第3話 元カレの言い分
春文という男は、どこまでも自己中な男らしい。クリスマス後にそんな噂があっという間に広がった。
広げたのは美冬でも、もう一人のキープさんでもない。
自業自得というやつだろう。
あろう事か、自分が婚約しているのに美冬に迫られた、と言い出していたらしい。
それが美冬の耳に入った頃には「春文は自己中」というレッテルが貼られていたのだ。
「迫ってないよ?」
「だよね~~。色香より食い気のあんたが、あんな馬鹿男に引っかかるわけないもんね」
同じ部署の同期に言われるとちょっとだけ痛い。引っかかってました、とは言えなかった。
「そんなことよりもさ、その噂に対してうちのお局様と二課の平さんがもの凄く怒っててさ」
平さん、その名前を聞いた瞬間美冬はどきりとした。春文のもう一人のキープさんの名前である。
「お前のせいで、俺の評価が下がった! 何てことをしてくれるんだ!」
誰もいないところでいきなり春文に怒鳴られた。
「わ……わたし……」
何も言ってない! そう言う前に春文に頬を叩かれた。
「お前が言い出したんだ! お前で収束しろ!!」
ぶっちん! 美冬の中で何かが切れた。
「私何も言ってませんよ。春文さんとの関係だって一度も会社の人に言ってませんし!!」
言いふらしたのはあんただろ! その言葉は飲み込んだ。
「とりあえず、お前のせいだ! お前が何とかしろ!」
そう言い捨てて春文はその場を去った。
「むかつくーーーーー!!」
言い方にも色々あるだろ! 自分の不始末をどうして私が!! 美冬のその怒りは目の前の壁にヒットした。
「……いちゃい」
流石に、八つ当たりした先が悪かった。手がもの凄く痛かった。
彼女と彼とお酒 神月 一乃 @rikukangetu
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