鏡の中の私

 洗面所の鏡に映る私の顔は、疲れ切っていた。

 ほぼ毎日の残業。夢があって入ったはずの会社で、目の前の仕事に追われるだけになっていた。

 こんな日々、夢を描いていた大学生の時には思いもしなかった。メイクを落とした顔はだいぶん老け込んいた。

 その顔が、突然若返る。目を剥く私に、鏡の中の私が笑いかける。

「十年後の私へ。夢は叶っていますか? 毎日充実していますか? いま、幸せですか?」

 鏡の中の私は大学生くらいだろうか。世の中甘くないと知りながら、どこかでまだ、そんなことはないと信じていた頃の甘い自分。

「きっと幸せだと信じています。これからもがんばってください」


 目を瞬いた後、鏡の中にいたのは、涙を流すいまの私だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る