戦場の親子

馬脚ばきゃく見咎みとがめられては仕様がない。


そもそも、こんな出来の悪い方策で、彼女の眼を誤魔化そうと思ったのが間違いか。


己の浅慮せんりょを恥じ入った史は、潜伏を諦め、きっぱりと身をさらした。


そうして、渾身こんしんの力で金棒を振り抜いた。


打撃をこうむった一矢いっしは、矢羽の辺りから白い火花を飛ばしつつ、横合いへクルクルと錐揉きりもみ。


そのやじり側壁そくへきに及んだ途端、あらん限りの暴威を放ち、当店に隣接する荒物屋を、丸ごと吹き飛ばした。


「………………」


当てつけのような爆風が、うるみのある黒髪をあおる間に、舌打ちを連発した穂葉は、速やかに二の矢を整えた。


力任せに弦を引き、気合いを掛けて猛射する。


ただちに金棒がにぶい音を鳴らし、またぞろ店内で澄明ちょうめいな火花が咲いた。


先と同じく、当の一矢はこうそうさぬまま、すなわち徒矢あだやとなって、ひょろひょろとくういた。


これが雑然とするタイル床へ落下した瞬間、炸薬のように火炎を噴いた。


真上に突き上げた衝撃が、乾物店の二階部分を大いにおどし、建物の上下かみしもが泣き別れを見るという惨事となった。


浮き上がった大屋根は、本来なら届くべくもないアーケードの鋼材に到り、大層な轟音を響かせて崩れ落ちた。


「野郎ッ!」


頭上に気をつかいつつ、次の矢を早急に用立てた穂葉は、白煙の向こうから打って出た史の姿を認め、目元をヒクリと攣縮れんしゅくさせた。


いい度胸だが、愚か者だ。


自分の方から身をさらしたばかりか、狙いをつけ易いよう接近してくれた。


これではいいまとだろうと断じつつ、指先に霊威を集め、即座に矢を放つ。


一射目は、彼の頭骨をぐるりと迂回し、荒物屋の残骸に埋没。


つづく矢は、その肩口を深々と貫いた直後、出し抜けに爆炎を焚いて、彼の身柄を数間すうけんにわたり、つぶてのように払い飛ばした。

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