エピソード5『炎上マーケティングの始まり』

炎上マーケティングの始まりその1

 アカウント凍結騒動は瞬く間に拡散し、夕方のニュース番組でも報道された。それも、ほぼ全てのテレビ局がトップニュースで。

『まとめサイトの大手を含め、無数のサイトでアカウント凍結が相次いでいるようです――』

 例外があるとすれば、この時間帯はアニメを放送しているテレビ局が1つ、報道していないが――。

間違いなく、今回の事件はトップニュースで報道された。ニュースの影響力は、想像以上の物だったのかもしれない。

それとは別に地方局も、それぞれの地方に関係した話題を取り上げていた。事実上、民放と国営のテレビ局のニュースで報道された事になる。

ニュース番組で同じ話題を同じタイミングで取り上げるのは、緊急の記者会見などの特例ケースが該当するのだが、今回の事例は特例だったのだろうか?

一連のアカウント凍結はARゲームに無関係な芸能人のなりすまし、以前からブラックリストにしていたアカウント、更にはジャパニーズマフィアのアカウント――。

考えて見れば、ARゲーム関係の大量凍結は問題視されていたアカウント削除の『ついで』だったのかもしれない。

ニュースの方でも、あくまで問題のあったアカウントの削除が行われた事実は報道されたが、ARゲームに関しては『触れない』と言う意見が出たのだろうか?



 4月18日午後6時、他のニュースでは特に大きな物はなかったのだが、芸能人の不祥事やスキャンダルと言った物は国営のニュースでは報道されない。

過去には有名アイドルグループの解散を報じた事もある一方で、やはりグループの知名度なども考慮される可能性は高いだろうか。

【あそこまでアカウントが減るとは予想外だ】

【スパムとして申告されていた2割ほどのアカウントは削除されたが、そのついでで凍結された数が3割とか】

【あのつぶやきサイトを悪と認識している勢力もいる位だ。企業潰しと言う可能性もあるのでは?】

【企業潰しで芸能人のなりすましアカウントを削除するのか? それはおかしい話だ】

【削除したなりすましアカウントが、二流芸能人のなりすましで――超有名アイドルの評判落としに使われていた物とすれば――】

 つぶやきサイトでは様々な事が言われていたが、どれも真実にたどり着いているとは思えない。

結局は仲間外れになりたくないという理由でつぶやきに参加し、ネット炎上や炎上マーケティング等に加担、気が付けば超有名アイドルファンが出来上がっているという――。

これらの流れが超有名アイドル商法と結びついているかどうかは定かではない。

「アカウント凍結騒動は、一種のきっかけに過ぎないだろう。一体、どの角度からARゲームを潰しにかかるのか」

 一連のタイムラインを見ていたのは、アイオワだった。彼女自身もネット神の逮捕や一連の事件はニュースで知ったのだが――。

その真相を知る為にネットを検索した結果が、これである。一体、ネット炎上で混乱させようとしている勢力の狙いとは?



 4月19日、ニュースで大きく報道されていたアカウント凍結騒動は気が付けば――と言う状態になっている。

その後、18日の深夜には超有名アイドルのグループ名を実名で書きこみ、一連の騒動は彼らのプロモーションであると言うアカウントまで出現した位だ。

このアカウントに関しての真相はアカウントがしばらくして削除された事もあって不明である。

複数あったダミーと言う説も高く、まとめサイトでも様々な情報が掲載され、ネット炎上と言うよりもネット混乱と言えるかもしれない。

【いつの間にか、ニュースでも報道していない。どういう事だ?】

【本当だ。炎上プロモーション疑惑を含めて、何も言及していない】

【芸能事務所を強制捜査でもしたのか?】

【違う。芸能事務所が捜査を受けた事実はない。ホームページでも言及されている】

【では、一体何が――】

【芸能事務所がネット炎上させるのは、日常茶飯事じゃ――】

 更にはつぶやきサイトの方でも混乱が続いているのだが、何かを書きこもうとすると続きの文字が文字化けすると言う現象が発生していた。

その文字は実在する古代文字等ではなく、古代ARゲーム文字であると言う。

これに関してはサイトが話の不具合説も有力だったのだが――単純に不具合と言うには、謎の部分も存在する。

「どういう事だ――この文字を扱える人物が、他にもいたのか?」

 つぶやきサイトで古代ARゲーム文字と言うワードが浮上している事――それが意味する物とは、一体何なのか?

朝起きたばかりの飛龍丸(ひりゅうまる)は、メイド服姿ではなく――いわゆるパジャマである。

「しかし、古代ARゲームに関しては存在自体が不明と言う話もあるが」

 飛龍丸はソースが不明確な古代ARゲームに関して、普通のネットユーザーが知る事があるのか――と思っていた。

歴史の授業で教科書にも書かれていたという話もあるのだが、それがどの授業なのかは言及されていない。

もしかすると、フィクションの作品で登場する学校の授業と言う可能性だってある。つまり、リアルとフィクションが混同しているのだ。



 しかし、今回の仕掛け人が明石零(あかし・ぜろ)と言う事は、あっさりと見破られた。

彼女であればアカシックレコードにアクセス出来る事もあり、不可能を可能に出来るレベルで情報改変も余裕だと言う。

だが、明石は本当に万能なのだろうか? 戦争の歴史、戦国時代の歴史を改変出来るわけがない。

既に起きた事を改変すれば、タイムパラドックスが起きかねない。さすがに、タイムマシンでもなければ無理な芸当だってある。

それを踏まえると、明石が出来るのはネット炎上を瞬時にして鎮火する程度の可能性が高い。

起きてしまったネット炎上案件よりも、それを火消しする方が大変だと言う話は色々な人物が言及している。

「明石と言えど、完璧超人ではない。あの人物が弱点を持っているとすれば――」

 しかし、速攻で思いつくような弱点であればネットスレの住民等にも解析されるのは目に見えている。

その正体を探る為にも飛龍丸はARバイザーを起動し、ネット上で情報を調べようとしたのだが――。

「なん……だと……?」

 飛龍丸は、目の前に表示されている画面を見て驚きの声を上げるしかなかった。

彼女がアクセスしようとしていたのは、つぶやきサイトのまとめとしては有名所なのだが、そこに立てられていた記事を見て唖然とする。

【ネタバレ? どういう事だ】

【フラゲ記事やゲームの発売当日にネタバレが出るのは問題だが、そのレベルとは次元が違う】

【一体、何処をどうネタバレと解釈できるのか?】

【このままでは、ネタバレと言う単語が魔法の言葉として浸透してしまう】

【ネタバレと裁判で言えば、そこまでで審議が止まり――警察も捜査を出来なくなるような、そこまでの単語になると言うのか?】

【ネタバレと言う名の魔法の言葉――】

 飛龍丸は明石の弱点になりそうな情報を探ろうとしたのだが、それ以上に目の前に入ったまとめが気になっていた。

電車の遅延に関するニュースなのだが、駅員の説明方法に問題があったのである。

「申し訳ありません。これ以上はネタバレとなるので、遅延の理由は説明できません」

 一体、どういう事なのか? 調査中であれば引き下がるような一般客も、ネタバレと言われては激怒するのは確実だ。

電車が遅れた理由をネタバレと言う事で説明せず、更には――と言う状況は、想像を絶する程の混乱を呼ぶ。

これは昨日のニュースなのだが、今日になっても原因はネタバレが流出するのを鉄道会社が嫌っている為に情報の公表がされていない。

ニュース番組でも『ネタバレを理由に電車の遅延が説明されていない』とはっきり言ってしまっている。

このニュースには、誰もが驚きを隠せない。それ程に衝撃的な物だ。

「ネタバレ――?」

 自室のテレビでニュースを見ていた比叡(ひえい)アスカは、ネタバレと言う単語を聞いて衝撃を受けた。

「説明責任をネタバレと言う言葉で逃げ通せるとでも――!?」

 しかし、ここで比叡は気づいてしまった。おそらく、ネット住民が恐れるラスボスの正体を――。

ネット神の様な実在する人物ではなく、人物特定が不可能な要素がラスボスであるらしいという事である。

「それだけではない。唐突に書きこまれ始めた明かされていなかった事実も――」

 比叡が更に懸念していたのは、まとめサイト等が報道していなかった事実が次々と判明している個所だった。

WEB小説で加筆修正されている作品も存在し、ネットの情報を含めてアップデートがされているようでもある。

一体、この情報更新は何者の仕業なのか? それもネタバレと言う存在による暗躍なのか?



 4月20日、いつの間にかパワードミュージックの勢力図が変化、その速度は先行稼働やロケテスト組が脱落するような勢いである。

ただし、脱落と言ってもプレイ回数が少なかったプレイヤーに限定され、俗にヘビープレイヤーと言われるようなメンバーは残ったと言う。

「まさか、先行稼働組が次々と脱落するような順位になるとは――」

「未だにこの展開になったのが不思議でならない。一体、何が起こったのか?」

「先行稼働組が慢心していたのは事実かもしれないが、それも憶測の域を出ない。真相は不明のままだ」

「ロケテスト組は仕様の変更などで苦戦しているのもあるかもしれない。しかし、先行稼働組は――慢心と言う一言で済ませられるのか?」

「その辺りはネタバレと言う事で特に言及を避けるだろうな」

「公式ホームページでも載っているような物に対し、ネタバレと言うのも――随分と安売りされる単語になった物だな」

 センターモニターを見ていたギャラリーは、現状の勢力図を見て驚きの声を上げている。

このモニターが置かれている場所は松原団地駅の入口であり、混雑時には多くの通勤客が通るような場所だ。

そこにセンターモニターを置くのには駅側も抵抗感もあったのだが、町おこしと言うのと電気は自家発電方式を使っているという事で導入していた。

自家発電と言っても太陽光発電だけではなく、風力発電や空気中の物質を利用して発電もおこなっている。

空気中の物質で発電する仕組みは機密事項なのだが、これをネタバレと言う単語に変えただけでも大変な事になるだろう。

実際、ネット上では草加市内で魔法が使えると言う冗談のつぶやきが広範囲に拡散、まとめサイトも炎上マーケティングを目的として引用した位だ。

迂闊にも機密事項や企業機密をネタバレと言う単語に変えると、こうした混乱を呼ぶ為、迂闊にネタバレと言う単語を使うのを禁止している。

ARゲームの一部システムは特に軍事転用という観点から外部に情報流出されては――という事情も存在するが。



 ネタバレと言えば、普通は雑誌のフラゲや放送予定のドラマ、実写化等の様な芸能関係の話題で使われるような単語である。

それを炎上マーケティング等で使うべきではない――と言うのはARゲームでガイドラインとして定められていた。

実際、ARゲームで謎解きをメインとしたアドベンチャー系、クイズ系、パズル系の作品は不向きとしてメーカー側もリリースしていない。

家庭用であればARゲームのRPGなどもあるかもしれないが――そちらは発売前日からネタバレ厳禁と言う状態となり、その内容はソフトを買った人物にしか分からないという状態になった。

 その辺りの詳細はネタバレになってしまう為、ここではあえて語らない。知りたければ――というパターンは様式美となりつつあった。

そこまでネタバレに神経を使わなければいけなくなり、次第にコンテンツ流通で超有名アイドル無双を許す結果になったというのは、アカシックレコードでも明言されていたのである。

発売日当日の内にゲームのクライマックスの内容がリークされた――ともなれば、大損害は確実。メーカーとしてもネタバレ対策として――。

特定ワードを拡散したつぶやきを魔女狩りのように凍結、アカウント所持者を機密情報流出の現行犯として逮捕――と言うのはWeb小説上であったフィクションとしてのネタバレ対策だが、ここまで現実でもやりかねない。

それ程に、コンテンツ業界は日々ネタバレとネタバレを拡散するフラゲ勢等と戦っているのだ。

 そのフラゲ勢の正体はゲームメーカーのスタッフであり、マッチポンプをしていたというのもWeb小説で書かれていた話だが。

しかし、これらを実際のネタバレ対策に利用しようと言うメーカーも出始めるのでは――とまでは到達していない。

仮にこうしたネタバレ対策をしているメーカーがあれば、そこは炎上マーケティングのターゲットとなり、超有名アイドルのかませ犬にされるのは目に見えている。

ネタバレを悪用し、超有名アイドル勢はコンテンツ業界で絶対王者になろうとしているのかもしれないが――。 

「まとめサイトは、どこも同じような文章ばかりで工夫がない。いくら削除されようとも――」

 これらのまとめサイトをチェックしていた日向(ひゅうが)イオナは、まとめサイトに対して憎悪を持っていた。

その理由は他のメンバーが超有名アイドルを嫌うのと事情が同じであるのだが――。

「まるで、再生怪人と言う勢いで復活しているのも気になる。何としても、ARゲームをつまらなくするような存在は排除しなくては――」

 日向はエンドレスで襲撃してくる勢力や一連のまとめサイトを再生怪人と切り捨てる。

そこまでしてARゲームと言うコンテンツを炎上、別のコンテンツで支配しようとする考え方が分からない。下手をすれば、その考え方は――。



 一連のまとめサイトは、予想通りと言うか炎上マーケティング狙いの煽り――テンプレ文章になっていた。

魔女狩り仕様と言う対象は、夢小説勢やフジョシ勢だろう――アイドル投資家も対象かもしれないが、やり玉には上がらない。

彼らにとってはネタバレは些細な物であり、自分の思いを表現する方法の一つとしか考えていないからだ。

そして、それがメーカーにとっても大損害となるのは目に見えており、そこから超有名アイドルファンでない勢力を壊滅させようという魂胆かもしれない。

こうしたまとめサイトでも、これを書いた人物がアイドル投資家等であれば、彼女にとっては壊滅対象となる。

ここでいう『彼女』とは、ARゲームのランカー、ガーディアン勢力、ビスマルクの様な個人――複数が当てはまるかもしれないが。

「ここまでネタバレに神経を使えば――炎上マーケティングと変わりないし、クローズドフィールドや一部特定ユーザー向けで展開しているのと変わりない」

 ARゲームにネタバレ要素を含むようなジャンルの作品を禁止したのは、ARゲームと言う概念が出来上がる前からと言われている。

ただし、ここでいうARゲームとは表向きのゲーム業界で知られているようなVRゲームと変わりないような物ではなく、ARガジェットを用いた裏のゲーム業界で使用される物だ。

この定義を定めたのは、キサラギと言うメーカーとも言われているし、西雲と名乗る人物と言う説もある。

「それに――ここは、あくまでも自分達の預かり知らないような世界ではない。第4の壁の先にある世界でもなければ、アカシックレコードにあるWeb小説の世界でもない」

 しかし、天津風(あまつかぜ)いのりは更に別の人物が関係していると考えていたのだ。

一部で古代ARゲームの時代から決まっているとも言われているのだが、ネット上の住民は現実と架空の区別が付いていないらしい。

考える事は山ほどあるのだが、まずは草加市内のARゲームを扱っているショップへ向かうべきと考え、天津風は準備を始めた。



 5分後、ARゲーム用のインナースーツの上にメイド服を着て、黒髪のロングヘアーにメカクレの素顔を隠すかのようにARバイザーを着用する。

この姿でいても誰から指摘がないのは、天津風が一人暮らしをしているからである。

何故、彼女が独り暮らしをしているのかは――ネタバレと言うよりは彼女が話したがらないと言うべきか。

「ARゲームを守る為にも――戦わなくてはいけない。チートを扱い、超有名アイドルを絶対正義にしようとするような勢力を――」

 彼女にとって、チートは絶対悪とも言っていい存在である。ある意味でも戦争で使われるような大量破壊兵器と同義だと断言するレベルで。

だからこそ、魔法の言葉として拡散するネタバレもチートと認識しているし、アイドル投資家の襲撃事件もチートを使用した犯行と考えていた。

天津風にとって、チートはネット炎上と言う名の戦争に悪用される大量破壊兵器――と言うのかもしれない。

「チートを悪用するARゲームプレイヤーは――大和が動かなくても壊滅させる。ARゲームを一瞬でつまらなくするのも、チートなのだから」

 天津風の言う大和とは、大和朱音(やまと・あかね)で間違いないだろう。

しかし、大和がチートプレイヤーに対して無策とは考えにくい。果たして、どのような策を取ろうとしているのか?

大和以外にもチート狩りを個人的に行うハンターやガーディアン勢力は存在し、チート人口は減っているはずなのに――ネット上では、それを感じさせるコメントがない。

このからくりの正体は、一体何なのか?



 超有名アイドル商法、過去にそう呼ばれていた商法は炎上マーケティング以上に露骨なコンテンツ潰しとネット上で言及されていた。

その詳細は他のコンテンツ業界に真似をされる事を恐れ、方法さえも記述されていないという。

これを真似されれば、コンテンツ業界は過去の世界大戦に匹敵するような戦場となる――とまとめサイトでは言われているが、当てにならない。

全容を知りたければ自力でネットを調べろ――と言う事らしいが、何故にそのような仕様を取ったのかは不明である。

遠回り的に超有名アイドル商法を説明しているサイトなども存在するのだが、やっている事は爆弾の作り方をネットで公開しているのと同じ行為だ。

これこそ、一部の勢力が懸念していた事なのだろう。懸念する要素は複数存在するのだが、一部はネタバレと言う名の黒塗り状態であり、詳細が意図的に隠されている。

繰り返される世界、テレビドラマでも主演俳優などが被ると言うケースもあるのだが――そうした事例とは全く異なる程にテンプレは繰り返されていた。

超有名アイドル商法とは――本当は何なのか? 疑問は残るだろう。

「再生怪人と言う単語が当てはまるかどうかは疑問に残るが、無限に増殖するような状況は――それに似ていると言えるか」

 コンビニでARバイザー経由でまとめサイトを確認していた飛龍丸(ひりゅうまる)は、あるまとめサイトの発言に関して納得をしていた。

まとめサイトが凍結されたというニュースは、今でも報道されている。まるで、1つを潰せば2つ現れ――という繰り返しを思わせるレベルで。

「しかし、第2、第3のまとめサイトのクローンが出てくる状況を見逃すような勢力が――」

 まとめサイトを作る事自体は草加市でも禁止されていない。おそらくは『表現の自由』や『報道の自由』を盾にされた可能性も高いが――。

その為か、ガーディアン組織等がチートガジェットを含めた一部を違法情報と認定し、サイトを凍結したり管理人を拘束しているが、それでももぐら叩き状態になっていた。

このエンドレスを止める為には、どうするべきなのか――決断の時は迫る。



 4月20日午前10時30分、ピックアップされていた動画は予想外のカテゴリーに属する動画だった。

その動画とは、パワードミュージックのプレイ動画である。その動画には、単純なプレイ動画や実況動画とは違うカテゴリーのタグが付けられていた。

ネタバレと言う名の動画削除はされていないのだが――この動画に限れば再生数の伸びは異常と言える。

有名プレイヤーの動画やランカーバトルでもないのに、この動画が注目を浴びる理由とは?

【この動画は――?】

【ネームドプレイヤーである島風のプレイ動画らしいが、アップしたのは島風ではなく別のプレイヤーらしい】

【しかし、この内容は別の意味でもワンサイドマッチだ】

【1曲目の段階でもスコアの差が圧倒的だ。島風は演奏成功のギリギリのラインだと言うのに】

【これは、明らかに島風が妨害を受けている可能性がある】

【アイドル投資家が主導した襲撃事件か?】

【ここ数日は襲撃事件もネット上で報告されていない】

【何だと!?】

 つぶやきサイトのタイムラインでも、島風(しまかぜ)の動きに関しての不調を指摘する声がある。

その原因を一連の襲撃事件と言う者もいたのだが、それはあっさりと否定された。

ニュースでも報道された為に、アイドル投資家の動きも――と言う事らしい。

【一連の襲撃事件を踏まえ、警備員を増員した訳ではない。そうした対策は、逆に狙ってくれと言っているような物だ】

【国際スポーツ大会等ではガチのテロリストが出てくる可能性がある。そうした事を踏まえれば、ARゲームでも警備員を増やした方が良い可能性は高い】

【ARゲームの場合、監視カメラた監視ドローン、それだけではなく――】

【人間の目ではARゲームの不正ツールやチートを見破れない。アナログな方法を使っているのであれば話は別だが――】

【ARゲームはCG映像などを組み合わせている。人間の目ではARバイザーから見える世界を確かめられない】

【ARゲームとVRゲームを混同しているようなプレイヤーに、よくあるような勘違いだな。人間の目に、ARゲームの映像を確かめられる手段はない】

【ただでさえ、騒音対策でARリズムゲームでもプレイヤーのヘッドフォン等にしか音が聞こえなかったり、AR対戦格闘でも演出が見えない等の不都合もあるが】

 他にも色々なつぶやきもあるのだが、今の動画に関係があるかと言われると疑問形が出るようなつぶやきも見られる。

俗にいうサクラコメントも一部で存在する気配がするのだが、どれがサクラコメントなのか一般人では見分けがつかない。



 午前10時35分、アンテナショップで順番待ちをしていたのは白いインナースーツ姿の女性である。

身長は170辺りに見えるが、周囲も身長の高い男性プレイヤー等もいる為、思いっきり目立つ訳でもない。

遠目にはホワイトなのかもしれないが、若干の肌色も含まれていそうなインナースーツの色をしている。

下手をすると彼女が痴女に見えそうな雰囲気を――と言う気配もするのだが、特にレギュレーション違反のインナースーツではない。

インナースーツの役割をしていないような軽量型スーツは違反になるかもしれないが、彼女の着ている物は市販のスーツである。

髪型は金髪だが、ウィッグであり――実際は金髪ではない。それ以上に特徴的なのはデカリボンだ。

「まだ始めたばかりだし、こんなものかな?」

 動画の再生数を見て、島風こと島風朱音(しまかぜ・あかね)は少し複雑そうな表情をする。

島風の動画の再生数が伸びているのは、彼女がコスプレイヤーとしての芸歴も持っているからだ。

ローカル声優や実況者、他のARゲームにおけるランカー等は動画の再生数が早いタイミングで10万を超える。

逆に、そうでない一般人や普通のゲーマーレベルでは高難易度譜面や超人プレイでもない限り、再生数が伸びない。

「コスプレイヤーの事は隠しているのに、どうして分かるのかなぁ……」

 ARゲームは芸能人のプレイを禁止している機種が存在し、その中でもアイドルは特定事務所のグループなだけで門前払いされる物もある。

バラエティー番組の取材でも超有名アイドルの看板番組の場合、協力を断るケースだってあるのだ。

島風の懸念は、正論とも言えなくもないが――実況者や声優の場合、声で特定可能というケースも多い。

顔出しNGな人は特に声で特定される事が多いかもしれないが、ARゲームで細かい事を言及するプレイヤーはいないだろう。

島風は声で特定されているのではなく、おそらくはデカリボンと言う特徴的な部分で特定されている可能性も否定できない。

それに加えて、島風はネット上でもある職種への転向等が言及されており、その度にネットが炎上していたのである。

それに関して言及したつぶやきは、削除されていた、それに加え、それを言及しようとしたまとめサイトもつぶされたと言う。

子の犯人は島風と言う訳ではないのだが、何かの圧力でつぶされたと考える人物は少なくない。

「芸能人だからプレイを禁止と言うのも――違うと思うけど、これも宿命と言うべきなのかな」

 色々と疑問はあるのだが、それもネタバレと言う言葉で隠されてしまう――そうした現実では、島風も詳細を検索する事は出来なかった。

ネタバレに敏感になり過ぎる事――それは日本のコンテンツ業界を委縮させてしまうのか?



 4月20日午前10時35分、コンビニ前でコンビニおにぎりをかじりつつ、店内に置かれているモニターに視線を向けていたのは――長門(ながと)クリスだった。

口にしていたのは鮭のようだが、手にしている飲み物は何故かコーヒーである。

「あのデカリボン――何処かで見覚えがあるような」

 鮭おにぎりを食べ終わり、次に手に取ったのはおかかおにぎり。

長門が食べているおにぎりは違うコンビニの持ち込みではなく、この店で購入した物だ。

その後、会計を済ませてフードコートで食べている訳だが――コーヒーに関しては、缶コーヒーではなくコンビニの淹れたてコーヒーらしい。

「名前を見る限り、別人の可能性もある。他人の空似か――」

 この時に長門が見たのは、別人の方だった。

後に動画サイトにアップされていた物を視聴し、他人の空似だと確信したのである。

「ネームの被りと言うのは、他のARゲームでもよくある。それを踏まえれば珍しい事ではないのか」

 ネーム被りは他のジャンルでも行われており、この辺りはARゲームでも禁止はされていないようだ。

ただし、あまりにも有名なプレイヤーを名乗ろうとすると危険なのは間違いないだろうが。



 午前10時40分、竹ノ塚駅近辺では何故かガーディアンの勢力が集まっている。

この様子を見たギャラリーは、一斉にスマホで撮影をしようとするのだが、何故か撮影しようとするとデータの記録に失敗し、撮影が出来ない状態になっていた。

「カメラ機能の故障か?」

「単純に故障であれば、数人程度のはず。ここに来ている数十人規模で一斉に故障と言うのは聞いた事がない」

「これと同じような光景――見覚えがあるな」

「見覚え? テロ事件か何かか?」

「そうじゃない。似たようなARゲームでこういう事例が――?」

 ギャラリーの方でもカメラ及びスマホのカメラ機能の故障が叫ばれている中、ある男性はこの光景に見覚えがあると言う。

しかし、見覚えのある光景であれば――この場から引き返すべきと考えるアイドル投資家等は存在する。

実際に一部の勢力は撤退し、難を逃れていた。その理由は――。



 同刻、谷塚駅のパワードミュージックフィールド、そこには異様とも言えるような装備の人物がいた。

外見はブルーとホワイトのツートンカラーのインナー、全身にアーマーを装備、ARメットは全体を覆うタイプでツインアイという特別仕様である。

これでも他のARアーマーと共用の物であり、パワードミュージック専用ではない。

『このARアーマーで参加できそうな機種はないだろうか?』

 さすがにアンテナショップの男性スタッフも、この姿を目撃したら驚くのも無理はない。

ARアーマーを装着した状態でアンテナショップへ入っても問題がない為に、この姿でも問題はないのだが――これを銀行等でやると強盗と間違えられるのは間違いないだろう。

「フルアーマーですと――サバゲ―系列とかFPSでしょうか?」

『そちらのジャンルは既に制覇と言っていい状態だ。他のジャンルを希望したい』

 別のジャンルを希望している客に対し、スタッフの方も若干の困惑気味である。

フルアーマーでプレイするようなARゲームのジャンルと言えば、かなり限定されるだろう。

実際に不可能ではないが、フルアーマーでリズムゲームやアスリート系ジャンルをプレイするのは縛りプレイ位なものだ。

「しかし、他のジャンルとなると軽装型やARバイザーだけの物もあるので、難しいですね」

『そこまで深刻なのか? 新作の中では可能な物もあると聞いて、直接来ているのだが?』

「――確かに新作ならありますね。しばらくお待ちを――」

 彼が新作と言うので、スタッフの方も心当たりがあるようで、何かを確認する為に何処かへと姿を消す。

今回尋ねてきた人物、それは西雲響(にしぐも・ひびき)である。

諸般の事情で素顔を見せる事が出来ない為、一部の特殊条件を飲む事でアーマーの装着可能エリアが通常のケースと比べて多い。

『ARゲームのジャンルも増えていると聞くが――まだ、解禁になっていないジャンルもあるのか?』

 アドベンチャー系や謎解きタイプはARゲームのシステム的にも適合しないケースもあり、実況動画も制限される等の影響もあってARゲームでは存在しない。

RPGに関しては一部で存在するかもしれないが、体験プレイするにもチュートリアルが長い等のネックもあって敬遠されがちだ。



 5分後、男性スタッフが持ってきたのはARガジェットの入っている箱だ。見た目、変身ヒーローの玩具にも見えるのだが――。

「それだけのアーマーを装着していても問題がないのは、このパワードミュージック位でしょうか」

『パワードミュージック――ネット上でも話題のARゲームか』

「最近はプレイヤー数も増えていて、ゲームルールが複雑なので人を選ぶと思いますが」

『人を選ぶか――ジャンルは?』

 西雲はジャンルを訪ねたので、男性スタッフは真顔で答える。

「リズムゲームです」

 その後、数秒の沈黙が発生し、西雲も頭を抱えていた。

重武装でもプレイ出来るリズムゲームとは――どれだけ危険なジャンルなのか? 飛行ユニットを使ったり、魔法的な何かや超能力使いでもいるのか?

西雲もARゲームでは有名なプレイヤーだが、苦手なジャンルと言うのも存在する。

それが、パワードミュージックのメインジャンルであるリズムゲームなのだ。

 改めて西雲は頭を抱える。苦手なジャンルに片足を突っ込む事になるとは――と言うのもあるが、彼女がリズムゲームを敬遠する理由は他にもあるだろう。

格闘ゲームはイースポーツ化がすんなり移行で来たとまではいかないが、他のジャンルと比べると人気ジャンルと言う事もあって受け入れられた。

しかし、リズムゲームの方は――未だにイースポーツとしてはメジャーなジャンルとは言えず、様々な壁もあって一部ゲームで小規模大会が行われている程度でしかない。



 西雲もパワードミュージックは都市伝説として、全く信じようとはしなかったのだが――それはアンテナショップで現物を見るまでの事である。

アンテナショップで見た現物、それはリズムゲームのコントローラを思わせるデザインのスナイパーライフルだった。

『これでリズムゲームをプレイするのか――ガンシューティングテイストのリズムゲームあると言う話は聞いているが』

 ガジェットを見てもプレイする様子を見るまでは、どのように使うかの見当が付かない。

実際、AR対戦格闘も普通の格闘技などと同じと考えていたら、まさかの格ゲーを再現したような必殺技も出せる物だった。

ARFPS等に至っては、世界大戦等を下地にした架空戦記であれば――シミュレーションマシンと大差がない。

自分が言えた義理ではないのだが、ARゲームが戦争の道具として悪用される未来、あるいは玩具で世界征服と言う展開もイメージさせる。

『一体、何が始まると言うのか?』

 そして、西雲はアンテナショップに入り、現在の状況に至っているが――。



 4月20日午前10時45分、西雲響(にしぐも・ひびき)は男性スタッフからパワードミュージックを薦められる。

しかし、そのジャンルはリズムゲームだったのだ。これには、さすがの西雲も頭を抱える。

『リズムゲームと言うと、太鼓型の筺体とか、洗濯機のような形状とか、ギターとドラムセットの筺体とか――そのリズムゲームか?』

「その通りでございます」

 男性スタッフは何故か流暢な英語で答える。

しかし、未だに西雲にはパワードミュージックがリズムゲームとは理解できない。

『電子パンフレットを見る限り、アクション要素も非常に多い。それこそ、ARパルクールやアクションシューティングを思わせる』

「それでも、この作品のジャンルはリズムゲームです」

 西雲もパンフレットの内容を見た上で、この質問をしている。

決して、行き当たりばったりの質問をしている訳ではない。ネット上でもリズムゲームである事にはやっつけ等とも言われているが。

それでも男性スタッフの方は正論を述べるかのように答えている為、西雲はますます頭を抱えたくなってきている。

『過去のテレビゲームで、シューティングゲームなのにRPGを名乗っていたジャンル詐欺に近いような作品もあった。その系統ではないのか?』

「ジャンル詐欺ではありません。ARゲームでジャンル詐欺は景品表示法的な意味でもガイドラインで禁止項目に指定されております」

『それならば、尚更、この作品はジャンル詐欺ではないのか?』

「そこまで言うのでしたら、実際のプレイしている様子を直接見てはどうでしょう? 動画サイトで動画を探すという手もありますが、丁度――」

 何と、ジャンル詐欺はARゲームでは禁止されているらしい。しかも、違反すると罰金を取られると言う事まで明言されていた。

それでも――西雲としては苦手ジャンルであるリズムゲームをプレイするのは抵抗感がある。

苦手な理由は色々とあるのかもしれないが――。

そんなとき、もうすぐゲームが始まると言う事で『百聞は一見にしかず』と言わんばかりに会場の場所を教えられ、そこで実際のプレイを見る事になった。



 午前10時47分、西雲が到着したのは、谷塚駅から少し離れた場所にある道路である。道路標識には国道49号線と書かれていた。

見た限りでは交通規制もされていない道路なのだが、ここで何が行われるのだろうか?

車の通行量は、そんなに多い訳ではない。渋滞しているような道路でARゲームが出来るわけがないのは、他のARゲームで体験済みだ。

ARゲームは『最も安全でクリーンなゲーム』を宣伝文句にしている訳ではないが、そう言うレッテルが貼られているゲームと言う認識をしているユーザーもいた。

交通事故でも起きようならばARゲームだけでなく、VRゲームにも風評被害が出る事も避けられない――とでもゲーム業界は考えているのだろうか?

そうした裏事情はARゲームでも語るのはタブーとされており、下手に言及しようと言うのであれば『炎上マーケティング』呼ばわりされてしまうのは避けられない。

アイドル投資家が行う様なまとめサイト等は、こうした炎上マーケティングの一種と認識されている。

「パワードミュージックでしたら、この先ですよ」

 歩道を歩いていたガーディアンの男性らしき人物が、指を差してこの先のフィールドである事を案内する。

彼はパワードミュージックの担当ではないのだが、だからと言って塩対応でもしたらネット上で炎上する事は避けられない。

ガーディアン側も過剰なネット炎上は、世界大戦クラスの戦争が起こるのと同義と考えているのだろう。

西雲の方もガーディアンの話を信じて、指を差した先の道路へと向かう。

丁度、草加駅方面の道路を直線距離で歩いた所にスーパーが見え始め、その手前にアンテナショップがあった。

【パワードミュージック第5フィールド】

 立て看板にはパワードミュージック専用のフィールドであることが明記されていた。

【パワードミュージックのプレイ、エントリー、メンテナンス全般受付窓口】

 第5フィールドと書かれた看板の下に書かれた説明を見ると、パワードミュージック専用と名乗るのは伊達ではないと思わせるような――アピール文が書かれている。

『スーパーの方で買い出しをしてからフィールドへ行く事も出来るのか――』

 アンテナショップにはフードコートも常設されている場所があるが、ここに関しては飲み物はあるが、食べ物は少ないらしく、スーパーや近くのコンビニで弁当を買うケースが多いらしい。

出前も頼めるかもしれないが、頼めるお店が近くにあるかどうか――と言うレベルであり、ピザの配達受付までが限度だろう。



 その一方で、竹ノ塚駅近辺のガーディアンは動きがなかったと言う。

厳密には騒動を起こした集団が地下アイドルのファンであると判明、ガーディアンによる即時解散が命じられ、スピード解決をした。

警察に逮捕されていたら、それこそ解散が現実味を――と言う流れになるのだが、それを未然に阻止した格好である。

カメラ撮影が出来なかったのは、一種のジャミングであり、ARガジェットを悪用したパンチラ等の盗撮を防ぐ為の手段だった。

それに加えて、ARゲームの展開中は通常のスマホは撮影だけでなく一部アプリも使用不可能になるのだが、これはチート等の問題があるらしいが、真相は不明。

アカシックレコードにはそうした技術に関しても記述がされているのだが――大抵の人間はフィクションだろうと言う事で、一蹴しているのが現実である。

逆に言えば、フィクションの世界で使われた技術を自分達の世界で使用するなんて馬鹿げていると考えている人物が多い事を意味していた。

「アカシックレコードは万能ではない。それを彼らは分かっているのか?」

 ある場所から、竹ノ塚近辺の事件に関して様子見していたのは、大和朱音(やまと・あかね)である。

その場所とは竹ノ塚駅近くの飲食店であり、そこの窓から一部始終を見ていた。

「集まっている人数的に本来は大規模だったのか? それとも、この事態を想定して退却したのか?」

 ARゲーム用のインナースーツは上着を着用する事で隠しており、彼女がARゲームの関係者とは誰も気づいていないのである。

実際、大和の知名度は草加市内や埼玉県内のみであり、それ以外のエリアでは名前を聞いた事がある人物がいても顔は見覚えがないというのが大多数だろうか。

ネット上では人気があったとしても、実際にどれほどの知名度があるかと言われると――理想と現実はかけ離れているのかもしれない。

「あれだけのチートプレイヤーが別のロケテストで存在する以上、こちらも相応の準備をする必要性があるのか」

 大和は、現状では少数報告されている大規模不正ガジェットやバグを利用した不正プレイ、チートの類をなくそうと考えている。

こうした技術がARゲームで拡散すれば、いずれは軍事兵器に転用され、完全無敵の兵器に使用される可能性も懸念――というよりも、その方向性を考えているのは彼女だけか。

「Web小説で増え続けているチート物、別サイトでは二次創作無双――こうしたコンテンツ流通に風評被害をもたらす傾向は何としても減らさないと」

 そして、事件が決着したのを見計らい、大和は別の場所へと向かった。

草加の方へ戻る訳ではなく、竹ノ塚駅の方角へと歩いて行ったのだが、その後の行方を知る者は少ない。



 3分後の午前10時50分、フィールドの近くにあるアンテナショップに到着した西雲は、受付窓口を探していた。

広さ的には近場のスーパーより広い程度であり、ここでARゲームが本当にできるのか――と思うのも無理はない。

近くには小学校もあり、騒音問題は大丈夫なのか――と西雲は考える。

『地図を見る限り、この近くには小学校もある。それに、工場もあったか――』

 廃工場であればサバゲでも使われているケースがあるが、ここでいう工場は稼働中の物だ。

下手に大事故でも起こればARゲームどころではない。その辺りの避難誘導は大丈夫なのか――と若干不安にもなる。

レースゲーム等では交通整理が行われると言う話もあるのだが、そこまでしてARゲームを町おこしに使う理由も分からない――と一般市民は認識していた。

「あれって、西雲響か? とんでもないプレイヤーが現れたな」

「まさか、参戦する訳ではないだろう?」

「まとめサイトとかでは言及されていないし、西雲はARリズムゲームは苦手としている。それこそ、参加表明したら宝くじで1等が当たるレベルの確立だ」

「確かに、西雲はリズムゲームを苦手としている。しかし、リズムゲームの経験者ではないプレイヤーがスコアを伸ばしている傾向を踏まえると――」

「日向の事例を考えているのならば、それは違うと言う事だ。日向はARゲームのプレイヤーの中でも相当の実力者であると同時に、ブラックリストの常連だ」

「それもあって、リズムゲームに参戦するのはあり得ない話――というのがまとめサイトの見解だったな。しかし、それも外れた」

「まとめサイトに依存すれば、炎上マーケティングや超有名アイドル商法の宣伝として利用されるのは目に見えている。それこそ、炎上マーケティングの危険性は過去にも言われて来た」

 2人の男性が何かの議論をしているようだ。西雲の姿を目撃した事で、参戦するのでは――と考えているらしい。

しかし、2人の声は西雲には聞こえていない。爆音で音楽を聴いている等の理由ではなく、このやりとり自体がARバイザーを使用した秘密回線で行われていたからである。

『どちらにしても、一度でもARゲームが炎上すれば取り返しがつかないと認識している証拠か』

 色々と思う部分もあるのだが、まずは目的であるパワードミュージックを観戦するのが先と考え、足早にショップ内へと入る。


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