下り

トラックの荷台が何度も

ガツンガツンと僕たちの尻を打つ

鋼鉄の荷台に腰を下ろし山路を下る

「親方」はSの字に何度もハンドルを切り

その度に僕たちは荷台の上を転がらぬようしっかりと柵を掴んだ

夏の真昼の陽射しに曝された鋼鉄の荷台は

玉子が焼けそうなほど熱い

ゴムの滑り止めのついた手袋をして

その手袋から汗が煙のように蒸発していくのをただ黙って見ていた

僕たちはまるで探究心を欠いた学生だ



つい5時間ほど前

僕たちは山の麓の製材所に集まった

みな派遣で集まったアルバイターだ

顔見知りなどもちろんなく

ただ歳が近いようだったから安堵して

打ち解けるのも早かった

どんな仕事かは詳しく教えられていなかった

丸太を運ぶのだと言われていた

誓約書なるものにサインをした

仕事の内容について口外しないと約束した

荷台の上では

皆うなだれて座っている

もう

山を登った時のような

少しく興奮気味の

緊張感の混ざった笑顔はどこにも見当たらない

それは僕も同じことだ

もうすぐ

確かもうすぐ

麓の製材所に到着する

そこで僕たちは

今回の仕事の対価を手渡される

時給千円の

締めて五千円だ



僕たちは

五千円を貰って山に大量のゴミを投棄した

丸太を運んだのは最初のおよそ半時間

あとはひたすら不法投棄の手伝いだ

どこの誰の持ち物か知らない山の

道なき道を歩き

穴を掘る

乗ってきたトラックが

何台も入るようなバカでかい穴を

どこの誰の持ち物か知らない山に開けて

そこへ廃材だの

重い鉄線だの機械工具の部品だの

果ては生ゴミやプラスチックの容器まで

山を登る前まで仏のように笑いかけた親方は

山を登ってから身も心も赤鬼のように僕らを威嚇し続けた



ただ運び、穴を掘り、捨てた

陽射しにやられて何度も眩暈がし

穴に足を踏み外しかけた

全身は噴き出る汗と砂埃にまみれ

着ていた服はすっかり色が変わった

作業が終わり

親方は僕たちを早々にトラックの荷台に載せ

お前らも、これで一緒やけん、誰にも言わんとけよ、と

僕らを一人ひとり睨むように見て言った

真っ赤に日に焼けたその顔は

この悪行をどれだけ重ねてきたか

今になって僕らに教えているようだった

茶封筒を受け取り

僕たちは無言のままそれぞれ帰途についた

登った山が誰の山かなど知らない

もう登ることもない



ただ

僕はもう

タバコを道ばたに投げ捨てることは

二度としないだろうと思う

それは皆もきっと同じだ

エアコンを切り窓を大きく開けた

生温い風が頬に当たる

どうか今日の行いが

綺麗に拭われてくれるように

そう祈ってみて

結局これも

自分の罪悪感を

車外へ投棄しているような気分になって

僕はまた窓を締めた

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