9 フリーダ城へ……
ストーレシア教団ロワ神殿の朝は、
「うわあああっ、出たあああっ!」
という悲鳴とともに始まった。
「出たって……まさか、モンスター!?」
「結界張ってあるんですよ? 神殿には近づけないはずです!」
慌てて、悲鳴のした方向に駆けつけるディジーとユン。
パニクってる神官たちの、騒ぎの中心にいたのは……。
「……アーマ。何やってんの、こんなとこで。〈浮遊〉なんか使って」
神殿の廊下の真ん中で、アーマがふわふわ浮いていた。
「幽体離脱しちゃいましたぁ♪」
「……は?」
一瞬意味が分からず、まじまじとアーマを見つめ返すと、確かに身体が透けて向こうの壁が見えている。
「ちょっ……ア、アーマ、それはいったいっ」
「戻れないんですけどぉ、ユン様なら何とかできますよね♪」
にこやかに笑うアーマを見て、ユンため息。
「……私じゃ無理ですねえ。高司祭呼んできましょう」
さてさて。無事ゼゼがアーマを身体に戻したところで、
「アーマちゃん、あなたこういうコトよくあるの?」
よくあってもらっても困る。
「いやあ、さっきアーマさんに『コレで殴ってくれ』って言われてその通りにしたら、いきなり! びっくりしました、あははははー」
実は、最初の悲鳴はウォルフだったらしい。あれがなければ、ロワの神官だって幽体くらいでそうは驚かなかったのだが。
能天気に笑いつつウォルフが差し出したのは、
「あれ……あたしの剣。いつの間に」
ディジーが自分の身体を見回していると、ユンが息を呑んだ。
「……魔剣。作ったんですか」
「えへ♪」
何事もなかったかのように、アーマ起き上がる。
「そもそも、王子様の身体の中にモンスターがいるから、攻撃できないですよね? 下手に攻撃すると、王子様までダメージ受けちゃいますから。
そこで、考えました。ダメージは与えずに、王子様の身体の中からモンスターの精神を叩き出しちゃえばいーんです♪」
全員絶句。
「た、確かにディルムントが王子の身体から離れさえすれば、〈浄化〉だって使えますが……」
「でも叩き出すっつったって、んな簡単に」
「いやでも実際、僕がコレで殴ったらアーマさん、幽体離脱しちゃいましたよ?」
「身体から精神を切り離すことのできる剣、ってことなの?」
アーマ、にっこり笑って答えた。
「はい♪ 魔剣〈カモン! 幽体くん1号(仮)〉ですぅ♪」
「……えーっと」
その場に、言いようのない空気が流れた。
「国を一つ救うかもしれない剣の名前が、そういうのというのは……」
「……ねえユン。知ってる? 魔剣〈ディルムント〉の、製作直後の作者がつけた仮名称。魔剣〈自分の力を受けてみろ!〉。
……あまりにもあまりなので、後で教団で通称つけたって話よ」
「……オルトのじさまも変人だったか……」
ネーミングセンスは祖父伝来だったことが判明した。
「いい名前じゃないですか! あははははー」
ここにも変人の家系がもう一人。
「んーまあ、王子様も一緒に叩き出されちゃいますけどぉ、そこら辺はゼゼ様に何とかしてもらうとゆーコトで♪」
おいおいおいおい。
「……でさ。王子の身体からディルムントの精神を叩き出すのはいいとして、ディルムントは倒せんの」
ディジーの問いに、ユンが考え込んだ。
「……精神、ですよね。先ほどのアーマさんの幽体みたいな状態になるんだと思うんですが」
ユンの言葉にうなずくゼゼ。
「幽体なら、剣とか魔法とかの物理攻撃は効かない代わりに、向こうも人間を喰らうとかいうことはできないわよね。周囲一帯呪ってやる、とかそういう攻撃手段はあるかもしれないけど」
「……呪い?」
「要するに、他者の精神に負の感情を思い切りぶつけてくるわけですよ。よく恨みを残して死んだ人の霊なんかがやってますが」
よくやるなそんなもん!
「教団がモンスターを倒すときは、精神完全消滅させてるものね。冒険者とかが物理的にモンスター倒したあとで、〝呪われた〟っていう事例は聞いた覚えがあるけど。もし、ディルムントほどのモンスターが〝呪った〟ら、どういうことになるのかしら」
一同しばし沈黙した。
「……それで、そのディルムントの精神に攻撃する手段は」
「もちろん〈浄化〉は効きますよ。私の場合は相手に触れないとダメですけど、高司祭なら。……しかし、いくら高司祭でも一人で倒すのは無理でしょう」
「恐らくね」
「でも、高司祭さんたちが集結すれば倒せるんでしょう? それまで待ってから、叩き出せばいいんじゃないのかなー」
「あ、それはまずいわウォルフくん。昨日も言ったけど、〝強硬派〟が揃ってしまうと、聞く耳持たなくなるの。彼ら、オルト・カレの一件もあって、魔術師や魔法も毛嫌いしてるしね。魔剣なんか信用できるか、王子ごと〈浄化〉するのが一番確実だ、って言うんじゃないかしら。
だから、アーマちゃんの魔剣で王子からディルムントを引き離すなら、まだ教団の目がここに届いていない今しかないわ」
「……つまり」
考え考え、ディジーが言う。
「〈
「ディルムント野放しになっちゃいますね、あははははー」
ウォルフの何気ない一言に、一同更に沈黙した。
「……それでも、やるしかないんだろ。王子を助けるためには。こんなこと言うとあのサイア・ベルと同じだけどさ、どのみち教団が退治してくれるんだから、少しの間くらい野放しでもいいじゃん。住民さえ避難させとけば、とりあえず死人は出ないだろ」
「……お気持ちは有難いんですが、ディジーさん。神官の立場としてはそういうわけには……」
言いかけたユンをディジー遮って、
「あたしらは神官じゃないから、関係ないもんね。個人的に、王子を助けたいなーと思ってるだけだし」
「そーそー! そうですよ!」
ウォルフの場合、無責任に同意しているように聞こえるが。
「……私は偵察に行くだけだから。そこで突如ディルムントの動きが活発になったとしても、私は何も見ていないし、教団も知らないわ」
しれっとゼゼが言ってのけた。
「高司祭!?」
「幸い、王都の住民はほとんど避難しているから、一般の人的被害は少しの間防げると思います。高司祭の集結まで、ロワの人員で持ち堪えられれば」
「……申し訳ありません」
「ユンが詫びることではないわ。フリーダの住民も、王子も、命の価値は同じよ。助けられる可能性があるなら、そうしなきゃ」
そう言って笑う。
「王子様助けるなら、時間ないですぅ」
アーマが、昨日と同じことを口にした。
「王子様だって、いつまでもディルムント抑えられないです。ディルムントになっちゃったら、そばに近づくの難しくなるですぅ」
「……それは、そうだね」
ディジーがうなずいた。相手が敵意のない王子ならともかく、ディルムントに斬りかかって剣を当てるのは恐らく至難の業だ。
「だから……早く行きましょう? 今すぐにでも、王子様を助けに」
……フリーダ城へ。
◇
とはいえ、さすがに〝高司祭〟という立場のあるゼゼ・アノは、その日のうちに出発するのは無理だった。「自分は〈剣の王子〉の偵察に行くが、留守中に突如ディルムントが暴れだした場合に備えて」ロワの神官たちに対処を言い含め、翌日出発することになった。
一方アーマ、ディジー、ユン、ウォルフの四人は、一応神殿の者たちをごまかすため、その日のうちに〝帰途について〟神殿を離れ、グリーデルを置いて来た森でゼゼの合流を待っていた。
ロワからフリーダ城は、通常馬車で3日くらいなのだが、
「〈れっつごーグリちゃん1号〉があるですぅ♪」
ということになったのである。これなら多分一日かからずに着く。
さて翌日。
「ユン様、いよいよだね……」
「……そうですね」
何となく緊張しているディジーとユン。そのとき、
「はあいっ、ユン兄さま、お待たっせーっっ!」
ディジーが顔面から地面に突っ込んだ。
「あら? どーかしたんですかディジーさん。きゃはっ」
しばらく忘れていたが、そういえばこの高司祭は神殿の中と外とで人格が変わるのであった。緊迫感ゼロのきんきん声である。
「それにしてもいーい天気! やっぱり神殿の外はいいわねぇ。あたし、ロワにいたらもー肩こっちゃってこっちゃって」
「いやあ、全くいい天気ですねえゼゼさん! こういう日は空気が乾燥して〈火矢〉がとってもよく燃えそうです、あははははー」
ウォルフがわけのわからない同意の仕方をした。
「ず、頭痛が……」
頭を抱えるディジー。このところアーマがぼうっとしていることが多くて手がかからないと思ったら、今度はコレだ。
「……ねえユン様。本当にあのコ高司祭?」
「ええまあ。もっとも、私もマジメな話をしたいときは、手近な神殿に連れていかないと真剣に考えてくれなくて困りますけどね」
そんなヤツ高司祭でいいのか教団!
「あんまり高司祭らしくないところがいいんですよ彼女は。そうでなければ〈剣の王子〉を助けるのを見逃してくれないでしょうし、グリーデルだってとっくに退治されちゃってますから、はっはっは」
「……そりゃまーそーなんだけど……」
ユンの口からゼゼのことを『いい』と言われると、何となーく面白くないディジーだった。
そのとき、ゼゼがグリーデルを発見した。というか最初からいたけど。
「ふっ、出たわねモンスター! このゼゼ・アノが
慌ててユンが止めた。
「だからグリーデルを退治しないでください、ゼゼ」
「あっ、そーだった。いっけなーい。つい条件反射で退治するところだったわ」
その大見得も条件反射なのか。
出発前にいろいろあったが、ようやく〈れっつごーグリちゃん1号〉発進。フリーダ城へまっしぐらである。
「しかし……よくコレに乗るの嫌がりませんでしたね、ゼゼ。モンスター嫌いなのに……まあ好きな人もあまりいませんが」
不思議そうにユンが問うと、ゼゼは即答した。
「キライよ。でもまあ仕方ないんじゃない? 確かにあたしはモンスター全部キライだけど、アーマちゃんがグリフォン飼ってることに関しては、個人の好き好きでしょ」
「……ってコトは、『モンスターはこの世界の生き物じゃないから』とかは、あんたは言わないわけ?」
「教団の理屈としては知ってるわよ、もちろん。んーでも、熊だろーがナマケモノだろーが、襲われた人間にしてみればキライだし、怖いでしょ。普通、人がモンスター怖がるのだってそのレベルだと思うんだけど」
熊はともかく、ナマケモノに襲われる人はそうはいないと思う。
「ただ、普通の人はモンスターに襲われても退治できないしねー。だから『人食い熊を退治するなら熊撃ちの名人、モンスターならストーレシア教団におまかせ☆』、ってコトなのよ。特殊技能よ特殊技能、うん」
やっぱり高司祭として間違ってるぞ、教団!
「自分みたいな被害者をこれ以上出さないように、って、教義の理論とかそっちのけに呪文の特訓ばっかりやってたんですよ、ゼゼは。はっはっは」
「……最初の志は正しいみたいだが、何か方向それてない……?」
「いいんじゃない、それで高司祭なれたんだし」
昇進の基準絶対間違ってるぞ、教団!!
「だから、モンスターはこの世界の生き物じゃないかもしれないけど、生き物には違いないし。人間に面倒かけなきゃ、教団がわざわざ出向いてまで退治しなくっていーんじゃないの?」
「……さっき、条件反射で退治しようとしたのはドコのダレ……?」
「あたしが個人的にキライなんだもんっ。ねえ、ユン兄さま?」
「はっはっは、本当にゼゼはモンスター嫌いですからねー」
そこでユン、ふと気づいたように、
「あ、でもアーマさん、向こうについたらグリーデルは本当に避難させたほうがいいですよ。ゼゼの〈浄化〉は、手を触れなくとも彼女の周囲一帯のモンスター吹き飛ばしますから」
ぼーっとしているアーマ。
「アーマさん?」
「……ああ、それなら大丈夫ですぅ。新しい足輪つけたですから♪」
見ると、確かにグリーデルの足に新しい輪が光っているが、
「……ま、まさか〈浄化〉を防ぐ足輪、ですか?」
「はい♪ ある程度は」
答えて再びぼーっとする。ゼゼとユン絶句。
「……魔術師っていったい……」
「……教団には伏せておきましょうね、コレ。またにらまれますから……」
「ところでゼゼさん!」
突如ウォルフが声を張り上げた。
「ゼゼさん、魔術師はキライですか?」
「え?」
「ほら、教団の人って魔術師キライだって昨日言ってたじゃないですか!」
「あ、そーだわユン兄さまぁ」
ゼゼ、あっさりウォルフとの会話を打ちきってユンに振り替えた。
「ユン兄さまも見るのは初めてよね。……あれが、フリーダ城よ」
遠くに、塔を持つ城のシルエットが、見えてきた。
不意に、ディジーがぶるっとふるえた。
「……なに、このヤな感じ……」
「モンスターの気配ですよ」
ユンが、城を見つめたまま答えた。その表情は険しい。
「モンスターっつったって、まわりには一匹も……」
グリーデルは除く。
「〝ディルムントの気配〟よ、コレは」
ゼゼがつぶやいた。「ハープ村でずっと感じていたのと同じ。でも、何て大きさなの……」
城の姿は、まだ小さい。けれども、そこにいるディルムントの気配は、こんなところにまで届いている。
「……ディジーさん、アーマさん、それにウォルフくん。やっぱり……」
「『あなた方は来ないほうがいい』とか言うんじゃないよ」
ディジーが釘をさした。
「二人だけでなんて行かせるもんか。あたしだって、ユン様の父さんこの手で助けたいんだよ」
「……ディジーさん、何か意地になってませんか?」
「うっさいね、んなことないよ」
「あっ、僕もみなさんのお役に立ちたいです!」
ウォルフの立候補はあっさり聞き流された。
「これだけの気配だ、下手するともうディルムントが王子を支配してしまっているかもしれないんですよ!?」
「だったら尚更だよ。あんたやそのコより、あたしのほうが剣での動きは速いはずだ。この剣は渡せないね」
そうこうしているうちにも、一行の乗るリヤカーは城へと進んでいく。
「うわあああっ、下!」
久々にウォルフが動転した。言われて下を見下ろす面々。
「……なに、あの数……」
呆然とディジーがつぶやく。すでに一行は、王都の上空に到達していた。眼下に広がる都の至るところを、モンスターが埋め尽くしていたのである。
「……上位者である、ディルムントの命令に従って……?」
「違うと思うです、ユン様」
一点を指さしてアーマが言った。
「ほら、あそこ。種類の違うモンスターどうしで、ケンカしてるです。キオーさんのときには、あんなことなかったです」
「制御はされてないのね。ディルムントの気配を感じて集まって来ただけなんだわ。ってことは、今はまだ王子がディルムントを抑えて……」
「うわあああっ、上にもいるっ!」
慌てて上を向くと、そこには10何匹かの
それらは一斉に、自分と種族の違うグリーデルめがけて襲ってきた。
リザードフライはサイズがグリフォンより小さいので、本来ならグリーデルの敵ではない。しかし今は数が多い上に、グリーデルの行動の自由が制限されている。高速飛行で振り切ろうとしたが、振り切れない。
「ディジーさん、グリちゃんのロープ切ってください!」
リヤカーとグリーデルをつないであるロープである。これさえ切れば、グリーデルは自由に動ける。リヤカーには〈浮遊〉がかかっているので、いきなり落ちるようなことはない。
ディジーが短剣でロープを切った。リヤカーは慣性で前進し続け、グリーデルVSリザードフライの現場からは遠ざかる。
しかし、前方から来た別組のリザードフライに、正面から激突する格好になった。リヤカー粉砕、モンスターのいる地上へと落下する。
「うっ、うわあああっ、えーとえーと、〈砂場〉!!」
動転しながらも、ウォルフがとっさに魔法をかけた。彼の真下を中心に地面が砂と化す。のはいいのだが、威力の制御が全くないので、かなりの範囲が円状のアリ地獄みたいになった。
その上に落ちた一行。砂がクッションになったのでケガはないが、結構深くめりこんで動きがとれない。しかし、アリ地獄の範囲内にいたモンスターも全部、同じ運命だったのが幸いか。
モンスターが砂を抜け出して襲いかかってくるより前に、
「〈浄化〉!!」
ゼゼが呪文を唱えた。ウォルフの〈砂場〉を越える範囲のモンスターが一瞬にして蒸発するかのように消滅し、砂が噴水のように舞い上がった。それよりやや外側にいたモンスターも、後方へ弾き飛ばされている。
その間に、何とか一行も砂の中から抜け出した。今の〈浄化〉に恐れをなしたのか、しばらくモンスターも攻撃してくる気配はない。
「モンスターだって生き物だもんね、自分より強い相手に
「王子からディルムントを叩き出したら、ディルムントだけでなく、これらのモンスターも襲いかかってくるわけですか……」
ユンが周囲を見回す。後方にリヤカーの残骸。
「王子を救出した後、アレで高速で脱出するのをアテにしてたんですがね」
「別にリヤカーじゃなくても、〈浮遊〉かけれればいいんでしょう!」
「確かにそうなんですけどね、ウォルフくん。問題はこの囲みを突破できるか、ってことです。これを全部相手にするのはさすがにキツいですよ。私たちにも、それからグリーデルにも」
今、グリーデルはリザードフライと空中戦を繰り広げている。ときどきリザードフライの死体が降ってくるので、優勢ではあるようなのだが。
「……これは本気で、ウォルフくんに頼らざるを得ないかもしれませんね。〈帰還〉に」
アーマやウォルフには、キオーが使っていた〈帰還〉の呪文の、魔法陣を張るほどの技術はない。しかしウォルフの場合、本当に危険なときには祖母のエナ・カレが持っている魔法陣に戻れるように、普段からしてもらっているのである。技術はともかく魔法の威力だけはやたらにあるウォルフのこと、全員を連れて戻るくらいの芸当はできる。だがもちろん、その戻り先は……。
「エーレハイルに、帰っちゃいますよ?」
「死ぬよりマシだろ」
ディジーがあっさりと言った。
「ま、何にせよ、これであたしらも引き返すなんてことはできなくなったわけだし? 今は、みんなで王子を助けることだけ考えようじゃん。ね?」
「……そうですね」
ユンが苦笑した。「こうなったら一蓮托生ですか」
「ユン兄さま」
ゼゼが横から袖をひっぱった。「……そろそろ、来るよ。モンスター」
「ふぁっはっはっは、出たなモンスター! このユン・シュリが、光皇ストーレシアに代わって成敗してくれる!!」
「おーっほっほっほ、出たわねモンスター! このゼゼ・アノが、光皇ストーレシアに代わって退治してあげるわ!!」
「ええいっ、うるさいぞあんたらっ!!」
並んで高笑いしている神官二人に向かって怒鳴るディジー。
「とにかく城へ向かう!! アーマも、ウォルフも。いいねっ!!」
ディジーが仕切らないと物事が先にすすまないという。
「ウォルフ、あんた魔法使いすぎんじゃないよ。あんたが疲れて〈帰還〉使えない、とかなったら困るんだからね」
「あっ、それならゼゼさんもじゃないですか? ディルムントと一緒に叩き出された王子の精神、戻せるのゼゼさんだけでしょう!」
「つーコトだから、ウォルフとあんたは温存! ちょっと聞いてる!?」
「はあい。じゃ、あとユン兄さまよろしく」
「ふっ、任せろ。とりゃあっ! どぅりゃああっ!!」
張り切ってモンスターを倒すユン。
とにかく城に辿り着かないと話にならないのだが、さすがにユン一人では無理がある。ウォルフとゼゼは小出しに戦いつつ、ディジーも剣でモンスターを薙ぎ払い(幽体離脱させただけなので、厳密には倒していないが)、さらには
「〈必殺! クモの巣くん2号〉!」
「〈待て待て! 自動追尾くんRX〉!」
アーマのこれまでの発明品オンパレード。ちなみにこのRXというのは50m相手を追いかけるオノだ。懐かしいが、どうやって持ってきたんだ。しかも、
「〈続け! 矢ブスマくん3号〉!」
いつの間に改良したのか、ウォルフを巻き込まないヤツができてるし。
きぇーっっ
それでもグリーデルはもれなくついてくるようだ。リザードフライはどうしたお前。
混戦の末、城の入り口にまではどうにか、グリーデル含め全員到達。
中に入った途端、急にあたりが静かになる。モンスターがいないわけではないのに、動かないのだ。どうも萎縮しているようだ。
「ディルムントを恐れてるのね……」
「ゼゼ。あなたは城の内部構造わかりますか?」
「ゴメン、中には入ったコトないの。執政とかに顔知られたくなかったから」
「〝謁見の間〟ですぅ」
アーマが、そう言うとすたすたと歩き出した。
「ちょっ、アーマ、あんたどこへ」
「……呼ばれてるです。こっちですぅ」
まるで、よく知っているところのように、迷いもせずに歩いていく。
――そして、アーマに導かれるまま一行の辿り着いた先は、国王が公式に謁見するときに使われる大広間だった。奥の一段高いところに、玉座が一つ据えられているが、もちろん王は長年不在なので、その玉座に座る者はずっといなかった。しかし、今は……。
「〈剣の王子〉……」
ユンがつぶやいた。
かつてオルガン村のオルガンから出てきた肖像画と同じ姿の一人の少年が、そこには座っていた。右手には剣を握り、その瞳は眠っているかのように閉じられている。
その少年が、目を閉じたまま、口を開いた。
「……やあ、よく来たね。君がアーマ・カレか」
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