第5.5話 自分以外の正義は等しく悪なのだぁ!

時間は少し遡って王都に出向く前

自室でエルディンは思案していた

悪意を増やせないなら鈍麻させてしまえばいいじゃない!

そうとなったら使えぬ雑兵共に知らせに行くぞー!

「ご苦労、入るぞ」

兵舎の前の扉

顔パスではあるが一応声をかけて入る

うわこの部屋クッセェ!

グチャグチャだなあ・・・

あぁあぁ、あんな幼い子供まで毒牙にかけられて・・・可哀想に・・・

「総員整列!!」

「まずは服を着てくれ、全員だ」

やめろよ全裸や半裸でそんな真面目な対応されると笑いそうになるだろ

「あー、今日は用事があって着たのだが、そうだな、その前に部屋と備品の清掃を始めようか」

慣れた手つきで部下達はテキパキと掃除をしてくれる

こんな所で女を貪って、蛮族の様な連中だと思ったが中々どうして規律が叩き込まれているじゃないか

兵士達と談笑しながら目の死んだ女性の体を洗ったり、部屋を掃除したり

うーん、俺っていい上司だなぁ

「そうかそうか、恋人が出来たか!結婚式には呼んでくれよ?」

「はい!是非!料金は領主もちで良ければ!」

HAHAHAHAHA!!

さて、全部終わったか

「今日の用事というのはだな、まず諸君に新しい階級を用意した、資料を回したので読んでほしい」

軍部が形骸化して久しいこの世界では階級とか立場とかあやふやだ

やってる仕事も害獣駆除とか野党退治とかその程度で、便利屋扱い

待ってろよ!今本物の軍人にしてやるからな!

ちなみに階級は現代の軍と同じ最高統帥権を持つ私に始まり左官、尉官、その下に曹長、軍曹〜という風にした

将官の資料は渡したが人員はまだ配置されていない

なぜならば師団規模でわけられるほど人数がいないのだ。まぁ、問題は無いだろう

それより指揮系統を確立しておかないといざ実戦が始まった時に混乱を招きやすい烏合の集と化す恐れがある

それは非常にまずい

簡易的に階級章も作って配った

「これは襟にでも付けておけ、無くした場合すぐに申請するように。何か質問はあるか?」

一本手が伸びる

「はい、君どうぞ」

「何の意味があるのでしょうか?我々は今や便利使いです、このような整備を今更始めた理由をお聞きしてもよろしいでしょうか」

今から戦争すっから!

とは口が裂けても言えんなぁ

「不穏な知らせが届いた、近々大きな戦乱が起こる可能性がある、というものだ。

まだ確定ではない、が準備をしておくに越したことは無いだろう。そして次の話だが、諸君には射撃訓練をしてもらう」

戦争は確実に起きるよ。っていうか起こす

おぉ、ザワつき始めた

あたりまえだけど

「静粛に。射撃訓練というのはだな、エイヴァロン領攻撃の際に銃を使用した事を知っている、つまり、敵が使用する事もあり得るのだ、そうなれば練度を高めねば負けて多大な被害が出る、そうならない為だ、諸君には期待している。以上だ。上級将校のみ残れ」

なんか誤魔化せた感出てるし大丈夫やろ

素直は美徳よ

「我々に話しというのは?」

「この通りに訓練を進めてくれ」

資料を回す

すんげぇ顔してんな

わけがわからないって顔だ

「これは・・・!?」

「何か問題が?」

「失礼します、まず、「部下をイジメる」とありますがこれはどういう事でしょう?」

うんうん、わからない事を素直に聞けるのはいい事だぞ

「戦争には過度のストレスがかかる、耐性をつける為だ、それと鬱憤というのは訓練へのバイタリティになるからだ」

それで折れる者もいるが、そんなのは知ったこっちゃ無い

徴兵制度を導入できない以上手持ちの戦力の質を高めるしかないんだよ

数で劣る以上、装備に練度、これらはそんじょそこらの人間より高くなければ

「そして射撃訓練の的に人間を使う、というのは!?これはどういう事ですか!?」

そのままの意味だよ!

訓練に動物を使うの可哀想じゃん!

環境にも良くないし!

人間ならいくらでも湧くし環境への影響も少ない、そして実戦に近いといい事ずくめなのだ

そして上手い事、射撃訓練から目をそらせたな、これで射撃訓練自体の違和感を拭える

「そのままの意味だ、ここだけの話し、戦争は確実に起こる、敵もわかっているんだ、そこは箝口令が敷かれているが。その敵の人間を使う、犯罪者やその身内だ、遠慮無くやってくれ。さもなければ」

疫病でも撒き散らす

「わかりました!・・・・・・わかりましたから」

多分言おうとしてた事と違う事で納得してくれたな。戦争で被害が出るとかそういう感じかな

「しかし兵達を納得されられるか・・・」

「納得はさせなくて良い、強制してやらせてくれればそれでいい」

慣れるからね!人は!

お次は俺の所有する奴隷さん達の所!

「やぁティトリ君、久しぶりだね」

良い具合に筋肉ついてんな、ちゃんとメニュー通りトレーニングしてんだね

「あぁ、お久しぶりです」

輝かしい笑顔だな

「この前渡したリストの人達呼んで来てくれる?」


生き残った48人、そして補充で入れた2人だ

「わかりました!」

走り去って行くティトリ君の背中

スポーツ少年の様な爽やかさが感じられるが

彼の心中は穏やかではなかった。

人を殺したエルディンさんなら僕の事をわかってくれるだろうか・・・

でも、やっぱり言えないよ!

「みんなー!エルディンさんが呼んでくれって言ってるから急いで〜!」

屈託のない、という言葉が似合いそうなその笑顔だが彼には打ち明けられない趣味がある

動物を殺すのが好きだった

物心の付いた時には積極的に虫を殺しており

15の頃、初めて猫を殺した。

それが良くない事、というのは朧げにはわかっていたがなぜダメなのか、何がダメなのか

それは親も学校も教えてはくれなかった

それからも彼は狩りが好きだと偽り山に入っては猫や犬、鹿を殺し続けた

次第に人を殺したらどうなるんだろう、という興味を持つ様になる

しかしこの社会ではそれは一番のタブー

自分がおかしいのだとは気付いていた

それでも親ならば、と思い打ち明けた所で彼は他所へ売り渡されここに来る事となった

「あぁ、今日集まって貰ったのはいつも通りの訓練の他にもう1つ、追加でやってほしい事があるからだ」

やってほしい事ってなんだろう?

雑用とかなら他の人達がやってるし・・・

「あぁ〜、わけがわからないだろうが最後まで聞いてほしい、まず、ここの50人には私の直属の親衛隊になってほしいと思っていてな」

親にも見捨てられて人生は諦めかけていた

その僕が、いや僕達が領主様の親衛隊!?

いったいなぜ!?

「それでやってほしい事、というのがな、その〜、言いにくいんだが

1人の人間を連れて来るから、その1人を50人で話し合って出来るだけ残酷に殺してほしい」

!?!?

この人は!この人は!

「あぁいや、反対なのはわかるがまずやってみてほしい、頼む。ちなみに親衛隊の給料は王城の護衛兵の1.5倍ほど出す」

なんて素晴らしい人なんだろう!

「今すぐ決めてくれとは言わない、各自考えてくれ」

「やります!やらせて下さい!!」

思わず叫んじゃった!

みんな見てるし、恥ずかしい・・・

「お、おう、ありがとう。では、解散」

この後結局、給料につられてかはわからないが全員志願する事になった

「?ティトリ君?解散だ、今からは自由時間だぞ」

「あの、1つ話して起きたい事があるんです」

この人なら絶対にわかってくれる!

いや、わかるとまではいかなくても非難はされない!

ティトリ君は泣きながら喋った、これまでの事

自分の趣味の事

不安が無かったと言えば嘘になる

少しくらい怖かった、でも領主様からは非難とも理解とも違う、意外な言葉がかけられた

「素晴らしい!!素晴らしいよティトリ君!!

その趣味は私の役に立つ!!

素晴らしいじゃないか!君の楽しみが私の利益になる!共利共生!!これからは共に歩もう!君はもう1人ではないぞ!!私という仲間が、友がいるのだ!!さぁ、行こうではないか!!世界の未来へ!!」

僕は、僕は!

「はい!!僕達の未来へ!!」.

何があってもこの人に付いて行こう

初めて認めてくれたこの人に!!


部屋に2人分の笑い声が響く

心底、喜びに包まれた優しい笑い声が

あははははは!

うふふふふふ!

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