訃報速報「最愛なる上司が死にました。」

ちびまるフォイ

城の内(←魔王様の本名)、死す。

「魔王様……あんたなんで死んじまったんだよ……!」


魔王の死後、魔王城は葬儀がしめやかに行われた。


「泣くんじゃない、魔王の使いA。魔王様は手下を誰にも傷つけさせまいと

 たったひとりで勇者に挑んだんだ」


「わかってるよ……でも、この城は俺たち尖兵がちくちく勇者を削って、

 弱らせた後で魔王様が倒すっていう構造になっているのに。

 魔王様だけで……勝てるわけ……ないのにっ……」


「そこが魔王様の素晴らしいところだよ、俺たちは最高の上司に恵まれたんだ」


「俺……魔王の使いって名前なのに……。

 魔王様が倒されるすんぜんまで……シフト休みと思って……

 のんきに……魔王様が倒されるときに……のんきに買い物してたんだ!」


「魔王様の(お)使い、というわけか」


手下たちは魔王の遺体を棺桶に入れて、

大事にしていたセミの抜けがらを敷き詰めた。


「ドラゴン、ではやってくれ」


「ああ、燃やすぞ。俺の炎を勇者にあびせるのではなく

 魔王様のために使うことになるなんてな」


「魔王様に仕えていたものとして、最後に魔王様をあの世へ送ってあげよう」


「あ、待ってくれ。魔王様は前にこんなことを言っていたんだ」


魔王の間の前に配属されていたミミックはふと思い出した。

部屋はベニヤ板だったのでアパートの壁よりも声が筒抜けだった。


『もし死んだらどうしようか……部屋のパソコンは壊しておかないとな』


「、と!」


「他でもない魔王様の頼みだ。いかがわしいものが入っているパソコンを処分しよう」


「なんで内容わかってるんだ?」


魔王城門番を務める巨人族は魔王の部屋へとパソコンを取りに向かった。

戻って来た巨人族はパソコンと大量のお金を持ってきていた。


「ギガンテ、その金はいったいどうしたんだ?」


「魔王様の部屋に隠してあったんだ。いったい何に使う気だったのか……」


「まさか、魔王様は俺たちのために財産を残してくれたのか!?」


魔王城は迷宮のように入り組んでいるものの、

警備シフトや配属先によっては勇者とぶつからない魔物も出てくる。


自分が死んだあと、生き残った配下の者たちに気を使っていたのか。


「魔王様……あんた、どこまで最高の上司なんだ……」


全員が顔をうつむけて涙を流す。



「おい! 大変だ!! 城の地下に!!」


慌ててやってきたのはガーゴイル。

普段は石像のフリをして勇者を背後から狙う予定だったが、

勇者がなかなかこないので血の巡りが悪くなって最近まで入院していた。


「地下になにかあったのか?」


「城の地下に大量の武器と食料が!!」


「なんだって!?」


魔王の手下たちはガーゴイル(派遣社員)の案内で地下にいくと、

地下室に何十年分の食料と武器が備蓄されていた。


「これは……すごい……!!」


「これだけの食べ物や武器、いったいどれだけの価値があるんだ」


世界を闇に変えたといってもすべての人間を滅ぼしたわけではない。

勇者を筆頭に大陸全土の人間たちが魔王城を取り囲んでも

戦えるようにきっと魔王様は準備していたのだ。


「魔王様……籠城戦になることも視野に入れて、

 俺たちのためにここまで尽くしてくださっていたのか……!」


「さぁ、葬式に戻ろう。魔王様の優しさに報いなければ」


魔物たちは葬式へと戻った。

ドラゴンが火をくべて魔王の体はぱちぱちと燃え上がる。


「……そろそろ、いいかな」


魔王のよろいはそっと鎧の中から紙を取り出した。


「みんな、黙っていてすまない。実は、生前に魔王様が俺の鎧の中に紙を隠していたんだ」


「紙? どうしてお前の鎧の中に」


「ほら、オレ、並んでいる鎧の横に擬態していたから、

 魔王様もオレだと気付かずに隠したみたいなんだ」


「それで、なんて書かれているんだ?」


魔王のよろいは紙をそっと広げた。

そこには魔王軍全員の契約書が床いっぱいにひろがる。


「契約書……ですか?」


「あ、でも権利移譲って書いてあります!」


「ま、魔王様……!! まさか、死んだ後にも俺たちの再就職先を……!!」


「どこまで心の優しい人なんだ、あんたは……」


魔王のよろいに隠されていた契約書には魔王が権利移譲する内容がしたためられている。

これを別の世界の魔王にでも渡せば、次の雇用先が決まる。


「あんたほどの心遣いができる魔物は知らない」

「あんたこそ、魔王の中の魔王だ」

「あんたの下に仕えて、本当に良かった」


魔物たちは燃える魔王の遺体の前に手を合わせて感謝の祈りを送った。


「でも、どうしてこの魔王の城の場所が特定されたんだろうな。

 魔王の城は人の目には見つからないように魔法をかけているのに」


「いいから祈れ。魔王様の果てしない優しさと思いやりに」



パチ……パチパチッ。



燃える魔王の体から飛び散る火の粉。

その1粒が壁に燃え移り、隠し部屋の壁を燃え上がらせた。


「な、なんだ!? こんなところに部屋が!?」


「魔王様、きっと俺たちに感づかれないような心配りをここでもしていたんだ」


隠し部屋に行ってみると生前の魔王が残した手紙を見つけた。






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勇者様へ


先日、勇者様がちーとなる妖術を使う能力だと拝聴いたしました。


つきまして、魔王軍ともども勇者様の配下として

これからお力添えできればと思って手紙を書きました。


魔王城の城には大量の金貨をため込んでいます。

地下室には何十年分の食料と、良い武器をそろえております。

つまらないものですが、勇者様にお納めいただければと思います。


こちらではすでに魔王全軍すべての契約移譲書を準備してますので

明日からでも勇者様の手下として働ける準備がございます。


軍勢が邪魔でしたら、私だけでも勇者様にお仕えします。

どうか前向きなご検討をお願いします。




〒4242-37564

アリアフガルド大陸 リゾナーン地方 リオ町3番地 コーポ魔王城


魔王より

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