ビスマルク始動その2

 4月13日午前10時38分、今回のアイオワと相手プレイヤーのレースを別角度で見ていた人物がいた。

それは、つい先ほどレースを終了した木曾(きそ)アスナである。

彼女はレース終了後に気になるレースが始まった事をセンターモニターで知り、その相手が――。

「機械仕掛けの神――デウス・エクス・マキナとなり、全ての事象を操るつもりなのか――あの芸能事務所は」

 木曾が吐き気を催しそうなリアクションを見せたのは、アイオワではなく別の対戦相手だった。

そのネームはアンノウンと言う訳でも無名でもなければ名無しでもない。基本的にはARゲームで名無し登録は不可能となっている。

ARガジェットのレンタルであったとしても店舗名とレンタルガジェットである事を示す名前が表示される為、名無しはゲーム的にもあり得ないのだ。

【トルネード】

 相手プレイヤーの名前を見て、木曾は即座に有名芸能事務所のアイドルグループを連想した。

カードゲームで使われているカードであれば、サイクロンのはずだからである。

トルネードを日本語名にすれば――第四の壁を超えた先のアイドルグループ名になるのだが、それはアカシックレコードでも――。

実際にこの世界で言及して、向こうの芸能事務所が訴訟準備を出来るのか――という事もあるのかもしれないが、どうなるのかは不明かもしれない。

「アナグラムとも考えにくいが、そこまで直球の名前を出せば芸能事務所側も黙ってはいないだろう」

 ARゲームではNGのエントリーネームが存在し、下ネタやそれを連想する卑猥な名前、宗教的な問題が発生する名前、他社の商標権に影響する名前は登録時に強制変更される。

逆に、そうした名前出なければグレーゾーンとしてエントリー出来てしまうのは明白だろう。

炎上騒動になりそうな名前を登録できるようにしたのは、運営側のミスなのでは――と指摘するような記事も出てきそうだが、現状では未確認である。

「それを踏まえたとして、彼らは何が目的なのか――」

 木曾は大まかな目的がある程度予測出来たのだが、それを口にしてしまうと周囲に無用な警戒を生み出す恐れがあった。

その為、憶測で物を言うのは危険だと判断し――今回の件に関しては特に言及するのを止める。

下手に言及すれば、何処かで芸能記者やまとめサイト管理人などがARゲームを炎上させる為に記事を書く可能性が高い。

それに、木曾は別の何かに関しても気にしていたのである。それは――。

「しかし、このような事が続けば、いずれは大きな事件に発展する。そうなってからでは遅い事を、炎上勢力は知るだろう」

 今から会場に駆けつける事は時間的にも可能だろう。しかし、別のコースで練習する物がある為か木曾は自分の用事を優先する事にした。

一部勢力が行っている事、それは法律的にはグレーである可能性が高いかもしれないが――明らかなアウトである事を。



 同刻、谷塚駅のアンテナショップより若干離れた足立区に近い位置にある草加市内のアンテナショップ――そこでは予想外の盛り上がりを見せていたのである。

今回のアイオワとトルネードと名乗るプレイヤーのレース、ここでは別の見方で盛り上がっていたのだが、アンテナショップ内は私語厳禁と言う雰囲気が見て取れるほどに静かだ。

実際、アンテナショップは迷惑行為を禁止しているが、周囲に迷惑にならない範囲であれば応援での歓声等は認められている。

それでも静かな事には、一つの理由があった。それは――。

【あのモブ達が余計な事をしなければ――】

【あれがトルネードのやり方だと言うのか?】

【あの某芸能事務所ならば、別のグループを解散に追い込んでいる実績もある。売り物にならなければ、即刻切り捨てだろうな】

【アカシックレコードに書かれていた文書――あれは本当なのか?】

【あくまでも、アカシックレコードはWeb小説にすぎない。フィクションと断りを入れている作品がノンフィクションになるはずがない】

【その例えは二次創作が一次創作に変化するという事があり得ないのと同じ理論か?】

【そうではない。アカシックレコードは、あくまでもコンテンツ流通を阻害している勢力に対する警告――そう受け取られるような文書だ】

【どういうことだ?】

【いずれ分かる。トルネードを騙る――地下アイドルのファンは、後悔する事になるだろうな。風評被害で、芸能事務所Aにご都合主義とも言えるような――】

【レースが間もなく始まるようだ】

 パーテーションで仕切られた個人スペース、そこではタブレット端末でレースの動画を見ている男性が3人いた。

これらのやり取りもつぶやきサイトには載っておらず、鍵付きのコミュニティなどに流しているメッセージだろうか。

アンテナショップでも犯罪を助長するようなログは警察へ提出する等の自衛策はしているが、基本的には――手を出せないでいる。

「あの人物は――」

 偶然、そこを通りかかったのは、必要な書類を探していた比叡(ひえい)アスカだった。

おそらくは見間違いの部類だろうが――映像にビスマルクが映っていた事に疑問を持っている。

一体、彼女は何をする気なのか――と。



 一方、ネット上ではアイオワに関して妙な噂が飛び交っていた。

彼女が使用したARガジェットに関係する事だが――。

【彼女の使用しているガジェット、おそらくはアガートラームの可能性が――】

 このコメントは途中で文字化けをしていて解読出来なくなっているが、何故に文字化けをしたのかは分からない。

規制対象であればコメントは削除されるか白塗り状態になるはずであり、このような文字化けはあり得ないのだ。

ネット上ではアガートラームと言う単語を見て、一斉にスルーする人物が多い。

しかし、その単語に振り向かざるを得ない人物は確かにいた。

「アガートラーム――アカシックレコードに存在する、ARガジェットの一つ。それが、実在していたのか――」

 今、レースにエントリーして走りだそうとしたビスマルクが、その言葉に反応していた。

何故に反応したのかは分からないが、アカシックレコードに関連して――と言う可能性が高い。


 4月13日午前10時39分、レース用フィールドの方では乱入してきたモブ7人とビスマルクもスタンバイ済。

「あのプレイヤーの正体を見極めるつもりが、こうなるとは――」

 そう考えていたのはビスマルクである。それ以外にも、様々な情報が入ってきているが――敢えて口にはしていない。

仮に口へ出したとしても、ARバイザーを被っている事もあって周囲に声が漏れていないが。

それを踏まえると、あのトルネードという人物も同じように声が外部へ漏れないようにしているのかもしれない。

「楽曲の選曲は既に終わっているが――誰かが準備完了していないのか?」

 ビスマルクが周囲を見回しても、特に変わった様子はないようだ。普段のARゲームで行われている時と何ら変化がない。

天気が曇りに変化する事もなければ、緊急で道路舗装班などが出ている事もないので、非常事態は起こっていないと言える。

ARバイザーの方にも続々と準備完了を示すメッセージに変わっている為、準備が終わっていない訳ではないようだが。

『ご来場の皆様へお知らせします。ただいま、スタート直前でシステムエラーを検知いたしました。そのままの状態でお待ちください』

 アナウンスによると、システムエラーを検知した事でレースの開始が遅れているらしい。

『誰だ? チートガジェットを持ちだしたのは?』

『我々は知らない! ガジェットは芸能事務所関係者から受け取った物を使用している』

『芸能事務所――? まさか、A社ではないだろうな』

『会社名は聞いていないが、A社ではないと向こうは答えた』

『それだけでは証明にならない。ちゃんと身分証明書を提示しろ――そう指示したはずだ』

『疑われるのは、明らかに我々だ。トルネードも、おそらくは――』

『何だ、システムが強制的に遮断され――』

 7人のモブプレイヤーのシステムが強制的に遮断、更にはトルネードのシステムも遮断されると思われたが――トルネードは遮断されていない。

つまり、トルネードは不正ガジェットを持っていないという事だろうか?

最終的には7人のモブプレイヤーが強制退場、ガーディアン組織に事情聴取される事となる。

トルネードは、逮捕されていくモブプレイヤーに対して無実だと言う事を言う事もなかった。下手に介入すれば、自分もチートを疑われるからだろうか?

その辺りは不明だが、トルネードの方角にガーディアンが向かう事はなかった。

ガーディアンの詳細は、他の選手に語られる事はない。この辺りは守秘義務という可能性も高いだろう。あるいは、ガーディアン側の事情だろうか?

「あのトルネードと向こうの連中は、利害が一致しただけなのか――あるいは、向こうがタダ乗り便乗という事か」

 ビスマルクは、モブプレイヤーの行動を踏まえると、トルネードと利害の一致で行動したが途中で裏切りにあった――あるいは単にトルネードの名前を利用してタダ乗り便乗をしようとした――と考えている。

しかし、タダ乗り便乗だとしたら――彼らは何が目的だったのか?

トルネードではなく別の地下アイドルを宣伝する為に動いていたのか、あるいは過去に超有名アイドルが行ったコンテンツ流通妨害を行うつもりだったのか?

どちらにしても、今はレースに集中する事を考える事にした。

「アガートラームの件も、今は考えるべきではないだろう。レースに集中しなければ、スコアでも負ける可能性が高い」

 今のビスマルクは集中力を高めるのが重要と考えている。下手な雑音を気にしては――スコアを落とすと考えたのだろう。



 午前10時45分、モブプレイヤーの回収が想定外に早く終了した為、プレイ再開が若干速くなるようだ。

システムの強制遮断でARガジェットが動かなくなり、向こうも打つ手を失ったのが最大の理由だろう。

ARガジェット及びARウェポンは種類によっては殺傷能力ゼロとは言われていても、力を入れて振り回せば振り回した分のダメージは入る。

ARウェポンはまくら投げ位の衝撃とネット上では言及されているのだが、プロの格闘家が使用すれば、それ相応のダメージは避けられない。

実際、AR対戦格闘でアイオワはARウェポンのグローブを装備していた。

パンチの威力はかなりの物だったらしく、プレイヤーが一発でKOする事もザラだったという。

いくらなんでもARアーマーで衝撃を大幅に吸収しているとはいえ、限度と言う物がある。

必要以上の力を入れないでください――とAR対戦格闘ではプレイ前に警告表示が出るのだが、アイオワのパンチの威力はパンチングマシーンでも80キロに満たないのだ。

それなのにアイオワは、AR対戦格闘ではワンパンチ決着が9割に近い。ARガジェット側に不正ツールが使用されている疑惑も疑われたが、不正ではないという結論が出ている。

「今回は――大丈夫だな」

 アイオワは自分のARガジェットを見つめ、同じような事があったとしたら――と懸念している。

モブプレイヤーが回収された際、自分がAR対戦格闘でワンパンチ決着した時の場面がフラッシュバックする。

そして、今までなかったはずの不安が一気に出てきた。あの時は相手が不正ツールを使用していた事が影響しての決着が7割、2割は純粋にワンパンチ決着だった。

「アイオワ――まさか、な」

 ビスマルクはアイオワを見て、何かを気にしていた。ガジェットの形状を見る限り、あのアイオワと同一人物とは考えにくいとの事だが――。

プレイの再開は10時50分、今から5分後と言う事になる。これは、別に行われたマッチング処理等の関係もあるらしい。



 同刻、このレースを別の場所から見ていた人物がいた。草加市と足立区の境目に近いような場所にあるアンテナショップ――。

そこには比叡(ひえい)アスナも書類を揃える為に姿を見せていたのだが、それとは別にもう一人がセンターモニターに目を向けていた。

身長170センチ位、メイド服に黒髪ツインテール、体格がぽっちゃり――その彼女はテーブルに座り、コーヒーを飲んでいる。

コーヒーに関しては缶コーヒーではなく、コーヒーメーカーで淹れた物であり、200円で飲み放題という値段設定だ。

「――この流れは止まらないのか」

 ローマはメインモニターでテロップとして表示されるニュースにも目を向けている。

【ARゲーム、イースポーツ化へ加速】

 そのニュースの見出しとは、やはりというかイースポーツ化に関する物だった。

スポーツという単語が運動という面に特化しているのは日本だけとも言われている。そう言う流れもあって、ローマがイースポーツ化に否定的だった理由の一つ。

実際、海外ではチェスやビリヤードなども頭脳系のスポーツと認知されている場所もあるのだが――そうした事例をローマが知ったのは、つい最近である。

「ARゲームは確かに運動という面に特化した物も存在する。しかし、あくまでもゲームとしてだ。体感ゲームもゲームと言うカテゴリーである以上、これ以上の細分化は混乱を招きかねない」

 スポーツだけでも複数ジャンルが存在する中、新たなスポーツとしてイースポーツが存在していた事もローマは気づかなかった――と言う訳ではない。

これに関しては単純に情報収集が足りなかったという事と言える。

「どちらにしても、何処かで新規ユーザーを取り込む為にあれこれ考える事は必要と言う事か。一部ファンしか付いてこられなかった超有名アイドルのようなコンテンツは――」

 ローマは頭の中ではイースポーツ化が新規ユーザーの取り込み策としては必要とは分かっていても、すぐに頭の中を切りかえるような事は難しいと感じている。

それだけ、今回のARゲームにおける変化は非常に大きな物だと言えるのかもしれない。

「やってみるか――パワードミュージック」

 とりあえず、このレースを見極めてからでも問題はないだろう――そうローマは思った。

未プレイの上、動画を見ただけと言う状態でパワードミュージックを語るのは、度々小説サイトで批判されているブラウザゲームの二次創作の夢小説等に言えることだろう。

こうした勢力が度々ゲームその物を炎上させた結果、風評被害を受け、更には損害賠償という展開にもなりかねない。

実際、夢小説勢のプレイを禁止している作品やメーカー公認以外の商品化を歓迎しない作品も存在する程、それ程にフジョシや夢小説勢は超有名アイドルファンと同一視されている。

同一視される事で風評被害を受けているのは芸能事務所Aの超有名アイドルファンとアイドル投資家かもしれないが。

「とにかく、レースを一通りチェックしてから――考えよう」

 パンフレットだけでは判断材料が足りない。今ではプレイ動画も少数ではなく、多く存在しているが初期プレイヤーよりも救われている。

パワードミュージックを始めようと言うきっかけを得る為の情報量が多い事――それが情報がなさすぎる時代よりは入りやすいと思われがちだが、全てがそうとも限らない。

逆に情報量の多さでパワードミュージックのプレイに迷うプレイヤーも、徐々に増え始めているとまとめサイトは伝えていた。



 4月13日午前10時50分、3人の選曲も終わり、いよいよレースが始まろうとしていた。

「コースは道なりの直線コースか――」

 アイオワはコースのマップをARバイザーで確認し、特に障害物があるような気配はないと感じていた。

アイオワのARガジェットは特に飛行アビリティ等が付いている訳ではない。ただし、ブーツに関してはホバリングが使用可能になっているが。

「飛行禁止エリアである以上、飛行は封印――問題があるとすれば、トルネードのガジェットか」

 ビスマルクはコースよりもトルネードが所持しているガジェットを調べ始めた。

一方で、トルネードは細部のチェックの後、周囲を見回すようなことはなく終始無言を貫いている。

何もやる事を失ったという訳ではなく、スタート待ちなのかもしれない。

「あのトルネードと言うプレイヤー、もしかしてCPUか?」

「仮にCPUだとすれば、ジャミング等が発生した段階で姿が消える。それに、地面をよく見ろ――」

「影が――ある」

「そう言う事だ。ARゲームのCPUアバターには影がない。アバターでも影があるのは、ARFPS等の影の有無でゲームバランスが変化するものだけだ」

「つまり、パワードミュージックでは――」

「影がゲームバランスには影響しない。影響するとすれば、天気だろう。仮に雨が降ったりでもすれば――プレイヤーには圧倒的不利になるのは避けられない」

「それにしても、あのトルネードと言うプレイヤーの目的とは?」

「それをこちらに振られても、どうしようもない」

 周囲のギャラリーもトルネードに関しては色々と疑問は持っているようだが――。

その一方で、ビスマルクは――ある物を試そうと考えていた。それは、現在装備しているARガジェットとは違うガジェットを使う事でもある。

ARガジェットの複数所持と1ゲーム中での切り替えは禁止されていない。ジャンルによっては、ガジェットの切り替えは重要な要素とも言われている。

それを踏まえての物だが、リズムゲームでプレイごとにコントローラを変えるような事は聞いた事がない。

「リズムゲームで複数のコントローラを使用するのは――」

 しかし、切り替えようとした矢先にロックがかかった事によりガジェットを切りかえる事は出来なかった。

厳密にはパワードミュージックに対応していないガジェットだった為、ロックがかけられたという事らしい。



 遂にレースは始まった。最初の選曲はトルネードだが、先ほどとは違ってのランダム選曲を使用しており――。

【レベル6――】

 表示されたレベルは6、楽曲はクラシックアレンジのカテゴリーからだった。

白鳥の湖と言う曲のアレンジらしいが――向こうの楽曲とは大きく異なり、作曲者の名義が異なっている。

作曲者名儀は表記バグと言う訳ではなく、特殊な機種依存文字を使っている可能性の方が高かった。

楽曲のイントロというか出だしが流れるのはゲームスタートエリアからである。スタートして50メートルを過ぎた辺りからだ。

「トランスアレンジ――だと」

 ビスマルクも別の意味で驚いていた。クラシックアレンジ楽曲がリズムゲームで存在し、ARリズムゲームでは収録されている割合が多い。

その理由として、さまざまな事情はあるかもしれないが――超有名アイドルの楽曲を収録するよりは手間が必要なく、楽曲使用料的な意味でもコストパフォーマンスが高いと言える。

もっと別な視点から理由を見ると、ARリズムゲームのユーザーに超有名アイドルの楽曲が合わないという事もある。従来のリズムゲームであれば、若者に人気の曲を入れるのは当然の流れだろう。

しかし、ARリズムゲームはリズムゲームでトップランカーと呼ばれる部類のプレイヤーが非常に多く、彼らが選曲するのがオリジナル楽曲のカテゴリーである。

それを踏まえると、自然とオリジナル楽曲だけを収録するのがARリズムゲームの流れ――と言えるのかもしれない。

 トルネードの方は何も喋る事無く、淡々と進んでいく。50メートル通過ポイントから楽曲の演奏が始まるのだが、急いで通過ポイントへ向かう気配もない。

それを見て向こうの動きを警戒していたのは、アイオワである。ビスマルクの方は様子こそは見ていたが、そう言った余裕もない気配だろう。

 楽曲のイントロは、どう考えても我々が知るような白鳥の湖ではない。トランスと言う事もあり、電子音的なアレンジがされている上に――楽曲のアレンジも非常に強かった。

全く別のオリジナル楽曲で発表した方が早い――というのは厳禁なのは間違いないだろうか。

最初のイントロ部分では特にフィールド上に変化はない。トルネード、アイオワ、ビスマルクもARバイザーに指示された矢印に従って先へ進む。

そのスピードは時速40キロの様なスピードではなく、時速10キロ辺りにとどまっている。あまりにも速度を出し過ぎると、障害物を吹き飛ばす可能性もあってのことのようだ。

中には高速道路を使用したコースなどもあるが――それらがパワードミュージックで解禁されるのは先の話だろう。

高速道路や国道も複数使う様なレース系ARゲームでは、既に警察との連携を取る為のコース調整が行われているが、こうした情報がニュースに出る事も現段階ではない。

「来たわね!」

 イントロが過ぎた辺りで目の前に白い壁が道路から姿を見せたのである。まるで、もぐら叩きのもぐらを思わせるような動きだが――。

完全に壁が出てくると、その壁は消滅をする。どうやら、完全に壁が出るまでに反応をする必要があるらしい。

そして、アイオワはARメットから聞こえる楽曲のリズムに合わせるかのように、全てが出現する前の白い壁を次々と叩いて行く。

足の方は止めず、そのまま矢印の指示に従っていると言ってもいい。テンポよく進んでいるかどうかは見た目では分かりづらいのだが――。

そのテンポは、まるでボクシングのステップ等を思わせる動きと似ている。アイオワがリズムゲームをプレイした事がないのも、こういう動きになっている理由だ。

「普通のシューティングと違って、ターゲットの出現している時間も限られているのか」

 アイオワは自分なりにターゲットの動きをチェックし、次々と叩いて行く。

スピードの方はアイオワの場合が一定に対して、トルネードは不定、ビスマルクもスピードが一定しているのだが――速度はアイオワと違う。

このスピード差に関しては誰も言及はしなかったが、使用ガジェットが影響している可能性は高い。

「そう言えば、リズムゲームをプレイしているはずなのに曲が流れてこない。どうなっている?」

 ギャラリーの一人が、楽曲の流れていない事に対して違和感を持っていた。

プレイヤーにはARメット経由で曲が流れているのだが、ギャラリーはどうやって聞くべきなのか?

「楽曲を聞きたいのであれば、アンテナショップの中継を見れば問題ないだろう。ARゲームフィールドとはいえ、使用しているのは警察の許可をもらっているとはいえ――公共の道路だ」

 ギャラリーの隣に姿を見せたのは、提督服を着ている謎の人物だった。

軍帽も被っており憲兵か何かと思われがちだが――この手のコスプレイヤーは草加市内であれば複数人は目撃されている。

周囲も全く気にしていない以上は、気にしては負けと言う事なのだろう。

「しかし、アンテナショップまで距離があるのに――どうやって観戦すればいい?」

 確かに、ギャラリーの男性が言う事も一理ある。近いアンテナショップでも数百メートル位はあるだろうか。

「どうしてもというのなら、これを使うといいだろう」

 提督服を着た女性がカバンから取り出したのは、特殊な形状のヘッドフォンである。

一般的な物と違うのはパワードミュージック用のARメットでも使われているアンテナが付いている事だろうか?

そして、そのヘッドフォンを装着すると、スピーカー部分から楽曲が流れていた。

どうやら、周辺住民から騒音のクレームが出ないように、ヘッドフォンに楽曲が流れる仕組みらしい。

観客の歓声だけしか聞こえていないのは、この為と言う事なのか――と疑問は残るが。

「ここまで対策をしたとしても、一部勢力はコンテンツ炎上の為に些細なミスを利用してくる。嘆かわしい事だが」

 彼女の名前はあきつ丸(まる)、ARゲームのガイドラインやルールを守っているかどうかをチェックするガーディアン組織のメンバーでもあった。

楽曲の長さによってコースの距離が変化するのはARリズムゲームではよくあることだ。

リズムゲームでコースと言われてもピンと来ないかもしれないが――ARパルクールのルールを使用している場合は、距離が変化する。

距離の変化しない作品の場合、楽曲の長さは大体が1分40秒位と見るのがいい。

「炎上マーケティングは悲劇の連鎖しか生み出さないが――」

 あきつ丸は別の懸念も考えていたのだが、今はそれを考えるのは蛇足とも思いだす。

この場面で重要なのはレースを中止しようと襲撃してくる可能性のある勢力だったからだ。


 4月13日午前10時51分、楽曲の長さとしては約2分と言う事で――既に半分は経過しただろうか?

スコアでリードしているのはビスマルクだが、ヒット数を途切れさせていないのはアイオワと言う展開である。

一方のトルネードは慎重すぎる気配がするのだが――稀に大きな動きに出るようだ。

主にアクション的な動きであり、その動きは動画サイト等でも有名なパルクールグループの動きをトレースしたような物を思わせる。

「あの動きは――?」

 アイオワはトルネードの動きに若干の見覚えがありつつも、それを密告しようとは思わなかった。

パワードミュージックも該当するのだが、危険なアクションに関しては禁止としているARゲームが、草加市内では非常に多い。

その理由は怪我人が出ないようにする為――と言うのは表向きであり、ネット炎上防止と言う路線が有力のようだ。

アイオワは下手に慌てれば、自分の動きにもブレが生じると考え――今は自分のプレイに集中する事にする。

下手に動揺すれば八百長プレイを通報されかねない――と言うが、それはネット炎上勢や超有名アイドル投資家が芸能事務所から金をもらう為の資金源としてだ。

「あの動き、見ただけで真似できるのか?」

 トルネードの見せるスピンやバク転を織り交ぜたアクション――そう言った物を簡単に真似できるとは思えない。

ギャラリーも容易にトレースできる物ではないと考えているのだが、一般人から見ても動きを真似出来るとは思えないのは当然だろう。

「さすがに動画の動きをモーションデータにして、ARガジェットに組み込むような技術は――」

 その後でチート技術でもなければ無理だ、と言おうとしたギャラリーに横やりを入れる形で姿を見せたのは、あきつ丸(まる)だったのである。

「あのアクションを再現できる技術、それに一般的なチートツール検知をすり抜ける事が可能な物――そう言う事ですか」

「お前は、まさか――!」

 迂闊な事をしゃべると、ガーディアンが現れると言うのはネット上でも言われており、いわゆる負けフラグとして伝わっている。

あきつ丸が地獄耳と言う訳ではないのだが、偶然通りかかったと言うべきか。

その後、迂闊な事をしゃべってしまったギャラリーの男性は、あきつ丸とは別のガーディアンによって事情聴取の為に連行された。



 同刻、レースの生中継動画も流れた頃、様々な場所で十人十色という様な反応が見られた。

生中継動画はアンテナショップ以外でもセンターモニターを設置している場所でならば視聴が可能である。

それ以外の場所でも、専用チューナーをレンタルすればテレビに接続して中継動画を見られるのだが、この原理はCS放送のチューナーと同様の物だ。

しかし、大抵はARガジェットで動画を視聴する事が出来る為、ガジェット未所持のギャラリーでもない限りはセンターモニターを利用するケースは少ない。

節電思考だったり、ARガジェットでは別の動画を見ているという様な特殊ケースであれば――。

「ARアーマーとガジェットを組み合わせれば、多少は無茶なアクションも可能になる。元々、この技術も救助活動用に作られていたという話もあるが――」

 アンテナショップからレースを見ていた男性も、ネット上のつぶやきを見て驚きを感じていた。

この人物は、タブレット端末でレースの様子を見ていた男性の一人である。

彼の服装はグレーの背広であり、いかにもサラリーマンを思わせるような印象だ。

「これだけの技術があると言うのに、それで特許等を取ろうとしないとは――何を考えている」

 背広の人物の隣、そこにはブルー系の背広にノーネクタイと言う男性がいた。3人の座っている席の中央にいる人物である。

「Web小説の異世界転生系があふれている現象と同じ事を狙っている可能性もあるかもしれない」

 左側にいる男性は、いかにも野球観戦に行くような法被を着ている。さすがに野球帽はARメットの関係で被っていないのだが。

「この権利を独占する事が出来れば――超有名アイドルを超える億万長者になれるだろう。それも軍事方面で――」

 ノーネクタイの人物が不用意な発言をしたことで、ある人物に目を付けられてしまった。それは、比叡(ひえい)アスカである。

比叡は既に彼らが違法な取引をしているのでは、と考えてスタッフに通報済みだった。

実際に動いたのはつぶやきのログを確認した後であったが――手回しが良すぎた事には変わりない。

 彼らはスタッフに逮捕される前、抵抗しようと隠し持っていた銃型ARガジェットをスタッフに突きつけるのだが、それには簡単に動じる事はなかった。

その理由は、ARガジェットのトリックをスタッフが既に知っていた事にある。

それを知っている以上、彼らが仮に発砲したとしてもスタッフに被害を加える事は出来ない。

下手に人を傷つけた場合、殺傷の罪で逮捕されるのは目に見えているのだが――それ以上にARガジェットの運用ガイドラインにも引っかかる。

「その行為自体が無駄だと言うのは――分かっているだろう?」

 比叡が銃を突きつけている男性をにらみつけるのだが、向こうは既に腕が震えていて――引き金を引けるような状況ではなかった。

これがARガジェットではなく、本物の銃だったら――と思われるが、そんな事をすれば銃刀法違反で逮捕されるので末路は変わらない。

「人命軽視は今に始まった事ではないだろうが、お前達の様なアイドル投資家の勝手な理由でデスゲームを始められては困る理由が――こちらにはある!」

 その後、比叡が何をしたのかは誰にもわからずじまいだったが――何かの遠距離兵器を使ったようにも思われた。

ただし、そのトリックを見る為にはARバイザー等のARゲームを見る事の出来る環境出ないと無理なのだが。

おそらくは――比叡の考えている事は不明だが、この様子は録画モードにしていない可能性が高い。



 犯人を拘束後、スタッフは比叡の所まで駆け寄った。どうやら、お礼を言いたいらしいが――。

「今はレースの観戦に集中したいので」

 比叡はモニターの方を指さし、今は忙しい事をアピールする。しかし、その指差す先には別の人物も観戦していた。

その人物の外見を見る限り、ARゲームをプレイするような服装ではない。メイド服タイプのインナーもあるかもしれないが――。

「あなたは――?」

 比叡の方を見て、何があったのか――という表情をしていたのはコーヒーを飲んでいたローマである。

彼女もレースを観戦していたのだが、周囲が若干騒がしくなったのでその方角を振り向いたのだ。

そして、比叡の指がローマを指さしているような構図になったのである。

ローマの方も自分が何をしたのか――という表情をしていたのだが。特にローマが驚くような表情はしていない。

「特に用事がある訳ではないので、お気になさらず――」

 比叡の方もローマに対して申し訳なさそうな顔をしつつも、気にしないで欲しいと言うのだが――。

ローマの方もレースに集中したいので、無言で一礼をして画面の方に集中する。

「それにしても、一体何が起きたのか――」

 レースの方が気になりつつも、何が起きたのかは気になっていた。

しかし、自分には特に関係なさそうだろう――と比叡のリアクションから判断する。



 4月13日午前10時51分、トルネードは慎重すぎたのがスコアの低い原因ではなかった。

それは、彼が使用しているガジェットがショットガンだったという事にある。ショットガンは射程が低いが、有効範囲が広いという点を持つ。

有効範囲が広いというのはアクション系等では敵に囲まれた際に有効な一方で、リズムゲームでは本来の演奏順とは違うノーツに当ててしまう可能性があり、誤爆や暴発の危険性も持っている。

リズムゲームによっては全押しという技も存在するのだが、ARリズムゲームでは有効ではないという事の証明かもしれない。

ホーミング兵器と言う初心者救済に近いようなガジェットもあるのだが、パワードミュージックでは数が少なく、それを扱うプレイヤーも少ない状態だ。

その理由の一つとして、ハイスコアの問題がある。ホーミング兵器の場合は入手スコアに補正がかかり、スコアが低くなる傾向があるからだ。

【リズムゲームと言うのはノーツを順番通りに押す物なのか?】

【順番通りに押すと言うよりは――流れてくるノーツを受け止める的な感じだろう】

【それをリズム通りに押すのか】

【そうなるだろうな】

【難易度が上昇すれば、それだけノーツの数も増えてくる。だからこそ――リズムゲームは格闘ゲーム等よりも難しいと感じる事がある】

【百の鉄砲数撃てば当たる――と言う様な戦法は不可能だからな】

【どのジャンルでも、戦略もないようなガチャプレイが通じるのは初心者同士の対戦に限られる――とはよく言った物だ】

 つぶやきサイト上では、トルネードがショットガンを使っている事に対して失策だったというつぶやきも見られる。

しかし、有効的に使用出来るプレイヤーもいる為か、トルネードが使いこなせていないという可能性の方が高い。

パワードミュージックのシステムでリズムゲームを思わせる要素は、使用するコントローラーでゲームフィールドに出現するノーツを叩く――その部分だけと言うのはネット上でも有名だ。

実際、彼らの使用するARガジェットは形状こそ武器に見えるのだが、攻撃手段はノーツを消滅させる事だけである。

使用するガジェットによっては叩く、接触、ノーツを通過――と言った行動でも認識されているようだが、リズムを外せばミス扱いとなってスコアにはカウントされない。

ゲームフィールドの外ではノーツが発生しないのだが、他のARゲームをプレイしているプレイヤーのフィールドに入りこむという可能性も懸念されていた。

しかし、そうした事が起きないようにサーバー強化を行う等の対策を行っているようだが、そうした裏方部分が大きく報道される事はない。

「ショットガンなら暴発や誤爆の可能性も高い――慎重になっているのは、その為か」

 確実に白いノーツを撃破していくアイオワにとっては、トルネードの戦略は関係ないと言ってもよかった――。

スコア的にはトルネードよりリードしているような状況である為、そこに注目する必要性もなかった為である。



 むしろ――高難易度譜面等の炎上を誘う様な部分のみをピックアップし、超有名アイドルコンテンツを押し上げようと言う広告会社や芸能事務所の戦略に利用される。

とある芸能人が逮捕され、それだけがニュースで取り上げられると、その話題が続くという話もあり――番組差し替え等で逆に超有名アイドルコンテンツが無料で貸し出され、神対応と言われるように――。

【結局、超有名アイドルを神話にしようと言う勢力によるネット炎上に利用されるのか――アカシックレコードに書かれている通りに】

 この書き込みに対し、同調しようと言うユーザーは多かったが、下手に芸能事務所から言論弾圧を受ける事を避けるため、敢えてスルーされているようにも見える。

結局、超有名アイドルの芸能事務所Aがデウス・エクス・マキナになろうとしている事を訴えても――それはねつ造であると炎上する。

逆に何も言わないでスルーを続けようとすると、このコンテンツ流通がグレーゾーンなのではないか、と他の勢力が訴えると言う展開になっていた。

「結局は、繰り返そうと言うのか――テンプレと言われようと、超有名アイドルの神コンテンツ化計画を」

 一連のネットニュースをインターネット上の記事で確認し、ARガジェットで情報整理をしていた人物――それは意外な事に天津風(あまつかぜ)いのりだった。

彼女は超有名アイドルの神コンテンツ化をアカシックレコード経由で知った。

超有名アイドルが神コンテンツと疑わず、彼らがやっている違法行為さえも有名無罪として許される世界――それを天津風は認めたくなかったのである。

それを認めてしまえば、ネット炎上がリアル空間でも展開される事になり、それこそデスゲームの引き金にもなりかねない。

天津風は――それが発生する事を最終戦争(ラグナロク)と考えた。ネット上でも似たような考えの人物は、0人と言う訳ではなく――ごく少数で考えを共通化しているようだ。


 

 午前10時52分、楽曲の終盤でBPMが急に上昇したかのように、出現するノーツの速度が上昇する。

この難関に対してアイオワは正面に立ち向かう。高速で現れるノーツをピンポイントでナックルで叩く姿は、AR対戦格闘で一撃必殺を決める姿と変わらなかった。

「見えていない――というわけでもなさそうだが」

 ビスマルクにも高速ノーツは見えており、自分の周囲に現れるノーツを特殊形状のレールガンで打ち抜いて行く。

ただし、このレールガンは引き金を引くような形式ではなく、ターゲットロックから発射までのシークエンス全てがリズムゲームのそれである。

「まるで、この感触は――アガートラーム?」

 アイオワは、ある違和感を感じていた。的確にノートを叩く事が出来る事に対し、AR対戦格闘でも体感した現象と似ていたのである。

ARガジェットと100%シンクロと言う現象は、ネット上でもあり得ないと否定されているのだが――。

彼女のプレイは、まるで周囲がハードモードでプレイしているのに対し、自分だけがイージーモードになっているような感覚さえ覚える。

そして、アイオワはその現象を違法ガジェットやツールを使うプレイヤーに対しての制裁――アガートラームの使用している時の感覚に似ていた。

「アガートラーム――アカシックレコードにも記載のあった、あのガジェットか?」

 ビスマルクもアガートラームは若干かじった程度で知っていたが、詳細はくわしく知らない。

ただし、それは他のWeb小説でも記載されていた解説等の範囲での話であり――現実化したアガートラームとは別物と言う可能性は高いのだが。



 午前11時、3曲が終了しての結果がメインモニターに表示されたのだが――1位となったのはビスマルクだった。

アイオワは全曲をフルコンボでクリアしたのだが、スコアとしてはビスマルクに及ばなかったのである。

トルネードに関しては3曲目の段階で演奏失敗となり、リタイアとなった。これがアガートラームの影響なのかは分かっていない。

「トルネード、あなたの正体は――」

 ビスマルクは何かを察するかの表情でトルネードをにらみつけるのだが、次の瞬間にはアイオワがアガートラームで有無を言わさずにクリティカルヒットを決めていた。

アガートラームでARガジェットにクリティカルする理由、それは一つしかない。トルネードが使用していたガジェットがチートであることの証明だ。

アイオワの一撃を受けたARメットに亀裂が入り、CG映像が消滅したと同時に見せたその正体は――イースポーツ反対派の男性プレイヤーだったのである。

アイオワは顔を見た事がなかった人物だが、ビスマルクの方は逆に覚えがあった。

何故、彼がトルネードと言うアイドルグループの名前を連想させるような名称を使ったのか――疑問が残る部分も存在する。

「ビスマルク――! お前は、いずれ後悔するだろう。日本のコンテンツは超有名アイドル以外はかませ犬の役割でしか存在しない事を――」

 その後、反対派プレイヤーはガーディアンに拘束される事になった。



 4月14日、今回の一件を受けてイースポーツ反対派は活動規模を縮小させていった。

アイオワを甘く見ていたという認識もあるかもしれないが、彼女の運動能力は普通のゲーマーと言う認識ではなかったのである。

賞金制度反対派もアイオワを見くびった事に対し、責任を取らされるような形で解散となった。

実際、それ以外にもまとめサイトや悪目立ち勢力が炎上させたというのもあるが――それを下手に言及する事はなかったと言う。

今回の炎上勢力やまとめサイトの動きに対し、ARゲーム運営側も魔女狩りとも言えるような強行手段を使わざるを得なくなっていた。

この行動は、後にさまざまな勢力を生み出すような結果となり、ある意味でも炎上マーケティングと例えられてもおかしくないのは間違いないだろう。



 午前12時30分、この炎上と言う動きを機械仕掛けの神とも言えるような行動で拡散を止めた人物がいた。

彼女はファストフード店でコーラを片手にタブレット端末型のARガジェットを使いこなしている。

その動きは、異世界転生してチート能力を得たような位――そう例えてもおかしくはないだろう。

「君達は知り過ぎたと言うべきか――超有名アイドルに例えられるような偽りの神を、唯一コンテンツ神にするような傾向は――」

 身長180センチの巨乳、肩くらいの黒髪ロングヘアに眼鏡をしているが――ARバイザー乃可能性が高く、伊達眼鏡だろうか。

下に着ているのがスクール水着型のインナースーツと言う事もあり、それを隠すような上着を着ている。

さすがにスカートは穿けないので、下はズボンだが――。この外見でも、周囲が指摘するような事はなく――そのまま食事を取っていた。

彼女の名は明石零(あかし・ぜろ)、使用したATガジェットはアイオワと同様にアガートラームのようにも見える。

「ネット炎上勢力は――この世界では破壊行為と同然。ネット炎上は犯罪であると認識させなくてはいけないの――コンテンツ流通を正常化させる為にも」

 明石は別に何かを考えているようでもあったが、視線の先にあるのはパワードミュージックのポスターだった。

「これからだ。コンテンツ流通は切磋琢磨するタイプが理想であり、唯一神やデウス・エクス・マキナによるご都合主義は――」

 他に何か言いたそうな表情だったが、ポテトをつまみながらポスターの方に視線を向けたまま、情報整理を続けていた。

一体、彼女は何を知っていて行動をしているのだろうか?



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