エピソード7『架空と現実の境界線』
架空と現実の境界線その1
ARゲームが市民権を得るまでには、かなりの時間を要する――そうネット上では誰もが思った。
それこそ、実現するのに10年はかかる――という話もあった位。
アニメ作品での町おこしでも理解を得るのに時間がかかる為、それをゲーム作品で――という意見に否定的だったのだろう。
しかし、それを瞬時で行ったとも言うべき事件が存在する。
ネット上では『超有名アイドル事変』とも呼ばれていた――暗黒の3日間。
一部のまとめサイト等では名称こそ違う物が使われているが、意味は同じ物なので多少の誤差はあると思うが、話は通じる。
歴史認識を歪めた事によるネット炎上――特定芸能事務所のAとBだけが主導で行った事が最大の原因であるのは間違いない。
その後、何が起きたのかは詳細は不明だが、暗黒の3日間とは――芸能事務所や政府の暴走と言われている。
「結局、リアル炎上の様な厄災が起きる事はなかったが――小規模の争いはあった」
そう過去を思い出していたのは、比叡(ひえい)アスカだった。彼女は過去の事件を思い出したくはないらしい。
それこそ、彼女のトラウマをえぐるような物である。負傷者が続出しなかったのは、ある意味でも奇跡かもしれないが――心の傷跡は想像を絶する。
4月21日、マンガ喫茶ではなくアンテナショップの端末から超有名アイドル事変の情報を調べようとした人物がいた。
しかし、その人物はまとめサイトの記述や一般的な都市伝説としての記述しか発見できず、真実にはたどり着けなかったのである。
仮に発見出来たとしても、ガーディアンが先回りしてサイトを凍結させた跡しか発見できないだろう。
実際、そうしたサイト跡らしきものはいくつか発見していたのだが――。
「連中の言っていた、事変とは――」
その情報を検索していたのは、インナースーツにARメットで顔を隠した天津風(あまつかぜ)いのりである。
飛龍丸(ひりゅうまる)との戦いの際、彼女は事変についても触れていたからだ。
しかし、ARメットの一部機能は復旧できたのだが――いくつかに関しては凍結されているままである。
顔を隠すのにはバイザー機能があれば何とか間に合うので、バイザー機能が使えたのは奇跡と言えるかもしれない。
『ARゲームはVRゲームの世界とは違う。興味本位でプレイすれば――』
あの時、飛龍丸はこう言った。自分は興味本位でARゲームを始めた訳ではないのに――である。
ARゲームが草加市全体で広まったのは、町おこしから始まった事も分かっていた。
しかし、飛龍丸は町おこしというのが表の目的ではないような触れ込みで喋っていたのだが――その詳細は調べて見ないと分からない。
古代ARゲーム自体がでっち上げなのは自分でも分かっている。おそらく、カードゲームアニメの設定でも利用したのだろう。
WEB小説のネタを借用したとも言えるのだが、アカシックレコードのデータを流用すれば情報偽装は容易に出来る。
大抵の人間がアカシックレコードに何が描かれているのかが分からないので、一般市民は騙せるだろう。
しかし、アカシックレコードの中身を知っている人間には騙せない。手品のタネを知っている人間と知らない人間の差はあるだろうか。
「結局、自分は連中にとっても都合のいいネット炎上の火種だったという事か」
他にも自覚せずにARゲームを荒らしまわる勢力はいるだろう。
そうした人間が、さりげなくアイドル投資家や一部勢力に利用されていた事も――ここで天津風は知ったのである。
埼玉県草加市、高速鉄道等は開通していないのだが、ここ数日で1万人は観光で訪れている。
その理由の一つとしてARゲームと言う存在があったのは言うまでもない。
『ARゲームは他の都心部でも出来ますが、その中でも草加市は機種の数が多い』
『電車で行く場合は若干不便ですが、ARゲームの多さには代えられないでしょう』
『草加市へはショッピングに寄ったつもりでした。しかし、ここのARゲームは面白い作品ばかりです』
ローカル番組の街頭インタビューでは、このような意見が出ている。
外国人観光客は聖地巡礼等がメインだったのだが、日本人ではゲーセンの遠征以外で目的があるとすればARゲームが断トツで多い。
最近では観光専用のシャトルバスも草加市で導入する事が検討され、更には聖地巡礼マップの整備、ARゲームの対応ショップを増やす等の対応が考えられている。
市役所でも観光案内スペースでARゲームのアンテナショップを案内する施設もあるし、駅構内等でもショップ検索が可能な端末も置かれている程に、広まりを見せていた。
秋葉原、西新井、北千住、竹ノ塚等の一部エリアでもARゲームの環境整備は進んでいるのだが、それよりも草加市の整備スピードは非常に早かったのである。
一方で、こうした動きに対して妨害をしようと言う組織もある。
一部で問題視され、違法ガジェットやチートツールでCD購入の軍資金を集めていた超有名アイドルファン、ネット炎上で目立とうとするつぶやきサイトのユーザー等の存在だ。
こうした勢力を一掃する為に、コンテンツ流通妨害の掃除屋として指名されたのがガーディアン組織だったのである。
それを生み出したのは、飛龍丸なのだが――今では別の人物がメインと言う様子を見せていた。
ガーディアンとコンテンツ流通妨害をする勢力の争い、それをネット上では炎上の火種にならないように意図的な名称を付ける事で、一般ユーザーを遠ざけていた。
ARゲームに関係のない分野を『日常系』と言うのに対して、ARゲームを巡る争いを『新日常系』と名付けた。
しかし、このネーミングは炎上させる事を楽しむ愉快犯を増やすだけではなく、風評被害や二次被害を生み出す流れを作るきっかけになってしまう。
既に一部のユーザーは、そうなりつつあるという事を自覚していたのだが――。
4月21日、天気予報をARガジェットでチェックしていた人物がいた。
「雨の可能性か――しかし、多少の雨であれば中止にせずに強行するゲーセンやアンテナショップが多いだろう」
ARゲーム用のインナースーツではなく、メイド服の姿でアンテナショップを見回っていたのはローマだった。
プレイヤーの安全を確保するという意味であれば、雨天でARゲームをプレイするべきではないだろう。
しかし、屋内でプレイするようなARゲームでは雨天でも問題ない。そちらは大丈夫かもしれないが、問題は屋外でプレイするタイプだ。
「利益を優先して、安全性を無視すれば――悲劇は繰り返されると言うのに」
ローマはネット上で発見した事件ファイルと思わしき物を思い出していた。
そこには、ARパルクールでアクロバットを披露したプレイヤーが怪我をしたというニュース記事が載っている。
しかし、このニュースは地方のローカルニュースと同じ扱いになっており、一面記事ではなかった。
ARゲーム運営側はロケテ時の事故と言う判断をしているようだが、事故が起きた同日に謝罪会見を行っている。
それ程に素早い対応で事故等を謝罪するからこそ、ARゲームは長期炎上しないのだろうか。
4月22日、今日に限っては天気が曇り気味だったが――午後からは晴天に回復した。
ARゲームの場合、一部ジャンルでは防水対応ではない為に雨天ではプレイ不可と言う機種もある。
しかし、それでも非公認の防水加工等で強行参戦しようと言うプレイヤーは少なくない。
大雨にARアーマーが耐えられない為にプレイ不可にしているのだが――非公認パーツの使用をチートとして申告している展開は、ネット上でも聞かれる。
【防水ガジェットは近日中にカスタマイズパーツで出るらしいな】
【非公式のパーツが出回ると、数日の内に公式でパーツを発表するのは手回しが良すぎる】
【実際、どれほどのチートツールやアプリが出回っているかを把握しているからこそ――アレだけ手回しがいい】
【ARゲームのチートよりも、あの作品のチートを何とかして欲しい。そのおかげで互換なしとか――】
【それを言うなら、RMTに利用されているアレとか――】
【RMTは超有名アイドルのCD購入に利用され、更にはCDチャートの水増しに貢献しているとか――】
【結論から言うと、自分達を創造神と本気で言っている芸能事務所側を排除するべきなのか】
ネット上でもARゲームに対するチートを叩いていると思ったら、別のゲーム作品のタイトルを上げての炎上狙いと言うつぶやきもある。
ARゲームのチート排除の動きは、基本的に怪我人が出てからでは遅いという対応のはずだが――手段と目的が入れ替わっていると言及するプレイヤーもいた。
基本的にARゲームはチートを使われると、純粋にプレイしているユーザーに影響が出る。
実際、イースポーツ化が加速している現状では不正な賞金稼ぎにチートが悪用されると言う意見も相次いでいた。
「どちらにしても、つぶやきサイトの発言が色々とネタバレを理由に情報のソースをオープンにしていない。もしかすると――」
コンビニの店前でタブレット端末を見て、一連のタイムラインを見ていたのは帽子を深く被っていた長門(ながと)クリスである。
しかし、帽子を被っていても私服のセンス的な意味でも長門だとモロバレしてしまうのが難点か。
「他のARゲームでも一連のチート騒動などもあって、何処も純粋に楽しむには環境が――」
長門が見詰めていたのは、以前に取得したパワードミュージックのアカウントデータである。
あの時にプレイはしたのだが――想定していたのとイメージが若干異なっていたのも、他のARゲームをプレイして様子見していた理由だろう。
「そう言えば――」
長門がアカウントデータをチェック後に見ていた物、それはいわゆるプレイ動画である。
その内容は長門と同じく初心者のプレイヤーのプレイ動画だった。何故探したのかは唐突で分からない。
しかし、初心者なのに上級者並の動きをするプレイヤーは、稀に目撃される事例があり、パワードミュージックでも目撃例があった。
4月23日、この日はあいにくの雨だった。何時も晴天の日が続く訳ではないのは当然だが、雨が影響する屋外系ARゲームは中止になっている。
野外系でも屋内でプレイ可能な作品は屋内ドームなどでプレイ可能なのだが。
例外としてサバゲ系列は雨という環境でプレイ出来るのがレアケースなのか、サバゲ―プレイヤーにも人気だった。
屋内専用のARゲームもあるので、そちらはプレイ可能だが――屋外系のゲームがプレイできないのは痛手というプレイヤーもいる。
【こういう時こそ防水ガジェットが――】
【リリース予定は少し先だ。限定数がないという事は――】
【全天候型ARゲームが実現するのは、まだ先なのか?】
【大事故に繋がるような天気でプレイする訳にはいかないだろう。砂漠のど真ん中の様な過酷な環境でプレイするのは無謀だが】
【事故とは言うが、そこまで大げさに考える必要があるのか】
【アーケードゲームでも、バイクゲームでふとした拍子で転落したり、格闘ゲーム等のリアルファイトに展開する行為、そう言った物も問題視されている】
【そう言った要素を取り除き、一般人からクレームが殺到しないようにする――それがARゲーム運営の考えだろうな】
様々な意見が飛び交うのだが、これが本当に一般的な多数決意見なのか? 自分自身の意見なのか――その辺りを確かめる手段は少ない。
つぶやきサイトでもなりすまし行為が問題視されている為、何を信じるべきなのか――その見極め方を求められている。
そんな雨の中でもアイドル投資家等は休むことはない。雨天の時にはネットカフェなどで情報を収集したり、株式投資等で稼いだり――色々だった。
その中でも物理行動を起こす者もいる。結局はネット炎上を行い、超有名アイドルを唯一無二のコンテンツにする為には、24時間行動を起こす事が必要と考えているのかもしれない。
雨の中ではARガジェットも使用不可能のはずだが、屋内フィールドをピンポイントで狙っている為、襲撃に関しては天気も関係ないようだ。
「雨天なのに、わざわざご苦労な事だ」
アイドル投資家等を瞬時に撃破する人物、それは天津風(あまつかぜ)いのりだった。
屋外フィールドは基本的に雨天の為に使用不能のはずだが、ARFPS等の一部ジャンルでは防水ガジェットが運用されているので、転向に関係なくプレイ出来る。
ただし、大雪等ではプレイ不可能だ。さすがに、安全性のリスクが生じる状況でゲームをプレイする人物はいないだろう。
仮に禁止エリアでARゲームを展開しようとした場合、確実にアカウントはく奪は避けられないが。
4月24日、昨日の雨が嘘のような晴天である。
雨の時は太陽光発電は使えないが水力や風力等の発電を使用し、屋内用ARゲームの電力を賄っていた。
太陽光と言っても、午前中からまっ暗闇ではないので――わずかな日差しからでも発電は可能であるのが、市販されている物との決定的な違いだ。
これほどの技術でありながら、ARゲームに使用される技術は特許を申請していない。
それどころか、ARゲームの運営はそこから新たなアイディアが生まれる事を踏まえて特許申請をしていない可能性もある。
おそらく、ARゲームの技術から生まれたという事でARゲームの認知度をより一般化させ、市民権を得ようとしているのだろうか。
過去にリズムゲームにおける特許権の事情がある可能性――それを運営側が知らない訳はない。
「リズムゲームが格闘ゲームと違い、複数の会社からはリリースされづらい環境――か」
ふと思い出に浸っていたのは、ゲーセンで順番待ちをしていた比叡(ひえい)アスカである。
順番待ちと言っても、特定の席に座るタイプではなく、立って待機するタイプなのだが。
「何が、どうしてこうなったのか――」
2000年代前期ではアーケードのリズムゲームと言えば1社の独断場とも言える状況だった。
しかし、その状況は時が流れるにつれて変化し、遂には別メーカー同士でタッグを組んでリズムゲームの大会を開催する程になる。
それでも紆余曲折は多く存在し、この展開を待ち望んだリズムゲームプレイヤーも多い。
比叡が見つめる先にある機種、それは以前にプレイした事のある機種とは違うのだが――。
同日、天津風(あまつかぜ)いのりは、ある人物に遭遇した。
その人物とは、ARゲームフィールドが展開されていないのに、フルアーマー状態という西雲響(にしぐも・ひびき)だったのである。
『アマツ、お前のやっている事はARゲームから新規プレイヤーを離れさせる行為――それに近い』
西雲の一言を聞き、天津風はARウェポンを構えようとしたのだが、この周囲にARゲームフィールドは展開されていない。
それでも西雲が正体を見せるような事はない。フルアーマーはARゲームとは連動していないのだろうか?
「それは言われるまでもない。しかし、ARゲームを炎上マーケティングや超有名アイドルにとってのビジネスモデルを認めるほど――こちらも甘くはない」
天津風の一言、それは何を意味しているのだろうか?
全てを聞き終える前には、既に西雲は姿を消していた。西雲が話を理解したかどうかに関しては不明である。
4月25日、一部のプレイヤーがネット上の不審な情報を通報する案件が発生する。
「何かが違う――これは明らかに愉快犯の手口か」
この異変に気付いたのは飛龍丸(ひりゅうまる)だったが、今はARガジェットを修理中と言う事もあってARアーマーの展開は出来ない。
仮にレンタルアーマーを使ったとしても、彼女のアカウントは停止中なのでどちらにしても同じだが。
【このチートって少し前に取り締まり対象になっていたような気配がする】
【それを今更通報って?】
【使用できないチートを通報する事に、何の意味がある?】
【おそらく、チートプレイヤーが多く存在するという事実を広めたいのだろうな】
【それでARゲームを潰そうと言う事か】
タイムラインでは、この他にも通報情報が相次いでいたのだが――。
この情報がいたずらだと断定するには、チートの種類が細かく書かれており、偽物と判別するにも数が多すぎる。
その為、偽情報を絞り込むにも苦戦したと言えるのかもしれない。
「これが、アカシックレコードの――?」
その不審情報を調査していたビスマルクは衝撃的な事実を知る事になった。
別所、日向(ひゅうが)イオナは、偽の通報をしている人物の割り出しに偶然だが成功していた。
「ARゲームと言うフィールドを荒らす連中――それを逃がすと思うのか?」
日向が展開していたのはバックパックの変形したパワーアームユニット。阿修羅像の4本腕とギミックは似ているが、こちらは2本だ。
いわゆるSFでも用いられている隠し腕と言うべきか。
その隠し腕で掴んでいたのは愉快犯が使用していると思われるドローンだ。
どうやら、このドローンに何かのシステムをインストールし、拡散していたようである。
「馬鹿な――お前は、我々の味方ではないのか?」
ドローンを奪われ、絶体絶命の男性プレイヤーは日向に詰め寄ろうとする。
しかし、詰め寄った所でARアーマーを破壊しようと言う策略だと日向はあっさりと見破っていた。
「味方? ARゲームを荒らして自分が悪目立ち――あるいは超有名アイドルの売名に利用したのだろう?」
「我々は、そんな事はしない! あの芸能事務所に所属しているアイドルは敵だと言うのに」
「敵ねぇ……」
「そうだ、我々は違う地下アイドルの――」
男性の方は完全に口を滑らせた。いわゆる一つの負けフラグである。
その後、日向が完全に切れて、パワーアームでプレイヤーを握りつぶそうとしたが、それは寸前の所でアイオワが発見し、止めた事で事なきを得る。
この際の日向は、完全に眼が本気だったと言う。つまり、事故としてプレイヤーが負傷しても何とも思わない程。
ゲーム中の負傷等であれば、運営側の判断で対応が決まるケースがあるのだが、今回に限れば――日向がゲームへの正規乱入というよりも、場外乱闘の様な形である。
おそらく、こうした形での乱入はARゲーム運営側も認めておらず、ここでプレイヤーを負傷させていた場合――アカウント凍結ではなく、アカウント削除も可能性の話ではあるが――あり得るだろう。
4月25日、この日に限って言えば新人プレイヤーのエントリー数が増えたという訳ではないのだが、想定外とも言える新人が現れた日でもあった。
次々とランカーに近い実力を持つプレイヤーが頭角を現す――新人ラッシュとも言えるような日になっていたのである。
そのメンバーの一人は、別ゲームでも強豪と言われている長門(ながと)クリス――ある意味でも本命が参戦したと言っていい。
次に、日向(ひゅうが)イオナ、アイオワ、明石零(あかし・ぜろ)、西雲響(にしぐも・ひびき)等の名前が挙がっている。
それ以外でも強豪プレイヤーの名前が出ているのだが、動画として注目されているメンバーはこの5人だろうか。
しかし、日向に関してはパワードミュージックでのプレイよりも別の意味で注目されていたと言ってもいい。
それは、不正ツール使いを潰していくというチートブレイカーとしての一面だった。
【日向は意図的にチートを使用しているプレイヤーとばかり対戦している。しかも、乱入も含めて】
【パワードミュージックで乱入とは――リスクの方が高いはずなのに】
【対戦格闘だと乱入される事のリスクは相手プレイヤーも分かるはずだが――】
【リズムゲームで乱入というシステム自体は聞いた事がない】
【ARパルクールでは飛び入り参加というシステムを採用している機種もある。システム的には、そちらを採用しているのだろう】
つぶやきサイト上では、日向のやり方に関しては賛否両論と言う状況であり――あまり褒められるようなやり方ではないという意見が多い。
彼女のやり方は、どちらかと言うと不正ツールを使うプレイヤーやアカウント転売等を行うアイドル投資家を次々とARゲームで潰していく――。
ある意味でもARゲームで潰していくという方法には賛否があるのかもしれないが、それ以外の手段で報復をやろうとすると警察に逮捕される。
それを踏まえた上で、この方法を取ったのかもしれないが――。
「そんな戦法を取ったとしても、自分達の行動が応援していたアイドルを間接的に苦しめる。それが分からないのか?」
ネットの書き込みなどをチェックしていた天津風(あまつかぜ)いのりは、彼らが行っている事は自滅行為に他ならないと考えている。
その証拠として、さまざまなニュースサイトでアイドル投資家逮捕のニュースが出始めており、そこでは『芸能事務所の命令でやった』と言う趣旨の自白をする人物もいたほどだ。
午後1時、竹ノ塚駅と谷塚駅の中間辺りに位置しているアンテナショップ――そこでは、パワードミュージックのプレイが行われていた。
コース構成は、400メートルトラックを使用した物だが、建造物の様なオブジェクトは一切ない。
「手ごたえがなさすぎる――この程度だって言うのか? 超有名アイドルファンの民度もたかが知れている――」
まるで、かませ犬にすらならないと遠回しに明言しているような日向――。
その装備はARガジェットの中でも、かなりのカスタマイズが施されているように見える。
さすが、複数のARゲームで出入り制限等を受けただけの事はある――のかもしれない。大きな自慢にはならないと思うが。
「あれは、確か――」
ARアーマーを装着していない状態だが、ARメットのみを被った状態で準備をしていた比叡(ひえい)アスカは――日向のプレイしている様子を見ていた。
そして、彼女を放置するのは非常に危険だという結論に至るのだが――彼女が狙っているのが不正ツールのユーザーばかりをピンポイントで狙っている点が気になる。
それ以外にも日向には聞かなければならない話もある。特に一連のアイドル投資家襲撃やARゲームにおける違法ガジェットの流通も――。
「彼女の真意、確かめないと――」
そして、比叡はエントリーをしようとARアーマーの装着を行う。今のタイミングだと乱入してくるであろうプレイヤーもいない為、チャンスと考えていた。
しかし、そノ予想を裏切るような展開が目の前に起こっていたのである。
《マッチングが一定数に達しました。このステージには入る事が出来ません》
比叡のARバイザーに表示されたエラーメッセージ、それはステージの入場者数が定員になった際のエラーである。
ARFPSではフルマッチともネット上で言われるが――簡単に言えば満員を意味していた。
「あのプレイヤーは――」
比叡が近くを見回すと、案の定というか日向狙いのプレイヤーが次々と乱入していたのである。
その結果として、定員オーバーが早かったという事だが――。
5分後、マッチング前のガジェットチェックで引っ掛かったプレイヤーが数人、マッチングからはじき出される結果になった。
弾きだされた理由は、言うまでもなく不正チートである。
ここ数週間の間でチートツールも巧妙化しており、チート疑惑のあるアプリは容赦なくはじくような仕様に変更した結果が――今回のチェックにあるようだ。
その為、空席が出来たような物だが――その時には比叡も別のマッチングに参加していた為、今更キャンセルも出来ない。
日向の方も対戦相手待ちをするのだが、あからさまなチートツールを使っているようなプレイヤーでは、日向には勝てないだろう。
正攻法でもARゲームを50タイトル以上はプレイしている彼女に――だからこそ、チートを使ってでも勝とうと言う考えに至っているのかもしれない。
しかし、一時的な勝利の為に反則行為やチートに手を出した結果、一生後悔する事になった事例はいくつもある。
それがオフラインゲームであればチートの使用は個人の問題であるが、これがオンラインゲームだと話は別だ。
チートの使用は場合によってはプレイヤーが逮捕という事になり、その事例はいくつも報告されている。
だからと言って、ソーシャルゲームにおける廃課金と言う様なプレイがARゲームで認められる訳でもないが。
ARゲームは基本的にシステムや安全性の都合で18歳以上と決まっているジャンルが多く、ソーシャルゲームでの未成年による課金破産も一切起きない。
ARゲームの場合は基本的にプレイ無料のアイテム有料と言う料金設定はとっていないのは――ある種の宿命だろうか。
その為、料金設定は100円1クレジットが基本となっている。200円と言う店舗もあるのだが、ARFPS等の一部ジャンルに限っての対応と思われる。
「相手がいないのであれば、私が相手になるが」
日向の目の前に姿を見せたのは、重装甲ガジェットと言うよりもバランス型を思わせるカスタマイズに調整したビスマルクである。
ビスマルク自身は日向に挑むのは初めてである。他のジャンルでは日向に挑んだ事もあり――。
しかし、一部のゲームでは返り討ちになった事もあった。
「ビスマルクか――今は、お前の相手をしているほど暇ではない」
あくまでも丁寧な言葉で返答する日向。自身が下品な言葉を嫌っているのも理由の一つだが。
「こちらとしても、お前のやっている事を見逃す訳にはいかない。お前のやっている事は――ネット炎上勢力に利用されている」
ビスマルクの方も日向に対して――これが本心かは不明だが、周囲で様子を見ているであろう勢力を警戒している可能性も否定できない。
「ARゲームの環境を荒らすプレイヤーを掃除する――それの何処が悪いと言うのか?」
「その為にARゲームで根絶するのか? いくら何でも――」
ビスマルクは何かを言いたそうだったが、それを遮ったのは一部プレイヤーの放ったビームライフルだ。
丁度、日向のバックパックに掠るのだが――それに日向が気づかないはずもなかったのである。
午後1時10分、日向(ひゅうが)イオナは思わぬ場面に遭遇したのである。
「リアルバトル――だと――言うのか?」
日向のバックパックに掠ったビーム光――回避しようとすれば回避可能だったが、それよりもビームの方が早かった。
命中エフェクトが発生したという事は、ARFPSとしてフィールドが成立している証拠であり、日向は相手のフィールドに入ってしまった事になる。
これに関しては日向の方も想定外だった可能性が高い。それに――。
「ARゲームは複数フィールドがブッキングしないように、仕切りやタイムスケジュールは厳重管理されているはず――」
落ち着いているビスマルクの言う事も一理ある。複数のARゲームフィールドが重なりあえば、大参事もあり得るのだ。
過去には、それが引き金となった悲劇も存在し、中には多くの怪我人が出た事によって史上最悪の惨劇となってネット上で炎上した事も――実在したのである。
「明らかに意図的な陰謀を――感じる」
その後、日向はバックパックを変形させたアームユニットを展開し――狙撃犯を違反プレイヤーとして突き出した。
戦闘にかかった時間は1分にも満たない。狙撃犯を含め、日向にとってはかませ犬にもならなかったようである。
【あのフィールド干渉は一体?】
【しかし、他のプレイヤーが完勝に気付かないケースだったら――事故どころの話ではない】
【確かに――下手すればテロリストなどに悪用されかねないだろう】
【それでも通報した人物がいたからこそ――だな】
【誰も気づかなかったら、大変な事になる】
【しかし、他のARゲームのアカウントも未所持と言う人間が別フィールドに侵入したら?】
【ジャンルによって対応は違うが、基本はアカウント停止か。今回の様なアクシデント的なものであれば、特に問われないはずだが】
【今回のフィールド干渉は、何が狙いだったのか?】
【新型チートの実験、他ジャンルのARゲーム潰し――他にも考えられるが、他のARゲームの中には、細かい禁止事項もある】
【つまり、今回の事件を起こしたのはスタッフ等の内部から?】
【内部とは限らない。まとめサイトの管理人が仕掛けたという説も――】
つぶやきサイトでは、様々な憶測も流れるが――それを信用するケースはごく少数だった。
下手につぶやきサイトの発言をソースなしで拡散すれば、それこそパニックを起こすのは確実だろう。
それは、SNSを扱うユーザーの誰もが心掛けないといけない物である。
「ネット炎上のきっかけは、様々だろうが――」
つぶやきのタイムラインをARバイザーで確認していた天津風(あまつかぜ)いのり、彼女は何かを考えていた。
炎上マーケティングを政府が規制しようと全く考えていない事は、一説として芸能事務所の指示と言う説が浮上し、それが原因でネットが炎上した事もある。
ネット炎上で大規模テロが起こった場合、責任は誰が取るのか等の課題も存在して取り下げになった経緯もある事にはあるのだが、どう考えても後付けなのは誰の目から見ても明らかだ。
「ネット炎上をテロ事件等に悪用されれば、それこそアカシックレコードに書かれていた悲劇の連鎖が繰り返される――」
彼女が何処に向かっているのかは分からないが、アイドル投資家などから情報を聞き出すのが優先と判断し、出没すると思われるエリアへと急いだ。
5分後、事情説明等で時間がかかったのだが、無事に再起動も終了し、今度はフィールド干渉する事がなかったと言う。
何故にフィールド干渉の様な事が起こったのかは不明だが、セキュリティが作動しなかった事を指摘する人物の存在もある。
ARゲームには不正チートをチェックするシステムが存在し、未知数のチート出なければ、そこで引っ掛かるのだが――。
「未知のチートよりも、既存のチートにステルス機能を加えたような物だった。一体、何者が――」
ビスマルクは、今回の一件が内部犯と言う可能性も考えた。
その理由として、逮捕されたプレイヤーの使っているチートは既に取り締まり強化された物であり、脅威度としては低い物だ。
脅威度が低いチートでも細工がされていれば危険なチートへと進化する為、脅威度の数値も参考程度にしかならない場合が多い。
本来はチートが進化するとはあってはいけないのだが――下手に大量破壊兵器になってしまっては、ARゲームの運営どころではなくなる。
【どう思う?】
【チートを改造し、更なる能力を付け加えるような方法は今後も増えるだろう】
【警戒する必要があると?】
【そうだな。危険なチートがブラックマーケットで売られでもしたら、それこそ大災害を呼ぶ】
【それは自然現象も操るのか?】
【さすがに自然現象は操れないし、歴史の改変なども出来ないだろう。そこまで干渉出来たら、それは神の所業だ】
チートガジェットを作るには、相当な技術が必要である。それもアカシックレコードクラスのレベルで。
だからこそ、彼らは神とも呼ばれる事もあった。しかし、全てを自分の都合よくコントロールできたとしたら――。
「神は架空の存在だからこそ、その力は奇跡と言っても良い物になる。しかし、人間が神の力を使えたら、それこそチートと言われるだろう」
大和朱音(やまと・あかね)は、別の場所から一連の中継を視聴していたのである。
人間が神の力を行使する事、それを大和はチートの使用と考えていた。
超有名アイドルの芸能事務所が起こす数多くの不思議な出来事――それを大和はチートの使用と断定している。
芸能事務所の行動をチートと考えているのは大和だけではなく、他の人物も同様だろう。
ある意味でもARゲームプレイヤーはリアルで遭遇しなくても、ARバイザーの会話ツールやARガジェット、アカシックレコードなどで繋がっているのだろうか。
「そうしたネット上のつながりを悪用し、ネット炎上等に悪用する勢力――まとめサイト勢等は根絶すべきなのか」
大和は改めて考えている。特定の勢力を根絶すれば、ARゲームの環境を守る事が出来るのか?
現状のガイドラインは保護主義的ではないのか――謎は多く残されている。
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