第2章-4
俺達の学校『
南館玄関を発った俺達が目指すのは校庭。
何故なら事件は三件中一件が西館、残りは東館で起こっており、入り口とされる南館には一切、付喪神またはそれに類する気配を感じないからである。
「まぁ、これは単に被害者がここの生徒で、南館には特に用事が無くて近寄らないだけという可能性もあるんだけどね。どの道、気配を感じないのなら留まる必要も無いでしょう!」
「そうだな」
夜中の校舎と聞くと、全館真っ暗だとばかり思っていたのだがそんなことはなく、昇降口付近にはライトが照らされている。
恐らくは見回りの人が配置されていて、その人達が足場を踏み外さない為のものだろう。
「……見回り」
倉木が何かに引っかかるように呟く。
確かにおかしい。仮に見回りがいるのなら、夜中に事件が起きればすぐに気付くはずだ。それが仕事に含まれているのだろうし。
「この学校に見回りの人は居ない、と考えるか。それとも……」
「そうね。人外の業で“人間の感知できる範囲外”に被害者を連れ込んで、そこで犯行に及ぶか」
「どっちも可能性としてあり得るのが嫌なところだ」
今は機械警備が発達しているだろうから実際に人を配置しているところも少ない。数日に渡り、このような事件が発生しているのも、突きつめればそこにも起因しているだろう。
感知されなければ“起きていない”のと同じ。人には感じ取れても機械には難しい。そこを突いたのが今回の事件というわけだ。
「……待てよ。俺達は大丈夫なのか?」
少なくとも俺は、そんな感知やら何やらを考えて動いていない。言ってしまえば「全警報装置に引っ掛かりまくってる」状態だ。それでも今まで特に捕らえられたりしていないのだが、その辺は大丈夫なのだろうか。
こんな愚かで無策な俺の質問に、呆れ気味に答える倉木。
「そもそも、なんで本来“人間ではない”アタシが転校生として平然と入学出来てると思う?」
「あー……」
確かに。
前提としすぎていて考えもしなかったが、言われてみれば不自然極まりない。いくら私立学園とは言え、身元不明の人間をホイホイと受け入れるとは考えにくい。
「関係者でも居て、色々便宜を図ってくれてるのか?」
「そういうこと。事情を知る人が居て、その手のゴタゴタを請け負う代わりに色々ね」
何だか妙に納得してしまった。
こんな妙ちきりんな案件を請け負ってくれるところなど普通はない。俺がもし学園長であっても、倉木程素行の良い学生一人を預かるくらいわけないだろう。
「だから通報されることはないわ。安心して戦いなさい」
「いやぁ……別にそこを心配してるわけじゃ……まぁいいか」
なんにせよ、これで捕まることはない。そこだけ確認できれば十分だった。
右に左に、道を進んでいくうちに校庭への入り口が見えてきた。両開きのガラス製のドアの先に出れば校庭に到着となる。
はずだった。
「!! 神路くん、止まって!」
「!?」
唐突に言い放たれた言葉に、俺は反射的に足を止めた。これが「右に避けろ」やら「左に跳べ」だったら反応できていなかっただろう。
倉木が、右手に持った長槍で前方を薙ぎ払うと、その全面の空間が歪んだ。
いや違う。正確には歪んだのではない。
まるで大型の怪物に噛み砕かれたかのように、目の前の空間が折り畳まれて潰された。あのまま走り続けて意気揚々と校庭に飛び出ていたら、自分達もああなっていたに違いない。
『おや、ユーは……的を外しましたカ」
言葉と共に、背景から“滲み出るように”姿を現したのは、医者のような白衣を身に纏った細身の男性。細長い顔には些か合っていない丸眼鏡が特徴的だ。
彼の姿を見た倉木は、驚き半分、怒り半分といった具合に、
「アナタ……『サイエンス』のメンバー。気配の正体はアナタだったの。こんなところで何してたのかしら?」
「何って……『仕事』ですヨ。ユー達『センチネル』の仕事が見回り・偵察なら我々の仕事は研究・実験でス。何の不思議がありましょウ?」
まるで悪びれる様子など微塵もなく彼はそう主張した。その言い分には何となく納得させられる気もするのだが、それでも倉木は黙らない。
「こっちは“場所のこと”を聞いたの。ここは人界の、しかも
その通りだ。
目的はなんにせよ、彼は俺達の目の前で明らかに罠を張っていた。穏便に済ますつもりが無かったのは俺の目にも明らか。
「クックック……残念ながら、ユーの疑問にいちいち答えているほど暇ではなイ。ミーは
言い放つと同時に指を鳴らす。
すると彼の肩辺りに黒い渦が現れて、そこから獅子を思わせる頭が飛び出してくる。
「『
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