第3話

また、静かな時が訪れた。


「倫理君、貴方はこれからも…クリエイターでいてくれる?

 霞詩子の信者でいてくれる?

 …私を追いかけてくれる?」

そして、またそれを破るのは先輩で。

「え…?」

そして、また俺は間抜けな声を出す。男として情けなさすぎる。

「貴方が私を崇めて、応援してくれるなら…

 私はこれからも“今の私”でいられるから」

「それって…?」

「こう見えて臆病なのよ、私。」

「は、はぁ…」

「…実らなくてもいい、報われなくてもいい、

 だって…最初から私が選ばれないことくらい分かってたもの。

 だけど、変わりたくない。」

先輩は笑う。清々しく、勝ち誇ったように。

「そう簡単に変われるほど、私の想いは軽くないのよ。」

スッと先輩の奇麗な手が俺の頭に伸ばされる。

「許してね、倫理君」

優しく撫でる手から先輩の体温が伝わる。こんなに寒いのに、どうしてこの人の手はこんなに暖かいんだろうか。

「ねぇ…あなた、私のこと、好きだった…?」

「~~~っ!?」

なんて、ふたたびの寂しさに浸ろうとしていた瞬間……詩羽先輩は、最後に、それはもう、最大の悪趣味な悪戯を仕掛けてきた。

「許してって…っ」

「ふふ…別にこのことじゃないわよ」

「っじゃ、じゃあ…んむっ!?」

一体なんのこと…?と、聞こうとした瞬間懐かしい感覚が唇を襲った。

「ちょ、せ、せんぱ…!?」


「貴方は、私に恋をしていた。間違いなく。 

 それが霞詩子でも、『恋するメトロノーム』でも、関係ない。

 だってそれは、どれも私。

 だから、あなたは私に恋をしていた。

 いいえ、今でも、恋をしてる。

 …もちろん、いつまでも。

 そして、私も、いつまでも…貴方を好きでいる。

 貴方が恋した私であり続ける。

 未練がましい女でいるわ。」


「好きよ、倫也君。」

先輩はいつのまにか俺から離れていた。

「これが、“許してね”の意味。分かったかしら?鈍感主人公君。」

なんで、そんな満足そうなんですか。

「…もし、貴方が許してくれるのなら、

 貴方を一生私の作品で泣き悶えさせることを約束するわよ。」

どうして、そんな意地悪するんですか。

「…行かないでよ、せんぱい…っ。」

ごめん、こんなの俺の我が儘だ。言っちゃいけない言葉。一歩間違えばこの人を縛り付けてしまうかもしれない、鎖だ。

「待ってるわ。」

でも、先輩にはいらない心配だった。

「私は、私たちは、先に進むけど…諦めないで、追いついてみなさい。

 もう一度、貴方と組める日を楽しみにしてる。

 そのときの私たちなら、きっと…

 “最強のギャルゲー”を作れると思うから。」

ねぇ、詩羽先輩。

変わらないなんて、臆病だなんて、嘘だよ。

あの時、俺に原稿を見せようとした先輩はもういないんだ。

「…酷い顔、ね」

ちゃんと、強くなってるよ。進化してる。

「澤村さんのこと、幸せにしてあげなさいね。

 私にはあの子を守ることしかできないから。」

先輩はドアノブに手をかける。

「じゃあね…あけまして、おめでとう。」


「霞先生…っ!!

 これ、からも…っ応援して…ます!!」

もう、泣きすぎて言葉になってるか分からない。でも、何か言わなきゃって思ったんだ。こんな言葉しか思いつかない俺は本当に情けないけど…伝わってほしい。

「次の作品…期待してなさい。」

ふわっとなびく黒髪ロングは相変わらず美しかった。


ガチャン、ドアが閉まった。





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True Lily ~冴えない彼女の育て方 英梨々end~ 灯凪蓮 @kinanana

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