エピソード11『強豪が集いしゲームフィールド』
強豪が集いしゲームフィールド
5月下旬ごろ、一連の解散ラッシュを週刊誌が冷静に特集するのだが、やはり売れるわけはなかった。
それ以外で過激な煽り文句も目立つような週刊誌は売れていると言う。
やはり、一部の勢力は超有名アイドルが日本を代表するコンテンツであると世界に向けて拡散したいのだろうか?
一方で迂闊な事を書いて謝罪会見を開いたり、雑誌の回収となれば会社に損害を与える為、迂闊な事を書く事が出来ないのかもしれない。
それを踏まえると、一部週刊誌の行動は本来であればタブーなのかもしれないが――何故、分かっていて出版をするのか?
【あのような発言がされたとしても、それは草加市内のみの話。それ以外のエリアでは、未だに超有名アイドルによる支配は続く】
【一連の解散ラッシュは――事務所の不祥事やアイドル側のトラブル、更には買収と言う話もある】
【正直に言えば、もっと別の何かも絡んでいると考えた方がいい。この件は、あれで決着した訳ではない】
【シリーズ物のヒーロー物、戦隊物でもひとつの巨悪が滅んだとしても――次の新シリーズでは地球が狙われる。それと同じ構図だ】
【結局は繰り返しが続くと言う事だな】
草加市の外でつぶやかれているつぶやきのタイムライン、そこでは一連の事件が解決したのは草加市内のみあり、根本的な部分で解決はしていないと言う。
ジャパニーズマフィアが一掃されたとしても、超有名アイドルファンが代わりの位置にいる事――それは、根本的な部分が解決していない事の裏返しなのかもしれない。
『次のニュースです。アイドルグループJの解散が――』
解散ラッシュに関して、ファンは見ているしかなかった。
抗議活動をしたとしても芸能事務所が方針を変えるようなケースはめったにないという事を過去の前例で知っていたからである。
芸能事務所の炎上マーケティングにファンを巻き込み、更には自分達の新人アイドルを売り込む為に――。
『今回の特集はアイドルグループ解散ラッシュについてです』
こうしたやり方が繰り返される限り、日本では三次元アイドルが天下を取る事は不可能である――そうアカシックレコードでも断言される始末だ。
芸能事務所としては第4の壁と言う存在やオカルトは信じないのだが、ファンとしてはグループの解散を阻止できるのならば手段を選ばない的な心情になっている。
それでは、今までの炎上マーケティングや超有名アイドル商法と変わりないと言うのに。
【歴史を繰り返すな! 今度こそ、あのアイドルグループの悲劇を繰り返さない為にも――】
だからこそ、別の角度で動くべきと言う趣旨のつぶやきを拡散するユーザーもいるのだが、それが炎上目的の反超有名アイドル勢力ではないという保証はない。
そう言ったやりとりも、数年前で見たような光景であり――結局、悲劇の連鎖を止めるまでには至らなかった。
止めたのは草加市と一部エリアのみであり、他のエリア全体を止めるまでには至っていない。
結局は、一部のマイナー勢力をメジャーに押し上げた程度の宣伝効果を生み出し――倒すべき炎上勢力を増やしてしまったというべきか。
アイドル解散ラッシュは一週間で落ち着きを取り戻したが、こちらの炎上しかねないような状態は一週間では鎮火する気配がない。
超有名アイドル批判はネット上で炎上し続け、それこそマスコミが視聴率アップの為に取材を命じるほどだった。
しかし、この超有名アイドル批判がテレビで放送される事はなかった。
このような内容で視聴率が取れるわけがないという手のひら返しではなく、芸能事務所側の圧力があったという噂がある。
【まさか、芸能事務所がテレビ局の暴走を止めるとは】
【この系統のニュースを視聴者が求めていると認識される程――超有名アイドルは終わったと言うべきか】
【今となっては、アイドルグループと言ってもアニメやゲームのアイドルがメインになりつつあり、リアルのアイドルは受け入れられないという話もある】
【超有名アイドルの時代は終わる! そして、それで荒稼ぎしようと言う一部投資家や政治家の私利私欲のディストピアも――】
【アイドル投資家を法律で禁止するべき。彼らは、一歩間違えれば超有名アイドルで戦争を起こしかねない】
つぶやきサイト上ではアイドル批判が続く。
それ程にコンテンツ流通に悲観的になっている勢力が多いのか――と言われると、絶望ばかりではないと。
「繰り返すのか――あの時の過ちを」
一連のつぶやきを見ていたのは、大和朱音(やまと・あかね)である。
いつもの普段着と言える白衣にインナースーツと言う姿だが、姿を見せているのは足立区内のコンビニだった。
何故、足立区内に姿を見せていたのか――それは彼女にしか分からないと思われる。
5月27日、パワードミュージックが新規バージョンアップとして『リズムゲームプラスパルクール』とタイトル変更しての再起動――それが今日である。
数多くのプレイヤーがアンテナショップに集まり、センターモニターにエントリー登録を行う行列も目撃されていた。
しかし、そこには比叡(ひえい)アスカや日向(ひゅうが)イオナ、明石零(あかし・ぜろ)と言ったメンバーの姿がない。
あれだけの事件を起こした張本人と言う訳ではないが、比叡に対しての風当たりは最悪と言う訳ではない物の、ネット上の風評被害は想定以上の者があった。
現状のARゲームのガイドラインを変えただけでなく、更にはネット炎上を防いでいた例の部分さえも変えてしまったのである。
ここ数週間のネット炎上は、ガイドラインの変更に伴う物が大半で、このルールを変えなければ炎上を防げたと愚痴をこぼす者もいた。
「いつまでも守られているばかりが――ARゲームとは違うだろう」
谷塚駅近くのアンテナショップに姿を見せたのは、黒マントに眼帯姿と言う木曾(きそ)アスナである。
木曾の出現にギャラリーは沸く一方で、木曾自身は何か違うと言う感触もあった。
「――超有名アイドルコンテンツを無視し続ける事が可能だった過去は、比叡が打ち砕いた。我々がするべき事は、更なるコンテンツの盛り上がりを他の業界に見せる事。違うのか?」
木曾の言う事も一理ある。今までは超有名アイドルを無視してても問題はないという位、内輪レベルでARゲームが盛り上がっていた。
しかし、今度はそうしたコンテンツ保護をメインとしたガイドラインはない。
ガーディアンが炎上前に魔女狩りを行う様な保護主義的な時代は――終わらせなければいけないという考えがあったのかもしれないだろう。
今までは拡散前に魔女狩りが行われていたのだが、今度はそうした行動は制限が賭けられる可能性が高い。
これからはARゲームのプレイヤーを題材としたBL本も同人イベントで見かけるかもしれないだろう。
ARゲームが原因のリアルファイト、暴力事件と言った物もニュースで報道される可能性もあるかもしれない。
『ARゲームはフィクションでありノンフィクションではない。フィクションである以上、事件や不祥事などは起こり得ない』
この大原則は、既に比叡が崩してしまったのである。運営側も一連の鉄則を廃止する事は反対していたのだが――。
しかし、これが影響してARゲームの成長が阻害されているのも事実であり、ネット上でも大原則を緩和すべきと言う声も存在していた。
保護主義的な状況が生み出す物――それは今までのパワードミュージックの運営状況が物語るだろう。
「今度はお前達が、ARゲームの未来を守って行く時だと言える。いつまでも過去の栄光にすがるな! 平和を勝ち取る為に――ARゲームは新たなフィールドへ進出する!」
木曾の宣言は周囲のギャラリーを含め、プレイヤーも鼓舞させた。
スタッフの中には、木曾の意見に反対する者もいるのだが――。
「なるほど――そう言う路線にシフトするのか」
この状況を見ていたある勢力の人物がつぶやく。彼はARゲームに関するデータを回収しようとした産業スパイである。
しかし、こんな事をしても高く売れる情報ではないと判断し、既にクライアントには情報の価値がないと報告していた。
5月27日、ある発言がネット上でも話題となっていた。
特に地震や電車の停止、高速道路の渋滞という緊急性の高いワードもなかった為に上位ワードとして残っている。
その勢いは、午前12時段階でのホットワードにも木曾が入っているほど。
つまり、影響力としては非常に高いと言えるかもしれない。一部勢力が持ち上げている可能性も否定できないが――。
芸能人の不祥事関係もトレンドワードに入ったが、それより上なのは周囲から見れば困惑するのは間違いない。
「今度はお前達が、ARゲームの未来を守って行く時だと言える。いつまでも過去の栄光にすがるな! 平和を勝ち取る為に――ARゲームは新たなフィールドへ進出する!」
木曾(きそ)アスナの発言――これはあまり時間が経過しない内にネット上へ拡散され、ホットワードに入る程に至る。
拡散の意図は不明だが、拡散していたのがまとめサイトの残党やアイドル投資家のなりすましアカウント等と言うのも、何かの陰謀を感じさせる。
一体、彼らは木曾に何を望んでつぶやきを拡散しているのか?
【あの一言、まさかここまでの影響力があるとは予想外だ】
【彼女はパワード……今はリズムゲームプラスパルクールか、そのトップランカー。影響力はこちらの予想以上だ】
【それ以外にもいくつかのリズムゲームでトップクラスの実力も持っている。そして、その実力は衰えを見せないという】
【不祥事を起こした芸能事務所は、テレビでも有名な所だ。それより影響力があると言うのもおかしい】
【F5連打などの疑いがあると言うのか? 確かに、あの芸能事務所のタレントはテレビで見ない日はない程の知名度だが――】
【事件の内容が薬物とかだったら、話は変わっただろう。不祥事と言っても、政治献金程度では――】
【政治献金でも相当だぞ! 超有名アイドルの芸能事務所が裏金疑惑を疑われた時のホットワードがどうなったのか、忘れた訳ではないな?】
ネット上でも木曾がホットワードに入っている件に関しては、賛否両論になっている。
ソーシャルゲームの最新情報がホットワード1位になる事もザラだと言うのに、今更ARゲームで批判的な意見を出すというのもネット炎上勢力と言われて叩かれる末路しかない。
そうした状況でも、自分が瞬間的でも目立ちたいと言う事で遊び半分にネット炎上させる事は、未だに続いている。
こうした現状を変える為につぶやきサイトに規制を加える事を低減しようとしても、それではディストピアを加速させるだけだと言う事で否定されるのが関の山だ。
その一方で、今の状態を本当に変化したのか――疑う人物もいる。
つぶやきのタイムラインでもネット炎上の延長と言及する者もいれば、新たな体制に入る前の準備と考える者もいた。
「結局は同じ事を繰り返す――ネット炎上を誕生させた経緯その物を過去にさかのぼって消滅させないといけないのか」
ため息交じりに一連のタイムラインを見ていたのは、比叡(ひえい)アスカである。
この時代にはタイムマシンはないし、時間旅行と言うのはSFやフィクションの世界にしか存在しない。
それは百も承知で、ネット炎上の根源を断たなければ平和は来ないと考えていた。
しかし、それらが原因となり――無自覚の内にネット炎上に加担していた事実は、いまだに消えていない。
それに加えて、ARゲームの大改革に協力するのだが、それでも罪滅ぼしには程遠いだろう。
自分が起こした罪は消える事はない――それは変える事が出来ない事実だ。それは、これからも残るだろうし、アカシックレコードにも記録される。
「ネット炎上のループを繰り返す状態、それに終止符を打たないとARゲームの炎上問題に解決の糸口は見えない――」
ネット炎上が繰り返され、それがループ化している現状を打破する為にも、何とかして炎上問題を解決させないと――と比叡は思う。
しかし、ネット炎上を金の稼ぎ場と考えているような勢力が存在する限りは、そうした情勢が改善される事はない。
結局はネット炎上も一種のお祭り的な物と認識しているユーザーが、今回の件を更に悪化させているのだろう。
それこそ、自分と同じ無自覚な荒らしを増やす事にもなるのだが――。
アカシックレコードをチェックした人物が、それを行ってくれれば――とも比叡は思う。しかし、他力本願が本当に正しいのかどうかは分からない。
「誰かが終止符を打たないと、エンドレス化して――」
比叡は今回のコンテンツ流通を阻害する存在に関して対策を行う必要性――事の重要性を訴えようと考える。
しかし、今の自分では信じてもらえるかどうかも分からない。それが、一番のネックとなっていた。
「自分が出来る事は――」
比叡は自問自答していた。今回の一件を生み出した事、今までのパワードミュージック環境を変えてしまった事――。
それらに対して、自分で答えを出す必要性があった。それは――。
午前12時30分、つぶやきサイトのタイムラインからは木曾がトップではなくなったが、未だに根強く残っていた。
それ以外では超有名アイドル絡みの物が拡散している一方で――。
【何だ、このブラクラ映像は?】
【新たなスパムと言うのだろうか】
【おそらく、超有名アイドルの不祥事絡みの情報を抹消する為に動き出しているのだろう】
【第4の壁を認識できる能力――あれはガセじゃなかったのか?】
【回線がパンクしているという情報もある。まさか、ネットその物を沈黙させるのが芸能事務所の目的なのか?】
様々な情報が拡散する中、本当の意味でソースが不明になっている情報があふれ、そこから通信エラーが続発するようになる。
【ARゲームは別回線扱いだが、ブラウザゲームやソーシャルゲームが全滅と言う気配がするほどにメンテナンスに突入している】
【一体、何があった?】
【どうやら、スパムニュースが大量に送信されている影響が、オンラインゲームに影響しているようだ】
【このままでは、恐怖や不安を煽るようなニュースでネットが独占され――】
【まさか、ネット上で戦争が起こるとでも?】
何気ないニュースでも、受け取り方次第では恐怖を感じ、それに反応して不安をあおるような文面に改ざんして拡散する事も――現実で発生する事はあるだろう。
まとめサイトは【第4の壁】と言う単語を悪用し、あたかも予言者を騙るような口調でネット上を恐怖に陥れる。
またあるつぶやきユーザーは、何気ない注意喚起のつぶやきを改ざんし、まるで地球が滅亡でもするような口調のつぶやきに改悪し、人が恐怖する様子を観察していた。
「これは使える。超有名アイドルが全ての恐怖や不安を解放する存在だと、改めて証明する為にも」
ある一般ユーザーは思う。これこそが、無自覚な荒らし誕生の瞬間であり――タイムラインが戦場となる瞬間でもあった。
しかし、つぶやきを拡散しようと文面を考え、書きこもうとした瞬間、彼のスマホは唐突に電源が切れたのである。
「なんてことだ! これを利用してまとめサイトのアフィリエイト収入を得ようと思ったのに」
この男性の発言を聞いたと同時に、周囲のフィールドが突如として変化した。そのフィールドは何とARフィールドである。
彼の方も危機感を感じ、ARアーマーとガトリングのARガジェットを装備し、襲ってくるであろう敵に対抗しようとした。
「超有名アイドルは唯一の存在! デウス・エクス・マキナと言える――」
彼がガトリングを撃つと同時に叫ぶのだが、最後まで発言する事無く瞬時にARガジェットは無効化された。
無効化したのは一体誰なのか――周囲のギャラリーが姿を確認しようとしたが、男性の目の前に現れたのは予想外の人物だったのである。
5分後、男性の目の前に現れた人物がビスマルクと言う事が判明する。今回装備しているのは改造軍服ではなく、リズムゲームプラスパルクールで使用されるインナースーツだ。
アーマーは既に解除されており、ビスマルクはインナースーツとARバイザーを装備しているだけ――倒すなら今の内だと思うが、既にフィールドは展開されていない。
「ARゲームが終了すれば、ノーサイド。これは最近になって決まった事か」
本来であれば、違法情報を拡散しようとした人間を魔女狩りの如く検挙しても特に問題はなかった。
しかし、それが事実上不可能となったのでARゲームと言う形式でバトルを行う形式に変更されたのだが――よくあるバトル物のルールに変わったとネット上では言われている。
向こうはそれを把握していないのでは――と言うと、実際には把握している。その上で、あの抵抗をしてきたのだ。
「ARゲームのガイドラインその物がご都合主義と言われている噂はあったが――改めて、今回の変更は成功と言うべきなのか」
ビスマルクは思う。しかし、アガートラームに代表されるガジェットが封印されたという話は聞かないので、まだ懸念材料はあるのかもしれないが。
「一連の炎上騒動は、やはり一部勢力が満足する為に仕掛けられた物だったと言うべきなのか――」
この一言がネット上で拡散する事で、一部勢力がコンテンツ炎上を目的としたまとめサイト等は閉鎖された。
それこそご都合主義と言われるようなまとめサイトや炎上サイト等は減って行く事になる。
一連の炎上事件も犯人が特定され、警察でも本格的調査が入った事で――今度こそ一連の事件の幕はとじた。
残るは――未解決となっている案件のみだが、それを特定するのはARゲーム運営の仕事でもある。
「全ての決着がつくとすれば――炎上勢力を完全駆逐するというエンディングだったのか。それは違うだろう――完全駆逐出来ないのであれば、光堕ちをさせるしかない」
ビスマルクのバトルを見て思ったのは、天津風(あまつかぜ)いのりだった。
「比叡アスカは、フレンドやギルドの様な概念がARゲームでマイナーだった物を――調整したうえでメジャーに格上げするにいたった」
天津風が見ていたのは、ARゲームモニターである。そこでビスマルクのバトルも中継されていたのだ。
そして――ARゲームは新たな進化を遂げる為のフェイズに移行しようとしている。
5月27日、様々な騒動を見ていく内に――ふと違和感を感じるような光景もあった。
それに対して探りを入れていたのは、意外な事に大和朱音(やまと・あかね)である。
「ARゲームを炎上させる勢力が、超有名アイドル投資家やまとめサイト系から別の勢力にシフトしているような――」
大和がタブレット端末で確認していたのは、イースポーツを取り扱ったサイトだった。
最近、イースポーツ系のサイトでARゲームの批判をしている勢力を確認していたのである。
記事その物は炎上を誘発するよう物ではないのだが――まとめサイト勢等が炎上狙いで事実をゆがめて記事にするのは目に見えていた。
「やはり、過剰炎上と見るべきなのか――」
大和はARゲームの方で新たにガイドラインとして設定した過剰炎上を疑う。
過剰炎上とは、ネット炎上を偽装して別コンテンツの人気を落とす等のマッチポンプ的な物を規制するガイドラインだ。
これを追加した理由は、言うまでもなく比叡(ひえい)アスカの発言による物である。
「炎上商法に便乗し、更に炎上し続けるような事例もあるが――それ以上に許せないのは超有名アイドルの人気を上げる為に特定コンテンツの人気を落とすパターンか」
大和は未だに続く同じような事例のネット炎上を見て、どんなにガイドラインを変更してもそう簡単に変わらない物があると痛感した。
だからと言って、今更保護主義的なガイドラインに戻せば――何処かの国の様な状態になるのは目に見えている。
大和にとっては過保護過ぎたガイドラインからの脱却こそが、ARゲームが新しいステップへ進む為のスタートラインだと確信していた。
5月28日、日向(ひゅうが)イオナは今回のイースポーツ記事が炎上の原因ではないと考えていた。
何故かと言うと、炎上に繋がるようなキーワードが存在しなかった事である。
もしかすると、ワードサラダ的な――とも思ったが、それだと同じニュースを扱っている所も対象になりかねない。
無差別に同じニュースを扱っているまとめサイトを通報していくのでは、別勢力に動きを読まれる可能性が高いだろう。
その状況下で、日向が思いついたのは――ガイドライン変更で変わった、ある行動だった。
「確か、ARゲームでバトルを挑めば――」
日向は、タブレット端末の電源を入れ、手始めに超有名アイドルの投資家勢力を潰そうとも考える。
以前の場合は無差別乱入はARゲームの一部ジャンルによっては禁止、襲撃クラスになるとライセンス凍結もあった。
実際に、そうした強引な行動が原因で日向はARゲーム内でブラックリストに登録される程の行動を起こしていたのである。
今のガイドラインで同様の事を起こせば、ブラックリストでは済まないだろう。下手をすれば、永久追放は避けられない。
「以前は乱入が認められていないジャンルでは、ペナルティを取られたが――今度は段取りを取れば問題はない」
日向のいう段取りとは、前日にビスマルクが行動を起こした際のフィールド展開及びバトル申請である。
これに相手が承認すればバトルは成立、正当な理由として悪質プレイヤー等を裁く事が可能になった。
これが一種の魔女狩りに悪用されるのでは――という意見も存在した。これに関しては、提案者の比叡(ひえい)アスカも言及している。
以前は一部のガーディアンを初めとしたメンバーのみ、それも上層部メンバーやランカーにしか認められていない状態だった。
何故に上位ランカーなのかと言うと、それなりのARゲームへの知識を持っている事が前提条件だった為でもある。
午前11時、日向は行動を起こそうと、ネット上でアイドル投資家が集まるとされるアイドルのアンテナショップへ向かおうとする。
場所としては草加駅の近辺だが、徒歩で10分はかかるだろうか。シャトルバスの様な手段はなく、県営バスのバス停も近くにはない。
色々と交通に不便を感じつつも――日向はアイドルのアンテナショップと思われる看板を発見した。
その近くには駐車場もあり、車で行く分には有利なのかもしれない、とふと思う。
駐車場は合計で100台は止まれるほどの物で、2階建てと言う豪華仕様でもある。既に駐車場は満員のランプが点灯していた。
「ここで間違いない――」
日向は上着に手をかけ、今にも脱ぎ捨ててARアーマーを装着しようと言う直前でもあった。
しかし、それを正面で見ていたのは、私服姿のある女性だったのである。
彼女の方は、日向が取ろうとした行動を分かった上で、駆け寄ってきた。一体、何者なのだろうか?
「早まるな! それこそ向こうの思うつぼだ!」
日向は、彼女の声に聞き覚えがある。外見こそは普段の統一感のないような服装とは嘘みたいな状態だった為、声を聞くまでは誰かが分からなかったようだ。
その人物とは、長門(ながと)クリスだったのである。
彼女の方は近くにある模型店へ行く目的があったのだが、そこで偶然にも日向を発見して止めたという――。
「向こうとはどの勢力だ? まさか、イースポーツ反対派とは言わないよな?」
日向の態度的には、止めるべきではなかった――と言う位の状態で、今にも切れた勢いで長門を殴りかねない。
しかし、それでも長門は怒りにまかせた行動はするべきではない、と日向を正す。
「今回の別勢力は、運営側でも調べている途中だ。迂闊に個人で対抗するべきではない――と言っている」
さすがに日向をひっぱたく事はしなかったが、その代わりとして手持ちの冷たいペットボトルのコーヒーを日向のおでこに当てた。
「!?」
唐突な行動に日向はかわいい声でビックリするが――。それに対して、長門がリアクションをするかと言うと、そうではない。
彼女の表情は堅いままだったのである。一体、どういう事か?
午前11時5分、店の外から出てきたのはネット上でも有名なアイドル投資家である。
投資家セミナーを開いている事でも有名で、それが度々雑誌やテレビなどでも取り上げられていた。
その為、名前を知らなくても彼の顔は意外と知っている物である。ARゲームランカーの中には、目の敵にしている人物もいる位だ。
ただし、超有名アイドルの純粋なファンの中には、彼の存在を同じアイドルファンとして恥と思う者もいる――と補足しておく。
彼に関しては良い噂と言う物が存在しない。まとめサイトの管理人として敵視しているコンテンツを潰したり、超有名アイドルファン以外は――と言う様な過激発言もある。
こうした発言はつぶやきサイトで配信されているが、それらも即座に削除されるレベルの過激なものだ。
「誰かと思えば、あの魔女狩りでも有名な日向――」
投資家の声を聞き、日向(ひゅうが)イオナがそちらの方を振り向く。
日向としては何としても彼の息の根を止めようとも考えているのだが、物理的に息の根を止めてしまっては命のやりとりやデスゲームを否定しているARゲームその物を否定しかねない。
「詐欺まがいの投資セミナーで莫大な金を稼ぎ、それを超有名アイドルに貢いでいるという噂も――」
日向も投資家に対抗するかのように口を開く。何かを察した長門(ながと)クリスは日向から若干離れる事に。
「こちらとしては、こういう物もあるが」
投資家がカバンから取り出したのは、何とARガジェットである。形状は違法ガジェットとは違う為、見た目こそは――。
しかし、そこから放たれた光線は――日向の頬を掠め、その背後で想像を絶するような爆発のエフェクト演出が発生する。
そのガジェットは、専用のチートプログラムがインストールされたARガジェットだった。これには、思わず遠くへ離れた長門も驚くしかない。
日向の頬に傷はない為、ARガジェットをリアル武器にする類のプログラムが入っている訳ではないのだが――それに匹敵するようなチートなのは間違いないだろう。
「それに加えて、こういう物もある」
投資家が指をパチンと鳴らしたと同時に、日向の周囲に発生していたARフィールドが突如として爆発する。
これも爆発エフェクトの為、ARゲームに無関係な人間には見えないだけでなく、直接被害もない。
しかし、視覚的なプレッシャーを与える事は可能であり、一部のギャラリーが逃げまどう姿も――。
まるで、見えない爆弾が設置されているかのような光景には――日向も戦慄を覚える。
「何処かの軍事国家が採用しそうな装備を――悪趣味ね」
これだけのARガジェットをどのように運用するのか、日向には大体の察しが付いている。
ARガジェットは、あくまでシミュレーションの一環として扱い、需要のある国に軍事技術として売り込もうと言う事なのだろう。
それで得た利益を超有名アイドルに貢ぐ――アカシックレコードに書かれているWEB小説には、このようなパターンの作品が異世界転生や異世界転移並に存在している。
「海外ではARゲームは、ゲーム以上の価値を見出していない。技術の売り込みなど、ゲームメーカー以外には交渉出来ないだろうな」
投資家の方は、せっかく手に入れた技術も海外では高値で売れると言う事はない、とはっきり切り捨てる。
では、どういう運用を彼は行おうとしているのか?
「海外に売り込む訳ではないとすると、行うのは――」
「お察しの通りだ。この力を利用し、日本を裏で動かす! 超有名アイドルによる唯一神――デウス・エクス・マキナ構想を――」
投資家が何かを言おうとした矢先、何者かに狙撃されたかのように投資家が倒れた。狙撃者も、おそらくは――。
日向が周囲をサーチするのだが、その反応にもない。一体、何が起こったのか?
午前11時15分、2人の会話がかなり進んだ辺りでスナイパーは催眠弾の狙撃銃でピンポイント射撃を成功させる。
何故に催眠弾を使うのかは理由が不明だが――警察に投資家が尾行されていたのだろうか?
「結局、投資家連中は超有名アイドルによる世界征服と言うよりも、超有名アイドルを主役に――世界の巨悪を倒すようなシナリオを望んでいるのかもしれない」
スナイパーライフルを折り畳み、日向の目の前に姿を見せた人物――それは、何と比叡(ひえい)アスカだった。
今回の比叡は別のARゲームで使用するガジェットを装備している。その為、アーマーのデザイン等はリズムゲームプラスパルクールとは大きく異なる。
余談ではあるが、彼女の狙撃銃はガーディアンが使用するタイプの物であり、市販品等ではない。
一体、何の目的で日向の目の前に姿を見せたのか? 日向も疑問に思う部分があった。
「それこそ、なおさら夢小説や二次創作の世界――あり得ない。それに、ARゲームで命のやりとりは禁止されているはず」
日向は比叡の発言を無視するわけではないが、速攻で否定をする。
ただし、それを彼女に悟らせないように何とか言葉を選ぶ。おそらくはネット炎上を防ぐ意味合いがあるのだろう。
「その通りね。超有名アイドルが神となってこの世界を自在に操るなんて――二次創作や夢小説、それこそ妄想の世界。現実化するはずはない」
比叡の方も言葉を選び、超有名アイドルのやろうとしている事を否定する。
彼女は今まで自分のやってきた事――今までの罪が消えるような事は思っていない。しかし、一部勢力に今までの行為が神化される位なら――とも考えている。
「超有名アイドルは、一部の自己満足勢力や私利私欲――それこそ政治家に利用され、世界征服の為のコマに利用される。だからこそ、そうした思想の連中はせん滅するべきだ」
「だからと言って強引に連中を駆逐するような事を行えば、ネット炎上勢力と同じ末路をたどる。だからこそ、私はガイドライン改訂を含めての提案をしたのよ」
「ガイドラインを変えた事で、ガーディアンや一部勢力にゆがみが生じ、それこそ新たな勢力を生み出すきっかけとなった。変えなければ、投資家連中を一掃できた」
「光と闇があるとすれば、光だけの世界や闇だけの世界はあり得ない――ネット炎上は、形を変えた戦争だったのかもしれない。意見の対立はあったとしても、それを悪化させれば――」
2人の意見は似たような物だが、やり方に関しては対立している。
意見の対立自体は必ずと言っていいほどに起こるのだが、それを完全に無視して自分の意見だけを通そうと言う事は――あってはいけない。
「ネット炎上が悪化し、それをきっかけに命のやりとりをするデスゲームが起きれば、それこそ地球だけでなく銀河系は消滅する」
比叡は何かを伝えようとも考えたが、それを伝えても今の日向では本来のメッセージの意味を変えてしまうだろう。
それを踏まえ、比叡は何も伝えずに別の場所へと向かった。
午前11時20分、外の騒ぎを目撃したアイドル投資家が増援として姿を見せ始めた。その数は50人近く――。
比叡(ひえい)アスカが姿を消したのをチャンスと見て姿を見せたアイドル投資家もいる為、おそらくは日向(ひゅうが)イオナをターゲットにしていた可能性も否定できない。
それに加え、他に歯向う様な人物がいれば――という考えの人物もいる可能性は否定できないが。
「我々は超有名アイドル以外のコンテンツは認めない! 投資の材料にもならないような存在は――我々に必要ない。超有名アイドルの栄光の為、ネットを炎上させて黒歴史になるがいい!」
あるアイドル投資家がアナログチックな装置のスイッチを入れると、突如として周囲のテレビに超有名アイドルの映像が映し出されていた。
どうやら、彼らなりのARゲームに対する抵抗と言う事なのだろう。
「――馬鹿な! 一体、どうなっている?」
しかし、ARモニターは映像が切り替わっていないので、アイドル投資家は装置の不発を考えた。
何を仕掛けたのかは不明だが、リアルに時限爆弾の様な物ではないとは分かる。そんなものを使えば、芸能事務所がテロ組織の様であるという認識を海外に拡散し――事実上の自滅となる。
「装置の方は完璧のはず! 我々に慢心などないはずだ――」
別の投資家も、この装置に関しては自信があると考えていたのだが――現実は違っていた。
リアルで爆弾だった場合は警察が出動するのは避けられない。そうした状況ではないと言う事は、彼らが仕掛けたのは別の物であるという事を物語る。
『残念だが、君達の装置ではARゲームのハッキングを行う事は不可能だ』
突如として、ARモニターの一つの映像が変化し、そこに映し出されたのはARメット及びアーマーを装着した飛龍丸(ひりゅうまる)だったのである。
普通ならば、運営のメンバーが姿を見せるような場面なのかもしれないが、何故に彼女なのかは分からない。
これには日向の方も目が点になっていた。つまり、これに関しては日向も全く把握していなかった事になる。
おそらくは誰も気づかなかったような計画を――飛龍丸が発見した為に阻止をしたとも読み取れるような光景だろうか。
『以前のARゲームと同じと思ってプログラムを設定していたのかもしれないが、それが仇になったようだな』
その後、映像は再び元のPVに戻る。
どうやら、数十秒程度のハッキングと言う気配だろうか? あるいは、ブービートラップかもしれない。
10分経過――その頃には日向が襲い掛かってくるアイドル投資家を撃破していく。
当然だが、撃破に関してはARゲーム内での出来事であり――リアルで投資家を鎮圧した訳ではない。
警察だとフラッシュグレネード等で気絶させるような流れかもしれないが、そうした強引な力押しはARゲーム運営が認めていない――はずである。
しかし、日向は自分なりのプレイスタイルを貫き通した結果として――力押しに見えなくもない物になっていた。
使用したのは、当然のことながらリズムゲームプラスパルクールで使用しているガジェットではなく、ARFPSで使用している大型レールガンである。
その火力は――数十人単位で密集しているアイドル投資家を一発で行動不能に出来るレベルだ。
午前12時、ニュース番組では速報である事件を報道していた。
午前11時50分頃には速報テロップも出ているレベルだが――通販番組を放送している某テレビ局は無反応と言える。
これに関してはネット上でも『あのテレビ局なら仕方ない』と言われており、それ以外が同じニュースと言うのが問題かもしれない。
『大手芸能事務所から特定グループの炎上を依頼されていた、まとめサイトの管理人が一斉に検挙されました』
このニュースは、文字通りの意味しか持っていない。芸能事務所が特定アイドルに限らず、ライバルコンテンツを金の力で炎上させていたという事の証明である。
炎上マーケティングを主導していたのが芸能事務所だったとは――それを事前に規制できなかったのか、と言う部分に関しては――政府も協力していたと推測する声も。
「まさか、芸能事務所が一連の炎上マーケティングを主導していたとは」
ファストフード店でタブレット端末に表示されていたニュースを見て、ビスマルクも驚いている。
さすがに食べている途中のヤキソバパンをのどに詰まらせる事はないが。
「しかし、今更つぶやきサイトのユーザーは芸能事務所に操られていたと――そういう考え方をする可能性も否定できないか」
ネット上のタイムラインを見て『騙されていた』や『俺達が芸能事務所から金を貰えてもいいはずなのに、タダ乗り宣伝に利用された』と言う声もある。
そこから更なる炎上を危惧していたのは、ビスマルクだけではなかったのだが――。
同じタイミング、ガーディアンの一部勢力がテレビ番組の違法アップロード勢力を摘発した。
本来は門外漢なカテゴリーなのだが、そこから一部勢力に関する情報が手に入れば――と言う流れで逮捕したのである。
こうしたような理由で違法コピーのゲームを流通させようと言う勢力、違法ガジェットを流通させようと言う人物を摘発する流れは――別の意味でも相互協力と言えるかもしれない。
「ここまで違法配信をしていたとは――?」
音楽番組やバラエティー番組等の録画したHDDを押収する中、ガーディアンの一人がある動画の存在を確認していた。
その動画はテレビ番組とは全く違う物だ。その内容は――違法動画をアップロードしている勢力に対し、制裁を加えている人物が映し出されている。
「テレビ番組の違法アップロードだけで、ここまでの事をやるのか」
ガーディアンの男性は、思わず自分の口を抑える。他の動画を見ていた人物も、こちらに集まるように指示が出たので同じ動画を視聴していた。
思った以上にグロテスクと言う訳ではないが、その女性はサイコパスとも言えるような表情で容赦なくチェーンソーで犯人を痛めつけている。
ある意味でも、その表情に躊躇と言う物はない。情け容赦ない――とはこのことか。
「一体、この動画に何の意味があるのか?」
ガーディアンのメンバーは、動画の詳細に関して言及する事はなかったのだが――過激な行動も、ここまでエスカレートしてしまうのだろうか?
彼らの行く末は、この人物と同じような行動をとるようになってしまう可能性も否定できない。
この一連の流れが変化するのは、このニュースが報道されてから一週間後となる。
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