旅立ち

「お嬢様の花嫁姿が今から楽しみですわ」

 侍女の最近の口癖だ。

 学校を卒業したら、わたしは結婚する。会ったこともない男と、この先の人生を過ごすと思うと憂鬱しかない。


 わたしが結婚しなければならないのは、十年前、結婚直前に失踪した兄のせいだ。

「恨むわ、兄様」

 例え兄がいても、わたしが親の決めた相手と結婚する宿命に変わりはない。それでも、友人たちよりも早い結婚は不満だった。まだ恋の一つもしていないのに。


 侍女が去った部屋を、黒い人影が訪ねてきたのは卒業前夜のこと。

「綺麗になったね、妹よ」

 頭を撫でる手は、確かに兄のものだった。

「世界は広いと、この兄が教えてあげよう」

 幼い頃のように、兄はわたしを抱き上げた。

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