俺がコピー能力の解除、使用不可に陥ったときも同様だよ。使用不可になることなんて俺が死ぬときくらいしかないんだけどね。」


「……なんだか、要領悪いわね。あなたの能力。一個だけって……。」


「そうなのよ。」


「でも、ありがたくいただいておくわ。

……それと、軽々しく「俺が死ぬとき」なんて言わないで。」


「ご、ごめん。」


「あなたが死ななければそんなことは起きないんだもの。」


「確かにそうだね。サキちゃんだんだんとポジティブシンキングになってきたね。」


「だって生きるもの。」


「その意気その意気。」




サキちゃんはもう大丈夫だ。もうタクミを攻撃したときのあの精神状態になったりはしないだろう。頼もしい仲間だ。

……問題は、死神だ。

まだ死神の見える見えないのメカニズムが解明できていない。①、②、③と説を出てきたがどうもしっくりこないものばかりだ。

死神が直接殺しに来る敵なら立ち向かうが、死神というのが死するべき運命の者の魂を刈り取るこの世の摂理のを実行する者ならば

どうしようも……。





そんなことを考えてる時、ある叫び声が聞こえた。







「うおおおおおおおおおお!!!」


野太い気合が入った声。自衛隊のものだ。

しかも、俺とサキちゃんほ聞いたことのある声……。


「シロウ、今のもしかして……。」


「もしかしなかてもタクミじゃないか?」


「敵に襲われているのかもしれない。助けに行きましょう!」


「ああ。」


俺とサキちゃんは声がした方角へと走る。


……だがこの行為はとても愚かなことではないのか……。だってその方向には敵がいるはずだし、俺たちは敵をできる限り避けなければいけないのに……。そんな思いを胸中にし、走る。




そして、俺たちは辿り着いてしまった。






そこには先程のように血の水溜まりが広がり、それを作り出す複数の首なし死体たちが乱雑に転がっていた。




そしてついに俺にも見えた。いや、見えてしまった。






髑髏の顔でローブを羽織り、右手には鮮血に染まる大鎌、左手に切断されたタクミの生首を握る死神の姿が。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る