贈り物、いつまでも

 彼は流浪を運命づけられた魔術師だった。一つの土地に長く留まることは許されず、生涯をかけて世界の秘密を探さねばならぬ魔術師だった。

 一度訪れた土地を二度踏むことはない。それを知りながら、私は彼に愛を捧げた。

「これを、君に」

 旅立つ日、彼が私にくれたのは白紙の本だった。

 彼が去って一日過ぎる度、本は一頁ずつ文字で埋まっていく。その日あったことが、彼の筆跡でそこに記されていた。私への言葉もあった。

 白紙の頁に私も文字を埋めていく。彼の手元の本に、同じものが浮かぶはずだ。

 彼の文字を指でなぞると、彼に触れているような心地になれた。

 二度と会えなくても、彼は私のそばにいて、私は彼のそばにいる。

 いつまでも、ずっと。

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