鬼さんこちら


鳥居前町にあたる春見の中心部は、余所よそと比べても景気が良い。


参道には老舗しにせの和菓子屋があって、専門食材を扱う小綺麗な料理店が、清新な暖簾のれんかかげている。


大社の近くに設けられたアーケード街は、本日もシャッター閉戸へいことは無縁の店舗が連なっており、寂れた印象がまるで無い。


そんな商店街も、今日に限っては人通りが絶えており、いつもの活気がまったく無い。


その代わりに、刃金を執拗に鳴らす噪音そうおんが、ざっくばらんにこだましていた。



「く……!!」


これは、人足ひとあしを遠ざける呪法など働いているのかと勘ぐった史は、頭上から弾雨のように押し寄せるやじりを認め、立ち所に顔色を悪くした。


間髪をれず、金棒を引きずるようにして横合いへ跳ぶ。


小さな乾物店のガラス戸を突き破り、屋内へ転がり込む。


途端に、元の立ち位置がおびただしい鏃の猛襲を受け、粉微塵に打ち砕けた。


尚も衝撃はとどまることを知らず、放射状に発振した鮮烈な熱風が、東西に伸びるタイル床を波打たせ、アーケードにまつわる屋根をめくり上げた。


「逃げんな!!!」


「バカかお前!?」


親の顔を見てみたい。


そういった愚にもつかない思慮を、史が渾渾こんこんと覚えた矢先、穂葉は烈火の勢いで店内へ踏み込んだ。



スペースの限られた商店街の一角。 そういった立地に看板を挙げる当の店舗は、面積的に言えば大した規模ではない。


間口まぐちから数歩で及ぶ場所に、商品の陳列棚。


その奥部には、軽度の加工所を備えているようで、普段から暖簾のれんで間仕切りされていた。


「………………」


しかし、どうにも敵の姿が見当たらない。


早々に裏口から逃げ出したか、あるいは土中にでももぐったか。


綿密ににらみを利かせた穂葉は、ふと思い立って嗅覚を利用した。


スンスンと鼻を鳴らし、実父の気配を入念に探る。


「見っけたぁ!!」


「くっそ……!!」


果たして、居所はすぐに知れた。


不格好にも、レジカウンターの陰にひそんでいたらしい。


まったく情けないなと、一入ひとしおの感懐に奥歯をきしませた穂葉は、足を一歩退けた。


そうして、店内ではどうしても嵩張かさばる和弓の取り回しに、闊達かったつな威勢を与えるや、迅速に一矢を整え、これをち込んだ。

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