見つめる目

 崖の上から海へ飛び込む遊びは、村の少年たちに受け継がれている度胸試しだ。

 大人たちは、人魚がいるから危ない、と渋い顔をする。

 この海には人魚がいて、目が合うと海の底へ引きずり込まれてしまう。海中に大きな影を見つけたら逃げろ、と言われていた。

 しかし、だからこその度胸試しだ。

 黒い影が見える、と仲間の一人が崖下を指さし、顔を見合わせる。


 さあ、誰が最初に飛び込むか。


 真っ先に手を挙げた少年は、今も見える黒い影に怯むことなく笑った。

 口先だけは平気なふりをする仲間に背を向けて、両手を広げ、深い青の中へ飛び降りた。

 あっという間に冷たい水と白い泡に包まれ――少年は、泡の隙間からこちらを覗く黒い眼を見つけた。


※Twitter300字SS参加作品。お題「遊ぶ」

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