愛のかたまり

     愛のかたまり


 窓から差し込む朝日が眩しくて目が覚めた。まだ半分夢の中にいるような、ぼやっとした感覚が心地良い。眠たい目をこすりながら、枕元に置いたスマートフォンを確認する。もうお昼前だ。いくら日曜日だからといって、寝すぎたかもしれない。なんだか勿体無い気がする。平日は、みんなが眠る頃に起きて、朝日と入れ違えで夢の中へ行く。


 「そんな人の道を外れたようなことはやめておけ。」


 高校時代の友達から幾度となく浴びせられた心無い言葉たち。もう、そんな奴らは友達でもなんでもない。どうせ今頃、「高校時代の友達が風俗嬢になった」なんて飲み会のネタにでもしているのだろう。あいつらは生きる世界が違う奴らだ。当たり前のように両親がいて、欲しいものは欲しい時に買い与えてもらえて、好きな大学に行かせてもらえている。そんな奴らに私の気持ちなんてわかってたまるか。わかってもらいたいとも思わなくなった。


 諦めてからは、簡単だった。何を諦めたかも明白ではないが、確かに、何かを諦めた感覚があった。クラスの誰と話していても、楽観さ、思慮浅さに呆れ、怒りで腸が煮えくり返るような日々を送っていた。演技は天才的に上手いたちだったので、そんな感情は隠して普通の女子高生を送っていた。


 友達はたくさんいた。みんなの言う友達は、一緒にお弁当を食べて、お菓子交換をして、下敷きにプリクラを敷き詰めるための素材、のことだろう?それなら、吐いて捨てるほどいる。面倒くさいことも多いが、それが普通、なのだから、うまくこなしていた。


 卒業し、漸く解放された地獄のような高校生活。高校時代の友人たちはみんな、大学に進学し、飲み会、サークル、飲み会、バイト、飲み会。まるで自分が世界で一番人気者ですよと言わんばかりに毎日、毎日SNSにアップされるつまらない写真たち。お前らが食ったものなんか興味ねえよ。相変わらず、楽しそうだ。見ているだけでも腹立たしく、全員まとめてブロックしてやった。


 就職活動シーズンに突入すると、世間が敷いたレールの上を大人しく歩き、みんな同じスーツ、同じ真っ黒な髪型。就職活動が終われば、これで人生安泰だと思っているのだろうか、


「マジで辛かった、乗り切った、残りの大学生活満喫するぞおお」


アホか。いくつになっても馬鹿は馬鹿のままなのか。いや、馬鹿に拍車がかかっているのではないだろうか。社会の厳しさも知らないでエリート面。呆れて物も言えない。

 

 私は一生懸命、自分で自分を守って力強く生きている。守ってくれる人がいないのだ。たった一人でこの厳しい世の中を生きて行かなければいけない。私が私らしくこの世界を生き抜くために、この道を選んだ。誰かに何か言われる筋合いなんてない。別に間違っているとも思っていない。そもそも人生に正解なんてないのだ。みんなと少し違う生き方をしている、ただそれだけ。何も間違ってなどいない。私にとっての普通が世間一般さまの普通にカテゴライズされないだけ。勝手にお前らの決めた尺度で私をはからないで欲しい。

 

 私は私なのだ。幸せなのだ。私の幸せに、何も知らないお前らが横から口出しするな。愛する人がいて、愛する人と一緒に暮らしている今の生活は私にとってかけがえの無いものだ。お前らに、こんなに愛する人はいるのか。自分が稼いだお金の殆どを捧げても良いと思えるような、そんな人はいるのか。どうせ、お前らは自分が一番可愛い。彼氏を愛している自分が、彼氏のためにケーキを作る自分が、綺麗な場所へ出かけている自分が、そんな自分が可愛いくて仕方がないんだろう。そんな自分しか愛せないお前らより、私の方がずっとずっと幸せだ。今の自分を華やかに生きている私の方がずっとずっと幸せだ。

 

 横で寝息を立てている彼の鼻をそっとつまんでみる。ウニャウニャとわけのわからない寝言を言う彼が愛おしい。この人のためならなんだってできる。生活だって私が支えてあげる。今度はほっぺをつついてみる。


「んんん。」


 まだ夢の中にいる彼が私をそっと抱き寄せ、またスースーと寝息を立て始めた。ああ、幸せだ。これ以上の幸せ、どこを探したって見当たらない。こんな幸せを捨てるくらいなら死んだ方がマシかもしれない。私を抱く彼の腕の力がキュッと強くなる。


「もうお昼なのに。」


なんて小声で文句を言いながら、私もそっと目を閉じた。今日も明日もきっと私が世界で一番見苦しくて、惨めで、気の毒な女だけど、世界で一番幸せな女。


一部引用

KinKi Kids. (2002). 愛のかたまり. ジャニーズ・エンタテイメント

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