神祇

高石童話本舗

第1話ちはやぶる

恋しくば 尋ねきてみようつつなる 高日国たかひのくにのうらみ髻華巫女うずみこ



私とて一応は女のはしくれながら、女性にょしょう三業さんごうとはまったく空恐ろしいものだなと、都度つどごとに考えることがよくある。


例えば和歌山県は道成寺どうじょうじ、恨みにたのんで蛇体と化した清姫の縁起。


例えば国産みの段において、己の愛妻を損じた我が子に対し、イザナギが迷わず振るった狂気の沙汰。


ある時代・ある時世を見れば、己の寵姫ちょうきうつつを抜かした権力者が、国の屋台骨をしばしばかしがせている。


もちろん、世の中には因果というものがある。


すなわち直接的に原因を振るう女性がいて、間接的に条件をこなす男性がいなければ、これらの事態は起こり得なかった。


そこでふと一考し、はばかりながら愚案に落つ。


右手に緋々色を含んだ筆先。 左手に釣り鐘饅頭を構える我が身をかえりみて、“あぁ、やはり女は怖い”と、恥ずかしながら物思う次第である。


おりしも初夏の風が吹き、カーテンが揺れた。


ちょうど我が家の軒先のきさきを、高校生くらいのカップルがむつまじく歩んでいる。


当の二名が、前途に如何いかなる物語をつづってゆくのかは知れない。


それは大凡おおよそ余人の立ち入るところではなく、安易に触れていい物語ではないのだろうとも思う。


ゆえに、二名の行く末をわざわざしゅくするような老婆心は湧かず、“いまをどうか幸せに”と、ひとえにしなやかな感懐かんかいが湧いた。


しばらくして視線を机上に戻し、筆先になけなしの丹誠を込める。


私は私で、せっせと繁文縟礼はんぶんじょくれいの史話をしたためなければならない。


恋に身を打った清姫の、退きならぬ春怨しゅんえんが薫るおいしい饅頭で脳内をうるおわし、事が順調に運べるよう余念を尽くす。


時節はたしか、高校三年の冬休みが明けて間もない頃だったと思う。


その頃のほのっちは、私が知る限りで、もっとも心身を荒げていたように記憶している。


行く手を塞ぐ者は、押しべて粉砕すべし。


これを心強く感じるべきか、あるいは恐れおののくべきか、赤心せきしんを明言するのは実に難しい。

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