集いし強者

 電車を乗り継いでたどり着いたのは街というよりは町という印象の場所だ。

 夏休みに入りはじめてそこかしこに学生の姿が見える。

 ――ここに、奴が来る。

 不意に肩を叩かれて体が強張る横にいるのは千ケ崎芳乃、一行を率いるUGNの支部長だ。

「気を張りすぎるなよ? ひばり」

「大丈夫ですって」

 芳乃の一言にすかさずひばりは返す。

 情報をつかんでからの支部の動きは、早かった。

 ”狩猟者”伊庭宗一の動きはUGN側でも当然のことながら警戒されていた。

 そこで今回の情報だ。UGN側としても対処を行いたいが、戦力の消費はどの支部も避けたい。

 それに対し芳乃が名乗り出たというわけだ。与えられた役目は可能な限りの情報収集とされている。

「しかし、支部長来ちゃって大丈夫なんですか?」

「問題ない、代理として”銀の籠”という支部長が面倒を見てくれる」

「ああ、あのフクロウくれた人ですね」

「とはいえ、あまり長く離れることはできない。早速行動に移ろう、アジトを用意してもらっている」

 芳乃に促されて先へと歩こうとすると横に並ぶのは気だるげに歩くのは時任栞だ。

「……来てよかったの? 死ぬかもよ?」

「ほっとけねえからな」

 それだけ言って先へと歩いて行ってしまう。素っ気ないが確かな意思を感じる。

「あてにさせてもらうよ」

 後を追おうと動くと。刺すような感覚、一般人を無力化する力、ワーディングだ。

 それは一瞬のものだったが周囲を警戒する。

 ジャームか、それともFHのオーヴァードか、それとも全く関係なく力に目覚めた者か?

 四方を自然とそれぞれが警戒する。その中で一人の袱紗を持った少女と目が合うがすぐに走り去ってしまう。

 追おうとすると、芳乃が首を横に振った。

「誰かを探していた、といったところか」

「……どうします? 支部長」

 周囲を見ながら司が尋ねると、芳乃はしばし思案して。

「アジトに行こう。今のオーヴァードの件も含めて情報を整理が先だ」

「早く。一服してぇ」

 ぼやく栞に構うことなく、タクシーを捕まえてアジトへと向かう。

 街から少しずつ離れて自然が多くなってくる。

「なんというか、のんびりとした街ですね。支部長」

「そうだな。駅から離れると大きな公園が多いそのためだろう。銀杏や桜なんかも楽しめるようだ」

「狩猟者やっつけたら、皆で行くのも良さそうですね」

「それも考えておこう」

 ふっと助手席にいる芳乃が笑みを見せる。

 ――手葉ちゃん、ナイス。

 心中で親指を立てる。

 脳内で公園デートプランを作っているうちにアパートにたどり着いた。

 一人一室与えられ、荷物を置けば芳乃の部屋の居間へと集まった。

 テーブルにはノートPCや地図が置かれている。

 栞がタバコを吸おうとしてその手を芳乃に抑えられる。

「ここも禁煙だ。時任」

「……先に言えよ」

 栞は言いつつもタバコを咥えたままライターをしまう。

 机を囲むように皆で座った。

 「まず、情報を整理しよう」

 それからそれぞれで調べてきた情報をまとめていく。

 

 ・”狩猟者”は狙いはこの地に滞在している要人。

 ・狙うのであればこの街にある小さな空港、平日の夕方の便を狙う。

 ・自分たち以外にも”狩猟者”を狙う者がいる。


 ある程度、情報まとまってくる。自分の目的を考えるのであれば空港に来る伊庭を倒せば事は済むが。

「やっぱ、邪魔されたくはないよな」

「だな」

 司の言葉に頷く。

「”ハイランダー”っつうらしいぞ」

 何気なく答える栞に皆が視線を集めた。

「必要そうだから鍵谷に聞いといた」

「先生、なんつーかなんつうかこうありがたいんだけどさあ……」

 ――こともなげに言われると感謝しづれえ

「先生! ありがとう!」

「手葉ちゃんは素直だなー」

「詳細を頼む、時任」

 ん、と言うと淡々と情報を読み上げた。

 ”ハイランダー”香坂もみじ。

 何でもオーヴァードの集うストリートファイトで有名らしい。

 自らの力を試すためにこの場に来ている、この情報に加えて一枚の写真が添付されていた。その顔には見覚えがある。

「駅で見たあいつだ」  

「年あまり変わらなさそう……」

「まあ、こいつ以外も情報につられて動いている奴らがいるみたいだ。大体が大したことなさそうだ」

「さきにそいつらをどうにかしないと」

「焦るな、ひばり……とりあえず、その”ハイランダー”とやらに接触しよう」

「戦うんですか?」

 司の言葉に、芳乃は考えるように腕を組んで。

「……説得は試みる。極力消耗をさけたい、駅での戦闘を避けたことからおそらくまだジャームでないのであればこちらで保護することもできる」

「わかりました。極力、がんばりますよ」

 甘い考えだ、と思うがそれは口にはしない。

「話、聞いてくれるといいけど」

「まあ、いくしかないだろ」

 司も、栞も乗り気なようだ。

 ――結局は戦闘になるだろうに。

 思いはするが口にはしない。

 早速、動こうというところでインターフォンが鳴らされる。

 ここはUGNで確保してあるアジトの一つ、そのインターフォンが鳴らされた。

 来客者を映すモニターにはストールを巻いた長髪の少年とゴルフバックをもった少女というなんとも変わった組み合わせの二人がそこにいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る