第3話「無理ゲーから生き延びよう」



「お前らは国から捨てられたんだ。厄介な能力者としてな。」


タクミから衝撃的なカミングアウト。


「……は?」


「この島は……世界トップクラスの極秘エリアだ。誰かに見られるなんて必ずないから人を消すにはここが一番いい。しかも神話生物に勝手に殺されてくれるしな。」


「…………えぇ?」


「……そんな目で見ないでくれ……。オレだって厄介な能力者をここに捨てるのなんて反対だ。だがな、これはしょうがないものなんだ。」


「………………。」


その時、背後から殺気を感じた。それは誰の殺気でこれから何をしでかそうとしてるかを俺は瞬時に察した。


「タクミ、避けろ!」


「!」


タクミが右へと避ける。


ドゴォンッ


さっきまでタクミの後ろにあった木が何本も倒れる。タクミも間一髪で避けることに成功した。


犯人はもちろん サキちゃんだ。


「……私たちはここで死ぬ運命?ふざけないでよ…………。」


「だからってオレに当たられても困る!」


タクミは額から角を生やし、戦闘態勢に入る。まさに一触即発な状況だ。






「……私は、私は……!小さい頃から自由を奪われて……!毎日毎日実験のためだとか言いながら能力を酷使させられて……。」


「…………。」


そんな話を黙って聞くタクミ。


「なのにやるだけやったら用済みだから死ね!?ふざけないでよ!!!」


「………………。」


「私の人生を……人としての価値を……返してよっ!!!」


再び掌をタクミに向け、衝撃波を放とうとするサキちゃん。だがタクミは動こうとしない。


「……サキちゃん。オレを殺しても何にもならんぞ。」


「うるさい!うるさい!うるさい!!!ここでの計画をぶち壊して復讐してやるのよっ!!」


ダメだ。明らかに錯乱してる。そんなことやったところでなんの意味もない事だということはサキちゃんにも分かるはずだ。

まぁ、そりゃそうか……。小さい頃から人間を辞めさせられて、そして最後は「死ね」だもんな。そりゃ狂気に犯されるわ。


だがしかし。ここでタクミを殺しちゃうと色々まずいぞ。恐らくタクミはサキちゃんに攻撃されても反撃できないだろう。ほぼ確実に殺されてしまう。だがタクミはここのことを知る唯一のナビゲーターだ。タクミを失うと俺たちが生存できる可能性がホントにゼロになってしまう。

タクミたちの特殊自衛隊側の希望にも応えられないし、復讐に燃えるサキちゃんにも悪いが俺は生きたい。





「死ねっ!!!!」


サキちゃんがタクミに向かって衝撃波を放とうしとした。だが


「!?」


タクミは増殖。突如二人になったタクミに対しどちらに撃てばいいのか戸惑いサキちゃんの動きが一瞬止まる。


「組み付き!」


俺がそう言う頃には既にタクミは自衛隊仕込みの格闘術でサキちゃんを押さえ込んでいた。もちろん掌の方向には十分に注意して。


「離せっ!!!!ちくしょう!!!」


サキちゃんは能力により高い戦闘力を誇るが、素の力は普通の女子。現役自衛隊のタクミに勝てるはずがない。


「……おい、シロウ。どうしようか。」


「うーん…w 気絶させたりできる?」


「気絶か……。マンガみたいな首トンなんてできないから絞め落とすぐらいしか……。」


「え、痛そう。」


「まぁ上手く行けば苦しみを感じさせる前に落とせるし……。やってみるよ。ちょっとサキちゃんの掌かこっち向かないように抑えててくれない?」


「あいよ。」


俺はサキちゃんの両手首を掴み、タクミに衝撃波が及ばない向きへと固定させた。


「んーーーーーっ!」


必死に暴れてるサキちゃん。マッチョがJKを組み伏せている。よくよく考えたらエロい状況ではないか?


あっ。タクミが裸絞を始めた。


「ごめんサキちゃん寝ててくれ。」


「……。」


首の細いサキちゃんは悶える間もなく落ちた。よかった。苦しみを感じる前に落ちてくれた。

タクミは持っていたショルダーポーチからロープを取り出しサキちゃんを木に縛り付ける。


「こんなもんかな……。掌も固定してっと。」




「……タクミ、これから俺たちはどうすればいい?ただ神話生物に殺されるのを待つだけなのか?」


「……悪いがオレはお前たちを返すことはできない。帰る手段が自衛隊の能力だからこっそり帰っても見つからない訳がない。」


「……あー。」


「だがオレはお前たちに死んで欲しくない。頑張って足掻いてくれ。そしてこの島から自力で脱出するんだ!」


「だよな……。てかここは何処の地域だ?それさえ分かればワンチャン。」


「ここは……何処だろう。すまん。オレたちはヘリで連れられただけだから分からないんだ。」


「そか。」


「悪いな……。あとそろそろサキちゃん起こさないと。いつまでも落ちていると命が危ない。」


タクミはサキちゃんに近づきサキちゃんを揺さぶる。


「おーい。起きてー。」


「…………はっ!ここどこ!?今何時!?」


「おはよ。悪いけど拘束させてもらったよ。」


「……え?……あぁそうだった。……でももう暴れたりしないわ。ごめんなさい、あなたを殺してもなんの意味もないというのに……。」


「いいよいいよ。それよりこっちこそごめんな……君たちを助けれなくて。」





「…………そっか。私、死ぬのかー……。」


「ごめんよ……ごめんよ……。」


タクミはひたすらに謝り続けた。タクミが謝る必要などないのに……。






それから俺とサキちゃんはタクミと分かれ、生き残るための戦いを始めた。

戦いを始めたっつってもまだ神話生物とは接触してないけどね。




「あ、そうだ。俺まだ寝袋の中身見てないわ。確認していい?」


「いいけど、まだ見てなかったの?」


「うん。てかサキちゃんの寝袋には手袋だけ?」


「それとなんか変な棒。」


「棒?」


「銀色の棒で先端に球体がついてる。」


「ほーん。見せて。」


「これよ。」


サキちゃんはポケットから小さな棒を取り出した。意外と小さい。


「ちっさ。」


「でもね……。」


シュシュシュン


サキちゃんが棒を振ると警棒形式にその棒は伸び、80cmほどになった。先端には確かに球体がついている。


「おお。」


「でもこれ何に使うか分からないの。」


「……あの手袋は能力に関係してたんでしょ?ならその棒も何か使えるんじゃない?」


「……えい。」


ドゴォンッ


突然球体付近の地面が吹き飛んだ。


「おわ!?何したの!?」


「いや、棒持ちながら衝撃波を放ったらどうなるかなって……。」


「……なるほど。じゃあその棒はサキちゃんの衝撃波をその球体へ伝える棒なのかな。」


「あーー。」


サキちゃんは付近の木の幹にその球体をくっつけ


「えい。」


ドゴォンッ


木は吹き飛んだ。


「やっぱりそうだ。」


「なかなか便利?……あんたの寝袋の中身は?」


「ちょっと待ってね?」


俺は寝袋を開け寝袋を確認する。


「……ん?もしかしてこれは……」


「なんだった?」


「……ノートパソコン。」


「え、パソコン?なんで?」


「知wらwなwいwよw」


「やっぱあんたのコピーに関係あるのかしら。」


「そう……のはずだけど。見た感じ普通のパソコンなんだよなー。」


「いじってみてよ。」


「起動ボタンをポチッとな……。」


「どう?」


「………………作動しねーわ。」


「どういうこと?」


「どうもこうもじゃないよ。うんともすんとも言わないのよ。」


「ハズレなんじゃない?」


「マ?」


「どんまいどんまい。さ、探索を続けましょ。」


サキちゃんは歩を進める。俺もあとに続く。





俺は確信していた。

これはハズレアイテムなんかではない。だってパソコンだぜ?こんな特殊なアイテムが何もないなんてあるわけない。今、用途が不明な道具ってのは大抵ラスボス当たりでラスボス撃破のキーアイテムになるんだ。

……だが使い方が今のところ全くもってわからん。見た目は普通のノートパソコンだがどうしても起動しない。サキちゃんの手袋や棒に倣って能力を使用するのもあるんだけど「コピー」はなぁ……。どうしろっての。……増やしてみる?いや増やしたところで。


そんな事を考えてたらいつの間にかサキちゃんとの間に歩幅が変わってしまい、距離が出来ていた。急いでサキちゃんの元へ向かおうとする。が





「シロウ!!!!来るなっ!!!」







前方からサキちゃんの声が響き、鉄の匂いが鼻についた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る