選んだ道

 早朝のとある研究室。

 そこにもみじは首輪をつけて拘束されていた。

「……薬による影響はなしな上に戦いの結末として、番狂わせもなしか」

 やれやれとつまさらなそうにもみじにつけた首輪を外すのは伊吹だ。

「満足? 帰らせてもらうし」

 不機嫌を隠すことなく、扉を蹴り上げて研究室を出ていく。

 何か伊吹がいいきかけるがそれも無視する。

――結局何も変わっちゃいない。

 経験は積んだ。あの死闘を生き抜いた。ただ、それだけだ。

 今のままでは変わらない。だがそれでも誰かとつるむことはない。

 脳裏には思いの力を以て伊庭を討った、男の姿だ。

――強い思いは私にだってある筈なのに。

 その力を、いずれ自分も、と決めて戦いの日々へと戻っていった。




 午後四時、ホームルームを終えて護は安賀靖音と共に学校の屋上へ。

「お仕事、お疲れ様。護」

「ああ、ありがとう」

 あの戦いから三日、平穏を取り戻していた。

 監査としての仕事の出来に関しては問題視されたが伊庭を倒した功績でお咎めなしという形だ。

 しばらく静かになれば。何も考えずに護は靖音を抱きしめた。

「ちょっ……護?」

 靖音が戸惑うが躊躇わず抱きしめ続ける。

 体温が良く伝わる。

 ――なるほど、気持ちを伝えるということはこういうことか。

 納得していると靖音は無言で腕の中を抜けて屋上から出ていき校舎内へ。

 追うべきか。追わざるべきか。

 とりあえずは頼れる仲間に相談すべきだろうと、スマートホンを取り出した。




 午後四時半。

 ひばりはいつものように自分たちの支部である塾へと訪れていた。

 スマートホンを見れば、護からのものだ。内容は。

 『靖音を抱きしめたら、体温が上昇し、逃げられた。追うべきか?』

 惚気なのでスルーした。覚えていたら何かアドバイスしてやろう、と決めて。

 芳乃が来るのを待つ。今回の一件について会議しており、そろそろ戻って来るらしい。

 今か今か、その時を待っていれば自然と脳裏を過るのは先日の戦いだ。

 伊庭の死体は確認されていないらしいが確かに仕留めた手ごたえはあった。

 ――とりあえず、一区切りだ。

 復讐を確かに自分は果たした。誰も失うことのない最高の結末だ。

 だが、それで終わりじゃない。生き延びることが出来た、その先を選ぶことが出来る。

 と、いっても選ぶまでもない。

 部屋の扉が開かれて芳乃がやってくれば満面の笑みを浮かべて。

 「支部長、お疲れ様です! お茶でもどうですか!?」

 さらに栞が姿を現せば、露骨に舌打ちをする。

 「本っっっ当、空気読まないよね!」

 「あー、なんかすまない?」

 悪びれず応える栞を睨んでいるとさらに司がやってきて。

 「ひばりちゃん、忘れ物ー……ごめん、帰る」

 「ん、用があるなら入ればいいだろう?」

 芳乃が司に入るように促せば一人、ひばりは頭を抱える。

 ――この日常(特に特に支部長と一緒に)過ごしたいんだけどな!!

 なかなかこれはこれでままならない。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ダブルクロス Hunt or Hunted 三河怜 @akamati1080

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ