ワンルーム


 ピロリン


ベッドの上のスマートフォンが揺れる。私の心がピョンと小さく跳ねた。なに期待しちゃってンの、私。でも、ほんの少しだけ期待して画面を光らせる。


「今日はありがと」

「仕事行ってくるわ」


 トクン


一時間ほど前に帰った、晃太からのメッセージ。彼を見送った後のこの部屋は、妙に広く感じる。差し込む朝日も私一人では、ちょっと眩しすぎる。


 晃太とは半年くらいの付き合いだけれど、彼を泊めた次の日は私からは連絡はしない。特に理由はない。でも私なりのプライドというか、それに似たような、そんなカンジ。


 私からはしない。しないのだけれど。来ないと不安になる。メッセージは送らないくせに、履歴だけ見返したり、SNSのプロフィール画面は無駄に見たりする。更新されない晃太のTwitterに心のどこかでホッとしている私、発見デス。ダサいな、私。


 ピロリン


「次は海、行きたいな」


少し時間をおいて、3件目のメッセージ。もう、何これ、ちょっと嬉しいじゃん。何の契約も結んでいない私と晃太を、唯一繋ぐものが、コレ、口約束。嬉しくって、少し恥ずかしくって、ちょっぴりドキッとしちゃって。でもそんな自分がダサくて、ベッドの上の抱き枕に、くわっと顔をうずめた。


 スン


無意識で晃太を探す。何やってンの、私。自分の行動にドン引き。それでも鼻をかすめた晃太の匂いで、私の脳内、お花畑。


 クシュクシュ


指で鼻をこする。フリをして指に残った晃太の匂いを、嗅ぐ。いよいよ私、かなりイタイ奴になってきた。でもこれ、私だけじゃないでしょ。みんなするでしょ。


 いやいや。ていうか。そもそもの話に戻るけれど。私、晃太の何でもないから。好きとかでもないし。いや、スキなんだけど。そういう意味のスキとかじゃない。晃太も私のことスキだよ。でも、そういう好きじゃない。私、知ってるよ。


 だからこそ−。


ちょっと、何考えてンの、私。どさっとベッドにダイブ。目をパチクリさせて、いらない思考を追い出す。出てけ〜出てけ〜。


 だってさ、晃太とずっとこのままいたいじゃん。変な契約結んじゃう、とさ、突然契約破棄されたりするじゃん。それなら、結ばない。口約束で十分だし。


 それに。契約結びませんか、って言った時点で、全部おしまい。考えただけで背中がゾクゾクした。


 それなら−。


あれ、また変なこと考えてる。こんなこともう終わり。さてさて。今日は一日何しようかな。


 晃太の−


もう。考えないように、しようとすればするほど、晃太が邪魔してくる。甘すぎるフレーズ。晃太の一番には、なれない私。でもさ。晃太だって、私の一番じゃないし。これも本心なんだよね。なんて面倒臭い女なの、私。


 あぁ。考えても無駄無駄。いいじゃん、別に。


 ズルズル


そうそう、このまま二人でズルズル行きましょうよ、ね。言われなくても行きます、よ。余計なことなんて考えないで、今まで通り、晃太をスキでいる。あ、今読んでるアナタが感じたソレ、勘違い。そういうスキじゃないから。


 ズキン


あ、メッセージ、返さなきゃ。



一部引用

yonige. (2017). ワンルーム. ワーナーミュージック・ジャパン

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