第2話
「うたは、先輩…」
「まったく…キモヲタからリア充に昇格したっていうのに、相変わらず情けないわね倫理君」
「す、すいません…」
ボロボロな俺の心に詩羽先輩は無慈悲な言葉のナイフを刺してくる。
「それで?一体何があったの?」
「それは…う、詩羽先輩には関係ないです…っていうか、別に何もないし」
ただのやせ我慢だ。でも、このことを話してしまったらきっと詩羽先輩は傷ついてしまう。もうこの人の傷ついた顔なんてみたくない。
「ふーん…」
「か、風邪ひきますよ…?」
「それは倫理君も同じでしょ」
少しの沈黙。
「澤村さん、さっき面白い顔してたのよ」
「ゴフッ…!?え、英梨々が…?」
思わず吹いてしまった。
「なんか、口元緩ませながら泣いてたのよ
…って、何その反応、澤村さんと何かあったの?」
ああぁぁあもう!!絶対何があったか知ってるでしょ!!ほら、ニヤニヤしてる!!もうやだ、この人!!
「だ、だから何もないって…」
「じゃあ、加藤さん?」
「ウグゥッ!?」
「澤村さん」
「ぐあっ…」
「加藤さん」
「ぐふぅ…」
「澤村さん」
「…もう許してごめんなさい全部話すからぁぁぁあ!!」
「最初から正直に話せば良かったのに」
ふふっと悪戯っぽく笑う先輩に、分かってたことだけどやっぱりこの人にはどうやっても勝てないって思わせられた。そして、俺は結局すべてを話した。
「…本当最低クソ主人公ね、倫理君」
「カエスコトバガゴザイマセン」
「そうね…今からいうのは独り言よ?」
はぁ…真っ白い息を漏らして詩羽先輩は大きな独り言をもらした。
「私ね、澤村さんのことが大っ嫌いなの。とてもとても恨んでる。」
「ぇ…?」
「でも、放っておけないのよね…
いつの間にか、何処かに行っちゃいそうで不安になる。
それが、自分が置いてかれるのが怖いのか。
それとも、彼女が壊れてしまう気がして怖いのか。分からないわ。」
「……」
それ、すごく分かる。俺も分からないんだ。英梨々への気持ち。
「しかも、好きな人は他の女とくっついちゃうし…ほんと、損な役回りよね。
そうかと思えば二人して諦めたはずなのに、
片割れはなんか今更成就しそうな感じだし…
いっつもいっつもいっつも倫理君はそうやって…!!」
「落ち着いて!ちょ、先輩!?」
「貴方は黙ってなさい!独り言だって言ってるでしょ!?
倫理君はどうしてこんなにテンプレに抗うの!?神様に抗うの!?
どうして、私を乱すのよ!!とてもとてもとても気に入らないわ!!」
「抗ったつもりも、乱したつもりもないんだけど!?」
いつ俺地雷踏んだんだ!?
「どうしてこんな最低キモヲタクソ倫理を嫌いになれないのよぉ…っ!!」
「うわわわわああああ!!泣かないで!?泣かないで!!」
「好きよ!大好きよ!不倫理君!」
「不倫理はやめてぇぇぇえ!」
「事実じゃない!この不倫理!」
「事実だけど事実じゃない!本当、めんどくさいんで落ち着いてください!」
「めんどくさい…?そうよ、私はめんどくさいのよ!!
重いし、処女だし、黒髪ロングだし!!
でも、でもでもっ、私だって頑張ってるのよぉ…っ!!」
「ああああもう誰かぁぁぁぁ!!」
しばらくして、やっと落ち着きを取り戻したのか、伏し目がちにまた語りだした。
「…わ、私は、加藤さんと貴方がくっつくくらいなら、
澤村さんと貴方がくっついたほうが良いって思ってる。」
まさかの言葉だった。
「私は彼女に許されないような酷いことをしたの。
彼女の叫びを全て聞いた。自分にも彼女にも諦めることを強要した。」
俺の知らないところで…二人は、踏ん切りをつけようとしてたんだ。
「だから、叶うのなら…
せめてあの冴えないヒロインをハッピーエンドで救ってあげたい。
私の、傲慢な贖罪よ。」
「せん、ぱい…」
そう言った詩羽先輩は見たことがないような忘れられない顔をしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます