第7話 再びの逢瀬

「…おかしい」

「えぇ、見当たりません」

「まじゅー! どこー!」

 黒の外套と首巻きをしている葉月とそのオマケ(強し)。戦乱の中で大きな被害を与えていた。4人の周りには死屍累々と屍があり、それでも周りの兵士達は手をこまねいている訳にもいかず────次々と倒されていた。 

「見当たらないのか?」

「うん、あれだけ大きな気配だから隠れることは難しいと思うんだけど……」

「…とにかく、見つからないものは仕方がない。まずは周りを片付けるぞ!」

「了解!」

 と、意気込み前進した瞬間───

「うぉぉぉぉおー!」

「しまった!」

 背後から近づく敵兵の影に気付けず、反応が少し遅れた葉月は焦りながらも現刀し斬りつけ────

「くっ…葉月さん!」


 シュボッ


「葉月さんに手出しは許さんのだ」

 その時、己の能力で葉月と兵士の間に滑り込み、もう一つの能力で敵を燃やしたその人は、リュナであった。リュナはその青い瞳を冷淡に輝かし、ボサボサの長い髪は優雅にも宙で踊っていた。

「リュナ!」

「お待たせしたのだ! 紫闇旅団も作戦を開始したのだ!」

「おっどろきー! リュナねーちゃん、もう一つの能力持ってたんだー!」

「【業火燕戯ごうかえんぎ】。自由自在に炎を操るのだ」

 そう言って、リュナは指をパチンと鳴らし、炎は消えた。

「紫雨のおじーちゃんも基地に向かったってことかい?」

「ヴァンとクレハもいるのだ」


 ◇


「さてっと…到着」

「いやぁ…ヴァンはすごいなぁ、あんなゴツい兵士はんまで騙してしもぉて」

「ふぉっふぉっ、やはり大罪とは恐ろしくも、使いようでは素晴らしくもなるのぉ」

 敵基地のど真ん中だというのにこの談笑。挙げ句の果てには、

「あら、こんなとこにお酒がー(棒)」

 そこら辺にあったチェストの中のお酒を飲み出すクレハ。大丈夫かこの3人、もしかしたら葉月は編成を誤ったのではなかろうか。

「さて、捕らえられているのは牢屋だったかの?」

「うん、団長の命で偵察に来た時から移動してないはずさ!」

「ほな行こかぁ」


 ◇


 アアアアアアアア…


 彼女は兵士達の猛りの声の海で1人戦っていた。

「【影詠流神楽式夜叉術・冥府の十戒めいふのじっかい】!」


 ザザザザザザザザザザッ!


 向かってくる兵士はそれぞれ一本ずつの刀に串刺され、事切れる。

「ふぅ…ざっと100人程かなぁ」

 侵攻が開始してから10分、盆地のど真ん中でセミロングの少女が猛威を振るう。夕月もまた師と同じ黒の外套をし、黒の首巻きを長くたなびかせていた。

「って…囲まれてるし」

 流石に訓練された兵士、1人でいると見るや否やあっという間に夕月を囲んだ。

「ひぃ…ふぅ…みぃ…50人? なかなか多いなぁ」

「突撃ぃぃぃ!!」

「うぇっ!?」

 唐突に雄叫びをあげて突貫して来た兵士に驚き、弟子も師と同じく反応が遅れる。蛙の子は蛙とはまさにこういう事を言うのだろう。


 ジャッ


 すると突然、周りの兵士達が血の雨を降らした。

「…え?」

 唖然とする夕月の背中に、待ち望んでいた声がかかる。

「いやー危なかったなぁ、夕月姐ちゃん」

「(コクコク)」

「服鳥部さん! 切華ちゃん!」


 ◇



 ガサッ…


「どうだ?」

 山間から2人の男女が草原を眺めていた。

「なかなか、運びは上々ってとこ」

 女は無感情な声で応じる。

「それだけ見れたら充分だ、総司令に報告するぞ」


 ◇


「咲! 悠依さん! 月奈!」

「あら、夕月!」

「おー!」

「大丈夫そうでなによりです、夕月さん!」

 侵攻開始から30分、ひと段落してメギトリアルの4人が集う。

「あれ、燐は?」

「そういや見てないのぜ」

「あぁ、燐なら…」

 そう言って月奈は山々の方を向く。

「山間からスナイプ中よ」

「そろそろ連絡が入るかと…」

 その時、4人のポケットに入っている手鏡が青白く光る。

「来たわね」

 4人はそれを開き、鏡に映る燐の顔を見た。

「8アーレ(1アーレ=100メートル)先に敵兵! 亜人族の集まりっぽいな…あれ」

「了解!」

「おいおめーら!」

「えっ!?」

 指定された方向へ走り出そうとした瞬間、後ろから乱暴な声がかかる。見ると、声の主はエレナであったようだ。側にはユナもいて、更に後ろには沢山の魔法使い達がいた。

「エレナさん! どうしてここへ!」

「どーしたもこーしたもあるか! 魔術師団の長がサボってどーすんだっての」

「そっか、そうだったのぜ。すっかりいる事忘れてたのぜ!」

「お前ェ…」

「まぁまぁ、ここからは私達も参加するよ」

「あれ? ユナさんは魔砲をするはずじゃ…?」

 疑問を感じた月奈が質問する。

「あぁ、あれかい。あれね、魔鉱石の消費激しくてさ…あまり使いたく無いんだ」

「あっ(察し)」

「さて、と。こっちが話してる間に向こうから寄って来たけど?」

 エレナがそう注意を促すのは、亜人軍が迫ってきたからであった。

「ざっと…2000か。どうやら人間よりも亜人族の方が多かったみたいだな」

「しかもどうやら、比較的好戦的なコボルトや猫族が集まっているようだな」

「おや、葉月じゃないか」

「しばらくぶりだな、ユナ」

 服鳥部と切華も合流し、遂に双方は見合う。

「…どうやら随分と精鋭を集めたみたいではないか」

 数メートル離れて見合うヴァータ亜人軍の、リーダーと思しきコボルトの男が口を開く。

「まぁ、どんなに手練れであろうとこちらも相応の実力者達だ。簡単にはいかんぞ!」

 そして牙を剥き、敵意を明らかにする。

「ちょーどいーや。おいお前!」

『はっ?』

 突然、礼儀も何もなしにコボルトに声をかけるエレナに、その場にいた全員はおろか姉のユナですら驚いた。

「なぁ妹よ、何をしようって言うんだい」

「その実力者とやらを50人出せよ。私が技量を計ってやる!」

「は、はぁ…」

 あまりにも高飛車な提案に、コボルトですら敵味方の関係を忘れ、唖然とする。

 それもそうだ。ただでさえ、本来なら成人したての筈の15の少女が戦場にいる事すら珍しいのに(メギトリアルは全員17なのでまだ理解に及ぶが)、なんとその少女、一度に精鋭50人を相手取ると言い出したではないか。

 …まともな頭をしていたら、誰もがこう思うだろう。コボルトのリーダーもそうであった。

(コイツ…気が狂ってやがる!)

「隊長、我々が」

 そんなリーダーを引き戻したのは、亜人軍の一分隊と思われる隊のリーダーだった。

「あ、あぁ。ところで、実力を計ってどうするのか?」

「イイカンジだったら黄昏軍に引き抜く。……力尽くでも」

「悪魔かキサマ!?」

 いつ何時何処でも変わらないエレナの横暴さに、やはり誰もが声を上げてしまうのであった。


 ◇


「フン、悪魔…か」

 鎧の奥からくぐもった声が流れてくる。顔は見えないがバカにしているのだけは口調で分かる。

「お前の様なガキが悪魔などと、ふざけているな」

「別にいーぜ? アタシは悪魔じゃねーし、どっちかっていうとあそこの従者が悪魔だし(文字通りにな)」

 敵隊長の煽りを軽く受け流し、エレナはそう言う。

「ほう、どうやら冷静さは折り紙つきの様だな」

「いや、そんなんでもねーけど」

「何?」

「アタシって、楽しくなってくると周りが見えなくなるからさ?」

 つい数日前の出来事を思い出しながら言う。

「ただ、これだけは忠告しておくぜ?」

 すると、エレナは手を合わせ合掌。そして、手を垂直に離していく。

「な…!?」

 手と手に挟まれた空間から、杖が出てくる様子に敵兵達が愕然とする。

「“人を見かけで判断するな。見かけで判断したら───死ぬことになる”…ってな! 【神杖しんじょう・エタニティアオールゴーン】!」


 ゴゴゴゴゴゴゴ…



 ◇


「化け物めぇっ…!!」

「人間如きが星詠みの巫女の神杖に抗おうなんざ無理な話なんだよ」

 そう言って、自身の身長の4分の3程の杖を振る。少女が持つ杖は、持ち手の先に一部が欠け、そこが鋭く突出した形の円に大小様々な釘が貫通している。

「くそぉぉぉぉぉ……っ」

 大地に大穴を穿ち、50人の精鋭の命を蹴散らしてなお、神杖は止まらなかった。そしてその猛威が、分隊長にも等しく降り注ぐのであった。

「【エタニティア九芒星・シャラザール流星群】!」

 天空より降り注ぐ星々が尾を引きながら分隊長を射抜く。そして、事切れたのであった。


 ◇


「あちゃー…ごめんね我が妹が」

「い、いや…」

 あまりの惨劇に、全員が絶句しようやくユナが口を開いた。敵味方の前に、生あるものとして相手兵士達の不運を嘆く様に話すユナ。

「でもどうする? このままぶつかればそっちの全滅は必至だよ」

 しかし、その口調も束の間。二言目には威嚇を含んだ言い方になった。

「…そうだな」

 コボルトもこのままでは無駄死にと判断したのか、

「今は兵を退こう。しかし、いずれ」

「あぁ、そうだねぇ」

 皆まで言わず、コボルトは亜人族を率いて去っていった。


 ◇


「夕月!」

「何? 燐」

「山間にスナイパーがいる、気を付けろ!」

「分かった!(あれ? なんで分かるの?)」


 ◇


 場面は変わって、先程のやり取りから30分が経過した頃。

「ん?」

 再び別れた葉月グループがなにかを見つける。

「あの男…只者ではないな」

「おや、どうかしましたか?」

「ホントだ、戦地で堂々とあんな立ち方…」

「ふつーじゃねー!」

 4人の視線の先には、長く伸ばした紫色の髪を風に流し、両手を広げて優雅に立つ男の姿があった。が、あまりにも優雅すぎて逆に変人に見え、戦地のど真ん中であるため───滑稽であった。

「ああぁ…美しい…なぁーんて美しいのだろうか!」

 男は感嘆を並べながら、黄昏軍兵士を殺していく。

「命の灯火がこんなにも! 無意味に、無様に散っていく! あぁぁあぁぁぁぁ、脳が震────」

「その台詞はっ──────」


 ドッ


「禁句だっ!」

「グボォッ!」

 感激に埋もれゆくアブナイ言葉を並べる男のお腹に蹴りを入れた葉月は、間髪入れずに幻獣3人に指示を出す。

「時雨! 後ろに回り込め! 小夜、私と奴の前を固めろ! 寧々! 上から叩け!」

『請け負った!』


 ボボボッ


 モワッとした煙が爆発し、その場から幻獣の姿が消える。


 シュゥウウウウウウウッ…


 そして、3箇所で小さな穴から漏れ出すように煙が渦巻きながら膨らみ、消えた3人の姿が現れる。

「ほう、人にしてはなかなか面白い技…」

 静かにその光景に嘆息する男に、小夜は諭すように言う。

「ヒト? 何言ってるんだい、君は」

「何です?」

「僕らはヒトなんかじゃない───」


 ボッ


 再三、今度は2人の頭とお尻に小さく煙が爆発し、それぞれの特徴が表れた耳と尻尾が現れた。しかも、3人の周りには鬼火の様な小さい炎が揺らめき、浮いていた。

「私は狐の幻獣、名はキュービ」

「僕は蛇の幻獣、名をウワバミ」

「寧々は猫ー! ネコマター! 【幻獣業・猫裂き】!」


 ザザザザザザッ


 寧々は自身の爪で男を凄まじい速度で引っ掻く───いや、もはや切り裂いていた。

「殺したぞー!」

「物騒」

 小夜は言葉少なに寧々をたしなめ、男の生死を確認────するまでもなく、結果は一目瞭然であった。

「まぁ…生きてるよね」

 舞う砂埃の中に男の立つ影を見て、小夜は嘆くでもなく、当然だという風に頷く。

「あれだけ奇異な雰囲気の男だ、ただでは死なぬだろう」

「えぇ、それなりの技能はあるようですよ」

 寧々の業が未熟だった訳ではない。寧々は幻獣の中ではまだ幼い15という歳でも、業の扱いは一人前である。そして、それをまともに受け切る者はレアものである。

「ほう…面白い、ヒトではなく幻獣でしたか…」

「そ、まだやる?」

 小夜は男に問う。

「えぇ、あまり目撃されない幻獣がどんな戦い方をするのか、実に興味深い。教育者として!」

「(教育者?)ふぅん…死ぬよ?」

 男の返答を聞き、小夜はその眼を昏く輝かせ、笑った。


 ◇


「月奈さん達大丈夫かな…?」

 こちらは作戦進行テント、メギトリアルのテントにて。執事兼月奈の助手である(助手といっても戦闘ではなく研究の、である)緋火は、心配そうに呟いた。

「こっちはもう準備は済んだけど…」

 そう振り向く緋火の視線の先には、テント入り口の前に張られたたくさんの細糸があった。

「あと3…2…1……0」

「入れ!」

 緋火のカウントがゼロになると同時に、テントの外から数人の男の声が聞こえた。

「ヨイショ」

「っあ?」


 ビィーーン…


 緋火が、男が入ってきたのを見計らい、片手に持っていた糸を引っ張ると────色んな箇所に括り付けられた糸が一斉に男達を絡めとり、拘束した。

「ハイ、一丁上がり〜♪」

「くっ、なんだテメェ!」

「執事です」

 緋火は、落ち着いて返答する。

「どうして俺達が来ることが分かった!」

「ここでは、僕の事を知ってる人はいないから…誰も分からないんですよ」

 緋火ははにかみ、そう言う。

「…どういう…事だ?」

「地球で、僕はある事で賞賛されたんです────計算で」

「…は?」

「人の心理までもを計算で表し、予測出来るようにした。神童って言われたり、ノーベル賞まで取っちゃったんですよ! クロイツさんは気付いてなかったみたいなんですけど」

「何?」

「ただ誰も公式を理解出来なかったんです。一気に1000人くらいの計算してなんとか認めてもらったらしいんですけど。この世界に来てから、僕は特殊だという事に気付きました。能力【超演算】」

「…」

「けど、地球人と心理が一緒で助かりました! 計算によると、ヴァータ軍がここに来る確率は100%、ピッタリ当たりですね!」

(やべぇ、何言ってるかワカンナイ…)

「これで僕の役目は終わりましたし───お茶します?」

 最後に緋火はにこやかに、完全に毒気を抜かれた敵兵にそう誘ったのであった。


 ◇


「にゃは?」

 こちらはニーシャ組、こちらもまたマフィンと一部の黄昏軍兵士を引き連れて戦い、戦場の一角となっていた。

「さすがはニーシャ殿! 黄昏軍唯一の魔術師将軍!」

 その将軍は、両の手に氷のような爪を付け、ヴァータ軍兵士を圧倒していた。

「ほーら! 君達も働いて働いて!」

「はい!」

 応答した兵士達は、負傷した仲間を一線を置いているマフィンの元へと運ぶ。

「【氷爪ひょうそう魔術・カヴィーニャアンガー】!」

 両手を地面に振り下ろし、爪で地面をかく。


 ドッ…パァン!


 すると、その地面から数メートル先、ヴァータ軍兵士達の足元から氷柱が突き出で、彼等は吹き飛ばされる。

「ぐぁぁぁぁ!」

 一部では断末魔も聞こえ、劣勢と見たヴァータ軍は退いていった。

(エレナ様…見ていますか? 貴方のお陰で、私はここまで来れたんです!)

 そう心に呟き、ニーシャは片手を太陽にかざした。


 ◇



 ギィィッン!


 刀と剣が交わり、火花が飛ぶ。

「なかなかっ…! やるね!」

「お褒めに預かり光栄です!」

 男は謙遜する。が、その光景は謙遜しなくても良いくらいに凄まじかった。

「はっ!」


 ギィッ


「寧々さん! 行きますよ、合わせて!」

「りょーかい!」

『やぁーっ!』


 ガガガガガガ


「今です、小夜さん!」

「ふっ!」


 キーーーーーーン……


「なんて奴だ…」

 思わず葉月は嘆息する。

「えぇ、えぇ、教育者たるもの、生徒に負ける様では面目が立ちません」

 なんのことはないことをした様に言う男は、葉月の渾身の─────物凄い速度で走る剣先を往なし、時雨と寧々に抑えられながらも小夜の影刃を見極め、その切っ先を折った。

「素直に、強いね。生憎僕1人じゃ歯が立たない」

「4人がかり…しかも全員影詠流の会得者でこれです」

「むーりー!」

 流石に連続して剣閃を走らせるのは、4人にとっても苦しいのだ。皆、疲労困憊に等しい状態だった。

「もう少し戦いたいところなのですが…十分情報は取れましたし、どうやら時間の様です」

「時間?」

「えぇ、剣を交えるのはまた次の機会に…と」

 そう言って、魔法で宙へ浮かんでいく男に向かって、


 ─────油断したね!


 小夜はそう叫んだ。

「葉月!」

「【幻獣銘打───黄牙】!」

 葉月は和紙に似た材質の紙を投げ、そう叫んだ。


 ボゥゥゥゥゥン


 突如紙から煙が出て、それが晴れた時、そこには大きな白い毛を持つ犬がいた。

「なんだか知らんが請け負った!」

 そして犬は咆哮する。


 ─────ガァァァァウ!


「何!?」

 男は驚愕する。

「僕達があの程度の戦闘であれだけ疲れると思うかい!? 時雨! 寧々!」


 ボゥゥッ


 再び時雨達3人の体から煙が飛び出る。その煙から、3つの影が飛び出た。

「最終転化、ああなったらあの男、終わったな」

「黄牙爺! 合わせて!」


【幻獣業・死牙ノ目論見】!!!!


 男の体に、4匹の幻獣の牙が、爪が、炎が、刃がかかる。

「ぐぁぁぁ─────ん?」

「はぁ…何やってんですか」

 しかし、男は死ななかった。

 〔誰だい、君〕

 〔新しい人ー!〕

「なんじゃ、殺ったと思ったのにのう」

 少し響く感じの声になっている幻獣達が不思議に思う。

 何故ならそこに───

「私は────レミリア・イグラジスティレット」

 紅く大きな槍を構え、幻獣と男の間に割って入った女がいたからだ。青みがかった銀髪をサイドポニーにして、漆黒のドレスの様な服装をしていた。

 女は感情の無い顔をして、無愛想であった。

 〔いまの速度を止めますか…〕

「申し訳ない、レミリア」

「…いいよ、さっさと帰るぞ」

 みんなの言葉全てに素っ気なく応答し、女は背を向ける。その背中に、

「……また」

 短く、葉月はそう言った。“また、剣を交えるだろう”。

「…………また」

 それに対して女は、少し止まったあと────振り向かず、同じくそう言った。


 ◇


「っらぁ!」


 ズバッ


「……」


 ギャァァァアアアアッ!!


「すごい…」

 目の前に広がる光景を見て、夕月はそうとしか言えなかった。

「ふぅ…ここら一帯はざっと片付いたんとちゃう?」

「…生きてる人いない」

【神速】の服鳥部と【切り裂き】の切華があっという間にヴァータ兵を一掃してしまったのだ。

 疾風が吹くたびに、草原に紅い閃光が走るたびにヴァータ軍が退いていったのだ。

「うわぁ…何よこの有様」

「あれ? エリアナさん! お久しぶりです!」

「あら夕月ちゃん、久しぶりね。どう? どこか怪我とかしてない?」

「大丈夫です!」

「おん? なんや姐さん、夕月の姐ちゃんと顔見知りなんか?」

「というか、この子に勧誘されて黄昏軍に入ったからね」

 と、エリアナは笑う。

「さて! 怪我人はいますかーー!?」

「ありま、行ってしもた」

 しかし、エリアナと入れ違いにメギトリアルが揃った。

「夕月!」

「あっ、月奈! それに悠依さん達も!」

「よーし夕月、お前は何人倒したー!?」

「やめてよ咲、物騒!」

 すると、遠くから葉月もやって来た。

「おーい!夕月!」

「師匠!」

「どうだ、何か進展はあったか?」

「いや、紫雨のお爺さんからの連絡待ちやな」

「そうか」

「って言うかお隣のデッカい……ケモノ?は誰なんですか!?」

 夕月はようやく、さっきから葉月の隣でおすわりしていた幻獣の存在を突っ込む。

「ケモノとは失礼な! 儂だって──────」


 ボゥゥン


 〔ヒトの姿にくらいなれるわ!〕

 煙の中から現れたその姿は─────

「わわっ! 美男子なのぜ!」

「さすが黄牙爺、こだわるね」

「お変わりないようで良かったです!」

「あれ? 小夜ちゃん達は面識があるの?」

 黄牙を昔から知っているかのような口ぶりに、夕月は疑問を挟む。

「あ、そうか、弟子君葉月からほとんど剣の振り方しか教えてもらってないんだもんね」

 小夜はそう言って黄牙の紹介をし出した。

「このおっきな犬────今は美男子だけど───は、黄牙爺。まぁ黄牙こうがが名前だ」

「葉月が世話になっておるぞ、夕月殿」

 そして、時雨が繋げる。

「で、何故葉月さんを知っているかと言いますと───」

「そうね、なんであまり目撃されない幻獣を4匹も従えてるのか気になるわ」

「実は、私達もよく知らないんです」

『はっ?』

 それを聞いてその場にいた全員が驚く。

「訂正しよう、4匹ではないぞ」

 すると、唖然としている皆んなに向かって葉月が言った。

「4匹以上だ」

『!!!???』

「はい、そうなんです……」

「僕達と知り合う前から葉月は普通の人じゃ考えられない程の幻獣と面識があって───しかも、一部は従えるまでだったんだ」

「謎が深まるわね…」

 月奈は苦笑いする────見られていることも知らずに。




 ガサッ


「へっ、楽しそうに談笑してらぁ」

「やっぱ舐めてない?」

 草陰に隠れ、白髪サメ歯の男の子が、手鏡でスヴェリアと連絡を取り合っている。

「そろそろ…時間だぞ、獣鬼」

「獣鬼…大丈夫?」

「大丈夫だっつの! スヴェリア、そっちはどうだ?」

「うん、あの姉妹すごいよね! 同じく悪魔連れだから燃えるよ!」

「えっと…燐? とか言う子よね? なかなかの腕前! まぁ私と戦う訳じゃないけど」

「あぁ、燐はシャネルが始末するってよ」

「そう」

「行くぜ? 再びの─────逢瀬だ……!」


 ザッ!




 ────ッッッ!!


 突然響いたその咆哮に、夕月達は耳を塞ぐ。

「くぅーー! ビリビリするーー!」

「何!? 急に気配を感じた…け…ど…」

 そして小夜は顔を上げ、驚愕し────怒りを露わにした。

「魔獣!!」

 そして間髪入れずに、


 ギィィィィィィィィィッッッ!!


「っく!」

 草原に金属と金属の擦れ合う音が響く。

「よぉ! また会ったなぁ!」

 挨拶がわりに夕月にその剣閃を走らせた少年は、そう声をかけた。


 ◇



 ドッ!!


 リーヴィリヒアインツネバー姉妹の数メートル先で、突然地面が地下から爆発した。

「なっ!?」

「エレナ、なんか来るよ!」

「────やぁ」

「アーーハハ!」

「てめーら…誰だ?」

 土煙の中から出てきたぱっと見ではごく普通の少年と、紅い髪を長く伸ばし、背中には黒い蝙蝠のような翼が生えている女性に、エレナは警戒を示す。

「あ、初対面か……スヴェリア」

「エメラダ」

「おや───やはり貴女でしたか」

 少年と女性が自己紹介すると、セバスチャンが唐突にそう言った。

「ハァーイセバスチャン!」

「なんだセバスチャン、知り合いかい」

「……えぇ。出来れば会いたくなかったですが」

「さて、悪魔を従えると契約した者どうし───楽しい時間にしようよ!」

 すると、男の子は腕を広げ────背中から赤い紐の様な形状をした液体が出てきた。

 そうして、悪魔×悪魔の激戦が幕を開ける。


 ◇


「あなたたち…誰?」

 突然茂みから現れた白髪をボサボサにした少年、瑠璃紺色のショートボブの髪を持ち、黒紫色の毛を持つ巨大な魔獣に跨る少女、長い黒髪をウェーブにした少女、そして黒髪のショートヘアの同年代らしき4人に向かって月奈はそう言った。

「獣鬼…この人達、違う」

 すると、黒髪の12歳程の少女がそう言った。

「あ、そっかこいつらは俺を見てねーのか」

すると次の瞬間、


ヒュッ


カキィッ!


「っ何!?」

「チッ…外れた」

魔獣に跨っている少女が舌打ちしてそう言う。どうやら小型のククリナイフのようなものを投げたらしい──予兆もなく。

狙ったのは────

「私の娘に手を出そうとは……死を覚悟しての事だな?」

今は寸前でナイフを弾いた人間の姿をした幻獣に守られた、葉月であった。

(──父さん……!?)


※小説家になろうの方では後書きで新年の挨拶をさてせいただいてます!是非そちらもご覧ください!(しかしほとんど談笑)

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黄昏戦線、侵攻開始! ねこっちゅ @Necottyu

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