天気の魔術師は走りたくない

 羊みたいな雲がぽかりと浮かぶ空に、灰色の雲が異様な早さで広がり始めていた。

 僕は相棒の小竜を連れ、それに向かって駆けていた。

「さっさと詠唱を始めな。間に合わないよ」

「わかってるよ! でももっと近づかないと」

「体力のない魔術師だねえ」

 頭のそばを飛ぶ小竜が溜息を漏らす。

 杖を振り、詠唱を始めた。走りながらの詠唱はきつい。

 頭上まで広がった灰色の雲から黒い雨が落ちてくる。

「本体が来た!」

 真っ黒な雲が灰色の雲の中から顔を出す。同時に詠唱が終わり、黒い雨が弾けて消える。

「なんとか――」

「間に合ってないよ」

 黒い雨が落ちた周辺の地面はどす黒く、腐臭を放っていた。

 これを浄化するのも僕の役目だ。息切れしている暇はない。

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