ムーンチャイルド

 僕と兄は似ているとよく言われるけれど、母親が違っていた。兄の母は、兄を産んでほどなく亡くなった。周囲のすすめで父が再婚したのは二年後で、その一年後には僕が生まれた。

 兄と腹違いと知ったのは最近だけど、今時、匿名で提供された精子や卵子を使った人工子宮ベビーは少なくない。きょうだいでも、父親や母親が違っているのはそれほど珍しいことではなかった。

 月帰りの子供(ムーンチャイルド)も、人類が火星に基地建設を始めた今時、いたっておかしくはない。月面では都市の建設が進んでいるのだから。だけど、自分の身近に突然現れたムーンチャイルドは、やはり珍しかった。

 地球より低重力の月面で生まれ育った彼女は、僕と同じ歳だが、クラスの誰よりも長身だった。手足も長く、しかし、筋肉はあまり付いていないようで、同じ歳で彼女より背の低い女子よりも細かった。そのうえ、顔立ちが整っていたので、飛び抜けて大人に見えた。

 ムーンチャイルドで、背が高くて、すごく美人。彼女は、嫌でも目立つ存在で、飛び抜けた容姿のために浮いていた。クラスメイトはなかなか近づかず、友達といえる友達ができない。彼女と親しく言葉を交わしていたのは、隣の家に住む僕と兄くらいだっただろう。僕はクラスも隣だったから、学校でも積極的に彼女に話しかけた。

 そのおかげなのか、彼女は少しずつクラスになじんでいったようだった。

 僕らと話をするときだけでなく、学校でも笑顔を見せるようになった彼女。学校へ行くのが最近楽しいのだという。彼女の役に立てたと思うと、僕の胸は熱くなる。だけど、それはすぐに冷めてしまう。

 友達ができて、誘われる機会も増えた。でもそのおかげで、ここで過ごす時間が減ってしまったのはちょっと残念だと、頬を赤らめて、彼女は兄を見つめて言うのだ。

 居心地が悪くなった僕は、そっとその場を離れる。兄と彼女が、その後どんな話をしているのかは、分からない。僕は部屋に戻って、ただ一人で悔しがるのだ。

 学校でも家でも、積極的に話しかけているのは僕だ。だけど彼女の目は、兄がいれば兄に向けられる。

 初めて会ったときから、兄の身長は彼女よりも高かった。僕の身長は、彼女よりも低かった。

 兄の母もムーンチャイルドで、その身長を活かしてバスケットボールで活躍した人だった。僕の母は、スポーツは苦手で手芸が好きな人だ。背は高くない。

 僕と兄は似ているとよく言われるけれど、似ているのは顔立ちだけで、身長は全然違っていた。

 僕の成長期はまだこれからだ。彼女の身長に追いつけば、少しは僕を見てくれるだろうか。

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