魔法少女・マジカルアイドル 春ノ風サクラ

立早 のノ乃

その名は魔法少女・マジカルアイドル 春ノ風サクラ!

「キャァァ――――!!」

 平和な横浜の街で、突如として悲鳴があがる。大勢の人々は突然現れた異形な怪物から逃げ惑っていた。

「ニィィィィダニダニダァ! シュート練習の邪魔だニダ! 怪我をしたなければそこを退くニダ!」

 体長は2メートルを超え、全身が赤くソフトマッチョな肉体をした特撮ヒーロー番組顔負けな人型の怪人が、ゲスな笑いをまき散らしながら車道を我が物顔で闊歩する。その不気味なまでに吊り上がった細い目で無作為に的を定めると、黒く染まったサッカーボールを次々と蹴り飛ばす。その強靭な足腰から蹴り放たれたボールは、車のフレームを大きく歪ませ、カフェテリアの窓を突き破り、ゴミ箱を派手に吹っ飛ばしていく。もし人に当たりでもすれば大怪我は免れない。

 街の平和が、人々の命が危機に晒されているというその時、一人の少女の凛々しい声が響き渡る。

「横浜の街の平和を脅かす悪の怪人! その悪事、即刻やめなさい!」

「むぅ! 何者だニダ!?」

 少女の声に続くように、今度は街中にあるスピーカーというスピーカーから『ジャッジャーンッ!』という軽快なBGMが流れ、あらゆるディスプレイ機器の映像が一斉に切り替わる。そこに映し出されたのはビルの屋上に佇む一人の少女。可愛らしい青と黄色の衣装を身に纏い、金髪ツインテ―ルに星型の造形が印象的なステッキを手にするその少女の姿は、まさに子供向け魔法少女アニメに登場するキャラクターそのものであった。

「横浜の街の平和を愛する! 魔法少女・マジカルアイドル・七ツ星ステラ! ここに光臨!」

 少女がポーズ付きのセリフを決めると同時に、背後では派手な爆発と共に紙吹雪が舞い散り、スポットライトが少女をキラキラと美しく照らし出していた。

(……ふふっ。今日も完璧に決まったわ。さすがわたし)

『……ねぇ、ステラ。いつも思うのだけど、ハートフルエナジーを大量に消費してまで、ここまで派手に演出する必要ってあるの?』

 ステラの横にいるスコティッシュフォールド(耳の折れた小さく可愛らしい猫)が流暢な日本語でぼやくようにステラの脳内に直接語り掛ける。

「これでいいのよ。ファンを熱狂させればさせるほど、エナジーをもっと集められるんだから」

 マジカルアイドルを名乗るステラの登場に、どこから現れたのか大勢の大きいキモイお兄さんたち、もといステラのファンが声を張り上げていた。

「ステラちゃぁぁん! 頑張れぇぇぇぇ!!」「今日も最高に可愛いよぉぉぉぉ!!」

「みんなー! 応援ありがとー! みんなのおかげで今日もパワー100倍だよ!」

「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」

 ステラが笑顔でファンに手を振って応えると、ファンは激しく興奮し発狂する。

 そんなファンの大きな声援をかき消すように、今度はスピーカーから別の男の笑い声が高らかに響き渡る。

「ガァ――――ハッハッハッハァッ!! 現れおったな。マジカルアイドル七ツ星ステラ!」

 ステラが映っていたディスプレイに、今度は白髪の老け込んだおっさんの顔がどアップで映し出される。

「ん? おい、カメラが寄り過ぎだ。もっと引かんか」

「ドクター・シュヴァルツ! この騒ぎはやっぱりあなたの仕業だったのね!」

「ゥオッホンッ。ご名答ッ! マジカルアイドル・七ツ星ステラよ! 私が創り出した今度の怪人はこれまでの比ではないぞ! ……そう。あれは昨晩、サッカー世界ワールドカップの日〇戦の生中継を観戦していた時のこと、日本が負ければ、さぞかし負の感情に染まったダークソウルエナジーが回収できると期待に胸を躍らせ相手国を応援していたのだが、しかぁしっ! 結果はまさかの日本の快勝……。人々が歓喜するニュースが飛び交う最中、私は悔しさに打ちひしがれていた。だがどうだ! 突如、黒晶石がこれまでにないほど黒く輝き始めたではないか! そう! 日本に大敗した隣りの国のモーレツな恨み妬みの感情が、かつてないほど強大なダークソウルエナジーとなって、この横浜の地にまで届いたのだ! その爆発的なエネルギーを基に生み出されたのが、そこにいる蹴球殺法怪人・パク・ニーダなのだぁ!」

 ドクター・シュバルツはモニター越しに、ビシィィッ! っと巨漢の怪人を指差す。

「ニダァァァァァァ! 我々は負けてなどいないニダ! あれは日本人選手どもが狡猾で卑怯な手を使ったに違いないニダ! 絶対に、絶ぇ対に許さないニダァァァァ!」

 強い恨みで怒り狂う怪人に対して、その一方的な言い分にステラはイラッと顔を歪ませると、声を張って反論する。

「はぁぁ!? ふざけたことほざくんじゃないわよ! そっちが怪我をさせるような危険なプレーを何度も繰り返して、何人も勝手に退場処分にされただけじゃないのよ!」

「黙れニダァァァァ! 買収ニダ! きっと審判を買収したに決まっているニダァァァァ!」

「いいぞぉ! 蹴球殺法怪人・パク・ニーダよ! その日本人に対する強い恨みをマジカルアイドルにぶつけてやるのだ! ステラよ! 今日でキサマらマジカルアイドルもお終いだなぁw! ガァァ――ハッハッハッハァ!」

 シュヴァルツの勝ち誇った笑い声を最後に、ブツンッと映像の中継が切れる。

『気を付けてステラ。ドクター・シュヴァルツの言ってた通りよ。あの怪人が放つダークソウルエナジーはとてつもなく強力よ』

「フンッ。そこまで言うなら試してやろうじゃないの。ハナっから全力で必殺技をぶつけてあげるわ!」

 ステラはマジカルステッキを大きく天に掲げる。 

「天にあまねく星々よ――、世界を照らす光たちよ――」

 ステラが詠唱を始めると、彼女を中心に光の粒子が降り注ぎ始める。

「我が想いに応え――、悪を滅する聖なる輝きとなれっ――」

 光の粒子がステッキの先端へと収束し、一つの強く煌く星型のエネルギー体が形成される。

「――……ぁわわわわわぁっ!! 誰か止めて止めてぇぇ――!!」

「――スターセブン……、え……?」

 ステラが魔法を放とうとした瞬間、背後から助けを求める叫び声が割り込んできた。ステラが声のする方向へ振り向くと、そこには猛スピードでステッキにまたがって空を猛スピートでブッ飛ぶ少女が眼前にまで迫っていた。

「ちょっ!?」

 あまりにも唐突なことに、ステラが回避する猶予などありはしない。

「ぐぶぅへぇ!?」

 ステラはそのまま空飛ぶ少女にはねられると、二人仲良くビルの屋上から地面へと落下した。

「ふぇぇぇぇ~~。怖かったよ~~(グスングスンッ)」

 ステラを下敷きにしながら、激突してきたピンクのショートヘアーの少女はえぐえぐと涙ぐむ。

「……あ、ん、た、ねぇ~~(ビキビキッ)」

 下敷きになっていたステラは少女を跳ね除けると、頭から大量の血を吹き出しながら、怒りの形相で少女に詰め寄る。

「よくもよくも! 私の最大の見せ場を台無しにしてくれたわねぇっ!」

「はうぅ~~。ずみまぜんずみまぜん。ワザとじゃないんですよぉ~」

 別の意味でド派手な登場となった少女の出現に、周囲の男性たちからは歓喜の声が一斉にあがる。

「謎の3人目キター!!」「新人のウサギさんパンツに期待!!」「これから応援するよー!!」

 その少女もまた、ピンク色の髪に桜の花をイメージしたファンシーな衣装、そしてステッキを手にしていることからステラと同じく魔法少女であることは間違いなかった。

 彼女は、先日に起きた怪人事件が初の登場であったのだが、自分の名前も正体も明かすことなく、怪人を倒すとすぐにその場から逃げるように去ってしまったのだった。しかし、その可愛らしい容姿によって、既に男性人からは人気が急上昇していた。

「やっぱカワユイ!」「名前教えて――!」「ファンになったよーー!」

 そんな熱烈なファンの声援に、ステラは更にワナワナと怒りで拳を握りしめる。

(ぐ、ぬ、ぬ、ぬぅ~、あぁ腹立たしいったら! 前回突然現れたと思えば、おいしいとこだけを持って行っていきなりのこの人気ぶり。しかも私のファンもごっそり持って行かれたのがもう超、超、超ムカツクのよ! こんな間の抜けたキャラのどこが良いって言うのよ!)

 そんな怒り心頭するステラに、ピンクの少女の背中にしがみついていたカピバラ(茶色い毛をした可愛らしいネズミ)が不敵な笑みをステラに向ける。

『分かっておらんのぉ、ステラのお嬢ちゃんよ。これがまたたまらなく良いもんなんだぜぇ。これがなぁ』

 可愛らしい見た目に似つかわしくない年老いたおっさんの声で、ステラの脳内に語り掛ける。

(……勝手に心を盗み聞きするんじゃないわよ。こんな変な娘を魔法少女にしたのはあんたね)

『どうじゃ。最高じゃろう?』

(はっ。全然なってないわ。こんな狙ったようなキャラの人気なんてどうせ長続きしないものよ。今は〝謎の3人目〟なんていう変な肩書で注目されているだけなのよ。いいわ、マジカルアイドルとして、所詮私には遠く及ばないってことを証明してあげようじゃない)

 ステラは一度呼吸を整え、姿勢を正した。そして、堂々と立ち振る舞う。

「あなたっ、あなたはいったい何者なの!?」

「えっ? わたし? えぇぇぇっとぉぉ~……」

 突然、ステラから舞台劇のような演技掛かったセリフと立ち振る舞いで指差された少女はしどろもどろとなり、どう受け答えればいいのか困惑してしまう。

(……あぁ~もう! なんてトロくさい娘なの!)

「あなた、ちょっとこっちに来なさい!」

 ステラは少女の腕を掴んでどこかへと連れて行こうとする。

「お、おい待つニダ!? こっちを無視してどこに行くつもりニダ!」

 すっかり忘れ去られ放置されていた怪人は、立ち去ろうとする二人を慌てて制止する。

「ちょっとタイムよタイム。すぐに戻って来るからそこで大人しく待ってなさい!」

 ステラはその場にそれだけを言い残して、誰の目も届かないビルの屋上へとピンクの少女を連れて飛び去って行く。

 ステラは、二人だけになると少女を厳しく怒鳴りつけた。

「あんた、もっとしっかりやりなさいよ!」

「ひんっ!? ご、ごめんなさい~。で、でも、しっかりって言われても、なにをどうしたらいいか、分からなくって」

「はぁ~~。ちょっとそこの変態ネズミ! なんでこんな見た目がちょっと可愛いだけの、頭のネジが緩んでそうな娘を魔法少女に選んだのよ!」

『ネズミではない! カピバラじゃ! この愛くるしさが分からんのか! まぁそれはいい。彼女を魔法少女に選んだ理由、それはじゃな、ステラのお嬢ちゃん。彼女こそが真の魔法少女の素質を持っておるからなのじゃ!』

「――!? 真の、魔法少女の素質?」

『ちょっとステラ。あんまりそいつの言うことを真に受けない方が良いわよ』

 スコティッシュフォールドの呆れたようなため息などを気に留めこともなく、カピバラは長々と語り始める。

『ワシは、その素質を持つ少女を求め、横浜の街中を探し続けた。それは何日にも及ぶ過酷な日々であった。もうこの街には、真の魔法少女の素質を持つ者などいないのかもしれない、そう諦めかけたときじゃった。ついに彼女を見つけたのじゃ!』

 カピバラの真に迫る語りに、ステラは思わず息を飲む。

『彼女は毎日当たり前のように寝坊し、階段をすっ転んでは「遅刻ちこく~!」と言いながら食パンを加えて家を飛び出し、そんなときでも横断歩道ではお年寄りにやさしく手を貸してあげ、無事に登校に間に合ったかと思えば、宿題のノートを忘れていることに気がついてしまうのじゃ。……これ以上の逸材が果たして他にいるじゃろうか? 否! 彼女こそが真の……」

「ちょっと待ちなさいよ! お年寄りに手を貸す話以外、まったくもってどうでもいいことじゃないのよ!」

 思いもよらない内容に、ステラは話に割って入る。

『なにを言うのじゃ! ドジっ娘属性無くして魔法少女などあり得はしないのじゃ! 彼女こそがドジっ娘の中のドジっ娘! キング・オブ・ドジっ娘と呼ぶにふさわしい真の魔法少じょ……』

 ステラはカピバラの首根っこを鷲掴むと、腕を天高く振り上げ地面へと思いっっっきり叩き付けた。

『グボォアァァ!?』

「そのドジの所為で迷惑を被るのはこっちなのよ!」

 カピバラは内臓が破裂したのか、口から血を流しながらビクンビクンッと息絶えようとしていた。

「で、あなた!」

「は、はいぃぃ!?」

 ピンクの少女はカピバラのことなど大して気にも留めずに、なにかを探すように辺りをキョロキョロと見ては、ソワソワと落ち着きのない様子であった。

「……なに? どうかしたの?」

「あ、えっとぉ~。今日はその、まだステラちゃん、だけ?」

「あん? ……ああ、ユキのことを言ってるのね。あの遅刻常習犯はまだ来てないわよ」

「……そう、なんだ」

「あんなヤツのことなんて今はどうでもいいのよ! それよりもあなた! 名前は? 名前はなんていうのよ?」

「え? あ、そっか。まだちゃんと挨拶してないもんね。私は、さ……」

「念のために言っておくけど、本名を訊いているわけじゃないから」

「さく、ら~~……」

 少女はどこか上ずったような声で「さくら」とだけ名乗る。

「サクラ? それがあなたのマジカルアイドルとしての名前? ふ~ん」

 ステラのもの言いたげそうな表情に、サクラはドキドキしながら固まってしまっていた。それもそのはず、彼女の本名は桜庭小春(さくらばこはる)。魔法少女としての偽名など全く考えてなどなく、ステラが指摘していなければ素で本名を名乗ろうとしていたのだった。

 そんな彼女に代わって、瀕死のカピバラが答える。

『そうじゃな(ゼェゼェ)、そやつを名付けるとするのならば、魔法少女・マジカルアイドル春ノ風サクラ、じゃ(ゼェゼェ)。サクラよ。後のことは頼んだ、ぞ……(ガクリッ)』

 カピバラはその言葉を最後に力尽きる。

「春ノ風サクラ、ね。ま、覚えやすくて悪くはないんじゃない」

「うん。よろしくね。ステラちゃん」

 このステラの言葉に、サクラはほっと胸を撫で下ろす。

「それと、一応忠告しておくけど、自分の正体や素性は絶対に誰にも明かすんじゃないわよ。私たちは悪の組織と戦っている以上、もし正体がバレでもしたら、家族や友人にどんな危険が及ぶか分からないんだからね」

「あ、そっか。うん、気を付けないとダメなんだね」

「あなた、なにも分かってないようね。いいわ。私が先輩としていろいろ指導してあげるわよ」

「本当!? ありがとう! ステラちゃん!」

「だからってあんまり馴れ馴れしくしないでよね。私はお友達ごっこをするつもりなんてないんだから。それじゃあ、さっそくあなたが3人目の魔法少女・マジカルアイドル春ノ風サクラってことをお披露目しようじゃないの」

「お披露目? どんなことをするの?」

「簡単よ。いつも私がやっているみたいにカッコ良く登場して、堂々と名乗ればそれでいいのよ」

「あれ!? ステラちゃんがいつもやっているあれを私がやるの!? 無理! そんなの無理無理絶対ムリだよ!」

「こんなことで怖気づいてどうすんのよ! 私たちマジカルアイドルには重要なことなんだから! ほら、これ以上ファンを待たせない! 覚悟を決めてとっとと行く!」

 ステラはサクラをビルから突き落とさんばかりの勢いで背中を蹴飛ばして、ビルの端へと追いやる。

 サクラはビルの縁に立たされると、大勢から注目を浴びる。

「ひぇぇぇぇ……」

「ほら、演出始めるわよ。ビシッと決めなさい!」

 ステラは自分のときと同じく、また軽快なBGMを響かせ、周辺のモニターにサクラを映し出し、後に引けない状況へと追い込む。こうなっては覚悟を決めて、当たって砕ける他無い。

「まっ……魔法少女っ、マジカルアイドル、は、春の風サクラ、ですっ。えっと、が、頑張ります! です……」

 サクラの名乗りとタイミングに合わせて、最後にパパンッと小さな破裂音とパラパラと少ない紙切れが舞う。

「……あれ? なんかいつもより演出がショボくなってない? ステラちゃん」

「ん~~? 気のせいじゃない?」

 そんな手の抜かれた演出でも、大勢のファンからは「かわいいぃぃ!!」「サクラちゃん頑張れぇぇ!!」と熱い声援が送られる。

「え、えへへっ。なんか、すっごいドキドキして恥ずかしいけれど、不思議な気分だね、これ。それで、この後はどうしたらいいの?」

「そうねぇ~。とりあえず、ちゃんと前は見といた方がいいわよ」

「前?」

 サクラは視線を前へと戻した瞬間、強烈な勢いで迫り来るサッカーボールに顔面をクリーンヒットされ、派手に吹っ飛ばされてしまった。

「キャンッ!?」

 ドダンッ プチッ

「ギョエェェェェ!?」

 サクラはカピバラを圧し潰すように倒れ込むと、そのまま目を回してしまっていた。

「キサマらぁ! バカにしてるのかニダァ!?」

 サクラにボールをぶつけた怪人は、ブチギレ寸前の勢いで怒鳴っていた。

「さんざん待たせておいて、いったいどんな作戦や連携を練っているのかと思えば、なんなんだ今のは!? ふざけるのも大概にするニダァ!」

 怒り狂う怪人であったが、サクラの登場に盛り上がっていた場の空気をぶち壊されたファンからは、避難と罵声を次々に浴びせられる。

「ふざけているのはてぇめだクソ怪人!」「サクラちゃんの顔にボールぶつけてるんじゃねぇぞ、クズが!」「消えろ! ゴミ! 死ね!」

「…………グガァァァァアアアア!! 黙れニダァァァァアアアア!!」

 我慢の限界を超えて完全にブチギレてしまった怪人は雄叫びをあげ、サッカーボールを怒りに任せて罵声を浴びせるファンへと蹴り放った。

 一般人がその強烈な勢いで迫り来るサッカーボールを防ぐ手段など当然なく、無暗に逃げ回るか、その場で身を屈めるのが精一杯であった。

「スターセブン・バリアー!」

 そんなファンの危機に、ステラが魔法を詠唱する。光り輝く星型の壁が形成され、すべてのボールを弾き返し、ファンを見事に守ったのである

「やっぱり、まだまだ新人には荷が重いみたいね」

サクラと入れ替わるように、再びステラがビルの上に姿をみせていた。

「天に星の輝くが煌く限り、悪の栄えた試し無し! この横浜の街と人々は、このマジカルアイドル七ツ星ステラが必ず守って見せるわ!」

 サクラと違い、その貫禄さえ感じさせる立ち振る舞いと行動に、助けられたファンからは称賛の声があがる。そして、ステラはその声援に内心密かに酔いしれるのであった。

(ウフッ。ウフフフフフフッ。かなりうまくいったわ。あんな娘より私の方が格上だと十分に印象付けできた。これでより強く美しく頼れる私の人気がまた上がるってものよ)

 そんな愉悦に浸るステラに対して、怪人もまた不敵な笑みを浮かべていた。

「この俺のシュートを止めるとはいい度胸ニダ。後悔させてやるニダ」

「やれるものならやってみなさい!」

 二人の間に激しく火花が飛ぶ。魔法少女と怪人の激しい戦いが始まろうとしていた。

『こらっ!、サクラ、目を覚ますのじゃ! このままじゃお前の見せ場がないまま終わってしまうぞ!』

「うぅ~~。世界がぁ~、グルグルゥ~、回ってるぅぅ~~」

 そんな中、サクラは未だに目を回したまま、周囲からは完全に放置されてしまっていた。

 怪人は、手のひらから先ほどまでより更に禍々しいオーラを纏ったサッカーボールを作り出す。

「今度のはさっきのとは違うぞニダ。果たして止められるかニダ?」

 そして、怪人はそのボールを再び人々へ向けて蹴り放つ。

「何度やっても同じことよ!」

 ステラは大勢のファンを守るため、光の壁を何枚も広範囲に隙間なく形成する。

 だが、蹴り放たれたボールはそのうちの一枚に命中すると、今度は弾き返される事無く、バリアーを突き破り、人々の隙間をすり抜けてコンクリートの壁を粉々に破壊した。

「そんな!?」

「ニィィィィダニダニダニダ! 今のボールは我々がシュート力を強化するために開発された特製鉛入り超重量サッカーボールニダ! その重さは20キロを超え、破壊力は通常の何倍にも跳ね上がるニダ! 運良く人に命中はしなかったが、今度は外さないニダ! 止められなければ死人が出るニダァァ!」

 とてつもない破壊力を目の当たりにした人々は再び逃げ惑い始める。

(まずい、まずい、まずいわ! バリアーを何枚も重ねれば、どうにか防げるかもしれない。でも、それを広範囲にとなれば、大量のエナジーを消費するし、攻撃を続けられたらジリ貧で守り続けるなんてできない! でも、やらないと人々が)

「そぉら、逃げろ逃げろニダ! どんどん行くニダ!」

 怪人が脚を止めることなく、5個6個と続けてボールを躊躇無く蹴り放つ。対して、迷いが生じてしまっていたステラは、その躊躇によってわずかに魔法の発動が遅れてしまう。

(しまった!? 間に合わない!)

 ボールの一つが逃げる人に命中する瞬間――。

「だめぇぇぇぇ――――!!」

 叫んだのはサクラであった。

 そして、突然ボールは強力な重力にでも引き寄せられるように、ズドンッと鈍い音を立てて地面へと落下する。ボールの周囲には、ピンク色に輝く桜の花びらが舞っていた。

「……これは、そっちのピンクのマジカルアイドルの仕業かニダ。なるほど、高質量のボールの重さを更に倍加させ地面に落とすとは、咄嗟によく思いついたものニダ」

 このサクラの意外な機転と活躍に感嘆の声が上がる。

 一方で、ステラは奥歯を噛みしめていた。

(このこんちきしょうがぁ~! とぼけた顔に似合わない器用なマネをしてぇ~! 私を差し置いて目立つんじゃないわよ!)

(あ、危なかった~……。ボールを軽くするつもりだったんだけど、逆になっちゃったよ。でも、うまくいったんだし、黙っててもいいよね? うん、ここは誤魔化しとこう)

「ま、街の人への危険なマネだけは、絶対にさせません!」

「(チィッ)……その通りよ! よく言ったわサクラ! サッカー怪人! これ以上好き勝手にはさせないわ! 今度こそ、私の全力でこの街から消滅させてあげるわ!」

「フンッ。面白いニダ。やってみるニダ!」

「サクラ、私があいつを倒すだけのハートフルエナジーを溜めている間、あなたは防御に専念、あいつの攻撃をさっきの要領で防ぎなさい!」

「う、うん。分かった。やってみるね」

 ステラはステッキを構え、再び詠唱を始め、光のエネルギーを集める。

(これ以上、醜態は晒せない! せめて、あの怪人は私が仕留めないと!)

 対して、怪人は手を出すことなくその様子をただ黙って見ていた。

「随分と余裕をかましてくれるじゃない! でも、その油断が命取りよ! 塵に消えなさい! スターセブン・メテオシューート!」

 ステラは、形成した星型の輝くエネルギー体をステッキで弾く。星の光は七つに弾け飛び、互いに交錯しながら、流星群のごとく怪人へと飛来する。

(これを喰らって、倒れなかった怪人なんていないんだから! これで決まりよ!)

「ニィィダァァ……」

 だが、怪人は全身に力を込め、そして――。

「蹴球殺法流・奥義! 九頭竜烈風脚ニダァ!!」

 力強い発声と共に放たれる蹴りは音速を超え、脚がいくつにも分裂したかのように錯覚させる姿は、まさに複数の首を持つ龍。その強烈な蹴り技で、ステラの攻撃をすべてを一瞬で弾き飛ばしてしまった。

「――!? そん、な……」

 呼吸を整え静かに佇む怪人からは、ダメージを受けた気配は一切感じられない。

「ニィィィィダニダニダニダ。今のが全力かニダ? まるで話にならないニダ」

 ステラは黙ったままその場で立ち尽くしてしまう。

「……ステラ、ちゃん?」

 その様子に、サクラも心配そうにそっと声を掛ける。

「なにも言わないでっ! 大丈夫よ、この程度のことで、負けを認めたりなんか私はしないんだから!」

 ステラは、まるで自分自身に強く言い聞かせてるかのように声を張り上げる。

(今のではっきりしたわ。私の力が確実に弱まってる。いくらあの怪人が強敵だからって、今までの私なら無傷だなんてこと絶対にありえない。それもこれも、サクラにファンを取られたて私を愛してくれていたファンのハートフルエナジーが減った所為。でも、それは私がアイドルとしての実力が不足しているって話よ。クソッ、自分の情けなさに腹が立つ。悔しいけど、今はあいつが来るのを待って、協力して怪人を倒すしかない)

「ニィィィィダニダニダニダ。ここまで力に差があるとは思わなかったニダ。このままいたぶるのも悪くないが、一方的な勝負というのも面白味に欠けるニダ。だから、特別にチャンスをくれてやるニダ。ひとつゲームをしようニダ」

「ゲーム?」

「そうニダ。サッカー勝負ニダ」

 怪人の背後に伸びる影が大きくうねるように歪む。その影からズルズルとサッカーゴールが生み出される。そして、手のひらからはまた新たなサッカーボールを出現させた。

「今から15分以内に俺からこのボールを奪い、後ろのゴールにシュートを決められたら、お前たちマジカルアイドルの勝ちニダ。そのときは大人しく負けを認めて引き下がるニダ」

「そんな口約束、信用できると思っているの?」

「信じる信じないはそっちの勝手ニダ。だが、勝負から逃げるかニダ?」

「いいわ! その勝負受けてやろうじゃない! こっちは2人でも構わないのよね?」

「もちろんニダ」

「えぇ!? 私もやるの!? 私サッカーなんてできないよ」

「なに情けないこと言ってるの! 安心なさい。マジカルアイドルに変身している状態なら、身体能力もかなり底上げされてるからまったくの役立たずなんてことにはならないわ。それに、ルールありのゲームで2対1なら勝ち目もある。しっかり頑張んなさいよね」

 ステラは、嫌がるサクラを連れてビルの屋上から怪人の目の前へと降り立つ。

「さぁ、勝負よ! サッカー怪人」

「ニィィダニダニダ。これはサッカーの勝負ニダ。こちらはもちろん、11人で行かせてもらうニダ」

「は?」

 突如、怪人の全身から新たな頭と手足がニョキニョキといくつも生え始める。

「ひぃぃっ!? グロいよぉぉ」

 怪人は瞬く間に11体へと分裂した。

「「「我ら、蹴球殺法怪人軍団! チーム・ニダースニダ」」」

「ちょ、ちょっと!? ふざけるんじゃないわよ! 2人に対して11人なんて卑怯じゃないのよ!」

「言いがかりニダ」「そっちも11人の選手を用意すればいいだけのことニダ」「人数が足りないのは、そっちの落ち度ニダ」「それとも、降参するかニダ?」

「「「ニィィィィダニダニダニダ」」」

 11体の怪人はゲスな笑い声で合唱を奏でる。

「なにが勝負よ。こんなの圧倒的にこっちが不利じゃない」

『いいや。これは逆にチャンスかもしれんぞ。分裂した分、個々の力も分散されているはず。こちらにも攻めるスキはきっとあるはずじゃ』

「……いいわ、その条件で受けてやろうじゃないの!」

「良い覚悟ニダ。特別サービスニダ。最初のボールの所有権はそちらからで構わないニダ」

 リーダー格の怪人は、ステラの足元へとボールをパスする。

「どこまでも見下してくれるじゃないのよ。速攻でケリをつけてあげるわ!」

「試合開始ニダ!」

 怪人の一人が勝負開始の合図として、ホイッスルを鳴り響かせた。

「サクラ! ゴール前にダッシュ!」

「は、はいぃ!」

「バカめニダ。この人数差でパスなんてさせないニダ!」

(少しでも囮になってくれれば、それで十分なのよ)

 ステラいきなりシュート体制へと入る。サクラとの連携などハナッから考えに入れていない。作戦はただ一つ。

(おそらく、今この瞬間が最初で最後のチャンス! 蹴ると同時にボールにハートフルエナジーを注ぎ込めば、ボールを自在に操ることなんてわけないのよ。そのままゴールに叩き込む!)

 ステラはシュートを放とうと大きく脚を踏み込む。だが――。

「遅いニダァ! 蹴球殺法流・関節粉砕スライディングニダァ!」「蹴球殺法流・殺人タックルニダァ!」「蹴球殺法流・脳天踵落としニダァ!」「蹴球殺法流・フルスイングホームランニダァ!」

 怪人たちの猛攻が一斉にステラを襲う。

 ステラは超烈な打撃技の応酬によって、全身の骨を砕かれた後、最後には頭部を鉄釘バッドの殴打で鈍い音と共に宙を舞い、関節があらぬ方向へ力なく曲がりくねる姿は、まるで糸の切れた操り人形のようであった。

「グッ、ゲハァァッ……」

 そのままステラは固いコンクリートの地面にベチャリッと落下する。

「ス、ステラちゃぁぁぁぁん!?」

 サクラは慌てて駆け寄って抱きかかえるが、ステラは頭から大量に流血し、指先一つも動かせない状態であった。

『あー、ダメだなこりゃ。魔法少女である限り、この程度で死にゃしないが、当分の間は動けんぞ』

「ステラちゃん、起きて! 死なないでぇぇ~~!」

 ステラは重傷にもかかわらず、気合で意識を保っていた。

「……お願いだから、身体をそんな揺すらないで。マジで意識が飛びそう」

「ニィィィィダニダニダニダ! 他愛もないニダ!」

 重傷を負わされたステラは、当然の抗議を口にする。

「今のどこがサッカーなのよ! 無茶苦茶じゃない!」

「ふむ、おい、お前ニダ」

 リーダー格の怪人は、バットを手にする怪人の一人を指差す。

「手や道具を使ってはいけないニダ。その行為はサッカーへの冒涜ニダ。キサマは退場ニダ」

「!? こ、これは、ちょっとした出来心ニダ!」

 リーダー格の怪人が指をパチンッと鳴らす。途端、バットを持った怪人は塵と消える。

「さぁ。サッカーを愚弄する愚か者は排除したニダ。これでなにも問題無いニダ」

「大ありよ! 誰がどう見たって全員が反則プレーだったじゃない! この怪我が見えないの!」

「あの程度で怪我ニダ? ただの露骨な反則アピールにしか見えないニダ」「あれで怪我をするなど、我々からすれば考えられないニダ」「鍛え方が足りないニダ」

「「「ニィィダニダニダ」」」

 他の攻撃を仕掛けた怪人たちは、呆れたような態度を見せるが、その表情は露骨な笑みを浮かべていた。

(くそぉがぁぁ! 怪人相手にまともな勝負を期待した私がバカだったわ)

「さぁ! 次はキサマの番ニダ!」

 怪人は、今度はボールをサクラの足元へコロコロとパスをする。

「いやあぁぁ~~! こっちにパスしないでぇぇ~~!」

 ボールに触れてしまった途端、どんな攻撃をされるか分かったものではない。サクラはステラを乱暴に放り捨てながら、迫る来るボールから必死に逃げる。

「おおっと、逃がさないニダ!」

 サクラの逃げ道を怪人の一人が塞ぐ。気が付けば怪人達はサクラを中心に取り囲んでいた。そして、サクラに向けてパス練習のようにボール回しを続ける。

「さぁ。早くボールに触るニダ。その瞬間、さっきのマジカルアイドルと同じ目にあわせてやるニダ」

「いやぁぁぁ~~! やめてぇぇ~~!」

 サクラは自分に向かってくるボールから必死に逃げ回り続ける。

「こらぁ! 逃げてるだけじゃ勝てないじゃないの! 少しは根性見せなさいよ!」

「そんなの無理だよ~!」

「ニィィダニダニダニダ。このまますぐに時間切れで、そっちの負けニダ」

 成す統べ無く敗北を待つしかない絶望的な状況に、周囲で見守っていたファンたちはすっかり静まり返ってしまっていた。

 だが、そのうちの一人が震えながらも声を絞り出す。

「が、頑張れ……、サクラちゃん……」

 そして、勇気を振り絞って大きく叫ぶ。

「頑張れぇぇぇぇ!! サクラちゃぁぁ――ん!!」

 その声援は一人から二人、二人から四人へと広がっていく。

「頑張れぇぇぇぇ!!」「負けるなぁぁぁぁ!!」「サクラちゃんファイト――!!」

 気が付けば、熱心なファンだけではない。逃げ遅れて建物などに隠れていた大勢の人々も声援に加わり、頑張れコールの大合唱となっていた。

 そんなサクラに対する大勢の心の底からのエールは、高純度のハートフルエナジーとなってサクラへと注がれる。そして、サクラの体内に収まり切らず、あふれるハートフルエナジーは、薄い光を帯びて光を放ち始める。

『うぉぉぉ! キタキタキタキタ――!! サクラよ。今こそ最大級のハートフルエナジーで、怪人に立ち向かうのじゃ!』

「誰か助けてぇぇぇぇ!」

 サクラの背中にしがみついているカピバラのテンションが高まる一方で、逃げるのに必死なサクラの耳にカピバラの声など全く届いていない。

『こら! 落ち着かんか! 今のお前なら敵の攻撃などまるで怖くはないのだぞ!』

 しかし、サクラは必死に逃げ続けることしかできない。そして、とうとう足がもつれて転んでしまい、足元へとボールが渡ってしまった。

「ニィィダニダニダニダ! どんなにエナジーを得ようとも、こんな腰抜けに恐れることは無いニダ! キサマもあの世に送ってやるニダァ!」

「いやぁぁ~~!! 来ないでぇぇ~~!!」

 サクラの体から眩いまでの光があふれ出す。

『いかん! エナジーの暴走じゃ! 落ち着くのじゃサクラよ! このままでは何が起こるのかワシにも分からんのじゃぞ!』

「死ねぇぇぇぇニダァァァァ!!」

「いやぁぁぁぁぁぁ!!」

 あたり一面が眩しい光に包まれる。

「くぅ!? この輝きは、眩しいニダ。近づくだけで身体が消えてしまいそうニダ」

『やめるのじゃ! サクラ――!!』

 サクラのハートフルエナジーが暴走する直前、サクラは脳天にガツンッとチョップを浴びせられる。

「だひんっ!? ……ほえ?」

「あまり手間を掛けさせるな、新人」

 サクラのエナジーの暴走が止まり光が収まると、そこにはライオンのように大きい大型の犬と、それにまたがる一人の少年がいた。白銀の髪に美しく整った顔、その冷めたような澄んだ眼差しからはどこか儚さも漂わせる。白いマントの下は西洋の騎士を連想させる衣装に、ステッキの代わりに剣を腰に携えるその風体は、魔法少女ならぬ魔法剣士であった。

 その少年を目にしたサクラは、瞳をパァァッと明るく輝かせる。

「ユ、ユキ様ぁぁ~~?」

 少年の登場で、周囲からは一斉に女性の黄色い悲鳴が轟く。

「「「キャ――――!! ユキ様ぁぁ――!! キャ――」」」

 魔法を扱えるのはなにも少女限定というわけではない。魔力の源となるハートフルエナジーをその身に集めることができる人間、つまり、多くの人々から慕われ愛される人物であれば、男性でも魔法を扱うことは可能となるのだ。

 少年は無口で物静かな性格であるが、その澄んだ瞳と相まって、クール&ビューティーという言葉がよく似合うだろう。そんな繊細そうな一面を見せる一方で、怪人と凛々しく、そして勇敢に戦う姿は、まさにヒーローでもあり、魔法剣士・マジカルアイドル凍テ空ユキとして、幅広い女性から絶大な人気を博していた。今、うっとりと瞳を輝かせているサクラも例外ではない。

「やっと来たわね。遅刻常習犯」

 ステラの嫌味に、ユキは軽くそっぽを向いて無視を決め込む。

『こっちにもいろいろあるのよ。これでも急いで来たんだから』

 無口なユキに代わって、肩に乗っていたシマエナガ(白いヒヨコのような可愛らしい鳥)が凛々しい大人の女性の声で答える。

「キサマもマジカルアイドルかニダ。一人や二人増えたところで結果は変わらないニダ!」

「……状況は?」

「サッカー勝負よ。あんたの足元に転がっているボールをそこのゴールに入れさえすれば、私たちの勝ちってことになっているわ。制限時間もあって、……残り数分ってところかしらね。あと、相手はサッカーなんて関係なしに攻撃を仕掛けてくるわよ」

「サッカー?」

「そうニダ! 我々は卑怯な日本人選手に対する強い恨みのダークソウルエナジーから生み出された蹴球殺法怪人軍団ニダ! この恨み、サッカーで晴らしてやるニダ!」

「あくまでも、サッカーで決着を付けたいか。いいだろう。その余興に付き合ってやる」

「ニィィダニダニダニダ! キサマにもサッカーの真の恐ろしさをたっぷりと味わわせてやるニダ!」

「ワトソン、お前は安全なところへ」

 ワトソンと呼ばれた超大型犬は頷くと、ビルの壁をあっと言う間に駆け上がッて行く。

『それじゃ。頑張んなさい。ユキ』

 シマエナガも犬を追いかけてその場から飛び去る。

「それと新人」

「ふぁ、ふぁいっ!? ななんでございましょうか!?」

「お前のような足手纏いは要らない。ヘタに動かれても邪魔なだけだ。俺のきっちり10メートル後ろでただ大人しくしていろ。それ以外の行動は一切するな」

 その口調はとてもトゲトゲしいものであり、普段の無口で物静かな印象とはかけ離れていた。サクラは、この言葉を聞くや思わず固まってしまう。

「あーあ、ユキ、あんたもうちょっと気を遣いなさいよ。その娘もあんたのファンだったようじゃないの。ホントに容赦無いんだから。サクラ、残念だけどこいつはこういうやつなのよ。周囲の一般人には魔法で声が漏れないようして、表向きは無口な美少年で通してるけど、実際は口は悪くて態度は最低で性格は最悪なただのクソガキなんだから。ショックでしょうけど、現実を受け入れなさい」

 ステラの慰めなど、今のサクラの耳にはまるで届いていなかった。

「…………ウヒェヒェヒェヒェ」

「サ、サクラ?」

 サクラは奇妙な笑い声をあげると、のぼせた様に頬を赤く染め、よだれが口から垂れんばかりにトロットロにとろけた表情をしていた。

「うへへへぇ、ユキ様の声とっても素敵です~。サクラはユキ様の言うことなら何でも聞きます~。デュヘヘヘヘ」

(う、うわぁ~。あの娘も相当、頭のネジがぶっ飛んでたわね)

「ニィィダニダニダニダ。キサマ、サッカーがたった一人でできるとでも思っているのかニダ? 仲間を邪魔者扱いするようなヤツにサッカーをする資格などないニダ」

「ご託はいい。とっととかかって来い。このゴミ虫以下のヘタクソども」

「このクソガキがぁぁぁぁ! ぶっ殺してやるニダァァァァ!」

 ユキの毒のある罵倒に煽られ、取り囲んでいた怪人達が一斉に襲い掛かる。しかし――。

 ザァッ! ザァッ! ザァァァッ!

「な、なにぃぃニダ!?」

 怪人たちが繰り出す反則攻撃の嵐を、ユキはボールを維持したまま、華麗に躱していく。

「バカなニダ!? この無駄の無い動き! そして、自然なまでのボールとの一体感! いくら魔法が使えようとも、ここまで完成された動きは素人にはできないニダ! こいつ、サッカーのセンスが段違いに高いニダ! 危険ニダ。今ここで確実に潰さなければ、将来とてつもない選手となり、我が国の脅威になるに違いないニダ!」

「驚いているところ悪いが、俺はサッカーになんて毛ほども興味はない」

 ユキは怪人達の攻撃を躱し、次々に抜き去ってゴールへと突き進む。そんなユキのヒーロー的活躍に黄色い声援にも熱が入る。

「「「キャ――!! ユキ様ぁ――!!」」」

「うぇへへへへ。ユキ様ぁ~。お待ちになって~」

 サクラもそんなユキの姿に見惚れながら、ユキの指示を律義に守り、きっちり10メートル後ろを維持しながら付いて走る。

「おのれニダ! ここだけは絶対に通さないニダ!」

 リーダー格の怪人が、ユキの前に立ちはだかる。

 そして、他の怪人たちと同様にむやみに飛び込むことはせずに、真っ当に相手の動きの先を読み、ユキの行く手を遮ることで進撃を止める。

「へぇ。少しはできるか」

「舐めてもらっては困るニダ。力技だけがすべてではないニダ。そう、こういうテクニックもあるニダァ!」

 怪人がなにかを仕掛けたのか、突然、ユキは手で顔を覆ってしまう。

「ぐぅぅ!?」

 怪人の細長い目から緑色の強烈な怪光線が放たれ、ユキの目を襲い視力を奪っていた。

「ニィィィィダニダニダニダ! 超高出力レーザーポインターニダ! マジカルアイドルと言えど、暫くの間は視力が戻らないニダ!」

「ちぃぃ! クソが!」

「これで終わりではないニダ!」

 怪人が脚を上げると、その足裏から鉄製のなにかがギラリと光る。

「この特性カッタースパイクでそのきれいな顔をズタズタに引き裂いて、テレビでは放送できない真っ赤な血で染めてやるニダ! 喰らえニダ! 蹴球殺法流・奥義! 鳳凰旋風脚ニダァ!」

 怪人は身体を上下逆向きに高く飛び上がると、オーバーヘッドシュートの体制をとる。両腕を左右に広げ、天に片足が伸びるその姿はまさに羽ばたく鳳凰。そして、その体制から強烈な蹴り技と共に、鋭利な刃の特性金属スパイクがユキの顔面へと襲い掛かる。

 しかし、ユキは視力を奪われているにも関わらず、その攻撃を紙一重で回避する。

「なにぃ!? こいつ、見えているのかニダ!?」

「さあ? どうだろうな?」

「くぅ! いや、その閉じ切った瞼、確実に見えてはいないはずニダ! 魔法か! キサマ、魔法を使うとは卑怯ニダ!」

「やれやれ、どこにそんな証拠がある?」

 ユキが今見えているのは、上空から全体を見下ろしている光景であった。ユキは事前に、ワトソンと呼ぶ大型犬と魔法で視覚を共有していた。そして、ビルの上にワトソンを待機させることで、常に自分を含めた敵味方全員の動きをその視界に捉えていたのだった。

「それと、文句を言ってる暇はないぞ」

「なにぃ!? な、無い!? ボールが消えているニダ!?」

 ユキは大きく息を吸い込んで、後ろに向かって叫ぶ。

「決めろ! 新人!」

「へ?」

 ボールはサクラの足元へと渡ろうとしていた。

「バックパスだとニダ!? まずいニダ! あいつには誰もマークに付いていないニダ! 完全にフリーニダ! まさか、狙っていたのかニダ!? ワンマンプレイを装い挑発までして自分だけに注意を向けさせたのは、すべてこいつの作戦だったニダ!?」

「えぇぇぇぇ!? う、嘘!? わたし!? 私がやるの!?」

『チャンスじゃサクラ! ここまで来たら覚悟を決めるのじゃ!』

「そうはさせないニダ!」

 リーダー格の怪人は慌ててサクラを妨害しようと駆けだす。だが――。

 ガキンッ! バッターン!

 怪人はなにかに躓いて、派手にすっ転んでしまう。

「くぅ、なんだニダ!? 脚の裏になにかが……、こ、これは、空き缶ニダ!? クソッ、スパイクに刺さって取れないニダ!」

「そんなスパイクを履いているそっちの自業自得だな」

「これもキサマの仕業かニダ!?」

「さぁ? 誰かがゴミ箱をひっくり返したようだが、それが誰なのかは知らないな」

 ゴミ箱を吹っ飛ばしたのは怪人であるが、散らばっていた空き缶を拾って怪人の足元に放ったのはもちろんユキである。

「誰かあいつを止めるニダァァ――!!」

「一気に決めろ! 新人!」

「悔しいけど、ここまで来てハズしたら承知しないわよ! サクラ!」

 それは誰の目から見ても、最大のシュートチャンスであった。その瞬間は誰もが注目し、拳を握りしめ、期待と願いを胸に、熱い想いを込めて声を張り上げる。

「「「いけ――――――っ!!」」」

 その声援に、背中を押されるようにサクラは意を決して足を踏み出す。

「ま、マジ、カル……、シュ――――トォ!」

 ボールを蹴り込む瞬間、サクラへと注ぎこまれる膨大な量のハートフルエナジーはボールへとすべて放出され、ダムが決壊する勢いの如くあふれ出すエナジーは美しく輝く桜吹雪を舞い起こしながらボールを一直線に打ち出した。

 シュートを阻止しようと、接近していた怪人たちはその放出される光り輝く桜吹雪に飲み込まれ、浄化されるように次々に消滅する。

「「「ニ、ニダァァァァ――……」」」

 ボールはそのまま、キーパー怪人の真正面へと一直線に突き進む。

「絶対に入れさせないニダァァ――!!」

 キーパー怪人は、両腕をまっすぐ前に突き出し、ボールを真正面から受け止める。

「ぬおぉぉぉぉぉぉニダァァァァ!」

 ボールは、キーパー怪人の腕を徐々に飲み込み、最後には上半身を吹き飛ばすに至る。だが、キーパー怪人の渾身の抵抗により、わずかに軌道が上へ逸れたボールは、ゴールポストにガンッと弾き返されてしまうのであった。

「「「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」

 その瞬間、大勢の阿鼻叫喚の悲鳴がその場を覆い尽くす。

「うはっ、うはははははぁっ! やったニダ! これで我々の勝利ニダァァ!」

 誰もが落胆とショックを受ける、そんな中――。

「おぅりゃぁぁぁぁ!!」

 全身複雑骨折の重傷であったステラが渾身の力で飛び込み、こぼれたボールに額を強引にぶつける。そして、ボールはついにゴールネットを揺らした。

「「「うぉぉぉぉぉぉ! いやっっった――――っ!!」」」

 落胆のため息は、一気に歓喜の悲鳴へと一変した。

「おらぁぁぁぁぁぁ!! 見たかぁっ! 私が主役! 私がナンバーワン! 私がマジカルアイドルのトップなのよぉぉぉぉ!」

 ステラはうつ伏せに倒れたまま、右手を突き上げ、声を張り上げた。

「す、すごい! すごいよ! ステラちゃん!」

 サクラはステラの上に見事なダイブを決め、抱え起こすと今度はブンブンッと振り回して喜びを表現する。

「グホォッ! 喜ぶのは良いけど、お願いだからもっと怪我人を労って」

「………………無効だニダ」

 歓喜が湧く中、唯一生き残ったリーダー格の怪人がワナワナと肩を震わせていた。

「今のゴールは、無効ニダ! 反則ニダ! ファールニダ! オフサイドニダァ!」

「えぇ!? 今のゴールってオフサイドだったの!? そんなぁ~!?」

「そんな訳ないでしょうが! あれのどこが反則だって言うのよ! 言いがかりも甚だしいわ!」

「黙れ黙れ黙れニダァ! 無効ニダ! 我々の勝ちニダァァァァァァ!」

 怪人のこの苦し紛れの抗議には、当然のように避難が浴びせられる。

「ふざけるんじゃねぇ!」「クソ怪人!」「サイテーのゴミが!」

「グガァァァァァァァァ!! もうこうなったら実力行使ニダァァァァ!」

 血涙を流しながら狂乱した怪人は、サクラとステラに向かって猛突進する。

「そんなぁぁぁぁ!? こっち来ないでぇぇぇぇ!」

「キサマらをサッカーボールにしてやるニダァァァァ!」

 ヒュンッ!

 かすかな一陣の風が、怪人の動きを止める。

「ぐがっ、ニ、ニダァ……」

「クズは大人しく死んでな」

 キラキラと雪の結晶が舞う剣をユキは鞘へと納める。

 ユキの斬撃による一閃が、怪人を真っ二つに両断していた。

「ガアァ……、我々は、祖国の威信のためにも、絶対に、負けられないニダ。負けは、許されない、ニダァ……」

「下らない。見栄のために暴力で勝っても、自分たちが野蛮人だと公言してるのと同じだ。そんな低俗なヤツらにスポーツをやる資格はない。勝っても負けても、楽しくやるのがスポーツさ」

「フッ。ガキの戯言ニダ。……だが、少し、うらやましい、ニダ……」

 怪人は力尽きると同時に、最後は派手に爆発四散して消滅した。

 危機は去った。そして、人々はマジカルアイドルたちに感謝と称賛を声にして送る。

「さて、終わったなら、俺は引き上げる」

 ユキは大型犬のワトソンを近くに呼び寄せると、ワトソンにまたがる。

「はいはい。お疲れさん」

「ああああのっ、ユキ様っ!」

 そっけないステラとは対照的に、サクラはユキを慌てて引き留める。

「私っ、ユキ様のこと、その……、ファンなんです! だから、握手、お願いできませんか?」

 サクラはユキに握手を求めるように手を伸ばす。しかし、ユキはサクラに冷たい視線を向けると、その手を拒絶するように払いのける。

「うざったいんだよ、そういうの。アイドルだのファンだのと。それなのにキャーキャーと勝手にはしゃぎ騒ぐ。正直言ってそういうのは大っ嫌いなんだ」

 サクラはしばらく言葉を失ってしまう。そして、ポロポロと泣き始めてしまった。

「な!?」

「ちょっとユキ! 女の子泣かしてるんじゃないわよ! デリカシー無さ過ぎ! 本っ当に無神経なんだから! 謝んなさいよ!」

 サクラに泣かれ、おまけにステラには激しくまくし立てられてしまっては、さすがのユキも狼狽えてしまう。

「俺はただ、もてはやされたりとか、そんな扱いを受けるのが嫌なだけで、……ごめん。俺の言い方がマズかった。泣かせるつもりは無かった」

 ユキは慎重に言葉を選びながら、そっと白い清潔なハンカチをサクラに差し出す。

「(グスッ)私のことを、嫌いじゃ、ない?」

「嫌いどころか尊敬する。女の子なのに、身体を張って悪から人々を守ってるんだ。それに俺たちは同じ魔法使い、仲間じゃないか」

「ふ~ん。ってことは、ユキは私のことも実は尊敬していたのね」

「ふざけるな。お前の場合、自分が目立ちたいだけだろう」

「それ言ったら、サクラだってあんたにお近づきになれるとか、そんな不純な理由に決まってるじゃないの」

「そうだとしても、人々のために戦っていることに違いはない」

「ちょっとー! 私だって全力で戦っているんですけどー!」

「だから、お前の場合は……」

「あのっ……」

 二人が口論する中をサクラが割って入る。

「お二人って、やっぱり仲が良いんですか?」

「「はぁ!?」」

「こんな不愛想で正義バカと仲が良い訳ないでしょ!」「こんな自己中なアイドルオタクと仲が良い訳ないだろ!」

「ほら、でもよく言うでしょ。喧嘩するほど仲が良いって」

「くだらない! 俺はもう行く!」

「おーおー、さっさと帰れ帰れ!」

「……サクラっていったか? さっきはほんとに悪かった。これからよろしく頼む」

 ユキは謝罪の気持ちも込めて、サクラに和解の握手を求める。

「は、はい! こちらこそ、ユキ様と友達になれればとっても嬉しいです!」

「友達に様付けはないだろ。ユキで構わない」

「えっと、それじゃあ。……ユキくん」

 サクラは親しい呼び方をできたことがよほどうれしかったのか、キャーキャーとはしゃぐ気持ちを抑えられないでいた。

 ユキは呆れつつも、元気になったサクラの様子を見るとその場から去って行ってしまう。

「ようやく邪魔者はいなくなったわね。さぁ! サクラここからが本番よ!」

 ユキがいなくなると、今度はステラのテンションが上がっていた。

「え? まさかステラちゃん、その大怪我でいつものあれやるの? 無理だよ! すぐにちゃんと治療しないと!」

「なに言ってるのよ! やるに決まっているでしょ! 今は最高に気分が良いからサクラも一緒に歌わせてあげるわよ。なんたって最後にシュートを決めたのはこの私なんだから。まさか私の歌を知らないなんてこと、言わないわよね?」

「知ってはいるけど……」

 この言葉を聞いて、ステラはニィッと笑い、そしてファンに向かって叫んだ。

「よぉぉし! みんなぁぁ――! 今日はいつもよりも盛大にいくわよぉぉ! しかも、今日は3人目のマジカルアイドル・春ノ風サクラも参加してくれるそうよぉぉ――!」

「「「いえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!」」」

 ステラの掛け声に合わせて、ファンが一斉に歓喜の雄叫びを上げる。その場はまさにライブ会場のような熱気を放っていた。

 ステラは、マジカルアイドルという肩書の通り、魔法少女以上にアイドルとして、歌に踊りにファンサービスといった活動に力を注いでいる。怪人を倒した後のライブパフォーマンスはもはや定番となり、このライブを見るために危険を顧みず、大勢のファンが押し寄せるのである。そして、そのアイドル活動に力を入れるからこそ、ファンの熱い想いが高純度のハートフルエナジーとなり、結果的にステラ魔法使いとしての力を得られるのである。

 今回はサクラのライブ参加もあり、これまでにないほどの盛り上がりとなっていく。

 そんな光景を一台のドローンが遠くから撮影する。その映像の送信先では、ドクター・シュヴァルツが地団太を踏んでいた。

「おのれぇぇぇぇ! マジカルアイドルどもめぇぇ! 次こそは! 次こそは必ず倒してやるぞぉぉぉぉ!」


 こうして、今日もまた横浜の平和は守られるのであった。

 彼女たちマジカルアイドルと悪の組織のあくなき戦いは、きっとこれからも続くのである。


「はぁぁぁぁ~~。今日はすっごく疲れたよ~~」

 サクラはライブもどうにか無事に乗り越え、自宅の浴槽の中で一日の疲れを癒していた。

「でも、これからもユキ様に会えるなら、……うへへへへへぇぇ~」

 サクラはユキのことを思い出しながら、顔を緩ませる。

『なにはともあれ、無事でなによりじゃ。これからは三人力を合わせれば、どんな凶悪な怪人相手でも戦うことができるじゃろう』

「………………」

 いつからそこにいたのか、カビバラがお湯の溜まった桶の中でゆっくりとくつろいでいた。

「ん? なんじゃ黙り込んで。ほほぉ。サクラもこのカビバラの入浴姿の愛くるしさに癒されておるのじゃな。うむうむ、いくらでも眺めていてよいのだぞ」

「いやぁぁぁぁぁぁ!? なんでいるのよエッチ――――!!」

 サクラは窓から桶ごとカビバラを外へと遠くブン投げて放り出す。

「ぬわぁぁぁぁ!? 小動物に対してなんという扱いじゃぁぁぁぁ!!」

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魔法少女・マジカルアイドル 春ノ風サクラ 立早 のノ乃 @tachibaya_nonono

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