第3話共通点

はじけ飛んだ砕片さいへんが、チクチクと頬を襲った。


これがはからずも気付けの役割をになったようで、私の峻烈な底意地も、火が萎えるように消沈した。


「ごめんなさい。 ついカッカした」


「気にすんな。 仕様がねぇさ」


「優しい……。 存外、話の分かるヒトですね?」


「でしょ? よく言われる」


「友達、いるんです?」


「いないよ?」


ともかく先方に頭を下げて、嵩張かさばる得物を短寸に縮め、きちんとふところに仕舞う。


まだ軸のほうに熱が残っていたようで、お腹の辺りがホカホカした。


「かの燐火りんかもってしてもけぬとは、なかなかの逸品よな」と、その様子を見ていた先方が、目を丸くして言った。


「こういうのも持ち主に似るんですかね? 頑丈なだけが取り得っていう」


「なるほど」


「納得した……。 納得しないでよ」


眉をひそめて不平を鳴らし、手近てぢかの残骸を脇へ退かす。


探し物は見当たらない。


めげずに別のあくたへ手を伸ばしたところ、彼は改めてこういた。


「そんで、なにを探してんのさ? 大切なものかい?」


「ん。 友達の、大切なもの」


「友達ってお前、あの狐娘のこと言ってんのか?」


「……悪い?」


「本気で手前てめえをぶっ殺そうとする奴のこと、友達とは言わんだろ?」


情理のない言いように、またぞろ悪癖あくへきが覗きそうになった。


しかし、“彼はこういうヒトなのだ”と自分に言い聞かせ、どうにか熱火あつびを抑え込む。


そうする私に、彼は遠慮なく語を次いだ。


刃物ヤッパだろ? あの小娘が後生ごしょう大事に持ってる。 たしか、母親からもらった物だっけ?」


「あなた、また……」


のぞき趣味に軽蔑けいべつをくれる心持ちで、目にかどを立てて相手を見る。


しかし彼はちっとも物恥じのない表情で、「読んでねぇよ? 心」と唱えた。


続けざまに胸を張り、こんな事をのたまう。


「私ぁお前さんのあねさまだぞ? 愛しい妹の心中がわからいでか」


「恥ずかしい……。 よくそんなこと言えますね?」


「なにが恥ずかしいのさ?」


「だって……」


「いいかね? 血縁っていうのは───」


ベラベラと御託を並べる先方の様子を、片手間に観察する。


散々にも“彼”と表したが、それが本当に正しいのかは知れない。


身には上等の着物。 暑がりなのか何なのか知らないが、これを片肌脱ぎにあしらっている。


胴には晒布さらしかたくなに巻いているが、それなりに胸があることは一目で分かる。


もろそうな鎖骨から細い首筋にかけて、順繰じゅんぐりに視線を上げてゆくと、やがて初花ういばなのような容貌に辿たどりつく。


私とて、己の見目みめに取り立てて不満があるわけでは無いが、鏡を覗いたところで、これほどの華を拝むことはかなわない。


しかしながら、共通点はある。


鼻の形や目尻の加減などでは無く、面皮めんぴの下地に塗り込まれた、熾烈しれつな鬼気のほうである。


これが唯一、彼女が私の肉親であることを示すと同時に、性別の方をひどくあやふやなものにかすませていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る