ジハイドロゲンモノオキシド

「おはようございます。オキシダンをどうぞ」

「……ありがと」

 念願だった執事ロボットを購入して一ヶ月。彼は絵に描いたような紳士ふう執事で、中古だけど有能だ。ある点を除いて。

「あのね、何度も言うけど、水って言って」

 差し出されたコップに入っているのは湯冷ましだ。

「お望みであれば、一酸化二水素、もしくはDHMOに変更致します」

 前の持ち主の趣味なのか、彼は水を水とは呼んでくれない。

 中古なのでメーカー保証外で、自分で設定し直すか、初期化するしかない。けれど、初期化すれば彼の有能さは失われてしまう。

「私を変えられるのはご主人様だけです」

「……」

 そして、このセリフを聞けるから、本気で設定し直す気になれないのだ。


※300字

※Twitter300字SS参加作品。第54回お題「水」

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