暗い孵化の音

 使用人だった父について屋敷を訪れた時、初めて出会った。上等な衣装、上品な立ち居振る舞い。同じ歳だと聞かされたが、同じ人間と思えなかった。

 何が気に入られたのか、今でも分からない。俺は、彼の望みで、友人として屋敷に通うようになった。

 住む世界が違うのに友情など芽生えるはずがない。友人とは名目ばかり。俺は、彼の我が儘を何でも聞き入れる従順な僕に過ぎなかった。


 だが、彼が、興味本位で俺の婚約者に手を出したと知った時、何かが孵化した。意識しないようにしていた、長年ため続けた澱を一気飲みしたようだった。


 気が付けば血濡れの刃を手に、燃えさかる炎を見つめていた。

 反逆者となった俺は、それに背を向け走り出した。

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