自分の言葉
AさんとBさんは十年来の親友だ。AさんがCさんと結婚することになったとき、密かにCさんを好きだったBさんは自分の心を隠して祝福した。
しかし結婚後間もなくAさんが事故に遭い、Cさんより早く病院に駆け付けたBさんが彼を看取ることになった。いまわの際、AさんはBさんがCさんを好いていることを知っていたと告白した。その上で、自分が死んだあとでも妻には手を出さないでくれと言って息を引き取った。
Aさんの遺言はあったが、Bさんは悲しむCさんを放っておけなかった。Cさんを慰めるうち、Bさんは奇妙なことがたびたび起こることに気がついていた。BさんがCさんのために何かをすると、まるでAさんのようだと言われるのだ。CさんについてAさんしか知らないはずのことを知っていたこともあった。
親友だからBさんも知っているのかとCさんは納得していたようだが、Bさんはなぜ自分でもそんなことを知っているのか納得できなかった。
その頃からだろうか、BさんはAさんの幽霊を見るようになった。Aさんは常にBさんの背後にいて、鏡越しでしかその存在を見られなかったが、背後にいるのはいつも感じていた。
やがて、Aさんは耳元で囁くようになった。それは、Cさんについて、Aさんしか知らないことや、AさんとCさんの二人の思い出話だったりした。毎日耳元で囁かれ、Bさんはそのうち、それを自分で体験したことのよう錯覚するようになっていた。
BさんとCさんの仲は少しずつ深まっていったが、Aさんの幽霊はBさんの背後から離れることはなく、常に耳元で囁き続けていた。Bさんはもはや、自分が口にする言葉が果たして本当に自分で思いついた言葉なのか分からなくなった。Cさんが見ているのは自分なのか、あるいは背後にいるAさんなのではないか、と疑うようになっていた。
それでも、BさんはCさんと別れることができず、とうとうプロポーズをした。Cさんは嬉しそうにしながらも驚いた顔で、プロポーズの言葉がAさんとまったく同じだ、と言った。
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