昔話は語られない

 島にはかつて竜が一匹いた。その竜が異界の侵略者を退けていたので、崇められていたという。

 その竜には番である魔女がいた。その絆は強く、魔女は竜をよく助け、竜と共に島を守っていた。

 だが今は、竜も魔女もいない。

 いや、魔女はいる。しかし、竜の番であった魔女は、もういない。

「竜や番の魔女に何があった?」

 島の中心にある穴は果てしなく暗く、底は見えない。

「さあね」

 穴の縁に座る魔女の返事は素っ気ない。番である魔女を知る数少ない一人だが、真実を包み隠し何も語らない。

「それより気を付けな。何か来るよ」

 穴に向けられた魔女の視線が鋭くなる。彼も立ち上がり、剣を抜く。

 竜も番の魔女もいない今、島を守るのは彼らの役目だった。


※300字

※Twitter300字SS参加作品。第61回お題「包む」

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