射矢らた詩集
射矢らた
小さな詩
学校で"詩"をならった
先生がいくつかの詩をよんで
よくわからない感想を言った
そのあと詩を書く宿題が出て
家に帰ったぼくは紙を前にし
はたと困ってしまった
"詩ってなんだろう??"
自分で考えてみたけどわからない
詩ってなんだろう?
僕は分厚い辞書をひらいてみる
"文字の表面的な意味だけでなく
美学的・換気的な性質を用いて表現される
文学の一形式。
多くは韻文で一定の形とリズムを持つが
例外もある"
と、物識り顔で辞書は答えた
いったいぜんたい何のことだろう
僕の知りたいことはこんなことじゃない
詩ってなんだろう?
僕はキッチンにいたママに聞いてみる
"詩? 宿題のことじゃないの
明後日までなんでしょう
ちゃんとできるよう計画を立てなさい"
まったく! 聞くんじゃなかった
ママは"スウガク"が得意なんだから
"ブンガク"のことは知らないんだ
詩ってなんだろう?
僕は隣に住む中学生のエイミーに聞いてみる
"詩? それはね、本命の人にだけは
少し文章を変えて送るものなのよ
あなたも中学生になったらわかるわ"
と、エイミーは遠くを見ながら答える
まったく意味がわからないし
中学生になってからでは遅すぎるよ
期限は明後日なんだから
詩ってなんだろう?
僕は7番街のキャスおばさんに聞いてみる
"詩? そんなもの書いて読んでくれたって
アタシも子供らも少しもお腹はふくれないさ
それよかパンのひと欠片のほうが
ずっと人のお役に立てるよ"
そう言われたらそうかも知れない
詩は何のために書くのだろう?
詩ってなんだろう?
僕は86丁目のジムおじさんに聞いてみる
"詩? たしかにそれを書いていた友もいた
けどみんな敵の弾に当たって死んじまったさ
詩が弾から守ってくれることはないし
ましてや戦争を終わらせてくれることもない"
そう言われたら確かにそうだ
詩は何のために書くのだろう?
僕はどうして詩を書くのだろう?
宿題だから?
今までに詩を書いた人たちは
どうして詩を書いたのだろう
詩ってなんだろう?
僕はだんだん哀しくなってきて
夕暮れの家路を急いだ
あと2街区のところで呼び止められた
振り返ってみると三毛猫のアリー
"詩になにができるか、なんて考えているのかい
何にもできっこないさ"
その言葉に僕はまた落胆する
あくびをしながらアリーは続けた
"うちのメイばあさんは90さいだ
1日ひとつ詩を書くのを欠かさない
おじいさんに毎日聞かせていたよ
ふたりは毎日幸せだった
それからひとりになっても
メイばあさんは毎日詩を作り
おじいさんの写真に聞かせているよ
このささやかなことの美しさがわかるかい"
詩ってなんだろう?
僕は家の前の石段に腰かける
道端の石ころがなにか言っている
"ぼくはただのいしころだ
けれど詩のなかでは
ときにとてもかがやくことができる
ときに大空を舞うことも
ときに深海を漂うことも
詩は可能にしてくれるんだ
ただのいしころなんだぜ?"
僕はその石ころを拾い上げ
さまざまな角度から眺めてみた
石ころはくすぐったそうに身をよじる
大それたことなんて考えなくてよかった
詩は詩でしかなかった
世界を救うことなんてできないけれど
身近な誰かを幸せにしたり
石ころに命を与えられる
僕は詩を書いてみよう
ママやエイミーやこの石ころのこと
そしてみんなに聞いてもらおう
ほんの小さな幸せのために
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