奪われたもの

「あなたの目、不思議な光がある」

「わかるのか」

 鼻先がぶつかりそうな距離でのぞき込んでいるとはいえ、彼女が気づいたとは驚きだ。

「その光は何?」

「碧玉が宿ってる。この目を持つ者が、魔法使いになれるんだ」

「私もなれる? 瞳の色は同じだわ」

「無理だな。碧玉がない」

「あなたの碧玉を奪っても無理?」

 薔薇色の唇が穏やかではないことを紡ぐ。

「奪ってどうする。魔女にでもなるのか?」

「領主の妻になるよりおもしろそうじゃない」

「無理無理。大体、奪えな――」

 唐突に唇を塞がれた。薔薇色のそれはあっという間に離れる。

「仕方ないから、唇だけにしておくわ」

「……そりゃどうも」

 まんまと奪われたが、悪い気分ではなかった。



※「彼女の『魔法』」より十数年前?の話です。

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