KOKUBYAKU
@yuhimanatu
最悪の出会いと最高の思い出
「おるrrrrらあぁ!!!」
雄叫びと共に破壊の音が轟く。破壊の主は1人の黒髪の青年。嬉々とした笑みで破壊を行う。
「ひいぃぃぃ」
店から出て逃げ惑うチンピラの悲鳴。
「悪いことをしたらごめんなさいだろぉがぁ!」
その男が叫ぶ度に破壊が行われる。
「ぎゃああああ」
それにチンピラの情けない悲鳴が連鎖する。
「あぁ、お客様!困ります!ああ困りますお客様!店内で!暴れられるのは!困りますお客様!」
それに店主の悲鳴も連鎖する。
「それ位にしとけ。これでは落ち着いて本も読めないではないか。」
店内にいた青年がもう手遅れのような気もする制止をする。いかにも好青年といった風の白髪のイケメンだ。
破壊の停止に店主も安堵する。
「力があってもこうも脳まで筋肉では意味もないな……」
「あ゛ぁ?お前が代わりに相手でもしてくれんのかァ?」
「いいだろう。僕が相手をしてやろう!来るが良い!!」
店主の表情は一変真っ青である。然り、その好青年も脳筋だったのだ。
そこに店など既に無かった。
白髪の青年のは剣を使っていた。時には魔法を巧みに使い、時にはフェイントを使い、ふんだんに技術を使って戦っていた。
にも関わらず、白髪の青年は防戦を強いられる。
(絶対におかしい。なんで僕の攻撃が通らない!神童とも呼ばれている僕がっ!防戦一方なんて!なにかしら仕掛けがあるに違いない!)
白髪の青年がそう思うのも当然だった。
黒髪の青年がしている事といえば、「突進して殴る。」ただそれだけ。ただひたすら嬉々として殴るのみだった。まさに脳筋のそれ。ただし拳一つの重さが違う。拳一つでガードは無に帰し、拳一つで地面は抉れ、拳一つで破壊が生じる。
彼の拳には鉄板の入った革製の手袋がはめられているだけで、この威力自体には種も仕掛けも無かった。
そんな彼の拳の前では、剣の間合いに入られてしまった白髪青年にはなす術等無かった。しかしそんな拳を未だまともに受けていない白髪青年の技量も侮れない。
「已むを得ない…まさかこれを使うとはッ!!」
剣に雷気がほとばしる。
瞬間に襲いかかる雷撃。
咄嗟に奇跡的な回避をとげる黒髪の青年。野生の勘というやつだろうか。
「おい、おいおいおいおい聞いてねぇってそりゃ!この俺が!避けちまったよ!しかも攻撃まともに入らないしよ!なんか奥の手みたいなの出してきたし!これヤバくね?!楽しくなってきたじゃんかよ〜!」
黒髪の青年はあくまでも、悪魔のように楽しげだった。
「もう手加減は出来ないぞ…。貴様の敗因は僕を本気にさせてしまった事だ!」
恥ずかしげもなく恥ずかしい台詞を述べる白髪の青年。
「笑わせんな…俺が負けるわけ無いだろ!!」
先手は黒髪だった。あくまでもやる事は変わらない。相手に突進して殴る。ただそれだけの単純な攻撃。
白髪は躊躇いなく剣先から雷撃を放つ。
目を開くとそこには空があった。口の中には血の味が広がっていた。敗北の味だ。
「負けてしまったのか……」
「ああ、てめぇは負けたんだよ。そして俺が勝った!」
近くに黒髪の青年がいた。
「負けるのは初めてだ。」
「俺もこんなに強ぇやつは初めてだ。」
白髪の青年は笑う。
「フッ。すると君は負け知らずなのか。雷撃ごと殴り飛ばすとか意味がわからん。でたらめだ。」
「あんな静電気痛くも痒くもねえよ。」
「嘘つけ。君もフラフラではないか。」
「うっせぇよ。負けたやつが指図すんな。ちょっと疲れたから俺も寝るぜ…。」
そう言って隣に倒れ込む黒髪。
「ちょっと待て。僕の名前はラウラだ。君の名は何という。」
「フェリックスだ。お前、女みてぇな名前してんな。」
そのまま黒髪は眠ってしまう。
「僕は女なんだがな……。さて、いつまでもここで寝ているわけにもいくまい。」
そう言って白髪の青年…ではなく、白髪の少女ラウラは起き上がる。
見渡すと破壊が尽くされて崩壊した町がそこにはあった。
「これは、どうしようか……」
「んあ?ここどこだよおい。」
目が覚めると見知らぬ天井。見知らぬ部屋。
「お目覚めかな?案外早かったね。」
横にはラウラが座っていた。
「えっと…お前は…昨日俺に負けたヤツ」
「……とことん失礼な奴だね君は。あの時は油断していただけだよ。次は僕が勝つ。」
「は?ってイタタタイッテーなんだこりゃ」
体を動かそうとしたら唐突に全身に痛みが走った。
「当然だよ。君は昨日全身に雷撃を受けたんだ。逆に治りは早い方だよ。昨日の傷も塞がっている。……君の身体はどうなっているんだい?」
「……ちぃっとワケありってやつだ。」
フェリックスに一瞬、今まで見せた事の無いような怒り、殺意の表情が見えたような気がしたが、気のせいだったのだろうか。
「そうか、言いたくないのならば無理には聞かないさ。」
「それよりよ、ここは何処なんだ?見た感じ…宿屋に見えるが?」
「うん、ここは宿屋だよ。僕の家でも良かったんだが、あれだけの破壊をした私達だ。今ではすっかりお尋ね者だよ。ここも主人のご好意で居ることができてる。そう長くはいられないよ。」
確かに外は騒がしかった。カーテン越しでも分かるくらい外は暗くなっていて、自分たちを捜しているであろう影と話し声が……
「…!?おい、ここを出るぞ。」
いきなりフェリックスに手を引かれたラウラは目を丸くする。顔が近い。
「外の声と灯が、移動してない。この宿は囲まれてるかもしれない。」
「!?」
ラウラは気付きもしなかった。自分が囲まれているなど。ラウラは思いもしなかった。自分達が宿屋に売られるということを。それよりも…
「ち、近すぎるんだよ!」
ラウラは手を払い除ける。
「そ、それでこの後はどうするんだ?」
「どうするって?」
「作戦だよ。逃亡策。」
しかしそこまで言ってもフェリックスは頭上のクエスチョンマークが消えることは無かった。
「作戦?策?良く分からんが正面突破でいいじゃねぇか。どうせやることは殴るだけだろ?同じならわかりやすい方が面白ぇ。」
ラウラは空いた口が塞がらなかった。
「い、意味がわからない!?いや、意味は分かるけど……。そもそも君は身体がうごかないだろ?もしかして君は頭が回るのかと思ったけどやっぱり脳内ゴリラじゃないか!」
「あ゛ぁ?まあ、いい。身体のことについてはもう心配ねぇ。」
そして何事も無かったかのように立ち上がるフェリックス。やはりこの男の身体には何かあるようだ。
「さっさと行くぜ。遅れんなよ?」
ラウラは深いため息をついて後に続くのだった。
「お前、この後どうすんだよ。その服、それなりの名家だったんじゃねぇのか?」
「お前ではない、ラウラだ。」
追っ手から逃げ切った後、2人は焚き火を囲って野宿をしていた。
あの包囲網はフェリックスが言葉の通り、殴る蹴るをして一直線に突破できた。振り切ってしまえば案外呆気ないものだった。
「僕は元々厄介者みたいな扱いだったからね。僕の父がそこそこ名がある人でね。その父が不倫して出来た子が僕なんだよ。良い機会だ、これからは旅でもして自分の目で世界を見て回ろうと思うよ。そういう君はどうするんだい?」
フェリックスは話を聞いて少し気まずそうに答えた。
「俺は変わりねぇ。少し人探しをしててな。旅を続けるつもりだ。」
それを聞いてラウラの目が輝く。
「だったらさ、僕も連れてってくれよ!見た所君は旅に慣れているんだろう?」
ここぞとばかりにラウラはすがり付く。
「はぁ?なんで俺がてめぇみたいな野郎の子守りしなきゃなんねぇんだよ。俺になんの利益もねぇじゃねぇか!」
「あー、倒れた君を宿屋まで運ぶの大変だったなー。」
唐突にラウラがわざとらしく呟き。ちらりとフェリックスを見る
「あー、君の看病大変だったなー。体も拭いてあげたんだけどなー。」
「ぐっ……わーったよ!仕方ねー……。お前が1人でやっていけるくらいになるまでは面倒見てやるよ!」
「ありがとう!(やったね。ちょろ過ぎる。)」
ラウラはガッツポーズをしながら内心ほくそ笑み、
「ちょっとそこの水場で水浴びしてくるよ!」
と言って鼻歌を歌いながらその場を離れた。
「水浴びとか、つくづく女みてぇな奴だな。」
フェリックスはやってしまったと大いに後悔していた。
「しかし旅費が二人分となると手持ちじゃちょっと足りねぇな…。またあれやるしかねぇな。」
そう言いながらふと思い出す。
「そういやあいつ、身体拭くもん持ってったっけ?」
適当にカバンからタオルを取り出して水場へ向かう。
ラウラの服。高級な生地で仕立てあげられている。そうとうの名家だったのだろう。服があるという事は近くにいるはずだ。
フェリックスは辺りを見回して一つの影を見つける。
そこでおーいと声をかけようとしたが、そこにいるのは男ではなく女性のようにも見えた。
月光を反射して銀色に光る髪、白く透き通った肌が艶めかしく、色っぽい。よく見たら出る所は出てて明らかに女性のシルエットだった
しかし、白髪ということと身長からそれが1人の人物に結びつく。
「誰だ!!」
とラウラの声。
「お、おおおおま、お前おんなぁ!?」
あの脳筋フェリックスの口から出たとは思えない情けない声が夜空に響く。
「み、みみみ見るなあああぁッ!!!」
それからまたフェリックスの意識はブラックアウトしたのだった…。
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