黄色い声

 白い縁取るがあるポラロイドの写真には、夜空が映っている。夜空といってもほとんど真っ黒で、星とおぼしきしみのような白い点がいくつかあるだけの、失敗したような写真だ。

 ふらりと立ち寄った古書店で、何の気なしに手に取った本に挟まっていた。前の持ち主がしおり代わりに使っていたのかもしれない。これが古書のおもしろいところだ、と写真ごと購入した。

 以来、写真が私のご主人様だ。

 頭がおかしくなったと思われるかもしれないが、それが事実だった。

 ほとんど何も写っていない写真から、黄色い声が聞こえるのだ。

 私には、その声のイメージが黄色なのだ。けばけばしい、耳で聞いているのに目が痛くなるような黄色い声が、私に命じるのだ。


 備えよ、我らは直に到達する。


 何に備えればいいのか。「我ら」とはいったい誰なのか。声は語りはしない。

 本に挟んでいたときから声は聞こえていた。今はリビングの額縁の中に収まっている。


 伝えよ、我らが直に到達することを。


 黒い写真から黄色い声がする。私は、私が聞いた言葉をそのままネットの海に流していく。相手にする人はほとんどいないが、構わなかった。

 声を聞く度、写真の白い点は大きくなっている気がする。今では、それがどうやら星空のようだと分かるようになっていた。

 今日の夜空と似ているように見える。ひときわ明るく輝く星が、写真の中で一番白い点と似ている。


 恐れよ、我らは今まさに降り立つ。


 写真はこの場にないのに、黄色い声が降ってきた。

 私の視界が真っ白な光で埋め尽くされる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る