大和、出撃!その2
4月16日午前9時30分、時を同じくして谷塚駅近くのアンテナショップでARガジェットを装着し、準備をしている人物がいた。
それは、エントリー再開待ち状態になっていた長門(ながと)クリスである。
彼女の場合は、パワードミュージックの新規エントリー停止騒動に巻き込まれる形で登録が出来ない状態になり――現在の状況に至っていた。
エントリーの出来ない理由は襲撃事件が原因だと言う事は後に知ったが、それでも納得できない部分はある。
ARゲームで事前登録の中断がされる理由は、大抵がゲームバランスの調整や登録者が予想より少ない等の理由がメインだったからだ。
それこそ、ソーシャルゲームでも良くあるようなサービス開始前のトラブルで聞かれる事例と同じと言える。
その為、今回の理由に関してはARゲームの運営本部への乗り込みも考えていた。
しかし、この事件は思わぬ方向に動き出す――長門も知らない所で、何かが動き出していたのである。
『――たった今届いたニュースです。芸能事務所E社は、芸能事務所A社を潰すという脅迫状を送ったとして――』
長門は別の場所に置かれたテレビを見ながら待機していたのだが、ニュースの内容を聞いて目が点になっていた。
このニュースを目撃したギャラリーも、状況把握が出来ておらず――中には誤報扱いする人物もいる。
「E社のアイドルが脅迫状? それこそ信じられないだろう」
「そういう筋書きで芸能事務所A社を目立たせるという闇取引をしたのだろうな」
「そんな事をしても、ファン離れが加速すると言うのに」
「まるで、不祥事の暴露合戦じゃないか。何処かのゲームでアイドルの暴露合戦をパロディで淹れた作品もあるが――」
「このニュース、続きがあるぞ?」
『一連のARゲームを巡る襲撃、違法ガジェットの流通に関しても自分達の仕業だと自白しており――』
「おいおい、それは本当か?」
「パワードミュージックのエントリーも再開されたみたいだが、後味の悪い結果だ」
「そういうシナリオで――とも言えない程の展開だな」
「これが、資金力のある芸能事務所のやる事か?」
「あれは絶対悪や必要悪と言う存在ではない――悪は悪でも、ゲスな悪としか言いようがない」
「仕事人ナインはいないのか? 彼らなら、超有名アイドルでも――」
「仕事人ナインは、さすがに違うだろう。それはフィクションの世界の存在だ。ARゲームならば、ガーディアンの出番だろう?」
一連の事件の犯人が芸能事務所Eのアイドルと言う事が報じられ、周囲も動揺を隠し切れていない。
何か別の話題でごまかそうと考える人物もいるが、それでも芸能事務所Aがやっている事はグレーゾーンどころの話ではないだろう。
それこそ、ネット炎上を仕掛けるつぶやきユーザーと同じ事を芸能事務所がやっているのだ――。
一連の芸能事務所が行っている事、それを有名無罪と言う言葉で片づけるには無理が生じる。それは、誰の目から見ても明らかだろう。
「一体、向こうの目的は――何だと言うのだ」
長門の方もニュースを聞き、勢力の動向を調べようとネット検索を行うのだが――大方の予想通りの展開となっていた。
芸能事務所なのか、あるいは芸能事務所がつぶれると都合の悪いアイドル投資家なのか――つぶやきサイトには、サクラと思われる書き込みが相次いだのである。
目的としては情報のかく乱の為か、その目的は達成されたも同然だ。この状況を見た長門は、ため息しか出てこない。
一連の芸能事務所に関する事件は、大きく報道される事となった。その理由として、脅迫状と言う手段に出た事が挙げられる。
しかし、それだけで大きくニュースになるのだろうか? 芸能事務所が行った事を考えると、いたずらでは済まない事も理由の一つかもしれない。
「芸能事務所Aに脅迫状を送ったという事実だけを切り取り、あたかも芸能事務所Eが送ったように見せかける――そう言うパターンか」
ある場所へと移動していた比叡(ひえい)アスカも、移動中にこのニュースを知った。
本当に、このニュースが本物なのかどうかを調べるよりも――今の比叡にとっては重要な事があり、そちらを優先しなくてはいけなかったのだが。
「おそらく、犯人は芸能事務所Aの信者かアイドル投資家か――?」
比叡は単純に犯人の正体が簡単なものではないか、と考えていた。重要視する事よりも優先する事であれば、こちらを調べる必要もあるとも――。
しかし、今の彼女が重要視しているのはアカシックレコードである。それに加えて――。
午前9時35分、アンテナショップ行きのバスに乗り込んだのは明石零(あかし・ぜろ)、向かうのは谷塚駅近くのアンテナショップだ。
このバスはARゲームプレイヤー専用に近い位、インナースーツを着用している乗客が大半なのだが、これに関しては明石は何もツッコミを入れる力もない。
「周囲の人物は、ほぼARゲームのプレイヤーか。インナースーツのバージョンやパターンによっては――と思ったが」
バスを利用する乗客は、全てARゲームプレイヤーであるという事なのだが――明石が気にしていたのは、インナースーツの形状やカラーリングである。
中には実戦向きと言うARガジェットも存在、あまりにも強力な物は軍事兵器と呼ばれる事もあった。
実際に一部のチートガジェットや違法ガジェットが、軍事兵器に近い性能を持つのだが――。
仮に、そう言った物が出回るのか――と言うのは明石には把握済。一部のネット勢力等も、こうした不正ガジェットは罰金制度を加えてでも規制すべきと声を強くしている。
「チートに罰金刑を導入しても、ばれなければ問題ないというプレイヤーが出てくるのは明白だ。それに、芸能事務所が絡むと――自体はややこしくなると言うのに」
明石の方は、あまり喋りたがらないような性格なのだが――チェックしているつぶやきサイトのタイムライン的には、ツッコミを入れずにはいられなかった。
バスの方は高速で移動している訳ではないので、渋滞等に巻き込まれると時間がかかってしまう。
しかし、特殊系列のARバイザーユニットやブースターユニットと呼ばれるような物は移動手段にも使えるが、それは一部の限定されたエリアのみ。
下手に一般道の許可されていない道路で乗り回そうと言うのであれば、大変な事になるだろう。
「急がば回れ――と言う事か」
特にやる事もないので、明石はバスの窓から見える風景を眺める事にした。
西暦2019年とは思えないような近代化ビルに混ざる平成初期辺りの様な住居やアパート、耐震性の高いマンションに混ざる建造物もある。
電車に関しては、高速鉄道の類はこのエリアで見かける事はない為、私鉄の類がメインなのだが。
ARゲームのアンテナショップは近未来を思わせるのに、全体が近未来の様な光景にならないのには――工事の遅れなどとは別の事情もあった。
午前9時50分、長門はエントリー再開をアンテナショップ内で待っていたのだが、そこである人物に遭遇する。
『長門クリス――』
外見はブルーとホワイトのツートンカラーのインナー、全身アーマー、それ以外には音楽ゲームのコントローラを思わせるようなビームサーベルを両肩に収納しているように見えた。
ARメットは全体を覆うタイプ、ツインアイが特徴な特別仕様――装備のカスタマイズ具合からはワンオフとも感じ取れる。
しかし、これほどのARガジェットを持っている人物を長門は見覚えがなかった。なのに、向こうは名前を知っているのはどういう事なのか?
「覆面騎士や謎のヒーローを自称しそうな人物に、自分の名前を知っているような知り合いはないが」
半分冗談気味に長門は対応する。それを聞いて謎の覆面騎士は対応に困っているようだ。
『失礼した。私の名はヴェール……いや、今のは忘れてくれ』
迂闊にも別の名前を名乗りそうになったが、長門は聞き流している。
もしかすると、ハンドルネームでも名乗りそうになったと勘違いしているのか?
『改めて名乗ろう。私の名は、西雲響と言う。機会があれば、よろしくお願いしたい』
男性声の人物――明らかにボイスチェンジャーなので怪しいかもしれないが、彼は西雲響(にしぐも・ひびき)と名乗った。
西雲と言う単語は、あまり聞きなれないような苗字なのは間違いないだろう。
「よろしく頼む。西雲――響」
少し間が空いたような反応だが、長門は西雲と言う苗字には聞き覚えがあった。
確か、アカシックレコードで――とも思ったが、今はそちらに関わっている暇もない為、ひとまず置いておく事にする。
今はパワードミュージックのエントリーの方が重要だからだ。
西雲が何故に、この場に姿を見せたのか――それは長門の知る所ではない。果たして、彼の目的は何なのか?
4月16日午前10時、アンテナショップでも対応が二転三転するような場所もあったが――無事にパワードミュージックの新規登録が再開された。
再開を喜ぶプレイヤーが大勢いるのかと言うと、そうではなく――直前でエントリーをしようとしたらキャンセルされた等の事情を抱えているプレイヤーがエントリーするのみ。
実際、エントリー再開を喜ぶユーザーがいる一方で、今回の再開を悔しがる人物と言うか勢力もいたからだ。
たとえばフジョシ勢、夢小説勢、あるいはヴィジュアル系バンドの夢小説を書いている勢力等――いわゆる妨害工作を行ったとされる勢力とネットで炎上する事になった勢力である。
彼らは他のARゲームでも妨害工作を仕掛けたと疑いをかけられており、再びエントリー中止の為にタダ乗り便乗や悪目立ち勢が自分達の名前を騙って妨害行為をする可能性も否定できない。
そうした事情もあって、彼らはエントリー再開を喜べなかったのだ。
【アイドル投資家自体が海外へコンテンツを売り込む為のテストケースだった説も――】
【それこそ、一部政治家の人気取りに使われたと言っても過言ではない】
【あの芸能事務所こそ、全世界の支配者であるべきという思想に超有名アイドルが悪用されたとでも?】
【特定芸能事務所を神化する動きは、第4の壁の先でも行われている】
【超有名アイドルはコンテンツではない。株式投資であるのは――】
他にも色々な発言もあったが、その一部は投稿が削除されていた。削除されていたつぶやきは、どれも芸能事務所Aを名指しした物ばかりが狙われている。
その理由はネット炎上等の被害防止ではない。それに加えて、一部勢力による圧力でもなかった。
仮にネット炎上狙いであれば、芸能事務所Aを批判せずに別のコンテンツを批判すれば、ネット上の反応もあるはず。
こうした裏事情もあるのだが、表向きはパワードミュージックのエントリー再開を喜ぶプレイヤーが圧倒的だったのは事実であり、ネット上でも同様である。
しかし、アイドル投資家のやっている無差別とも言うべきアイドル投資はコンテンツ産業にとっては、非常に邪魔な存在になっていた。
その理由に関しては、ここで言及しなくても察しの良い読者はすぐに分かるだろう。
芸能事務所Aのアイドルグッズなどしか売れなくなる世界、それは正しいコンテンツ流通ではない。ディストピアと同様である。
超有名アイドルは、この世界では別世界における大量破壊兵器と同様にチート以前の問題と言及され、その存在は――。
「意図的に削除されたつぶやきのアカウント――捨てアカと言う事か。やはり、あの連中は――」
一連のつぶやきによるタイムラインを使い捨てアカウントを利用したサクラだと断定したのは、明石零(あかし・ぜろ)である。
アンテナショップの場所は特定できたのだが、バスが思わぬ混雑で到着が遅れているらしい。
その理由とは、別のARゲームで道路が使用されている為に迂回しているとの事だった。
ARゲームを推進した結果が、このような渋滞を生み出すとは――皮肉と言うべきなのだろうか。
「それに、まとめサイトの書き方も似たような物ばかり――超有名アイドルファンへ乗り換えるべきと言う発言が目立つ」
明石はチェックしていたまとめサイトの書き方に関しても、疑問を抱かざるを得なかった。
どれもコピペで作られたものであり、自分の文章で書いた物ではなかったからである。おそらくは、アフィリエイト収入等を狙った物だろう。
ほぼ同刻、あるまとめサイトを運営本部ではなく、別所でチェックしていたのは大和朱音(やまと・あかね)である。
彼女がいたのは、松原団地駅近くのアンテナショップである。
ちなみに、明石が最初に向かっていた店からは200メートルほど離れていた為、明石は大和の姿を目的していない。
アンテナショップはコンビニ程に数百メートル先に設置されている訳ではないのだが、ジャンルによっては数十メートル間隔に2店舗が存在したというケースもある程。
彼女がアンテナショップへ向かった理由、それは運営本部から連絡を受けた物とは別件であり、本来であれば運営が干渉するのは越権行為と言われる物だ。
「貴様たちが――転売屋グループだな?」
大和は既に重装備型のパワードスーツを装着しており、臨戦態勢を取っている。
このスーツを装着するのは、2年振りだろうか。それでも自分にフィットするのは、ARガジェットのバージョンアップの度に細部調整を行っている為だ。
そのデザインは、過去に存在したとされる戦艦大和をモチーフにしたとされているが――ソース不明な為に、本来のモチーフは不明。
デザインモチーフは三笠説も存在し、更には金剛や武蔵という説もある。戦艦をモチーフにした主砲や副砲等の装備は見る者が見れば、分かるだろうが――。
その為、ソースを調べないでまとめサイトをソースとするような迂闊な事を言えないのが現状だろう。
その武装は両肩の大型主砲を含め、あの身長で支えるには非常に難しい様な装備ばかりだ。それこそ、魔法技術で出来ていると言われてもおかしくはない。
実際は、これらの主砲はCGで出来ている為に重量と言う概念がない――と言うのはARFPS等の一部ジャンルだが、その考えで近い可能性もある。
「それを何処で聞いた?」
「貴様の様なゲーマーごときが知るような情報ではない!」
「あのアーマーは、まさか――!?」
「日本は超有名アイドルの売上で経済が回っていると言っても過言ではない――超有名アイドルの解散は、それだけでバブル崩壊を起こし、海外にも波及する程の――」
他にも何人かが大和に対して銃を突きつける。この銃に関してはARではなく――モデルガンも混ざっていた。
しかし、それに対して大和がひるむ事は一切ない。まるで、トリックが分かっているかのように。
「こちらとしても、お互いに不干渉を貫きたい所だが――度が過ぎた干渉はコンテンツの価値を大幅に落とす。お前達は経験したのではないのか? 3年前に国民的アイドルグループが解散した――」
「それ以上言えば、貴様もこのバズーカ砲の餌食に――」
大和の方も加減をしている暇はなかった。相手が大和の発言を遮るかのようにバズーカ砲を構えたのを見て、即座に大型主砲の狙いを定める。
そして、彼女が両肩に装備していた大型主砲が火を噴けば、瞬時にして周囲にいた100人単位のモブが一発で気絶した。
その爆発は絶大とも言えるような物で、半径100メートルは建造物が吹き飛ぶような威力だ。
しかし、周囲の建造物には傷一つも付いていないどころか、バリアが発生して衝撃を防いだというべき状況になっている。
「馬鹿な――この破壊力は、破壊魔法のソレと同じか、それ以上――!」
一部のモブは戦意喪失と言う状態になっていたのだが、それでも一部は残っており、ささやかな抵抗を続ける。
しかし、それも無駄な抵抗である事は大和の戦力を考えれば、火を見るよりも明らかなのだが――。
「無駄な抵抗を続けるならば、次は本気を出す!」
今度は両腰にマウントされていた副砲を発射、その衝撃波で更に50人規模が吹き飛ばされた。
下手に向こうの発言を聞いていれば、ためらいが生じるとでもいうのだろうか? 大和の攻撃は容赦なく続いた。
彼女の武器、巨大主砲等はARウェポンと言うCG技術で具現化した物であり、実際の主砲と言う訳ではない。
その為、命中した相手は気絶している程度、建造物にもダメージがないという状態なのである。
それこそ、魔法でもない限りは説明できない現象かもしれないが――彼女の技術は魔法ではなく、アカシックレコードの超科学とも言うべき技術が使用されていた。
5分後、あの勢力にとっては効果絶大だったのは言うまでもないが――転売屋勢力は壊滅状態になっていた。
おそらく、自力での再建は不可能だろう。例え、やり過ぎと言われようが、彼らのやっている事はグレーゾーンであり、決して認められるような物ではない。
それを知っていて、大和が今回の対応に出るしかなかったのは言うまでもない。
仮にノウハウがARゲームに拡散すれば、悪質なチートプレイが蔓延、ARゲームで禁止されているRMT(リアルマネートレード)も拡散するのは目に見えている。
「馬鹿な――貴様は警察でもなければ、アイドル警察の様な勢力でもないのに――」
リーダー格と思われる男性は、気絶する直前でこうつぶやく。
大和のやっている事は、明らかに先制攻撃と言われてもそん色ない行為だ。あるいは魔女狩りである。
「貴様たちはやり過ぎた。だからこそ、このステージからは退場してもらおうと――」
記憶がもうろうとし、今にも気絶しそうな男性に対し、大和は断言した。
その言葉を聞いた一部の勢力も撤退するが、行動が一足遅かったのは言うまでもない。
「この場に居合わせた事――後悔するがいい!」
大和はターゲットを目撃する事無く、肩の主砲を速射――あっという間に一石二鳥を狙った勢力をせん滅した。
更に10分経過した頃には、駆けつけた警察によってアイドルグッズやコンサートチケット等をの転売する勢力の一部を摘発した。
このニュースはお昼のニュースで大々的に報じられ、ネット上でも彼らが摘発された事を歓迎する声もあったと言う。
ただし、これを摘発した人物が大和である事は警察も発表をしていない。発表できないという訳ではなく、単独でせん滅できるような数ではないと判断した為だろう。
それに加えて、大量の警察官が転売屋だけでなくアイドル投資家やアイドルファンも同時に逮捕した事で、今回のニュースが大規模になったようである。
その後、警察官は調査を続けるのだが、残念ながら大和を発見する事は出来なかった。それも、摘発したのが大和であると言えなかった理由かもしれない。
大和が使用しているステルス迷彩だと警官の装備でも、ARゲーム専用であれば姿は見えるはずなのだが、それも出来なかったという事は――あの警官もARバイザーをしていた可能性が高いだろう。
何故に警官はARバイザーを脱ぐ事をせずに現場を確認したのか? それらの調査結果がネットに流出する事はなかった。
「あれは警察と言うよりは、ARガーディアンの偽装か」
大和は警察の警戒エリアから離れ、その後の動向を調べていた。
警察がARゲームに関しての調査権限を持っているはずもなく、この場に姿を見せたのはおかしい。
ネット上でもARガーディアンの装備が警察に配備されている事はない、と言及されている。
つまり、あの警官の正体は――。
4月16日午前10時5分、大和の一件が思わぬ人物によって目撃されていた事は、一部勢力にとってはうれしくないニュースとして拡散していくこととなった。
「なるほど――こちらが出向くまでもなかったか」
彼女の名は磯風(いそかぜ)、ARゲームのガーディアンであり、あきつ丸(まる)とはガーディアンとしては任務が同じだが、所属は異なっている。
「しかし、彼女の行動は越権行為――いずれ、その反動は何かの形で混乱の元になる」
その後――彼女は別の場所へと向かった目撃証言もあるのだが、その真相は不明である。
果たして、彼女は何処へ向かったのか? それ以外のガーディアンも個別で行動している疑いがあるのだが――。
磯風は大和朱音(やまと・あかね)の行動に関して、越権行為と考えている。
その一方で超有名アイドルコンテンツを唯一神にする為の活動に関しても苦言を呈していた。
実際、別コンテンツを超有名アイドル勢力のかませ犬にする為、様々なサクラ行為やネット炎上、それこそ犯罪スレスレな迷惑行為を行い、それを別コンテンツのモラルのないファンが起こした物と主張する。
それが原因としたネット炎上は無数に存在し、第四の壁を超えた世界でも実例が存在していた――残念なことではあるのだが。
【超有名アイドルファンは、あるグループが解散に追い込まれた件を他のコンテンツ作品が炎上マーケティングに――と理由を付けて報復を行っている】
【しかし、そうした報復の連鎖がコンテンツ流通を止めてしまう程の騒動を引き起こすという事を理解していない】
【切磋琢磨するようなバトルであれば、問題視はされないだろうが――アイドル投資家は、明らかに自分達以外は存在価値がないと切り捨てている】
【このような一部の投資家連中だけが富裕層として蹂躙するような世界が認められるのか――それこそ、絶対にあり得ない】
【アイドル投資家は、コンテンツ流通で世界大戦クラスの大規模な――】
つぶやきサイトには、様々な情報が存在している。役に立つような情報もあれば、役に立ちそうにないまとめ風のページも存在していた。
しかし、中には炎上マーケティングを意図して狙っているようなブービートラップも存在する。このような状況は第4の壁の先でも――。
炎上マーケティングは一部のまとめサイト管理人やアイドル投資家しか得をしない――ごく普通の消費者にとっては、一銭の得もしない事案でもある。
だからこそ、ガーディアンは超有名アイドルの動きを監視し、大和は超有名アイドルやネット神と呼ばれる存在の介入を防ぐ為にARゲームに細工を施していた。
「ネット神、第四の壁からすれば創造神とも言うべき存在と例えているのか――」
磯風はネット上のまとめサイトを見て何かの不安を感じていたのだが、それは取り越し苦労であると思っている。
その理由として、転売屋勢力を片づけたのが大和と言う事実は既にネット上で拡散し、次に狙われるのは自分の勢力なのではないか、と戦々恐々としているからだ。
午前10時15分、アンテナショップで無事にエントリーを済ませた長門(ながと)クリスは、順番待ちで待機をしている状況だった。
何処から聞きつけたのかは不明だが、大量のプレイヤーがパワードミュージックにエントリーしようとして、窓口が混雑しているのである。
実際、パワードミュージックはネット上でもエントリーは可能だ。混雑を回避する為、敢えてネットで登録したユーザーも存在する。
一部のメンバーはネットで事前登録をしていたからこそ、スタートダッシュに成功したとも言えるかもしれない。
しかし、ゲームをプレイする為にはARガジェットも必要となっていた為――どちらにしてもアンテナショップへ行く必要性があるのだ。
『過去にもVRゲーム等で町おこしを考えようと言う動きはあり、一定の評価を得た地域もあったが、周辺住民から理解される事はなかった』
動画の中で、ビスマルクはこう言及していた。
ARゲームではなくても町おこしにさまざまなコンテンツを使うと言う動きは――。
中には聖地巡礼とも言われているが、草加市の事例は聖地巡礼とは全く違う。自分達が中心となってARゲームを広めようと言う事なのだ。
何故、草加市はARゲームに注目したのかは――ビスマルクを初めとして研究したメンバーがいるのだが、残念ながら真相は公表されていない。
『だからこそ、今回の事例は成功させるべきなのだと思う』
ビスマルクの動画を見ていたのは長門である。この動画を発見するきっかけになったのは、ネット上のつぶやきサイト。
つぶやきのリンク先が釣りサイト、ウイルスを仕込んでいるサイトと言う物もあるのだが――ARゲーム関係で、こうしたつぶやきを行うと営業妨害としてアカウントを凍結される。
凍結されるのはつぶやきサイトのアカウントであり、ARゲームではない。それでも、小銭稼ぎのために詐欺サイトへの誘導等を行うユーザーは後を絶たない。
「ハイエナ勢力やタダ乗り便乗勢力、アフィ系まとめに代表される勢力は――結局、自分達のことしか考えず後に起こるであろう大参事も考えない。炎上すれば、自分が目立てる――自分が正義だと思いあがる」
ビスマルクの動画に関しては反論を持つ部分もあるのだが、大まかには賛同できる箇所があった。
そして、自分達の都合で発言の意味を捻じ曲げ、ねつ造し、超有名アイドルを神コンテンツにしようという流れ――それを実現させようと言う勢力を彼女は認めない。
4月17日、動画サイトでは何の変哲もない様な動画が10万再生を突破していた。
その動画とは昨日のパワードミュージックのプレイ動画であるのだが――それだけならば10万再生を突破する様な理由は見つからない。
「パワードミュージック――最近になって注目されているARゲームか」
帽子を深く被り、似合わないような私服をきて動画を検索していたのは日向(ひゅうが)イオナである。
現在、彼女はARゲームのアカウントを凍結されている状態であり、プレイ可能なゲームがARリズムゲーム1種類とAR麻雀だけという状態。
これだけではARゲームとしては物足りない為、何かプレイ出来そうな作品を手当たり次第探していた。
しかし、既存ジャンルでは即座に何かを怪しまれるのは目に見えている。
他のプレイヤーが自分を恐れて別のゲームに乗りかえられてしまっては、兼任プレイの意味もないだろう。
「このプレイヤーネーム――まさか!?」
帽子をデコピンでつば部分をはじき、少し浅い被りに変えた後――プレイヤーネームを2度見して驚いた。
そのネームは間違いなく、あの長門で間違いない。一体、いつの間にプレイを始めたのか?
同日午前11時、それ以外にもネット上を騒がせるような事件が起こっていた。
それは、ある映画作品の聖地巡礼でマナーの悪い観光客が注目されたのだが――その犯人と報じられているファンと名乗る男性の正体は――。
【あの観光客として紹介されている人物は、どう考えてもアイドル投資家の一人。ブラックリストにも――】
【それを言っても無駄だろう。超有名アイドルの行う事は絶対正義というジンクスを破らない限りは――】
【そうした情報を拡散せる事自体も、芸能事務所側の営業妨害として警察に通報される。つまり――】
【超有名アイドルは、この世界におけるデウス・エクス・マキナと言う事か】
【この世界が超有名アイドルの宣伝材料に使われる為の世界だと言う事なのか? 第4の壁のアイドルが解散会見を行ったストレス解消や報復として――】
さまざまなつぶやきがネット上で流れるのだが、該当するニュースのソースは何処にも存在しない。
それに加えて、かなり不可解なニュースであると感じている人物が存在し、その人物によると――。
「第4の壁で報じられているニュースを、あたかも自分達の世界で起こったニュースとして加工し、それを利用して超有名アイドルによるディストピアを確立させる――」
このニュースを見て、ある不信感を抱いたのは飛龍丸(ひりゅうまる)だった。自分が似たような事を経験した事もあり、今回も同じ勢力の仕業なのでは――とも考える。
しかし、超有名アイドルによるディストピアは過去に何度か再現しようとした勢力がいるはずであり――それに対してのARゲーム運営の対策本部もザルではない。
本当に芸能事務所Aによる単独犯行なのか――気になる箇所も複数ある為、飛龍丸はメイド服から何時ものARアーマーに瞬時で装着する。
その後、近場にあったARゲーム用センターモニターからARゲームにエントリーする。そのタイトルは何と――。
《パワードミュージックへのエントリーを完了しました》
何と、飛龍丸もパワードミュージックへ参戦していたのである。
アカウント自体は4月の上旬には取っていたのだが、襲撃事件の影響でプレイを躊躇している部分もあった。
ほぼ同刻、一連のつぶやきに関するタイムラインを別所でチェックしていたのは、既にフル装備の大和朱音(やまと・あかね)である。
彼女がいたのは、草加駅近くのアンテナショップ、それも近隣にはファストファッションの店舗等もある通りに立っている店舗だ。
この店舗ではARFPSもプレイ可能であり、いわゆるARサバゲの聖地としても有名だ。
この店舗から、1キロ近辺にはARパルクールとパワードミュージックのアンテナショップもある。
「ネット神――貴様たちを探すのには少し苦労したが、転売グループや芸能事務所Bの脱税疑惑を探すよりは楽だったな」
大和の目の前にいるのは、黒服の男性である。彼はネット神と呼ばれた事に対して『人違い』と否定をしている。
「人違いで、こちらを欺けるほど甘くはない。芸能事務所Aが、いかにも神にも匹敵するような力を持っているとネット上で情報操作しているのは、既に感知している」
「芸能事務所A等知らない! 芸能事務所BともCとも無関係だ!」
大和の言葉に反応するかのようにテンプレ否定を続ける。しかし、そう言った状況になる事は大和も把握済みだ。
そして、転売屋勢力を一掃した時と同様に大型主砲を向けるのだが――周囲にギャラリーが集まってきたため、これを使うのは自分が逆に悪だと言う事をアピールしかねない。
「どうしても否定するのであれば、それもいいだろう。しかし、お前がARゲームの法律に反しているのであれば――話は別だ」
「なん……だと……!?」
大和の発言を聞き、男性が急に武者ぶるいをしたかのように動揺を始める。
一体、彼はどのような法律に反したのだろうか?
「――度が過ぎた干渉はコンテンツの価値を大幅に落とす。貴様の行った印象操作は――特定コンテンツ業界に対し、10兆円規模の損害が出るクラスに相当する。つまり、そう言う事だ」
大和は問答無用に大型主砲を含め、機関砲、副砲などを含めた全弾発射でネット神を沈黙させた。
沈黙と言っても存在を消滅させてしまってはARゲームのガイドラインに反する事となり、逆に大和が犯罪者となる。
「その力――アカシックレコードの奥底、第4の壁の技術を再現したと言うのか?」
ネット神の方は全弾直撃のはずなのに、いまだ健在であり、気絶もしていない。
どうやら、直前でフィールドを展開して無効化したようだ。使用したのは大和と同様にARガジェットの技術だろう。
「第4の壁、その技術を使えば――貴様の方が逆に捕まる。その技術は――」
ネット神は何かを大和に言おうとしていたのだが、それよりも速くバルカンファランクスで瞬時に気絶させた。
「それ以上を言わせる訳にはいかない。ARゲームは特定1社が独占していいような技術ではない。権利侵害を言うのであれば、お門違いだ」
大和の方は若干焦っているように見えたが、それでも向こうがネットに拡散するよりは――と考えていた。
「あの技術は、異世界で言う魔法にも匹敵する技術と言われている以上――誰かが独占できるような物ではないのだ」
この時の大和の目つきを確認する事は――出来なかった。逆に感情を出さないようにしている可能性も否定できない。
午前12時、ネット神となのる詐欺師が逮捕されたというニュースは芸能界に衝撃を走らせるほどの規模だった。
どれ位衝撃なのかと言うと、ある民放局が通販番組で『高性能掃除機』を紹介している以外が、全て同じニュースを報道しているレベル。
ネット上ではネット神の逮捕に対し、『当然の報い』や『関係した芸能事務所が家宅捜索を何時受けるのか?』辺りがタイムラインを独占していると言えば――分かりやすいだろうか?
「ネット神――これも序章と言う事か。それ以上に強大な敵が――」
自宅でテレビを見ながら、私服姿でやきそばを食べていたのは比叡(ひえい)アスカだった。
しかし、彼女はネット神と言われても大きく驚く事はない。それよりも強大な敵が控えているのを、彼女は知っていたからである。
「ネット神と言うのも自称と言う可能性が高いが――こればかりは詳細を確かめないと」
比叡は何かを疑っていた。ネット神の正体、それ以外にもアカシックレコードとの関連性に関して。
4月17日午前12時、ネット神逮捕のニュースはテレビ局に衝撃を与えたのは間違いない。
当初、そこではとあるアイドルグループの解散をトップニュースで報道する予定だったからである。
そのグループは、アイドル投資家の一件で責任を取らされる形で解散――と言うよりは、真犯人を隠す為のトカゲの尻尾切りと言えるかもしれない。
このニュースをトップで扱うはずだったにもかかわらず、ネット神逮捕のニュースを大きく取り上げなくてはいけない事――それが誤算とも言えた。
【ネット神が行った事、それは詐欺罪以上の物を感じる。良くて無期懲役か?】
【超有名アイドルの情報を操作し、株価の意図的な釣り上げ、インサイダー取引、更にはFX投資詐欺や迷惑メール、更には違法動画の配信や違法ツールの開発――】
【どれだけネット神が芸能事務所の協力を得て、犯罪を繰り返してきたのかが分かる瞬間だな】
【しかし、このネット神も氷山の一角に過ぎない】
【どういう事だ?】
【ニュースでネット神の逮捕を報道しているが、本当に単独犯なのか?】
【確かに、ニュースでは『その一人を逮捕した』としか言っていないが】
ニュースの報道では、ネット神を逮捕、複数犯の可能性、逮捕された人物は未成年の可能性も――と言う事だった。
実際、ネット神を逮捕した事実は変わらないが、映像は出てこない。それが、未成年の可能性を示唆している。
ネット神が組織名ではないらしい事は、まとめサイトにも関われているのだが、ソースとしては疑わしい部分もあった。
週刊誌の様な報道では特に言及されていない事から、ネット神はARゲーム関係とも言われているが――それもソースが疑わしい。
ネット神と言う単語だけが独り歩きを行い、それを超有名アイドル商法と結びつけたがる――ARゲームのビジネスモデルとして、そうであるというつぶやきも散見された。
それ程に、今回のネット神逮捕はチェックポイントを通過したに過ぎないと考えている人物が多かった。
ネット神の逮捕はガーディアンサイドにも伝わっている。逮捕したのは警察らしいが――。
「第4の壁、その技術を使えば――貴様の方が逆に捕まる。その技術は――」
ネット神は倒れる前に、何かを伝えようとしていた。しかし、その内容は不明のままだ。
憶測だけで物を言うのも周囲に不安を拡散する事になり、非常に危険である。
「第4の壁が何かは分からないが――アカシックレコードの技術を利用するのも、一種の二次創作である可能性が否定できない」
コンビニ近くでタブレット端末を片手にデータを検索していたのは、日向(ひゅうが)イオナだった。
長門の一件も衝撃だが、それ以上にARゲームでも違法ガジェットの生みの親と思われていたネット神が逮捕された事は、日向にとっても同じ位の衝撃だったのである。
「しかし、そうした認識をする事次第が――アカシックレコードの筋書き通りなのか、それとも――?」
日向はネット神の逮捕が、今回の事件に関してアカシックレコードを悪用した人物の犯行とも考えた。
彼女としてはARゲームを一部ユーザーによる悪目立ちに利用、夢小説勢による実在プレイヤーを描いた夢小説――そうした風評被害が出る事を、望んではいない。
ARゲームを超有名アイドルファンの無料広告塔として利用される事は許せないが、それよりも許せないのは――。
「ARゲームを安心して遊べる環境を提供する為に出来る事――それは、プレイ環境を荒らすだけ荒らしていく勢力に他ならない」
日向がARゲームで行っている行動、それは一部ユーザーにとっては迷惑行為と認識されるような事だったが、彼女としては必要悪として行っていたのである。
それは誰かに認めて欲しいからやっている訳ではない。単純に、自分自身の為だけにやっているのだ。
自分が快適にプレイ出来る環境――それは他人に押し付けたりしない一方で、つぶやきサイト等で炎上させる事やまとめサイトのような勢力を利用してPRする事が本当に正しいのか――。
そうした問題提起とも言えるような行動だったのであるが、それはガーディアンにも認識されてはいない。
ARゲーム運営の反応を見れば、彼女がどういう人物なのかは一目瞭然だろう。
「環境を荒らしていくような物は禁止カードなどもあるが――あれと夢小説勢のやっている事は、根本的な部分で理由が違う」
日向はタブレット端末のつぶやきのタイムラインを眺めつつ、ふと考えた。
タイムラインでは夢小説勢がやっている事を徹底的に叩くべき――というつぶやきが晒されていたが、これは釣り目的なのは確定的に明らかだろう。
「本当の意味で環境を荒らすというのは、荒らされた環境を修復しようと言う努力をせずにゴミを散らかすだけ散らかして帰るような観光客――修復の努力さえもしない勢力だ」
そして、日向はコンビニを離れて別のアンテナショップへと向かう事にする。その目的は、パワードミュージックなのは間違いない。
午前12時30分、ネット神以上に強大な敵を感じ取っていたのは比叡(ひえい)アスカだけではない。
「ARゲームを少し様子見しているだけで、ここまでになるなんて」
身長170位にぽっちゃり系に近い体格、草加市内でも見かけないようなメイド服という服装――。
黒髪に短めのツインテールと言う髪型――その正体とは、ローマである。
彼女はARゲームを少しの間休止していたのだが、その間にも転売屋勢力の摘発、ネット神逮捕、更には芸能事務所の謝罪会見など――。
どう考えても、ARゲームから一時的に離れただけで周囲の環境が変わり過ぎている事に、彼女は恐怖に似たような感情を感じた。
しかし、それでも彼女はマイペースを維持しており、顔に表情を見せる事はない。
「ARゲームを町おこしとしている草加市の日常――それに対して、超有名アイドルのディストピアから世界を変えようとするガーディアンが活躍するARゲームの――」
ローマはふと考えた。この町には非日常と言えるような裏の顔を持っているのではないか、と。
彼女は500ミリリットルのペットボトルコーラをラッパ飲みし、ARガジェットでつぶやきサイトのタイムラインを一通りチェックしていた。
それを踏まえて、ローマはARゲームに関して何かの問題を抱えている可能性がある――と考え、あの動画を発見して視聴したのである。
「ビスマルク――彼女の狙いは、一体」
例のビスマルクの動画は、いつの間にか再生数がうなぎ昇りとも言うべき展開になっていた。
しかし、それでもビスマルクが再生数が急上昇した事を喜ぶようなコメントを、動画コメントに追加する事はなかったのである。
彼女としては再生数が伸びる事に対し、喜びとは別の感情を持っていたのか?
実際、ARゲームを巡る環境は東京都内だけを見ても全面的に歓迎されている訳ではない。
一部ユーザーの迷惑行為、それだけを切りぬいてアフィリエイト系まとめサイトを立ち上げる勢力もいる。
それに加えて、まとめサイトで得たアフィリエイトの利益で超有名アイドルのCDを万単位で購入し、超有名アイドルの神化に貢献しているだろう投資家もいるかもしれない。
中には歪んだ認識を周囲に拡散し、超有名アイドル以外のコンテンツを排除しようと言う人物もいるかもしれない。
例え、それがアカシックレコードに書かれていたことのテンプレ展開であろうと、彼らにはお構いなし。
自分達が知らずに権利侵害をしていても、運営からのメールをスルーし続けるようなユーザーもいるかもしれないだろう。
ローマも一連の動きに関して知ったのは、まとめサイトではなく、ビスマルクの動画を知ってからである。
それ程にビスマルクの動画は、ARゲームが直面している現実を知らせるのには一役買っていた。
しかし、それでもビスマルクの発言そのものをローマは鵜呑みにしていない。それは、あの動画を見たユーザー全員に言えるのかもしれないが。
「パワードミュージック――あの世界には、音楽業界の抱えているであろう闇が――テンプレではあっても存在する」
そして、ローマはパワードミュージックへの参戦を決意した。全ては、ビスマルクの発言が真実であるかを見極める為に。
「コンテンツ流通の正常化もあるかもしれないけど――あの状態が見逃される程、ARゲームの現状は悪くないと」
ささいな歪みでもARガーディアンが動きだしたり、一部のチートプレイヤーに対してランカープレイヤーが討伐をするような光景――。
他のソシャゲ等で起きるような事が、ARゲームでは事前に阻止されるような傾向にある。それを過剰反応と言うべきなのか、ネット炎上阻止と言うべきなのか――?
4月17日午後1時、ネット上には予想外のつぶやきが拡散していたのである。
【パワードミュージックに日向参戦か? それ以外にもウォースパイト、金剛、霧島、榛名、武蔵等も――】
このメッセージを見て驚いたのは、別件で草加市へ来ていた(あかし・ぜろ)である。
昨日は色々と振り回されつつも何とか目的は達成できた。既にパワードミュージック用のARガジェットは発注済である。
しかし、提出書類の関係でエントリー手続きが今日になってしまったが――こればかりは仕方がないだろう。
本来であれば事前登録や対応のアンテナショップでやった方が早かったが、昨日もアンテナショップでパワードミュージックには対応していないショップだった為、更に遅れた。
「まさか、今日から対応開始の店舗だったとは」
実際に書類を受け取ったアンテナショップは明日から対応予定だったのである。
その為、別店舗向けのエントリー書類を受け取った。その為にエントリーが遅れたのが真相である。
本日からは対応している為、書類の方は無駄になった訳でもなく――必要事項は書き終わっているのでエントリーは受け付けてくれた。
「パワードミュージックは対応し始めた場所が増えてはいます。しかし、今の状況だと様子見しているアンテナショップが多いのが現状ですね」
明石から書類を受け取った男性スタッフは、アンテナショップによっては扱うARゲームも異なる事を説明する。
全てのアンテナショップで全機種を取り扱っている訳ではない。中には、一部地方限定のARゲームが稼働していたり、ロケテスト中の機種があったりする。
草加市内でも全機種を扱っている店舗はない。しかし、3店舗を合わせれば全機種が揃うというエリアは存在する。
そのエリアとは、草加市役所を起点とした3つのアンテナショップだ。
1箇所は大型ショッピングモールの為、かなりの機種をフォローしていたのが理由の一つだろう。
日向参戦のつぶやきは瞬く間に拡散し、予想外の人物の目にも触れていた。
「コピペ改変のつぶやきとしては、かなり雑なパターンと言うべきか」
タブレット端末を片手に、昼食を草加市内のアンテナショップで取っていたのは、意外な事に私服姿のビスマルクである。
私服のセンスは――あえて言及を避けるが、改造軍服でも何もツッコミが入らないようなアンテナショップ内なので、衣装に細かく突っ込む人物もいないのだろう。
【パワードミュージックに日向参戦か? それ以外にも金剛、霧島、榛名、武蔵等も――】
【パワードミュージックに日向参戦か? それ以外にもウォースパイト、金剛、大和も――】
【パワードミュージックに日向参戦か? それ以外にも複数人が参戦示唆】
【パワードミュージックに日向参戦か? ローマも続く可能性あり――】
【パワードミュージックに日向参戦? ウォースパイト等も続く可能性も?】
これが、一連のコピペ改変と切り捨てたつぶやきの一例である。これでも氷山の一角なので、彼女の苦労は容易に想像出来るだろう。
「日向の参戦は確実と言うべきなのか――」
ここまで多数のコピペつぶやきを見ていれば、嫌でも分かるのだが――。
「しかし、正式に参戦する事が決まっていないネタでも、ここまでやると言う事か」
こうなってくると、他のメンバーが参戦した際も同じような事が起こるのは明白だ。
それに加え、アフィリエイト目的でつぶやきを拡散するような連中も出てくる可能性が高い。
「倒すべき相手、それはつぶやきサイトを悪用して人心掌握をしようとしている勢力と言う事なのか――」
ビスマルクも強大な敵に関して、存在に気付きつつあった。
ネット神とは違う空気を持つ、強大な敵と言えば――アカシックレコードにも警告されているあの勢力しかいない。
4月18日、つぶやきサイトで炎上を誘発しているアカウント、コピペサイトやアフィリエイト系まとめサイトへ誘導しているアカウントが次々と凍結されていた。
それも、明石のような人物が手を下した訳ではない。だからと言って運営側がユーザーのクレームなどを受けての対応でもない。では、一体誰が――?
「ここまで炎上をしていれば、ガーディアン等も黙ってはいないと言うべきか」
この動きを見て、ARゲームガーディアンも動きだした事を思ったのは、アイオワである。
彼女も一連の動きに関して違和感を持っていた。ARゲームに関しては引退も頭をよぎる程の――。
「ネット炎上は――戦場と言うべきなのか。それとも、つぶやきサイトが戦争の舞台に移行したのか」
アイオワは思う。つぶやきサイトがいつの間にか戦争の道具となっていたのか、それとも――と。
「つぶやきサイトのアカウントを所持しようと言うユーザーも、アンケートでは5割を下回る所もあるとか」
一連の超有名アイドル商法に関する部分とは異なるかもしれないが、つぶやきサイトのアカウントを持つ事に慎重になるユーザーもいる。
慎重になっているユーザーにはネット炎上に対するリスクだろう。下手をすれば、人の命さえも――というネット炎上事件は、SNS疲れ以上に社会問題化しようとしていた。
しかし、こうした報道が表面化する事はない。その理由は芸能事務所側がつぶやきサイトの宣伝を行っている為、と言うのもあるのだが。
今回のつぶやきサイトの大量とも言えるアカウント凍結――これは、運営側も考えていた。
クレーム対応と言われれば当たらずも遠からずであるが、事前に凍結する事は告知済みだった。
それを踏まえると、今回の運営対応は素早かったと言えるかもしれない。
「対応が早すぎても周囲から違和感を持たれるが、ここまで手早く行うとは――」
一連の対応に関して、素早すぎると感じたのは明石だった。
自分が手を下す予定はなかったのだが、一部のアカウントは消滅させようとも考えていた。
その理由として『彼らはやり過ぎた』と――いわゆる『知り過ぎた』と言うタイプの理由である。
今回の件は周囲にプライバシーに関係する情報が漏れない内に凍結したとも言えるが、今となっては探る事も不可能だろう。
「壁に耳あり障子に目あり――と言うべきか、それとも――」
せっかくなので、明石は運営が凍結していないであろう一部の炎上ブログの告知アカウント等を凍結ではなく、白紙化したのである。
ここまでやっても、おそらくは何度も復活する可能性は否定できないが。
「このような手法が何度も使えるような勢力であれば、こちらとしては楽になるのだが――」
明石としてはまとめサイトを含めたアカウントを洗い出し、そこから運営や警察へ通報する――これが続けられれば、楽であると。
しかし、それで簡単に炎上を阻止できれば――同じような事が何度も繰り返される事はない。
ネット炎上を自分の利益を得る為だけに行う様な芸能事務所等がいる限り、全てが終わる事はないのである。
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