彼の名はジャック・マリー
「ねぇジャック、この後どこ行くー?」
街の中を一人の男を取り巻くように3人の女性がついていた。街の中で女性3人を引き連れて歩く男は良くも悪くも悪目立ちするのだった。
「エマ達の行きたいところなら世界の果てまで行ってもいいよ!」
エマと呼ばれた女性は今どきのギャルっぽい格好をしているが、メイクを落としても元は整ってそうな顔立ちだった。一方、ジャックと呼ばれた男は全身シックな感じにまとめており、かなりのイケメンであった。
「で、でももうすぐ時間じゃないの?」
「おっとそうだったな、流石アメリア!」
そう言ってアメリアと呼ばれた少女の頭を撫でると「ふえぇ」と言ってアメリアは顔を赤らめる。
「全く、アメリアが言わなかったらどうするつもりだったのかしら。ほんとバカね。」
「アメリアが言わなかったらゾーイが言ってるだろ?問題ない問題ない。」
「問題しかないだろ!」
「ぐふぇっ」
ゾーイの拳がジャックの横腹にめり込む。
「お、おいおい。照れ隠しはいいが少しは手加減をだな…グハッ!」
再び一撃を貰うジャックはよろめく。
「だ、大丈夫ですか?」
ジャックに駆け寄るアメリア。そんなやり取りを見て笑うエマ。
「全く、学習しないのね。そんなんだから私がついて行かないといけないんじゃないの……。」
呆れるゾーイは「さっさと行くわよ」とジャックを起こす。
「あー、すまん。ちょっと待ってな。少し用事が出来ちまった。」
3人はこういう時のジャックの行動に見覚えがあった。
「また女の子?」「またですか…」「また女?」
3人は呆れたように口を揃えて言う。
「だってさ、ほら見ろよあの娘。道に迷ってんじゃん。目の前で困ってる娘は助けないと、このジャック・マリー、男が廃るぜ!」
「……迷ってしまった……。」
ラウラは道に迷っていた。
異常な人混みと慣れない街、人の流れに流されて迷ってしまったのだ。
「買い物を早く済ませたから本屋へ寄りたかったのに……。しかしこの人混み、今日は何かあるのだろうか…。」
ラウラはどこへ行くかわからない人の流れにのまれながら途方に暮れていた。
「ちょっとそこの君!」
ラウラは体をビクリと震わせる。仮にも追われてる身の自分がこんな人混みにいるのは不用心だった。ラウラは追っ手が来た思い込んでいたが、期待は良い方向に裏切られることになる。
「君道に迷ってたでしょ。」
振り返るとシックな服を着た美青年が目の前に立っていた。その後ろからは何故か女性3人がこちらを睨んでくる。
「え、なんで分かったんですか?」
「だってお姉さん地図見ながら挙動不審だったし?」
ラウラは二度ビックリする事になった。
「どうしたんだい?」
ジャックは不思議そうにラウラの顔色を窺う。
「いえ、私を初見で女性だと認識した人は初めてだったもので。」
「それはほかの人の見る目が無いんですよ。こんなに美しい女性なのに。」
「は、はあ……」
いきなりのジャックのペースにキョトンとするラウラ。
「ちょっと、その子困ってるじゃん。埒が明かないから私に任せて。」
「グフォッ」
エマがジャックを押しのけた反動でジャックが壁にぶち当たる。急いでアメリアが駆け寄ってジャックを介抱した。
「私はエマ。君、道に迷ってるんでしょ?どこに行きたいの?」
「えっと…ありがとう。私はラウラだ。とりあえず広場まで行きたいのだが……。」
「あ、じゃあ私達もそっちの方に用事があるから一緒にいこ!いいよね、ジャック?」
エマが振り向くと、アメリアに膝枕されて鼻の下を伸ばしているジャックがいた。
「あ、ああ。一向に俺は構わないよ。でも向かうのはもう少し後でもいいんじゃないかな?俺はもう少し休みたいんだが。」
そう言いながらアメリアの太ももをスリスリとなでていた。突き放すこともできないアメリアは顔を赤らめてただなされるがままの状態だ。
言うまでもなくゾーイ「場をわきまえろ」とジャックに容赦のない蹴りを入れ込む。
「アハハ……こんなんでなんかゴメンね……。」
「ねぇ、そこのお兄さん。ちょっとお隣いいかしら?」
フェリックスはいきなり女性に声をかけられていた。
「………ああ構わねぇが、アンタみたいなやつにここは場違いじゃねぇか?」
ここは大会選手控え室。女性はブロンドで容姿端麗、まるでモデルのようであった。そんな人間がここにいる事は異質だった。
「あら、いけない?私だって欲しいもの、賞金。」
フェリックスは面倒くさそうに舌打ちをする。
「あのなぁ、ここはそんなに甘ぇ所じゃねぇんだよ。怪我する前に帰れ。」
「あら、私を女だからって見くびらない事ね。痛い目を見るわよ?」
「失せろ。女を殴る趣味はねぇ。」
「フフ、優しいのね。まあ、いいわ。今は無駄みたいだから後で話しましょ?」
女性はスっと立ち上がってフェリックスに向き直る。
「フェリックス。考え直す気は無いのかしら?」
「……俺の答えは…変わらねぇ。」
「……そう、残念ね。私はいつでも待っているから。」
そう言い残して女性はその場を後にする。その後フェリックスはただただ沈黙をするだけだった。
「ねえ、アベリィ。」
「何でしょうかリリィ。」
「何でこんなに人がいるの?人、人、人、人ばっかりだよ!」
リリィはイライラしながら人混みをゴミを見るような目で見る。
「確かこの街で腕試し大会なるものが開催されるそうです。何と優勝者は3000ドルもの大金が貰えるらしいわ。情報によるとターゲットの一人がエントリーしてるみたいよ。」
リリィの目が輝く。
「それってさ、それってさ、人殺せるの!?」
アベリィはクスリと笑う。
「誠に残念ですがリリィ、殺してしまったらルール違反になってしまうようです。」
そう聞いたリリィはガックリと肩を落として残念がる。
「まあ、そう肩を落とさないで下さいリリィ。夜になったら人を殺せるのです。今は我慢ですよ。」
「でもでもー、夜まですっごい暇なんだもん。」
「でしたら、大会の観戦をするのはどうでしょうか?暇つぶし程度にはなるかもしれませんよ?」
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