狂気の沙汰


「おい、支度しろよ。」

「ぐぇっ」

フェリックスがラウラを躊躇いなく蹴り起こす。

「ふぁ……。君さ、僕が女だって分かったんならさ、もう少しレディーらしく扱ってくれてもいいと思うんだ。昨日はあんなに動揺してた癖にさ。」

「うるせぇ俺は男女平等主義なんだよ!あの時は少しびっくりしただけだよ。レディーらしく扱って欲しいならレディーらしく振舞ってみせろよな?とりあえずその顔洗ってこい。」

「脳筋ゴリラには僕の魅力が分からないんだね」

やれやれとぼやきながらラウラはタオルを受け取って水場に行った。

「こいつここに置いてってやろうかな……」


「ねぇ、君。そういえばどこに向かってるんだ?」

「この国でいそうな所はだいたい探したからな。港へ行って合衆国にに渡るぞ。」

「外国へ行くのか!?そんなの聞いてないぞ!」

フェリックスにやりと笑う

「言ってねぇからな。」

驚愕の事実を知ったラウラ

「入国許可書は?」

「んなもんお尋ね者の俺達が貰える分けないだろ。強行突破だよ。」

滅茶苦茶である。無謀にまで打算的なフェリックスの考えに頭を抱える。

「そもそも港まで行っても船に乗れないじゃないか!」

「アテはある。まあ、港まで距離はある。とりあえず向かうぞ。」

ラウラは(不安だ…。)と思いながらも、渋々フェリックスの後に続く。



「まだ見つからないのですか!!」

とても高貴そうな夫人女性が怒鳴り散らかす。

「も、申し訳ございませんッ!」

夫人の前には1人の小太りの騎士が恐縮していた。

「本当に何をやっているのですか。あの小娘が持って行った物がどれ程大切な物か、あなたも理解しているのでしょう?それにあの目障りな小娘を消す絶好の機会。これを逃す手にはいかないでしょう?」

1人の人間を消す。そう何のためらいもなく、冷え冷えと言い放った。

「お、仰せの通りでございます。なので既にあの双子を向かわせました。」

騎士はいやらしくニヤリと笑う。

「ほう……いいだろう。下がるがよい。」

「失礼致しました。」

怒りがおさまる夫人を見て、ほっと胸をなで下ろし、騎士はその場を後にした。



「ねぇ、リリィ。」

「なぁに?アベリィ。」

双子の声が夜空に染みる。

「次のターゲットはなかなか骨があるみたいじゃないですか。楽しみですね。」

金髪の少女がニコリと笑う。メガネが月光を反射して鋭く光る。

「そうだね!でもだーめ。あの可愛いこは私のなんだからね?アベリィはゴリラの相手でもしててよ。」

リリィと呼ばれた金髪のツインテールの少女は、黒い傘をクルクルと回して、まるで遠足に行く子供のようにうきうきとしていた。

「別に構いませんよ?私は戦えればいいのですから。」

「じゃあ決まりね!後から言うのは無しだからね!」

「言いませんよ…リリィじゃないのですし……」

アベリィの素っ気ない返事にリリィは「なんだよそれ…」と頬を膨らませる。

「何にしても明日が楽しみだなぁ。」

「そうですね。」

「「あぁ、早く殺したい。」」

冷たい夜が明けようとしていた。

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