私の人形は良い人形

 赤い唇が細い三日月を描く。獲物を見つめる目はわずかに細められ、妖しい光を放っている。

 見ているだけで鳥肌が立つ。喉が詰まってうまく息が吸えず、冷や汗がだらだらと流れてくる。

 そんな私の様子すら楽しみにしている、嗜虐的な笑みだった。

 震える手でスマホをタップする。電子的なシャッター音が1Kのフローリングに響く。

 一ヶ月前、フリーマーケットで手に入れた人形だった。滑らかな白い肌、ぱっちりとして長い睫に縁取られた瞳、ふっくらとした頬と唇。長い黒髪の先は少しウェーブがかかっていて、一目で気に入った。


「これは呪われているから気をつけなさい」


 人形を売っていた老婆はそう言ったが、そんな不気味な人形には見えなかったし、オカルトの類は全く信じていなかった。

 この人形を迎えてから、財布を落とし、タンスの角ですねを打ち、電車のドアに挟まれ、階段から転げ落ち、迷惑メールの嵐に襲われ、上司の雷を食らい、車にはねられ軽傷を負ったが、そんなのは偶然だ。

 なぜなら、今日も無事に帰宅して人形の笑みを写真に収めることができているのだから。

 赤い唇は少しずつ開き、目は徐々に細くなっている。

 人形の満面の笑みは、いったいどんなに素敵だろう。



※お題「呪いの人形」「嗜虐的な笑み」「写真」

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