第2話 神様とか仏とか、そういうのは所詮人が作った物だから。

 私はオフィスの奥にあるロッカー室にそそくさと入ると、持っていたカバンをロッカーに入れてスーツのを脱いでカッターシャツの上に仕事着…もといドレスに着替える。フリルがふんだんに付けられ、色は桃色。裾が長くて鬱陶しい。

 このドレスも実は心理効果などにいい兆しを与えるとかなんとか聞いたことがあるがどうなんだろう。

 薄暗いロッカー室は朝の日ざしは届かない。まるで、時が止まっているような奇妙な感覚に陥る。日光というのは時間の象徴なのかもしれない。

 着替え終えると、ロッカー室を出てそそくさとオフィスを出る。

 そしてすりガラスの扉から少し離れた木目の扉を開ける。

 そこは…また薄暗いところだった。しかし、この薄暗さは心地いい。

 家具や机などはない「何もない部屋」に限りなく近い空間。

 空気は冷たく、でも少し暖かくて。暗くて、でも少し明るくて。

 混沌としているが、違和感なく交じり合い私を包み込む空調。

 優しくて、でも少し寂しい。

 そんな部屋には椅子が二つ置いてあった。

 その椅子も、まるで空気の一部と思うほど自然なデザインだった。

 私は椅子に座ると業務時間まで待っていた。

 …ここは、霊と会話する空間。

 どういう仕組みかはわからない。わからないけど何故か死んだ魂はこの部屋に現れる。

 「女神課」は現れる霊から話を聞く。

 確かに、この空間は霊とかそういう不確定な物質と会話するにはもってこいなのかもしれない。すべてが不自然なのにすべてが自然なのだ。

 業務時間は7時。今は…6時30分。朝の時間は早く感じる。

 ちなみに朝礼などはない。

 私たちもそれを咎めない。部長曰く朝礼は「これから仕事!」という憂鬱感を強めるのでよくないのだという。

 私はただじっと待つ。

 待つ。待つ。松。松茸。松茸ご飯。松茸味噌汁。松茸クリームコロッケ。

 「はっ!?」

 気が付くと時間は7時38分だった。お仕事までのこり2分。

 もの思いにふけると時間はもっと早くなる。

 …あれか、相対性理論。

 光の速度に近くなればなるほど時間の流れは速くなるってやつ。

 思考速度が速くなればなるほど意識的に時間の流れが速くなっているのかもしれない。

 …あ、40分だ。

 


 私の目の前の椅子に霊が現れた。

 目の前に現れたぼんやりとした白い煙はだんだん濃くなっていき、人の形に変わっていく。

 「…?」

 「えっ…あ…」私は声をかける。

 …少女だった。

 黒い髪。細い輪郭。柔らかそうな頬。丸っこい瞳。

 …少女…だった。

 「だあれ?」

 私は、話しかけられた。

 「あ、えっ…と…」

 私は口ごもる。蛇に睨まれたカエル?

 いや…カエルに睨まれたミジンコの気分だった。

 「…だれなの?」

 「え…と……め、女神よ」私はマニュアル道理に接する。

 「フーン、あなたは神なんだあ」彼女は興味深そう私の顔を覗き込む。

 「えっ…あ…?」

 「でもこんな目つきの女神なんているのかしら」

 私はどきっとする。目つきの事は前々から気にしているのだ。

 「めっ目つきはどうでもいいでしょ…」

 私は珍しく反論する。

 「でもさ、神様とか仏とか、そういうのは所詮人がつくったものだから普通美貌が美しいだとか、性格がいいだとかそういう感じになるよね。目つきが悪いとか口下手だとかそういうのって邪神とか悪魔とかそういう種類の性格になると思うんだけどな」

 「なっ…!?」私はあっけにとられる。

 この少女…何者?

 「まあ、いいわ。で?女神さまが私になんの要件?」

 「あ…えっと…あなたの望みは何?」

 しまった。単刀直入すぎたか。

 「望み…まさか…?」少女は目を見開く。

 「まさか…異世界転生!?」少女は目を輝かせる。

 「えっ?」私はあっけにとられる。

 「ラノベで読んだわ!転生して、それで異世界生活!」

 「え?あ…そうね…ええ…」

 やけに物分かりがいい。

 何者ですか。マジで。

 「ならなら…!私、ハーレムしたいわ!」

 「は…はーれむ…」

 少女に圧倒される私。かっこ悪。

 「は…えーと「はーれむ」がしたい…」私はメモを取り出した。

 「要望はそれだけ」少女は満足したように椅子にもたれかかる。  

 「え…?それだけ?」

 「ええ、そうね。最近の異世界ラノベはやたらと多彩性があるわ。発想が奇抜なものばかり。でも、それだけ。どれだけ作者が才能で面白さを維持してもそれは発想というものがオリジナルであって作者の才能は蔑ろになっている。私は王道の…「ハーレム」が見たいわ!スマホだとか、死に戻りだとか、チートだとか、そんなんじゃない王道の異世界ファンタジーが見たいわ!」

 …頭が痛くなってきた。

 「えーとまあ…つまりはーれむが希望…ですか」私はメモに「はーれむ」と書いた。

 私はその後、何人かの霊と話をして今日の業務を終了させた。

 …帰って寝よう。そうしよう。

 

 

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