10 世界
誰も、何も言わなかった。
静まり返った広間の中、感覚が麻痺したかのような時間がしばらく続いた。
やがて再び、王子が口を開いた。
「……ああ、お前がユンだな。プライに生き写しだと聞いている。この目で顔を見られないのが残念だが」
「どう、して……私のことを、知って……」
ユンが呆然とつぶやいた。彼は王子の封印後に生まれたはずだから。
「彼女に教えてもらったよ。お前たちがフリーダに来た頃から、彼女とは何度か話をしていた」
「アーマさんと?」
全員の視線がアーマに集まる。アーマが一歩前に進み出て、言った。
「やっとお会いできたですね、王子様」
にっこりと、アーマは笑った。
「おじいさまの持っていた肖像画見たときから、お会いしたいと思ってたです。ユン様も、ずっとずっとお父さまに会いたいと思ってました。ディジーさんも、ウォルくんも、ゼゼ様も、みんなユン様のお父さま助けたいと思ってたです」
不意に、アーマの声の調子が変わった。
「だから……殺して欲しいなんて、思っちゃダメなんです。
あなたは死んじゃいけないんです」
「アーマさん……」ユンも、他の者たちも、絶句している。
穏やかな声で、王子が答えた。
「君がそう言ってくれることは、本当に有難く思うよ。だがな。
……私が生きて帰ることを、この国の者たちは望んでいるか?」
一同、はっとする。
「民は、私を恐れているはずだ。〝モンスターに支配された王子〟。そんな者が還ってきて王になって、果たして民は従ってくれるか?
かといって新たな王を立てるとしても、私が生きている限り、彼らは私の帰還を怖れ続けなければならない……」
王子は静かに微笑んだ。
「フリーダのためには、私は死ななければならないのだよ。それに、そのほうが私も気が楽だ。もう、疲れた……」
「フリーダのためにはそうかもしれません。でもユン様のためには違うです」
きっぱりとアーマは言い切った。
「フリーダの王様は、別の人でもなれるです。でも、ユン様のお父さまは一人しかいないです。たとえ〈
一瞬、王子は非常に驚いた。それから少し嬉しそうな表情になる。
「……久しぶりだ。そう呼ばれるのは」
「国のために死ななきゃいけないなら、〝死んだこと〟にするです。どうせ〈浄化〉したら、影も形もなくなっちゃうですし、本当は生きてて、どこかよそに行ったとしても、国の人たちにはわかりっこないです」
それは王子にも予想外の意見だったようだ。しばらく考え込み、だがやがて、ゆっくりと首を横に振った。
「……君の話は、わかるよ。だがな、やはり無理だ。
君たちは、私ごとディルムントを〈浄化〉するべきなんだ。その剣を使って、奴を私から解放してはならない。なぜなら、奴は……うっ!!」
突然、王子が苦しみ出した。
「ジェダ様!?」
「……早く、この場を離れろ……〈浄化〉する能力がないなら。これ以上、抑え、きれない……奴が……目覚、め……」
「……父さん!」
ユンが叫んだのと同時だった。王子の身体から発せられるディルムントの気配が、一瞬にしてけた違いに膨れ上がった。
そして彼は玉座から立ち上がり、真っ赤な目を見開いた。
(何者だ、お前たちは)
全員の頭の中に、直接意志が鳴り響いた。
「ディル、ムント……」
さすがの高司祭ゼゼも、蒼白になる。
(あの忌々しい魔術師め……どこだ、ここは。お前たちが我をここへ連れてきたか?)
「……王子が抑えていた間のことは、記憶にないのか……」
つぶやくユン。怯まずにアーマは答えた。
「あなたをここへ連れてきたのは、ジェダ様です。
そして私たちは、ジェダ様を助けに、ここへ来たです」
(助ける? この者をか?)
王子は笑っていないのに、笑っている気配だけが伝わってきた。
(笑止な。我を倒さんとすれば、この者も死ぬぞ。もっとも、お前たちでは我を倒すことも不可能だがな)
「あなたは倒すです。今は無理かもしれないけど、いつかきっと倒すです。
でも、ジェダ様は絶対に助けるです」
(……身の程知らずが。ならば、やってみるがいい!)
言うが早いか、ディルムントに支配された王子が、魔剣〈ディルムント〉をふりかざしてアーマに襲いかかってきた。素早くディジーがその前に出て、自らの剣で〈ディルムント〉を受け止める。
「ディジーさん!!」ユンが叫ぶ。
「ユン様、心配すんなって。あたしは必ず、こいつの身体にこの剣で一発くらわしてやるよ」
顔色は青ざめていたが、口元には笑みを浮かべていた。
(……女。それも魔剣か)
「そうさ。あんたの兄弟剣だよ。もっとも、完成させたのはこのコだけどね。ユン様、アーマは頼んだ!」
「……わかりました。アーマさん、こっちへ」
ユンがアーマの手を引いて下がらせようとしたとき、
「うわあああっ、モンスター!!」
広間の入り口付近で、ウォルフの〈火矢〉が炸裂した。
ディルムントが呼んだわけではない。だが、強大になったディルムントの気配に反応して、城内にいたモンスターたちが暴走し出したのである。ゼゼなども急いでそちらの抑えに回る。
その音を合図のように、王子とディジーの戦闘も始まった。
王子ジェダ・ローは、自身がかなりの剣の腕前の持ち主だった。純粋に王子とディジーが戦っても、恐らく王子の方が勝っていたろう。
だがディジーの目的は、剣で彼に勝つことではない。とにかく一撃を当てること。それで、王子の身体の中からディルムントの精神を叩き出すという目的は果たせるのだ。それくらいなら、できる自信はあった。
だが……王子が繰り出してくる巧みな剣技を、身体にかする程度で何とかさばき続け、防戦一方とは言えダメージはほとんど受けていないはずなのに……異常なほどに、身体の力が、抜ける……。
「……魔剣に、吸い取られて……?」
視界がかすんで、ディジーの身体がぐらりと揺れた。
彼女の前で、魔剣〈ディルムント〉が大きく振り上げられた。
「〈浄化〉!!」
背後から回り込んだユンが、ギリギリのところで〈浄化〉を叩き込んだ。もともと彼の〈浄化〉は威力が低く、ディルムント相手では一瞬怯ませる程度の効果しかない。
(……小賢しい真似を)
だが不快には違いないらしく、ディルムントは標的をディジーからユンへと変えた。ふだんモンスター相手に肉弾戦しているだけあって、ユンの動きも決して鈍くはない。しかし、
「ユン様っ……素手じゃ、そいつは……」
「だいじょうぶ。〈防呪〉かけといたから」
すぐ後ろに来ていたゼゼが、ディジーに声をかけた。広間の入り口一方向からしかモンスターが来ないため、ウォルフ、アーマ、グリーデルでも抑えられているのである。
「あたしじゃ接近戦はダメだしねー。ほら、こっちは今のうちに〈治癒〉」
そう言うとディジーを回復させる。
「正確には魔剣の魔力だから呪いじゃないけど、しばらくは効くでしょ。でも、あんまり長続きはしないと思うから、その前に」
「いいさ。一瞬でも隙があれば、あたしが決める。〈治癒〉サンキュ」
「どーいたしまして」
ユンの全身を覆っている薄い光の膜のようなものが、魔剣を受ける度に白い火花を散らす。しかしその火花も回数を重ねるごとに弱まり、ついにふっ、と〈防呪〉そのものが消え失せた。
「……ユン兄さま! あぶな……」
「〈噴水〉!!」
いつの間にこちらまで見ている余裕があったのか、ウォルフが〈噴水〉を唱えた。オルガン村の外のときのキオー同様、水の柱の中で視界を失う王子。
(次から次へと……)
「これで終わりだ!!」
水の柱が切れる瞬間、大きく跳躍していたディジーの剣閃が弧を描いた。
それは、王子の剣を持っていない左側に綺麗に入り、そのまま王子は数mふっとばされて床に倒れる。
「ディジーさん……」
「ユン様……」
全員が息を呑んで、ぴくりとも動かない王子を見つめる。暴走していたモンスターたちも、沈黙していた。
ぴしっ
小さな、亀裂の入る音がした。
ぴしぴしぴしっ
魔剣〈ディルムント〉に入った亀裂が網の目のように全体に広がると、ぱんっという音を立てて刃の部分が粉々に砕け散った。
「やった!」
「まだです。ディルムントが……」
砕けた剣から、黒い霧のようなものがもうもうと立ち昇る。
その瞬間、純粋なモンスターの気配そのものが、まるで圧力のように全身に振りかかった。
「なっ……!!」
まるで神のように、圧倒的な上位から、ディルムントが語りかける。
(……礼を言うぞ、人間どもよ。
我を、この者の肉体から解放し、真の姿に戻したことにな!)
「真の、姿……?」
圧力に押し潰されそうになりながら、ユンがつぶやく。
(そう。我はもともと、肉体を持たぬ存在。お前たちがモンスターと呼ぶものたちの上位者。この世界でいうところの〈神〉)
「そんな! 27年前は、巨大な怪物だったはずよ! 人間を大勢殺して喰らったじゃない!」
ゼゼが叫んだ。
(あれは、物質的影響力を持つためにモンスターどもを支配して、その肉体から作り上げた仮の姿。それを維持するには、栄養を補給する必要があっただけのこと)
「補給、だって……」
ディジーの声が怒気をはらんだ。
(仮の姿ゆえ、いつでも作れるし、いつでも捨てれる。モンスターどもには、我に従う義務がある。いわば道具。全て我が意のままぞ。
……だがその剣と、その者の身体は我が世界のものにあらず。支配はできても、離脱することができなんだ。我が本来の力を出すことも叶わぬ。
しかし、こうして真の姿に戻ることができた)
「……このこと、だったんですね……王子が言いかけていたのは……」
『君たちは、私ごとディルムントを〈浄化〉するべきなんだ。その剣を使って、奴を私から解放してはならない。なぜなら、奴は……』
「畜生っ!!」
ディジーが悪態をつく。
(さあ、来たれモンスターどもよ。我が新たなる肉体となるがいい!)
「させないわ!」
ゼゼが最大威力で〈浄化〉を使った。広間の入り口にいたモンスターたちはおろか、城の外の一部のモンスターまでが消し飛ぶ。
それだけの威力を持ってしても、広間にいるディルムントを若干弱らせこそすれ、倒すまでにはいたらない。
(
目に見えない衝撃波のようなものが、ゼゼに向かって放たれた。だが呪文を使った直後で疲れきったゼゼには、どうすることもできない。
「ゼゼさんっ!!」
横から走り込んだウォルフがゼゼを抱えて跳んだが、わずかに間に合わず、〝呪い〟を受けたウォルフがぐったりと倒れた。
「ウォルフくん!?」
「……う……」
かろうじて意識はあるようだが、恐らく魔法は使えまい。
「……〈帰還〉は、無理ですね。進退きわまりましたか……」
「まだだ、ユン様! まだグリーデルがいる。あいつの高速なら何とか……」
(さあ、来るのだモンスターども。上位者たる我が命に従え!)
ディルムントの命令に従い、モンスターたちは城の壁をぶち破って次々と大広間になだれ込み、ユンたちの存在すら無視して一か所に集まっていく。それらはまるで粘土細工のように、個々の形を失い違う何かに変貌していく。
きぇーっ
大広間中に突き抜けるように響いた鋭い鳴き声に、はっとユンは振り返った。
「……しまった。グリーデルも、モンスターなんだ。ディルムントの命には逆らえない……!!」
「グリーデルも、あの化け物の一部になっちまうの!?」
「まずいわユン兄さま。グリーデルは〈浄化〉の効かない足輪をしてるのよ。あれまで呑み込まれたら……!!」
きぇぇーっっ
鳴き声の長い余韻を響かせながら、グリーデルがモンスターの肉塊へと一直線に飛んでいく。
「グリーデル!」
きぇぇーっっ
鳴き声とともに、グリーデルの姿がモンスターの中へと吸い込まれていく。
「グリーデル……」
だが、次の瞬間。
「ぐわあああっ!!」
肉塊から発せられたディルムントの絶叫が、大広間を震わせた。
そして、ディルムントの身体を突き破って、グリーデルが姿を現す!
「何故だ! 何故従わぬ!? お前も我が世界のものだろう!」
「グリちゃんは、グリちゃんです」
平然とアーマが言った。
「グリちゃんの足輪は、〈浄化〉の効かない足輪じゃない。誰の命令にも従わない、グリちゃんはあくまでグリちゃんだっていう足輪です。だからストーレシアさんの教えも効かないし、あなたの命令にも従いません」
グリーデルがディルムントに呑み込まれることなどない、とアーマは最初から確信していたようだ。態度に全く動揺が見られなかった。
「……確かに教団の〈浄化〉は、モンスターにストーレシアの秩序を強要するものです。しかし、グリーデルは一個の自由な存在であり、従ってストーレシアにも、異界の神たるディルムントにも束縛されることなく……」
ユンが呆然とつぶやいた。隣でディジーも目を見張る。
「アーマ、あんたって奴は……」
「ディルムントさん」
異界の神である存在に対し、全く対等にアーマは話しかけた。
「あなたは、あなたの世界の決まりをここで押しつけようとしてるです。確かにあなたは、グリちゃんたちの世界では神様かも知れません。でも、ここは違うです。あなたの世界ではないです。
だから、自分の世界に帰ってくれないですか?」
「……何だと?」
「このままこちらにいても、いずれ教団さんがやってきて、あなたを退治するですよ?」
「我に命じる気か!?」
「命令するじゃありません。相談して、提案してるです」
「笑止な! お前やこの場にいる者どもを殺して喰らうことなど、我にはたやすいことぞ! お前の命など、我の意志で決まるのだ!」
「……そうですか」
アーマが悲しそうに、首を横に振った。
「私は、他の人に命令するなんてこと、好きじゃないです。でもあなたは、誰かから命令されないと、聞かないですね」
「そう。上位の者の命には絶対服従するのが、我が世界の秩序。だが、我に命じられる者などどこにいよう!」
ディルムントの声音は、まるで嘲笑しているかのようだ。
しかし、アーマは動じなかった。
「確かにあなたは、あなたの世界の神様です。
……でも、一番えらい神様じゃないですね?」
「なっ……」
明らかにディルムントが動揺した。畳み掛けるようにアーマが続ける。
「上の人の命令には従うのが、あなたの世界の決まりです。だから、あなたより上の神様の言うことには、あなたも無条件に従うですね?
……そう、たとえば、メルペルとか」
その一語は、ディルムントにかなりの衝撃を与えたようだった。
「な、なぜお前がそのようなことを知っている!?」
「こちらの世界には、他の人とか動物とか、それからモンスターとかとでも、気持ちの通じ合える人たちがいるです。私のおばあさまが、そうでした」
ユンもディジーも、それからゼゼやウォルフも、ただ黙ってアーマの話すことを聞いていた。まるで高徳の聖職者の説法を聞いているような気分だった。
「そういう人たちは、この世界だけじゃなくて違う世界にいるものとも、どこかでつながっているです。違う世界のもの……たとえばメルペルとですら、話すことができる。だから、そういう人たちは〈メルペル〉と呼ばれるです」
「……ま、まさかお前がそのようなものだと……」
怯むディルムント。アーマはまっすぐに見据えて言った。
「ディルムントさん。私には、あなたに命令することはできません。
……でも、メルペルさんにお願いすることはできるです。こちらの世界に来て、それで、あなたに自分の世界に帰るように言ってくださいって」
「ま、待て……!」
微笑んで、穏やかにアーマは言った。
「メルペルさん、『OK』、だそうですよ」
突如、まばゆいばかりの光が広間に満ちあふれた。
光の源は、アーマのすぐ後ろ。あまりのまぶしさに輪郭をはっきりと捕らえることはできなかったが、髪の長い、人間の女性の姿に似ているようにも思われた。
「ぐわああああっっ!」
ディルムントが怯えたように叫んで、モンスターたちがぶち破った城の壁から外に逃れ出ようとする。
(動くな)
凛とした意志が、その場にいた全ての者の心に聞こえてきた。呻き声を上げつつも、ディルムントがそこから一歩も動けなくなる。
その、金色に輝くものが、ゆっくりと片手をあげてディルムントを指さすと、厳かに告げた。
(メルペルの名において命ずる。
自らの世界に帰れ、ディルムントよ!)
「ぐっ、ぐわあああああああっっ!!」
破れた壁の向こう、空の一点で、ぐにゃりと何かが歪んだかと思うと、台風の目のような穴が空に開いた。
アーマやユンたち、この世界のものには感じられない突風があたりに吹き荒れたかのように、ディルムント、その身体を形作っていたモンスターたち、そして城の周囲を取り囲んでいた無数のモンスターたちが次々と空中に舞いあげられ、時空の扉の中へと吸い込まれていった。
その突風が治まった後には、信じられないくらいに何事もなかったような、何もいない、静かなフリーダ王都が、視界に広がっていた。
「終わった……の?」
呆然と、ディジーがつぶやいた。
「……みたい、ですね」
自分も信じられないという感じに答えると、ユンはアーマを振り返った。
アーマの後ろには、まだ金色の光がある。しかし、光そのものは大分弱くなっていて、女性のような形をはっきりと見ることができた。
アーマが、その光を見上げて、話しかけた。
「……ありがとうです、メルペルさん。フリーダに来てからずっと、ジェダ様の声を私に取り次いでくれてたのも、メルペルさんだったですね?」
「え……アーマが直接、王子と喋ってたんじゃないの」
ちょっと驚くディジー。何となくそう思っていたのだ。
「アーマさん自身は〈メルペル〉の力はなかったはずです。もしそうなら、私かゼゼが気づいてますから」
そういうユンも、アーマの言葉を聞いて初めてそれを思い出したのだが。
「でも、だとしたらどうやってメルペルと……?」
先ほどよりは幾分穏やかに、意志が響いてきた。
(取り次いでいたのは私です。でも、私はメルペルではないわ。ただの代理)
「代理さん、ですか?」
(そう。私はこちらの世界のものだから。
私は世界で、世界は私。私という人間は死んでしまっても、私は世界と一つになって、いつまでもそこに居続ける。
……よく頑張ったわね、アーマ。オルトもきっと喜んでいるわ)
そう言うと、その光はゆっくりと薄れ始め、やがて消えた。
「……おばあさま、だったですね」
嬉しそうに、アーマが微笑んだ。
きぇーっ
それまで天井付近を舞っていたグリーデルが、悠々とアーマのもとに降りてくる。
「グリちゃん♪」
「あ、グリーデル。あんた、向こうに吸い込まれなかったんだ」
「メルペルの命令ですら強制力失うんですねー、あの足輪」
アーマがグリーデルをなでる。その様子を見守る二人。
「ユン兄さま」
後ろからゼゼが声をかけた。
「手ぇ貸して。ウォルフくんの〈解呪〉したいんだけど、あたし一人じゃ疲れててちょっと。後で、王子の魂も身体に戻さなきゃなんないし」
「そーいえば呪われてましたね。忘れてました」
……気の毒な奴。
というわけで、ゼゼとユンがウォルフの呪いを解いてやる。
「ったく、バカだねえウォルフ。あんたの〈帰還〉が使えなくなったら、下手したら全員死んでたよ?」
「いやー、あのときはつい。あははははー」
ディジーの言葉に、能天気に笑って答えるウォルフ。
「ところでゼゼさん!」
「……はい?」
「魔術師はキライですか?」
唐突な質問にきょとんとするゼゼ。そう言えば城に来る途中にもそんなことを聞かれたのを思いだし、それからふっと笑って、
「……そーねぇ、キライじゃないわよ。好きなほうに入れてもいいかな」
「本当ですか!」
「ただし、ユン兄さまの次に、だけどねぇ」
「……そ、そーですか、あははははー」
ちょっとがっくりしている。頑張れウォルフ。
「ゼゼ様。ジェダ様を」
「そうね。そろそろ」
アーマに呼ばれて、ゼゼが立ち上がった。ユン、ディジー、ウォルフもそのあとに続く。
床の上に、倒れたときと同じ姿勢のまま、少年が横たわっていた。傍らで、アーマとグリーデルが顔をのぞきこんでいる。
「ねえユン様。ジェダ様って、どんな瞳の色、してるでしょうね?」
「え?」
「ほら、さっきは真っ赤でしたし。肖像画は色あせちゃってたから」
「そうですね。……でももうすぐ、わかるんじゃないですか」
「はい♪」
少年の身体に手を触れて、高司祭ゼゼが神への祈りを捧げ始めた。
……そして、やがてその少年が、ゆっくりと目を開く……。
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