第8話 瑠璃色の瞳
翌朝は早くに目が覚めた。
今日こそは之頼様がお越しになられるはずだから、準備には抜かりない様に。
之頼様に会う目的は前回の飛鳥井様に憧れて恋い焦がれていた不純な動機ではなく、平成の世に戻るために手を携えるという目的がはっきりしている。
飛鳥井様との対面の時にはムーディーさも出そうと張り切っていたが、思い出したくない失態である。
しかし今回はあくまでビジネスだ。そのため準備も相手に失礼のない香りに服装を気をつける、そしてこちらが欲しい情報を引き出す。
平安の世に来て慣れてきていた頃だったので、キャリアウーマンをしばらく封印して忘れていた。今日こそ社会人10年目のお局様の交渉力を発揮する時だわ。
準備に余念がないようにおちよや女官へ自ら支持する。
まずは之頼様の基本情報の入手である。すぐに手配をさせて之頼様の伝え聞いている上での本人属性、家族構成、経歴、趣味、そして噂話に至るまで全ての事前情報をまとめさせる。
ビジネスでの基本はまず相手のことを知ることからだ。相手のことを知れば自ずと交渉の道筋はつけられる。相手の趣味をアイスブレイクに挙げて親近感を出すこともあるし、困っていることを交渉の材料に出してこちらに優位な情勢に引き込むこともできる。
次に取り組むのが会う時の場のチョイスだ。
ホテルのラウンジなどで話すとゆったりと豪華な気分でゆとりがある話ができる。密談であればオフィスの会議室やレストランの個室をチョイスする。
だが今回はこの別邸しか選択肢がないので、その中でいかに環境作りができるかにかかる。
環境づくりの基本は相手をリラックスさせて話しやすい雰囲気作りができるかだ。そのためには花を部屋の隅に飾って華やかな雰囲気を演出しましょう。香りも大らかな気分にしてくれる花の香りが良い。
「おちよ、大らかな香りのするお香を準備してください。」
「大らかとはどのような。」
はて、大らかが通じないか。リラックスできるという意味はもっと通じないだろう。ではどのように伝えるべきか。
「落ち着ける、居心地が良いと思えるような香りでいいわ。」
承知つかまつりましたと早速お香の選定を女官と話し合ってくれた。
お茶菓子は午前中の訪問であれば果実が良いが、午後であれば糖分を取りたいと思うので砂糖菓子を準備させる。お茶はお着きになられた時に出すこと、そしてこちらが指示したら替えのお茶を準備するよう最初に伝えておく。
それから筆記用具も準備する。
普通は高貴な方は自身で話をしながら書くということはしないかもしれないが、今回は重要な話や控えておかなければならない事柄が多く出ると予想されるので用意させておく。
「かなこさま、お召し物はいかがいたしますか。こちらの萩色のお着物など落ち着いて秋らしく宜しいかと存じます。」
差し出された萩色という着物を眺める。萩色と聞いただけでは色がすぐに分からなかったが、落ち着いたピンク、茶ピンクというような色合いで秋を感じつつも華やかさも保っている。
かなこも勝負時にはチークと口紅をピンクに統一して挑んだものだ、自身の勝負色に近い色合いで悪くない。さすがはおちよのチョイスである。
「それでいきましょう。」
すぐさま着物にもお香が薫きしめられる。
そして復習。以前呪術師から言われていたことをまとめた紙を引っ張り出してくる。
・薬種やの先代の話では、後の時代から来た者もいた
・ふらりと消えた者もいたし、留まった者もいた
・この御時世に送られてきた理由
・これからどうするか
之頼様はこの御時世にお留まりになられているのだから、少なくとも何か思うところがあっていらっしゃるはずだ。その内容も確認しなくては。
之頼様がもし元の時代に戻りたいのに戻る術が分からないという話なのであれば、それはそれで協力できる仲間が増えたことになるので喜ばしいことだ。
続いて裏工作にかかる。
之頼様との話し合いは長くかかると思われるので、その間に之頼様の下官の方々をもてなすように女官に指示する。もちろんもてなしつつ、之頼様にいつから遣えているのか、遣え始めた経緯、その頃に起こった不可思議な事件、之頼様が普段よく行かれる場所、おかしな点を聞き出させるのだ。
女官たちもおちよに仕込まれているだけあってかなり口八丁にヒアリング能力は長けている。そこらの殿方をころりとさせるだけの手腕も色気も持っている。この時代では特に女主人の相手は女官全員で引き留めるのである、チームプレイで全体として場を盛り上げて相手を落とすのだ。
駆け引きをする時には相手だけでなく相手の周りも手堅く固めなければどこかで綻びに引っかかってしまう。
そこへ之頼様の情報が届く。
之頼様の曽祖父は中納言の山名之正様、父は早くに他界してしまっているものの最終役職は参議で将来は中納言様になられると言われていた之清様、母君は源義秀様の娘、異母兄様は次期参議とも噂されている之尚様。
今は母方の源姓を名乗っているとのこと。
他にも妹が3人いるがまだ嫁いではいない。
之頼様はその恵まれた環境の中で育ち、大きな病にもかかったことはなく現在は18歳で宮中で書庫番を任せられている。
この時代に書物は貴重なものであり、歴史や過去の情報が詰まっているためその内容を大枠で把握して整理整頓を心がける。貴人が読む際にはすぐにご提示できるようにする。
殿上人が直接お越しになる場合もあり、対応が卒なくこなせる人材ということも配置の際には配慮される。そして盗難や火事などに合わないように常に警護を司る役割もある。
物知りで勤勉で、また周囲の信頼が厚い者でなければ務まらない役柄、それだけ将来有望視されている存在だということだ。
異母兄様に負けず注目株であることに違いない。
之頼様には許嫁がいたがこちらもご不幸なことに早くに亡くなり、次の嫁候補を選定中ということらしい。それも宮中において注目株であるからであろう。
健康状態はといえば、この時代に指定は痩せているので、この時代の基準にしてみれば不健康という部類に入る。
だがかなこからすれば他の人々が皆揃ってメタボなだけなのだから、之頼様くらいのスタイルが標準であるべきだ。顔は覚えておらず、あくまで曲水の宴で必死に歌を詠もうとしていた和紙を中心にした視界の片隅にあったシルエットしか記憶にはないのだが。
顔を良く見ておくべきだったと後悔しているが、若い姫方にとっては顔よりもお家柄とお役職の方が重要だろう。その両方を兼ね備えており、さらに書庫番ということで博識なのだから、基準が顔ではなく背景として、見目麗しい殿方と位置づけられているのであろう。
そういう背景を持っているから之頼様のご趣味はといえば、歴史とお歌を詠むことだそうだ。かなことは合わなさそうなご趣味。先日の曲水の宴前の壮絶な追い込み作業を思い出し辟易としてしまう。
あと甘味が好きという情報が付け加えられた。
あのスタイルにも関わらず甘味が好きとは、やはり太り体質のこの時代の者ではないのであろうと期待する。
準備も予習も滞りなく進んでいる。
あとは之頼様がお見えになるのを待つだけなのだが一向に来たという知らせが入らない。様子を見てきてと女官に伝えるがお見えになる雰囲気もなさそうということ。はてどうなっているのか。お歌も来ないし、あの歌を返して誘いに乗らない殿方などいないであろう。
昼になりおちよが柿を持ってきてくれた。とても甘い。まだ柿の時期には早いのではないかと尋ねると、奈良では山の標高に合わせて柿を作っているので、少し高い標高のところではこの時期でももう柿がなっているそうだ。
「少し小ぶりで堅いけど味は美味しいわ。もう少し熟せば更に甘味が増すでしょうね。」
柿のように私との関係が熟すのを待っておられるのでしょうか。
一句詠んでみる。
それを紙に書いて柿と一緒に届けようとしたところで遣いの者が之頼様がお越しになられるとのことですと連絡に来る。待ち過ぎて危うくこちらから熱烈な誘いの手紙を送ってしまうところだった。
「やっとだわ。さぁ皆さん粗相がないように万事よろしくお願いいたします。女官の皆さんは殿方のお付きの方々からうまく情報を引き出すのですよ。おちよは私の側にいて万事タイミングを見計らってお菓子やお茶の準備をお願い。之頼様がリラック…大らか…居心地がいいと思っていただいて、なるべく多くの情報をお出ししていただけるように努めてください。お願いいたします。」
一時ほどしてから之頼様がとうとうお越しになられた。
飛鳥井様がお越しになられた時には恋い焦がれていた方が近くに来るというので一歩一歩廊下を歩かれる足音もドキドキと心臓に響いて聞いたものだが、之頼様は細いだけあって軽やかに音せず廊下を摺り足で歩いてこられている様子。
今から何か歴史に刻まれる一大合戦が始まる前の様な関ヶ原の合戦前の夜明けを迎えているような空気だけが冴えきって静かに決戦の時を迎えようとしている。
かなこが平成の世に戻れるかどうかはこの殿方にかかっているのだ。
廊下を歩く音はほとんどしないまますっと静かに障子にシルエットが映った。やはり細身だ。
セントバーナードのような飛鳥井様の時の半分以下しか薄さがないシルエット。美しい。
「源之頼さまがお越しくだしゃりました。」
「どうぞお入りください。」
襖が開く。決戦幕開けの瞬間。
御簾越しで且つ扇子を目元まで上げているので見にくいが全神経を集中させて開いた襖の方へ注視する。
一歩右足が見えた。
そして左足と烏帽子の曲がった上の部分も顔をのぞかせる。
部屋の中に堂々と立たれたお姿は、美しい。
慎重が170㎝近くはありそうな、すらりとしたモデル体型で美しい。
ロミオとジュリエット平安絵巻版の飛鳥井様に近いお姿で、お顔も目鼻立ちがはっきりとしていて涼しい目元が何ともセクシーで美しい。
容姿は期待していなかったのに、その堂々たる佇まいに惚れ惚れとしてしまう。
決戦が幕開けと意気込んでいたが、これでは相手方の陣形が見事で見とれてしまっているだけではないか。
平成の世へ戻るための方法を聞き出すのだと意気込んだにも関わらず、このような見目麗しい殿方とあのような恋愛モードMAXなお歌をやり取りしていたのだと思うとにやけてくる。
平安時代の恋愛もこうこなくっちゃと一人でテンションが上がり、口元が緩んで仕方がない。お着物も生成色、今でいうオフホワイトで膨張色に見えたが、それが返って涼しい顔立ちを柔らかく魅せている。
「かなこさま、私にあのように美しいお歌をお送りいただき感謝いたします。やっとお会い出来ましたね。」
「私もお会いしたいと思っておりました。そして聞いてみたいことがたくさんあるのです。」
勝負は単刀直入に相手にぶつけてみるべし。
回りくどく言って駆け引きをしても相手に変に勘繰られてうまくいかないケースが多い、それならば単刀直入に相手の懐へ飛び込んでみる方が相手方もビジネスライクに話しをしやすくなる。その交渉ノウハウがこの時代にも通じるかはやってみないと分からないところだが。
「かなこさまから私のようなものにお聞きになりたいことなど何でごじゃりましょうか。何でも知っていることであればお応えさせていただきまする。」
御簾越しでも之頼様のイケメン度合いが伝ってくる。
しかも男らしく堂々とされており博識ときているのだから世の女性たちも注目であろう。
飛鳥井さまのようなもっさりでぶちょんが大多数を占めている中でこのように涼しく冷静でスタイル良い方は目立つに違いない。
「之頼さまのご出身はどちらでしょうか。この時代に来られて長いのでしょうか。」
なぜそのようなことを聞くのかと訝しんでいるのかもしれないが、顔には出さずに涼しい目元そのままに応えてくれる。
「京の出でござりますれば、父方も母方も昔より京の地に長く住んでおりまする。それより前はこの大和にも家はあったようでござりまするがそれは随分と昔のことにござりますれば。この時代と申しますとどういうことでござりましょうか。この御代で15より宮に仕えますれば今は書庫番としてお勤めいたしておりまする。」
なんとてっきりタイムスリップ組かと思い込んでいたが、違うかった。
いやいや、私がタイムスリップしていることを知らないのだから、ファーストコンタクトとしてはこの回答が妥当ではないか。ここから徐々にこちらの情報を出しつつ折り合いを見せるのが交渉事。
相手もこの平安時代に生きている姿はこの世をうまく渡るための仮の姿。周囲との調和をうまく図るためにその出自を完璧に把握しているのであれば手強い相手である。
相手もこちらを警戒しつつ情報を出し惜しみする可能性もある。初対面の最初の質疑応答ではっきりと私は平成の世からタイムスリップしてきましたという方がおかしいではないか。
じれる思いを抑えながら落ち着いて会話を続ける。
「タイムスリップして違う時代から来たのではないのですか。」
「はて。違う時代とな。これはかなこさまは想像力が豊かでごじゃりまするな。さすがは月から来られた姫君。お美しさだけではなく面白きことをお話しなされる力をお持ちとお見受けいたしました。あなたさまにお会いできた私は幸せ者でごじゃりまするな。」
月から来たとな、そのくらい離れている未来から来たと言う点ではあながち間違ってはいない。出鼻をくじかれてこの後にどのような話を進めれば良いものやら。
「かなこさまは先日の曲水の宴では八百万の神を自然を崇めた美しいお歌をご披露されましたな、私も感激いたしました。あのお歌の根底には豊かな想像力が隠されていたのでごじゃりまするな。」
こんなにも見目麗しい殿方に褒められてしまった。顔が真っ赤になるのが自分でも感じられた。
タイムスリップしてきたのではないと聞いてがっかりしたものの、こんなにも急激にテンションが上がるとは、之頼様ラブではないか。
気をとりなおして手元のメモを見る。それに書いているメモに従って取集できるだけの情報を集めなくては。
「あのようなお歌でお恥ずかしい限りです。ところで之頼様は博識と聞いておりますが、昔に後の時代から来た者がいるという話を聞いたことはありません。もしくはふらりと消えた者がいたとか。」
「またおかしなことをお聞きになられるのですね。ふふふ。」
ゆったりとした笑みをこぼし、おちよが出したお茶を一口優雅にすする。
「甘いものがお好きと伺いましたので、砂糖菓子を用意しております。どうぞお召し上がりくださいませ。」
「私の趣向をご存知とは、これは嬉しいことでございまする。」
これまた優雅に砂糖菓子を手に取り口へ運ぶ。
少なくとも大らかにリラックスしてくれている様子、このまま頑張って情報を引き出さなくては。
「私は博識ではござりませぬが、宮中の書物を司っておりまする。その書物の中には神隠しのような話はよくございまするし、後の時代から来たと言う偽りを申す者が捕らえられたと言う話もございました。すべては作り話、この世は儚いところでございますので、皆少しでも楽しく周りをしようと努めているのでございまする。それを物語として後世に残していきたいという想いで描かれている書物は幾つかござります。」
ぼやっとしている話ではあるが、そのような発想をしているということは未来から来ている人なのかもしれない。糸口が見つかりそうだ。
「そのような話をされている方をご存知ないでしょうか。お話を伺いたいのです。」
「否、そのような書物は随分と昔に書かれたものか唐から渡ってきた貴重な書物にございますれば、残念ながらお話を聞きに行けるような方はおりませぬ。」
がっくりとしてしまう。
糸口が見えたかと思えばいつもその糸は欲している先につながっていない。途中で切れてしまう儚い糸。
だがこの切れている糸でも縒って行けばいつかは何かの役に立っていくのかもしれない。そうは思えどいつになったらその糸はものになるのかとやはり不安になってしまう。
「そのようながっかりされて、何かお困りごとでもございまするのか。昔の話をよく知っている方といえば東大寺や秋篠の寺の住職かと。もしくは奈良の鹿の長にごじゃりまするな、ほっほっほっ。」
鹿の長と話をする光景を思い浮かべているのか、之頼様は軽快に素敵に笑っている。笑う姿も本当に様になっていて素敵だ。
思わず見とれているかなこが呆れているととってしまったのか之頼様は急いで補足をする。
「冗談にございまする。奈良の鹿は神の遣い、1000年も生きているものも居るという話であったり、神そのものの権現という者までおり噂はつきませぬ。鹿の角は切り落として煎じると長寿の薬になるそうで、角だけでそのような効き目があるのですから、鹿の長ともなれば長寿なのも納得できましょう。ほっほっほっ。」
「鹿の長、鹿の長、鹿の…。」
かなこは小さく繰り返し呟いて考えている。何か思い出しそうだ。
そうだ、かなこが日射病で倒れた時に目があった雄鹿がいた。あの雄鹿はかなこに確かに何かを語りかけてきていた。あの鹿がやはりキーになるに違いない。
「その鹿の長を之頼様はご覧になられたことがあるのですか。」
「いや、残念ながら見たことはないですよ。おそらくただの言い伝えでございましょう。書物にも色々に言い伝えられておりまする。そのような鹿がおりましたら私も会ってみたいものです。」
あの雄鹿を探すしかない。次の糸を掴んだ気がした。
「かなこさまは鹿の長にご興味がおありとは、おもしろしお方にござりますな。ほっほっほっ。わたくしはもう都へ戻らねばなりませぬ。かなこさまともっとご一緒に過ごしたかった。かなこさまも都へお戻りになられた折にはお知らせくださりませ。なんぞをかしきことでもしましょうぞ。ほっほっほっ。」
之頼様はお大らかで余裕のある笑い声を残して座を辞した。
「ほっほっほっ。」
かなこもゆったりとした笑い声をあげつつ、頭の中では次の方向性を見定めるべく計算を回した。
雄鹿を探すにしてもちょっとした人探しとは訳が違う。
「尋ね鹿」という看板を掲げたところで知っている鹿が連絡をくれる訳でもなく、雄で立派な角を持っていて平成の世まで生き続ける鹿をご存知ないですかと鹿に聞いても雄の全鹿が私だと言い張るであろう。言葉が話せればの話ではあるが。
まずは鹿に詳しい者に通訳を頼むしかない。
「おちよ、鹿に詳しい者はこの近くにおりますか。」
「おりませぬ。神の領域に入るなど、神職くらいでござりまするが、さすがに山奥に何千頭とおわす鹿神さまの全てを把握はされておりますまい。それよりも鹿探しなどおやめくだしゃりませ。」
おちよは何やら不機嫌である。
平安の呪いに取りつかれた後は、殿方にのぼせ上がり、かと思えば鹿探しをはじめるなど、次から次へとパパへ報告できない事柄が増えていくからであろう。
おちよの心配は最もなれど、かなこにとっては早く平成の世に戻って仕事に戻らねば多大なる損失になる。次から次へとと思われてもかなこにとっては平成の世に戻るという目標に向かっての動作で一貫している。
少しは慣れたといえど、トイレは不便だし、動くのも不便で足が痺れてくるし、たっぷりお湯を沸かしたお風呂にも入れない。
それにそろそろ高カロリー食が食べたい。こうも低カロリー、塩辛い味付け、自然のままの素材を生かした料理ばかりでは辛い。
平成のダイエットガールズもこのような基本に戻った食事を頂くのが良いのではないだろうか。
古来から日本にある四季の食材だけを素朴に感謝しながら少しだけいただく。お肌の調子は確かに良いし体には合う気がする。
とはいえ平成の世に戻ったら、ステーキ、たっぷりのミルクと砂糖を入れたコーヒー、チョコレート菓子をまずは食せねばならぬ。我慢は万病の元なのだから。
「おちよ、聞いて。私はあの倒れた日に明日よりももっと先の日々へ行かねばならぬと神のお告げを聞いたのです。そこへ行くために呪術師へも行き、そのお告げに従って一つずつ先の日々へ行くための方法を知るために動いているの。だから鹿探しも手伝ってくれませんか。」
おちよも察しが良く頭がいいので分かってくれるはずだと信じ、意を決しておちよへ告げる。多少話を分かりやすくするために作り変えているが、言いたいことは伝わるはずだ。
「お小さい頃から珠のようにお美しく聡明なかなこさまはこの世のものではないのではと薄々気づいていた気もします。いつかは誰かに攫われるのではないかと気が気でござりませんでした。」
最後の方は聞こえずすすり泣く声が着物の袖の奥から聞こえてくる。
「ご自身で神のもとへ向かわれる定めなのですね。ほんに悲しいこと。されど、神に選ばれた御方にお仕えできおちよは光栄にごじゃりまする。かなこさまにどこまでもお従い申し上げます。」
最後は袖から顔を上げ、涙でぐちゃぐちゃになった顔を床に伏せ、丁寧なお辞儀をしてくれる。いつも泣いた後はケロりとしているので嘘泣きだと思っていたが、今回は伏せた畳の上にポツポツと水滴が染み込んでいるのを見ると、本当に嬉し哀しい気持ちなのだと伝わる。こんなにもかなこのことを思ってくれていたとは嬉しい限りだ。
「おちよ、迷惑をかけますが、感謝していますよ。」
おちよの中ではどうやら月から降ったかぐや姫のような存在に思っているのかもしれない。
竹取の翁が光る竹の中から珠のように光る姫君を見つけた話で有名な竹取物語ではあるが、どうやらこの時代にはまだ浸透していないようだ。
叔母上と話をした時に、共通の話題がないものか頭の古典の知識をフル動員させて出してきたものが竹取物語であったのだが、はてそのような話は聞いたことがないからおもしろしと言われたのだ。
結果的には話に華が咲いて良かったのだが、竹取物語は一体いつ頃から語り継がれるようになったのであろうか。
平安時代で女流文学といえば清少納言の「枕草子」や紫式部の「源氏物語」が思い出されるが、今いる月日より前なのか後なのかが判断つかず、絞り出した竹取物語だった。もっと古典を勉強しておくべきだった。
高校時代の古典教師の中西女史はいつも「てん・てけ・てけん・てけり・てけれ」と五段活用を早口言葉かのように唱え続けているような教師であった。その得意げな顔ばかりが思い出され、肝心の物語の記憶が五段活用の山に埋もれてしまっている。
もう一度古典文学を学び直してみたい。
中高での無駄に思えた古典学習が人生で唯一生かされようとしているこの場において、出てこないとは何と悲しいことであろうか。
中西女史は他に何を言っていたであろうか「にん・にき・にたり・にけり・にけむ」やはり思いつくのは早口言葉だけだとがっかりする。
さて鹿探しの段になり、どこからどのように始めて良いものか悩むが、まずは鹿は神の遣いなのであるから、神職に話を聞きに行くのが筋なのではないかと思い当たり、常のお忍びのごとく変装をして下女風に仕立ててみる。
春日大社が鹿を神と崇めている総本山。
「わらわが春日さんにお遣いしているあろうかむらみにござります。」
消え入りそうな小さな声で、小柄な神職は自己紹介をした。
「あ、ろうか、むらかみ。」
「おちよ、違いますよ。あろう、むらみんさんですよ。」
おほんと神職は一つ咳をしてから、今度は少しはっきりとした声で言いなおす。
「あろうかむらみ にござります。」
「ああ、ろうかむらみさんですね、失礼いたしました。」
「あ、ろ、う、か、む、ら、み。」
大きな声が出るのであれば、最初からはっきりと言えば良いではないか。
「神職のカムさんで呼ばせていただきます。で、本日はこちらの姫君が折り入ってお話したきことがありまして、来させていただきました。」
さすがはおちよである、正しく名前を聞き取るまでに時間を要してしまうので、さっさと切って本題に移った。
「身を偽ってそのような衣でこられるとは、ただ御寄進に来られたわけやなさそうですな。ここは閉ざされた座敷、周りは竹林しかござりませんので、話が漏れてしまう恐れはありません。どうぞ安心してお話くださりませ。」
すでに変装がバレていたようだが、かえって訳ありに見えたのであれば、話は早い。
「実は神のお告げで1000年生きると言う立派な雄鹿を探しております。仔細は申すことができないのですが、私の生命に関わることで雄鹿を何としても探し出さなくてはならないのです。」
「あぁおいたわしや、かなこさま。」
いつもの嘘泣きで隣のおちよが応戦してくれるのが有難い。
「神のお告げと申されましたが、また難儀なお告げを授かったものですな。まさか1000年生きると言う雄鹿の角を煎じて不老長寿を手に入れようと言う魂胆ではございまりますまいな。」
過去に何か痛い目にあったのであろうか、かなり用心深く探りを入れてくる。どこまで話をして良いものか、どこまで信じてもらえるものか考えあぐねる。
「そのようなことは毛頭ござりませぬ。私はもっと先の日々へ行かねばならないのですが、その術を知っているのが雄鹿なのです。」
先日おちよに話した内容をかいつまんで説明する。その間、カムさんは目を軽く瞑りながら静かに話を聞いてくれていた。かなこが話し終わってからも、じっくりと熟考し、無音の空間を過ごす。
数分にも数十分にも感じられる無音の時空を超えて、カムさんはゆっくりと目を開けた。
「さようですか。神さまはあなたさまに何を求めれおられるのでしょうな。神のみぞ知ることではございますが、神さまが選ばれたのであれば、神職の私がお手伝いしない訳にはいきまへんな。」
かなことおちよ、二人して丁寧にお辞儀をし謝意を表す。
「この大和の地にいる鹿神さんはは3000とも5000ともおられると言われてます。その中で1000年も生きているものはいないでしょうが、数十年の長寿な鹿はほんのわずかでしょう。」
「そんなにたくさん。」
と言ったきり絶句してしまった。
5000の中から1頭を探すだけでも気が遠くなりそうなのに、フィールドはこの大和の山々すべて、しかも相手は自由自在に野山を駆け巡りひとところに留まってはくれない。
大和の山々の地図を1平方に区切って、その中を探しまわるだけでも1か月はかかってしまう。それの何倍の広さなのか。ましてや鹿にマーキングをしても、5000の数に当たるには何年経っても無理であろう。
「鹿が集まるところはないのでしょうか。」
おちよ、ナイスクエスチョン。
「集まるところと申しましてもなぁ。まず1頭の強い雄鹿に数十の雌鹿が群れをなすものです。雌鹿を探すのであれば、群れているところを探せば良いが、雄鹿は群れの長でなければ自由に動き回っている。長寿の鹿であれば既に群れの長を退いているであろうし。水飲み場であれば来るかもしれぬが、川は幾つかあるし川上から川下まで全てをたどるのは不可能であろう。」
水場を抑えるというのは一理ある。
ただ、川が流れているところでも人が見張っていると鹿も寄ってこないであろう。
「あとは鹿に寄り添って生きている鹿族もおるが、身分が異なる故なぁ。」
身分が異なるとはどういうことであろうか。小さい声で隣のおちよの耳に囁く。
おちよが囁き返すには、平安の世では穢多非人という人として見做されない身分の人々がいるとのこと。人であって人ではない。死んだ獣の毛皮や骨を扱うことを生業としてる。そのような人々にとって鹿は神ではなく獣のひとつ。獣の動向を学び、獣の体を確認して病に冒されているのであれば治療するし、治る見込みがないと判断した時には速やかに処理をするらしい。そのため定期的に鹿を集めて鹿の状態を見ているとのこと。
「神のお告げに身分なんて関係ありません。鹿に精通されている方に会いたいです。どこにいらっしゃるのですか。」
「鹿族の者たちは山里離れたところにひっそりと生きている。革を売り歩くのでさえ隠れるように特定の者たちとしか接触しない。接触する者でも商売だから誰からどのように入手しているなどは一切他言しない。そういう慣わしなのだ。そなたが会いに行ったところで、鹿族の者も会いはしないであろう。」
そういえば小中学校の道徳の時間で部落の話があったが、この時代からすでに部落の考え方があったのだと知りがっくりとくる。根深さは日本の歴史の長さなのだ。
道徳の時間に学んだところでは、平成の世で住んでいる地域などで差別されるという話を聞いて実感が沸かなかった。そもそもどの地域がどういう歴史を辿ってきているかは分からないし、すでに多くの人々が好きに地を移っているのであるからもはや本籍地のような考え方が時代にそぐわないと考えていた。
だがこの時代では身分の差は人の定義までもを覆してしまう意味を持っているのだ。この時代から脈々と受け継がれ、次の世代の人々、鹿族の人々もその環境を当たり前だと受け入れてそのように過ごしていく、どんどんと格差が生まれて意識が根付いてしまう。
会うことができないと言われても、こちらから偶然を装って会って聞くことができるのではないだろうか。その人々であれば鹿に寄り添って生きているのだから鹿の長にも会ったことがあるだろうし、会う術を知っているのではないだろうか。
「そなた、神のお告げで他に何か気づいたところはないのか。神のお告げであれば、いつか向こうから呼びかけてくるやもしれぬのではないか。」
ぽつりとカムさんが呟いた。
「他に気づいたこと。雄鹿は東大寺二月堂近くの池のほとりで私をじっと見つめ、私を知っているかのように、私をじっと見つめ、そしてキュイーと鳴いたのです。ただそれだけのことでした。」
「東大寺二月堂近辺には確かによく鹿は集まられます。鹿は普段はあまり鳴かないものです、よほどあなたさまを見染められたのでしょう。」
やはり東大寺近辺には多くの鹿が常日頃からテリトリーとしているのだ。
「そうでしたか。その後に気づかれた時にはもう先の先の世からここにお越しになられたのですね。」
「そうです。鹿の瞳をじっと見つめていると、瑠璃色の玉に吸い込まれるような感覚でした。」
ため息とともに明らさまに落ち込んでしまう。いつもヒントを得られるのではと期待しては掴みかけたものが空気のように逃げて行ってしまうのだ。
カムさんはかなこのため息混じりに話した内容をじっくりと考えている様子で、腕を組みながらおもむろにに立ち上がり、「しばしお待ちくだされ。」と言って部屋を出て行き、どこかへ消えてしまった。
「かなこさま、やはり鹿族のところへ次は行かれるのでしょうか。」
おちよが心配顔で尋ねてくる。
「もちろん、もしかしたら何か掴めるかもしれないじゃない。鹿族の場所を知っているかしら。」
おちよはぶんぶんと勢いよく顔を横に振る。
「かなこさま、そんな鹿族は身分が違いすぎます。野蛮な者たちと聞きおよびまする。危のうごじゃりまする。かなこさまが会いに行って、手篭めにでもされたらどうされるのですか、まずは右大臣さまにご相談をされるべきではごじゃりませんでしょうか。」
鼻息荒くおちよが止めてくる。
「お父様に相談をしても止められるだけだし、そもそも何故探しているのかを聞かれて答えても信じてもらえないと思うわ。私たちだけで行きましょう。」
「それはなりませぬ。断じておちよはかなこさまを鹿族に会わせるために行かせられませぬ。」
睨み合いがしばらく続いたところで、カムさんが巻物を抱えて戻ってきた。
「お待たせいたしました。こちらをご覧くださりませ。」
それは見事に細かい字で律儀な楷書で書かれた漢字がが並んでいる。以前お詠の練習をした際に見た文字とも少し異なるが、読める漢字だけをピックアップしてみると、少しだけだが理解はできそうだ。
「玉瑠璃之吉兆。これは瑠璃色の玉は幸運の兆しだということでしょうか。」
読めた文字だけを並べてみて聞いてみる。
「そうでございまする。ですが、こちらは長いお話のほんの一部となっております。少しお時間がかかりますが、この物語をお話ししても宜しいでしょうか。」
もちろんだというかなこにカムさんは語り出した。
昔々、大和の国がまだ神々の国であった頃に、慈乃尊という装飾を司る男神さまが人間の巫女に恋をしてしまったのです。
男神さまは神であるのだから巫女は自分のものだ、自分だけに尽くすようにと迫りました。しかし巫女は男神さまもお慕いしているが、八百万の神々全柱に誠を尽くすことが仕事であり、すべての神々をお慕いしていると答えました。慈乃尊は巫女の応えに感服し温かく見守ることにしたのです。
しかし巫女はあろうことか百姓の男性と恋仲になってしまったのです。きっかけは小さなことで巫女が街へ花を求めに出た時に、頭に被っていた羽衣が風に吹かれ、それを拾ったのが百姓であっただけのこと。
そのような些細なことがきっかけであっても若い男女においては致し方のないこと。巫女は神々に仕える神聖な身であるため男女の関係になることはできず、悩んだ末に神殿を辞去することにしたのです。
それを聞いた慈乃尊は人の子にも自分は劣るのかと、それはそれは荒れ狂われ、世の中にある装飾のすべてから輝きが消え、すべての装飾から漆黒の闇のように色をなくしてしまったのです。
他の神々が司る至宝からも、神々への神事に用いる神具からも、装飾に用いられている宝石はすべて石も同然となりました。しかしその荒れ狂った状況は悲しいことに巫女をやめた女人には伝わりませんでした。
女人は神具を持っていた右手に鍬を、美しい絹の羽衣を持っていた左手に木綿の手ぬぐいを持ち、百姓とともに田舎で田畑を耕すことを生業としており、装飾というような雅なものからは疎遠の生活を送っていたからです。
慈乃尊の荒ぶりを目にし、哀れに思われた鹿神さまは女人の元へ向かい、慈乃尊の無念さ、世の装飾から輝きが消えて神々が困っていることなどを告げました。女人は恐れ多いことだと思いつつも、既に巫女を辞めた身であり今の生活を続けていきたい旨を切実に訴えます。
「世には装飾では司れない誠の宝があります。表面上の飾りに惑わされず、そのもの自体の奥深さや真心が大切だと考えます。あなたさまの瑠璃色に輝く瞳は深い愛情に満ちております。その輝きが残っているのですから世の装飾から輝きが消えようとも大丈夫。その瞳の色に私の真心を乗せて慈乃尊へお届けいただけませんでしょうか。」
女人は唯一の宝である石を出して心を込めて磨きだしました。
昔幼い頃に河原で拾った美しく黒く丸い石。何の変哲もない石ではあるが、辛い時、悲しい時、嬉しい時、女人はいつもこの石に話しかけ、綺麗に磨き続けてきました。
瑠璃色に光を放った玉は鹿神の瞳と同じくらい輝きだし、慎み深く、そして慈愛に満ちた輝きを持ちました。鹿神の首にその瑠璃色の玉をかけながら言います。
「慈乃尊へこの瑠璃色の玉をお渡しください。八百万の神々のおかげで今日も私めは生きておりまする。全ての神々をお慕いし、感謝の意を掲げております。私めはこの地で田を耕し、人の子を増やし、豊かな国作りを行います。この瑠璃の玉に慈愛を込めました、世の装飾の光がなくとも、この玉は輝き続けるでしょう。あなたさまが真に輝きを保つべきはこのような小さきもの一つ一つのはず。私はその輝きが増すのを持ってあなたさまへの尊敬の意を強くすることでしょう。」
慈乃尊は鹿神からのそのことを聞き、なんと自分は小さきものだと悔い、この瑠璃色の玉のような小さきものでも真に心を込めれば輝きを持つものかと感嘆した。
それ以来、慈乃尊は名前の通り慈愛の心を持ち、万民に対して心を込めて接するようになったのである。そして、慈乃尊はこのことを忘れないように、自ら片方の目を取り出し瑠璃色の玉をはめ込み、世を真の心で見ることを誓ったのです。そして間を取り持ってくれた鹿神を敬い、師とし、共に世の人々の心をつなぐ役を担ったのだそうです。
瑠璃色の玉は吉兆を運ぶ印であるから、真の心で触れて大切に敬うべし。
かなこはじっくりと長い物語を聞いていた。
「その慈乃尊は今はどちらにいるのでしょうか。どこかの寺社で祀られているのでしょうか。」
「さぁ、そのようなことは聞きませぬ。これは神々の記録ですので、慈乃尊がその後どこにおわされるのかは知りませぬ。しかしこのお話を思い出したのは、あなたさまが雄鹿の瑠璃色の瞳に吸い込まれたと言う話をなされたからでござります。」
確かに瑠璃色の瞳、瑠璃色の玉、この物語に出てくる瑠璃色の玉も鹿の存在もかなこの現在持っている情報に似ている可能性がある。しかし、似ているというだけで、確固たる共通点までは見出せなかった。
「数多いる鹿神にはその昔からずっと生きているものもおりまする。世の中をずっと見つめてきて、慈乃尊はもしかしたらそのまま鹿神になられたやもしれませぬ。目は見えなくなっても瑠璃色の瞳で世の憂いを透かし見ることができるとも云われておりまする。そのような鹿神であれば、何かを思いあなたさまに訴えかけてきたとしてもおかしくはありますまい。」
瑠璃色の瞳を持つ鹿神さま。
もしかしたら慈乃尊に繋がっているかもしれない。きっとその鹿神さまを見つければ何かが分かる。そう確信したかなこは何としてでも鹿族に会って鹿神を探し出す術を見出さなくてはと決意を固くする。
その決意を顔から読み取ったおちよは顔を青くし、ヘナヘナと右大臣への言い訳をつぶやいているのである。
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